魔道師は常に正しくあるべきだ。

光の射す方へ2

 面白くなかった。
それが一番正直な感情。
ポロムはセシルにかなり懐いていたし、セシルだって悪いヤツじゃない。
確かにセシルの存在が自分のナイフみたいな尖っていた感情を少しずつ削っている事は隠しようのない事実だった。
ミシディアのクリスタルを奪い、罪も無い人間を傷つけた。
その事実は、罪は消えない。何をしても洗い流してくれない。
自分は誇り高き黒魔道師だ。
村を、そしてポロムを守らなくてはならない。
セシルの罪は許すことはできない。
だから、この旅に同行したんだ。
自分の任務は果たさなければならない。
「もう、無理だよ。長老様……」
パロムはポケットに入れられた小さな水晶をそっとにぎりしめる。
そして、パロムの呟きは風にかき消された。


 山を降り、ミシディアに戻った一行は、デビルロードの封印を解いてもらった。
長老はパラディンになったセシルを目を丸くして見つめ、村人達は影でこそこそ話をする者、眉をしかめるもの、
そして拝み、喜ぶ者、多種多様だった。
長老はデビル・ロードを開放した。
そして一行はバロンの城下町にたどり着いたのだ。

「とりあえず、酒場に行こう。城に潜入できる方法がわかるかもしれない」
セシルはそう言いながらどんよりと暗い雰囲気のする街を悲しそうな瞳で見渡していた。
街の雰囲気はおかしい。
何か真っ黒な力がヴェールのように街全体を覆っている。
ポロムの肩がガクガク震えていた。
パロムはその肩にそっと手を添えた。

酒場という所に、パロムは初めて入った。
そこは煩い音楽が響き、葉巻の匂いとタバコの香り、そして変な香水の匂いと甘ったるい酒の香りで
充満していた。
「パロム、ポロム、兵士達に因縁をつけられないように顔を隠して」
セシルはそう言って二人を庇う様に歩いてくれた。
「いいよ、おいら達だって戦えるんだ」
パロムはそう言って頬を膨らませた。
そこらへんの兵士に負ける気はしない。自分の黒魔法の腕は一般兵に負けるわけないんだ。

「パロム、危ないっ」
その刹那セシルの焦った声が聞こえ、体を強い力で突き飛ばされた。
「え?」
ふうわりと浮いた体。
そして壁が崩れる音。
酒瓶の割れる音。
「何だ? お前等は。ここは兵士以外立ち入り禁止だ」
顔を赤くした兵士がパロムに酒瓶を投げつけたのだ。
誇り高くも賢いミシディアの民ははこんな頭の悪い酒の飲み方はしない。
パロムは鼻で笑う。
「うっせーな。おっさん。昼間から酔っ払ってんじゃねーぞ」
パロムは心底見下した顔で兵士を見つめる。
ほら、だから世界で最もミシディアの民が優秀なんだ。
「パロム、やめなさいよ」
ポロムが熟柿臭い息に顔をしかめながらもパロムの言葉を制しようとする。
「うるせーな。ポロム。ミシディアはこんなに頭の悪い連中にむちゃくちゃにされたんだ。悔しくないのか?」
パロムは兵士を睨みつける。
こんなやつらファイラで一撃だ。
そしてここらへんにある全てのアルコールに炎が燃え移って全て真っ黒になってしまえ。
ポロムはぶつぶつと呪文を唱えようとした。

「待て、お客人」
その刹那パロムの詠唱は凛とした声に制される。
目の前に現れたのは腕や足や全ての筋肉がパロムの数倍はあるであろう大男。
そしてその男を見て、セシルは目を輝かせた。
「ヤ、ヤン生きていたんだね」
筋肉男は口角をにっと上げ、微笑むとセシルに向かいこぶしを振り上げた。

「危ないっ」
テラがとっさにファイアを唱える。
怯んだ男。その隙にパロムは詠唱する。
「やめろ、そいつは仲間なんだ」
セシルの焦った声。
仲間? そんなの嘘だ。現にこいつは今こうやって攻撃してきているじゃないか?
パロムは体に力を入れてブリザラを詠唱した。
手がじんじんする。他の中に大きな氷の塊ができて……
「パロム、やめてぇ」
少女の悲鳴。
「ポロム?」
ポロムは目に涙を溜めながらパロムを見つめる。
「その人、操られてるだけですわ」
ポロムはそう叫ぶとためらいも無くその男の頬に触れた。
無防備だ。
危ない。
そう思った瞬間光が辺りを包んだ。


優しい光は全てを包み、体がぽかぽか温かかった。
ゆらりと揺られる揺りかごのような感触。
パロムは母のお腹の中にいた時の事を思い出していた。
そうだ、確かあの時もポロムと手をつないでいたんだ。

「う……ん」
気がつくと見慣れない場所にいた。
お城。
そうだ、ここはお城の広間だ。
でも、誰もいない。
華やかな場所であるはずのそこは、墓地よりも殺風景だった。
「こ……ここは? セ、セシル殿? 何故ここに」
筋肉男は頭を押さえながら立ち上がる。
「あ、あの時確か嵐がきて、それから……」
筋肉男は頭を抱えている。
「ヤン、もういいんだ。君も操られていたんだよ」
「皆、無事か? ポロム、怪我は?」
セシルはポロムの手を取り、起き上がらせてあげる。
ポロムは青い顔をして、セシルの足にしがみつくような格好をしていた。
「ここは、バロン城の広間? 何故、ここに?」
セシルがぽつんと呟いた瞬間背後から声が響いた。


「セシル、無事だったのだな」
「ベ、ベイガン……」
そこには紅の鎧を纏った騎士が立っていた。
セシルが額に汗を浮かべながらベイガンを見つめていた。
「お前達をここまでワープさせたのは私だ」
ベイガンは蛇のような目を細めてにやりと笑う。
「な、何故だ?」
「この手で、お前を始末したかった。ただそれだけだ」

そう言いながらベイガンはゆっくりと剣を振りかざす。

「い、いやあああああ」
ポロムが悲鳴をあげる。
ベイガンの両腕が大蛇に姿を変えた。
「フンッ悪魔に魂を売りやがったな」
パロムは鼻で笑う。

「由緒正しいミシディアの魔道師がこんな怪物に負けるわけない」

セシルはベイガンの攻撃をすんでのところでかわしてポロムの所へ駆け寄る。
「ポロム、大丈夫か? パロム、ポロムを連れて逃げてくれ、早く」
ポロムは恐怖のあまり腰が抜け、立ち上がることもできないようだ。
「逃げる? 何でだよ、あんちゃん」
パロムはそう言い、静かに詠唱をはじめた。
「オイラの力、なめんじゃないぞ」
パロムは手のひらいっぱいに特大の火の玉を作った。
「くらえええ、ファイラーーーッッッ」
「パロム、やめろー」
その瞬間、ベイガンがにやりと笑ったのが見えた。

信じられない事が起きた。
ベイガンに向かっていった炎はいとも簡単に跳ね返り、こちらへ向かって来た。
「な、な……」
声が出ない。
「パロムっ危ない」
パロムの小さな体にセシルが覆い被さった。

何かが焦げる音。
「あ、あんちゃん」
セシルのマントが、鎧が、黒く焦げている。

「ベイ……ガンは、魔法……バリアが得意……なんだ」
目の前が真っ暗になる。
セシルはパロムのファイラを直撃した。
結果的に、だが。

「セシル様、セシル様」
ポロムは狂った様にセシルにすがりつき、ケアルを唱えようとする。
「ポロム……」
セシルはポロムの手を握ると、テラの方をすがる様に見つめた。
「テラ……リフレク(魔法バリア)は使える……かい?」
「ああ、使えるが、専門ではないから少しは魔法を吸収してしまうぞ」
「それでも……かまわない。僕に……かけてくれ」
セシルは肩で息をしている。
テラが何やらぶつぶつ唱えると、セシルの体が光だす。
「パロ……ム、もう一度、ファイアを唱えて……僕に、向かって」
聞いた事がある。
リフレクを破るには、リフレクに跳ね返された魔法をかけるしかない。確か長老に教わった。
「セシル、何を言う。ワシのリフレクは完璧では無いんだ」
テラが眉間に皺を寄せる。
「でも……これしか、方法が、無い」
「セシル殿」
ヤンも心配そうに見つめる。

何が、正しいのか。
パロムは宙を見つめる。
ベイガンは泣き叫ぶポロムに目をつけたようだ。
剣を振りかざす。

「や、やめろおおおおお」
ポロムはセシルに向かい、ファイラを放った。

リフレクに跳ね返された魔法はリフレクに向かい進んでいく。
長老の教えの通りそれはベイガンに向かい進んでいった。

「くっ」
セシルが苦痛に顔をゆがめる。
やはりテラのリフレクはベイガンのそれより完璧ではない。

「な、なに?」
ベイガンはファイラに気がついて剣を引っ込める
「こ、この魔法は」
焦りながら逃げ出そうとするが、炎は追随をやめない。

「ぎ、ぎゃああああああああああ」
断末魔の叫び声。
普段リフレクに頼り切っていたベイガンは魔法防御を鍛える訓練を怠っていた為、魔法に対する耐性は
殆ど無かったのだろう。

驚く程あっけない最期だった。

「セシル様、セシル様ー」
ポロムが泣きながら手当てをする。
セシルは肩で息をしながら壁に寄りかかり、ポロムの頭を撫でた。
「無事で……よかった」

テラのリフレクは完璧ではなく、パロムの魔法が彼の体を更に痛めつけていた。

正しいのは、一体、何なんだ。

パロムは水晶の玉をそっと握り締める。

長老の声が頭の中に響く。

正しきはミシディアの民。
ミシディアの誇りを守らなければならぬ。

「長老様、もう無理だよ」
パロムが呟き、そして、手のひらに握られた水晶の玉を地面に叩きつけた。

「パ、パロム、何なさるの? それを壊したら長老様の監視ができなくなりますわ……」
そう言ってポロムはしまった、という顔をした。

「ポロム、もう限界だ。あんちゃんは命をかけておいら達を守ってくれた」
目の前の自分は観念したようにポケットから水晶を取り出し、床に叩きつけた。

「あんちゃん、おいら達、長老に命令されてた。バロン城の秘密を暴いて、バロン王を殺して」
息をゆっくり吸う。
セシルは肩を押さえながら自分を見つめている。

「あんちゃんの事も殺すつもりだった。ミシディアの報復として」

空気が凍る……そんな気がした。
そして、粉々に壊れた水晶は、悲しげな光を放っていた

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すいませーん。
原作と全く違いますが、許してください。
ベイガンのキャラ違うし、昔の通路出てこないし。

双子全く違いますね。