
駅頭で巨頭会談
1
私は、つまずいた痛みをこらえ、四つんばいになって、息をはあはあ吐いてい
た。したたかにぶつけた手のひらの下には、土ぼこりと砂にまみれた固い木の板
敷きがあった。よく見ると、たくさんの動物たちの雑多な足跡が、そこらじゅう
に残されている。
顔をあげて、用心ぶかくあたりを見わたす。飛び出したホームは、ペンキもタ
ールも塗らない無垢の木造だった。今どき木造とは、よほど田舎の駅なのだろ
う。光の霧に包まれているばかりで、ホームのほかは何も見えない。やはり、濃
霧の中に置き去りにされたのだ。小次郎の姿はなく、列車が静寂の中に停車して
いるばかりだ。
そのとき、どこか遠くで法螺貝(ほらがい)の音が聞こえた。光の霧の彼方か
ら、幾重ものこだまをひいて、法螺の音が鳴り響いたのだ。
びっくりして立ち上がろうとするが、手足がひりひりと痛む。転んだ拍子に、
膝と肘をすりむいたのだ。
「あいててて……」
「いったい、なにやってるのかね。きみ」
いきなり声をかけられ、どきりとして顔をあげる。
四つんばいになった私の目の前に、背の低い動物が立っていた。
私は四つ足の獣になったように、茫然とその動物を見上げた。
それは、二本足で立つコアラだった。ただのコアラではない。よく磨きこまれ
たこげ茶色のステッキを持ち、偉そうに胸を張っているのだ。しかも、丸っこい
肩から、銀鎖のついた懐中時計を、斜めに下げている。
法螺貝の音が、また遠いどこかから響いてきた。コアラは、おもむろに懐中時
計をとりあげ、パチンと丸い銀の蓋をあけた。小さな目を細めながら文字盤をみ
つめ、もったいをつけてうなずく。
「ふんむ、ふむ。二日目のはじまりか」
そこにいるのは、コアラだけではなかった。両隣には二頭ずつの狼と犬と猫が
ならんでいる。いずれも二本足だが、この七匹の動物たち、どうして一列に並ん
で、目の前にいるのか訳がわからない。
ふかふかした灰色の毛につつまれたコアラは、懐中時計の蓋をしめると、黒い
つぶらな目を、せいいっぱい開いていばる。
「これこれ、人間。わたしは、このべあべあ日暮ら市の、えら−い市長のユカリ
さんであるのだよ」
右隣の白い柴犬が、ふかぶかとうなずき、胸をはって復唱した。
「ユカリさんは、えらいんであるぞ。名前は女のようだが、女ではないんだぞ。
コアラの中のコアラ、男の中の男なんだぞ。それで、わがはいは犬兵隊隊長のシ
ロなんだぞ。犬兵隊というのは、犬の兵隊のことなんだぞ」
犬は赤い軍用へルメットをかむっていた。兵隊というが、人間のへルメットと
は、ちょっとちがっていた。両脇に穴があいて、とがった耳がつきだしている。
電車の中で、乗客たちが騒いでいたのは、ケンペイタイ〜犬兵隊のことだったの
だ。
軍人言葉で続けて復唱したのは、さらに右隣にいるシベリアンハスキーだ。
「ユカリさんは、市長なんであるぞ。隊長どののおっしゃる通りなんであるぞ。
それで、わがはいは、犬兵隊副官のブブヅケなんだぞ。犬兵隊は、ユカリさん直
属の"掟守りま省"の警察なんだぞ」
シロに比べて温厚そうだが、ブブヅケとはやけに突飛な名前だ。
犬たちが、ぴしりと姿勢を正して黙ると、今度はコアラ市長の左隣にならんだ
猫たちが、にゃあとした声で説明した。猫は二匹とも、三角の耳がとび出る穴あ
きのベレー帽をかぶっている。
「人間(にゃんげん)よ。ユカリさんとシロ隊長は、何(にゃん)で、ここへ来
たのか聞きたいそうにゃ。ちにゃみに、わたしゃ猫撫隊隊長のオタマだにゃ。猫
を撫(にゃ)でるから、猫にゃで隊にゃ」
オタマは、赤いベレーの三毛猫だ。その隣のトラ猫が、白いベレーを洒落もの
らしく、かむり直した。
「人間がここに来るのは、ほんらい禁止されてるにゃん。色々と聞きたいことが
あるにょにゃよ。わが名(にゃ)は、副隊長のヨイトマケ。猫撫隊は由緒ある遊
び猫部隊にゃん。何(にゃん)にもしな(にゃ)いのが仕事にゃ」
一行の右はしには、黄色い司祭服をつけた白い狼がいて、猫たちに続いて発言
した。毛の真白な見るからに存在感のある狼だ。片手にヤドリギの枝を持ち、う
やうやしく額におしいただく。
「ユカリさんだけでなく、キマグレコ教会も、おまはんに間きたいことがありま
−す。わたいは、キマグレコ教会の法王ムーンタッタ八万七千六百五十四世で−
す」
あっけにとられているうちに、今度は一行の左はしにいる、灰色狼が言葉をつ
いだ。
「んだ。んだ。おらも聞きてえだ。おら、キマグレコ教会の枢機卿(すうききょ
う)タッチャンていうだ。ムーンタッタさまは、大変に心配しておられますだ。
なんで、あんた来ただ。どっから来ただ」
灰色狼は、あたりをうかがう目つきになり、桃色の舌をだすと、へへへっと、
いたずらっぽく笑った。
「もしかすっと、北から来ただか。おら、この洒落がとっても好きだだよ」
へんに語尾をのばす白狼の法王に、なまり丸出しの駄洒落の枢機卿だ。
私は、やっと立ち上がり、震える手で膝のほこりを払いながら、ヘっぴり腰で
たずねた。「お、おまえたち、なんだ?いったい、なんのつもりだ?」
ユカリ市長が、巨人にも等しい私を見上げ、ステッキをふりあげると、人の膝
のあたりを、ツンツンとさした。どんなに背伸びしても、背の高さがそこまでし
かないのだ。
「きみい、不謹慎じゃないかね。最低動物のくせに、この場所に来るとは。なん
のつもりと聞かれれば、こういうつもりのイモリとヤモリと答えるだろうね。う
ん、ベあべあ日暮ら市市長としてもだね、きみをどうしたらいいのか、もめてい
るのだよ。うんうん」
一人でうなずきながら、コアラは丸い耳のふわふわした毛を、光の風にふるわ
せていた。「そこでだね。市長としてはだね、ここに市の重要人物たちを集め
て、うん、駅頭巨頭会談をひらくことにしたのだよ。そのうち、オンドリのカミ
ュくんが来て、巨頭はそろうから、それまでは、会談のかわりに、まあ怖い話の
怪談でもするがいいだろう。うん」
私は小人の国に迷いこんだガリバーのように苦悩した。とんでもない展開に、
頭が混乱しっぱなしだ。
「ま、待ってくれ。自分でも、どうしてこうなったのか、わからないんだ」
柴犬のシロが、濃い褐色の目をいからせ、突然にぎゃんぎゃん吠えた。
「おまえは、この世界に迷いこんで来たんだぞ。不法侵入だぞ。べあべあ日暮ら
市に、人間は、きちやいけないんだぞ」
彼はすぐに、シベリアンハスキーに顔を向けた。
「副長ブブヅケくん、どう思うか」
副長は、ふさふさした尻尾をぴんと立て、青みがかった灰色の目で私を見つめ
た。
「そうだぞ、人間。隊長どののおっしゃる通りだぞ。罰金だぞ。ムチ打ちだぞ。
草刈り草むしりの刑だぞ」
私は抗弁もできずに、犬の隊長たちに圧倒されていた。
白狼のムーンタッタ法王が、ヤドリギの葉を、ちろんと桃色の舌でなめて言っ
た。
「わたいらの素晴らしき覚者、"こ"さまが、わざわざお知らせしてくださったの
だ−よ。おまはん、"こ"さまに、お会いしただろ−ね」
私は首を横にふった。
「"こ"さまなんて、知らない」
シロ隊長が、ひと声、ばうとブブヅケに吠えた。何かの命令らしかった。
すかさず、シベリアンハスキーが、すたすたと近づいて、私のシャツの腰のあ
たりをまるっこい犬の手でひっぱった。
「隊長どのが、知らないというのは嘘だとおっしゃる。嘘つきは、人間のはじま
りなんだぞ。さあ、"こ"さまがお切りになった切符を、さっさとよこせ」
「切符って……」
そのとき、はっと小次郎のことを思い出した。どこへ行ったか知らないが、"
こ"さまとは、あいつのことではないのか。そういえば、きどった虎教授も、熊
族は神にも等しく、小次郎はエリートだと言っていた。
「もしかして、月の輪小次郎のことか?」
一同は、おおっと、聞いてはならぬことを聞いたように、驚きの声をあげた。
白狼の法王と灰色狼の枢機卿が、色をなして私につめよった。
「わたいらの教祖さまを侮辱するとは、な−んと罰当たりなやつ。おそれお−く
もかしこ−くも、"こ"さまを、フルネームで、しかも呼び捨てにするとは−」
「そうだベ。なんつう不敬なやつだべか。そっだら傲慢はゆるされねえだぞ。あ
の御方は、キマグレコ大明神の聖なるお使いなんだど」
三毛猫オタマが、狼の宗教者たちを、しらけたように横目でみつめ、ひょいと
肩をすくめた。
「つまんにゃいね。退屈にゃね。な(にや)あ、ヨイトマケ」
副長のトラ猫も顔を手で洗いながら、白い歯をむきだしてうなずいた。
「そうですにゃ。"こ"さま、じゃにゃくて、"き"だったら、"き"さまですにゃ。
"き"さまの次は、"てめえ"さま。きりがないにゃん」
顔を洗って耳のうしろをかく猫たちに、ムーンタッタ法王は純白の身を、不快
げにぶるるっと震わせ、ぞわぞわ毛を逆立てた。
「わ、悪口といっしょにす−るとは、な−んと、ふき−んしんな」
狼と猫は、横目できっとにらみあう。犬兵隊の方は、市長の隣でしゃちほこば
り、気をつけの姿勢で微動もしない。
コアラの市長が、そこでステッキを降ろし、コホンと咳ばらいした。
「とにかく、切符をよこしなさい。わかったね、人間」
私はむきになって、いならぶ面々に怒鳴った。
「何いってるんだ。切符も何も、あの小次郎が持って行ってしまったよ」
ブブヅケが、かっと目をむいた。大まじめな口調で首をつきだす。
「それは、本当なのか。嘘つくと、人間になるぞ」
私は、ぶっと噴き出しそうになった。
「嘘じゃない。それに、こっちはとっくに人間だ」
そう叫んだとき、白光の霧の中から、調子っぱずれのギターのような音が流れ
てきた。それに合わせて、きんきんする声が、なんともたとえようのない歌を歌
いはじめた。
♪太陽が、まぶしいからってなんだってんだ。
おいらカミュ。
教えておくれよ、マイマミー。
タマゴ、ニワトリ、どっちが先か。
われ思う。
哲学するより卵産め。
ゆえにわれあり。
夜明けに鳴くのも、いい仕事。
ニワトリは、卵のゆえにニワトリさ、
卵たち、ニワトリ産むから卵だよ♪
歌が終わって霧の中からバサバサ飛んで現れたのは、一羽の白い雄鶏だった。
品種は白色レグホンだ。まっかなぎざぎざのトサカをぴんとたてて着地する
と、鋭い爪の生えた鱗状の黄色い足で、木のホームの上をこつこつ歩いてくる。
チャボの血がいくらか混じっているらしい。尾と首のあたりが褐色を帯びてい
る。真赤な頬肉をぷるぷるとふるわせながら、首から小さいオレンジ色のウクレ
レを下げている。
白い雄鶏は、ちょっと気取ったポーズで市長と私の間に立った。こっちを見上
げて黄色のくちばしを開くや、きんきんするにぎやかな声をあげる。
「こりゃ、トリッキーな。トリわけ珍しい、人間との会談ですね。市長さん」
市長はステッキの先で、木のホームを小刻みにつついた。
「おお、待ちかねていたよ。カミュ参事官。ときに奥様のサガンさんはお元気か
ね」
雄鳥は、餌をついばむときのようにペコッと頭を下げた。
「そりゃ、もうたいへんケッコウなきげんで、トサカの色もつつがなく、蹴爪も
しやっきりしております。あいかわらずコケットリーも衰えず、色っぽさにも磨
きがかかっています。市長さんも、お鼻もお目々もお元気なようで、みなさまと
もども、毛なみも色つやよく、たいへんにケッコウでございますね」
雄鶏のごきげんうかがいに、犬も猫も狼も、それぞれの鳴き声で応じた。どう
やら、彼らの間の礼儀らしい。
つきたった尾羽のカミュは、黒くて丸い小さな目を閉じた。コォーッと喉の奥
でひと声うなると、ばさばさと白い翼を開く。
「さてさて、お待ちどうさまでした。この不肖カミュが、大明神さまからのお告
げを、トリ急ぎ、お知らせにあがりました」
一行がおおっと感嘆の声を上げた。雄鶏はウクレレの弦を、片方の羽と黄色い
くちばしを使って、器用に弾きはじめた。
♪きまぐれ一番、キマグレコ。
きまぐれコッコの神さまが、おっしゃりまする。
にんげん、きたときゃ日付が変わる。
その日を初日と定めなさい。
かみさま法螺ふく、日付が変わる。
法螺貝鳴ったら、次の日だ。
にんげん、きたときゃ日付が変わる。
その日をはじめに……
市長がステッキで床板を軽くたたき、続けようとするカミュを止めた。
「ちょっと待った、カミュさん。それは、ついさっき、"こ"さまがおいでになら
れた時に歌いましたよ」
白色レグホンは、コォーッ、コッコッコッと喉声をあげると、黄色いくちばし
を開いた。
「それは、トリあえず、わかってるんです。どうも、わたしは最初から、きっち
りとやらないと気がすまないたちでしてね。ほら、三番まである歌でも、一番か
らトリまで歌わないと、どうも落ち着かないというあれですよ。形どおり、決め
られた通りにやらないと蹴爪がかゆくて。きちょうめんな性格なので、ゆるして
ください。このトサカにかけて、これから歌う二番が、みなさまがお知りになり
たがっていることですので。では、一番の残りの歌は、てっトリばやく、はしょ
りまして……」
そう言ってニワトリ・カミュは、またギターをひいて歌いはじめた。
♪きまぐれ二番で、キマグレコ。
森の中、いらない枝がどっさりコ。
畑じゆう、雑草いっぱいたいへんコ。
人間に、草取り命じる。なおケッコ。
みなに命じる、人の世話。
教えてあげよう、べあべあ天国。
動物に、飼われる人のあわれかな♪
珍妙な歌に、頭が痛くなってきた。なぜ、私が草むしりを命じられねばならな
いのだ。
市長たちは、互いに顔を見合わせ、ひそひそと、なにごとか相談しあってい
る。
頭をかかえる私の足元で、雄鳥が得意げにつんとくちばしを上げた。なんの脈
絡もなく、夜明けを告げる声をあげはじめたのだ。
「クォッケ、クォックォー。クッケッ、クックッー」
トサカをふりたて、頬と顎の真赤な肉垂れをゆらし、頭をまっすぐに天空につ
きあげて、ときを告げ続ける。その薄い瞼を半分に閉じた目には、自己陶酔のお
もむきがあった。
ニワトリの鳴き声とともに、たちこめていた光の霧が、待ちかねたように急に
晴れてきた。
私は眼前に開けてゆく光景に、大きく目をみはった。
(ここは、どこなんだ……)
カルデラ状の広大な盆地が、見渡すかぎり、はるかかなたまで開けていた。し
かも、いちめんの桃色と黄色の花の絨毯が広がっている。
ところどころ、緑色にこんもりしげる森と丘が点在し、地面を錯綜する踏み分
け道と小道の他は、いちめんの花畑だ。高山植物のお花畑よりも華麗な、信じら
れないほどに美しく牧歌的な風景だった。蜜蜂のぶんぶんいう音が、あちこちか
らさかんに聞こえてくる。
四周の遠方を、緑の山がぐるりととり囲んでいる。頭上には、輝く白金色の太
陽があり、おしみない陽光を降り注いでいる。空の色は、見慣れたスカイブルー
とは異なり、もっと薄い水色だった。しかも、真昼だというのに、空いっぱいに
七色のオーロラが、まばゆくひらめき踊っている。
私は想像を越える景観に圧倒されていた。ふらふらしながら、背後をふりかえ
る。列車の停まった駅の姿がとびこんできた。
「これが、駅……終点の駅?」
時代錯誤もはなはだしかった。どんな山奥の駅でも、今どきこんな駅はない。
そこは近代的な駅どころか、なんと何十年も前の「停車場」そのものだった。
「池袋から乗ったんだ。こんな場所が、あるはずない……」
歯がかちかちと口の中で鳴るのが分かる。しかし、これは現実だった。おもち
ゃのように小さな駅舎と木造の古いホームが、小高い丘の頂きに、そっくりその
まま乗っかっている。その上に、私とコアラ市長ほか七名が、たしかにいるの
だ。
駅の全貌がわかって、まず驚いた。駅なら必ずあるはずの線路が、前にも後ろ
にも、車両の車輪の下にも、まったくないのだ。レールも枕木も砂利もない。パ
ンタグラフがちゃんとついた電車だというのに、電線も鉄塔も、送電設備もなん
にもない。
列車は、浮遊状態で停車している。ホームに脇腹を接したまま、虚空に滞空し
ているのだ。
「こりゃ、どうなってるんだ」
電車の車輪のずっと下にあるのは、なにかつるつるした円錐形の小山の斜面だ
った。よく見るとただの丘ではない。巻貝のように、螺旋状の線と模様がカーブ
を描き、花の香にむせかえるはるか下の地面へ、ゆるゆると下っている。
こっちの驚きをよそに、額を集めた動物たちは、何かしきりにうなずきあって
いた。
二、三分のうちに、"駅頭巨頭会談"はおわったらしい。コアラがふりむく。ス
テッキを得意げに、ふかふかした脇の下にはさんでから、えっへんと胸をはって
宣告した。
「これこれ人間。評決が決まった。カミュ参事官より、ききたまえ」
犬、猫、狼がずらりと一列にならび、威儀をつくろって発表を待った。ウクレ
レ抱いたニワトリが、市長の宣言を受け取り、クォーッとないて続けた。
「評決は、たいへんにケッコウな結論です。第一の決定。人間にはこれより七日
の間、森のナメコ採取と、市営農場での雑草とり、ならびに林での下草刈りと下
枝はらいを命じる。
第二の決定。人間のすまいは、当面の間、ユカリ市長の家の下とし、案内役はカ
ミュ参事官、教育係はトラリン大学のワン名誉教授がトリ持つこと。第三の決
定。"こ"さまと人間との対話は、なんぴともこれをさまたげてはならない」
私はうろたえ、てのひらをふって抵抗した。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
雄鳥はコォーッとなき、真っ赤な肉垂れをぷるんとふるわせた。不審そうに半
眼で、こちらを一督する。しわしわの薄いまぶたが、ひくりっと動いた。
「トリあえず、さしあたって、まず現実を認識することです。それは、とても大
切、ケッコウ」
「げ、現実って……」
カミュは、真赤なトサカを傾け、クックッと四方を見渡した。
「コッコにいること。このべあべあ日暮ら市にいるという事実を認めることで
す。人間は、世界でいちばん思い込みの強い生き物ですから、事実をありのまま
に認識することができないのです。でも、できないと言っていては、いつまでた
ってもできないので、できるようにしなければ、とてもケッコウとはいえません
ね。努力して、この現実にトリ組んでください」