何を話しあっているのか、盗み聞きしようと近づくと、突然、小次郎がすっく
と立ち上がった。ハサミを持ち、両腕を大きく空中にかかげている。七色に輝く
空にハサミをむけ、ちょっきんちょっきんと何度も鳴らす。
 妙な歌をひねくりだしながら、熊は蝶々のように、ゆうらりひらりとその場で
踊りだした。とてもゆったりした呑気なリズムだった。眠気をもよおす、ふわふ
わしたメロディーだ。今までの歌とは、またひとあじ違って、子守歌の調子だっ
た。

♪さあさ、おわりよ『ハサミの舞い』
ありがとありがとどもど−も。
森はうっそういいきもち。
いいきもちったらいいきもち。
お役目すましてみな眠れ。
金気(かなけ)は土に帰らすべえ。
落ち葉も土に帰らすべえ。
けものも故郷に帰らすべえ。
エサもたっぷりためるべえ。
冬眠しない子、いけない子。
だけど、おらあ起きてるべえ。
うふふの裁判はじめるべえ♪

 小次郎の歌が進むにつれ、器用に鳴らすハサミに、異変が生じた。銀色に輝い
ていたするどい刃物が、みるみる赤やだいだい色に染まり、錆びついていくの
だ。刃先から把手まで真赤に錆が覆い、乾いた土くれのように、あっという間に
ぼろぼろに腐蝕して崩れる。歌の通り、金属が原型を失って土に還ってゆく。
 ついにハサミは、海綿状の錆の固まりになり、粉々に砕けて、落葉の地面の上
にばらばらと落ちた。もう、あのぴかぴかした洋バサミはどこにもなかった。
 しんと静まりかえった森に、郷愁をいざなう風の音が、ざうん、ざざと鳴る。
それに乗って、どこか遠くで、聞きおぼえのある声が、高らかに叫んでいる。
「な−ははっ、ははっ。おひさしぶりの裁判だよ−っ。なはっなはっ。大興奮の
すごい裁判のはじまりだよ−っ。ボク、ウルトラ宣言しちゃうもんね。いまこの
トキをおいて、いったいいつ裁判をするのか。被告人は、なんと人間なんだか
ら。裁判の関係者のみなさんは、すぐに駅の山の森に来てくださいよ−。な−は
ははっ。みなさん信用しなさい。ベあべあ日暮ら市宣伝マン、日本イチゴロウの
情報を信じなさ−い」
 トキのやつ、よけいな宣伝を、と苦々しく舌打ちすると、周囲にまた新たな変
化が現れた。
 森の大木の根元に、もくもくと下草や低木が生えはじめたのだ。湿った大木の
根やごつごつした低い幹のあたりを、美しいヒスイ色の水苔が覆い、シダの類が
密生する。毛の生えたような苔が、腐った落葉から木の根に広がり、水色やうぐ
いす色の地衣類が、森らしさをさらに加えてゆく。
 新たに生えた下草や苔やシダたちも、まるで裁判を傍聴したいと意志表示して
いるかのようだ。
 下生えや湿りけをおびた草地が、分厚く森の底をいろどると、森は急ににぎや
かさを増した。
 トキの宣伝の効果にちがいない。森の中が、たちまち小鳥や虫や獣たちの鳴き
声で、活気づいてきたのだ。姿こそ見せないものの、風の音だけだった森に、に
わかにたくさんの動物たちの気配がよりつきはじめている。
 わずかの間に、森に潜む生き物たちのざわめきが、何百倍も濃厚になった。巨
木の間に動物たちが身をひそめ、木の影からじっとうかがっているのがわかる。
視野の隅に映るものだけでも、相当な数だ。太い根元に隠れて、ちらちらと顔を
出すのは、狸や狐、野兎、猪、玲羊(かもしか)たちだ。
 ほかにも、顔の一部だけのぞかせている連中がたくさんいた。山羊や羊にとど
まらず、シマウマや水牛が、乳牛や豚といっしょに、杉の幹の影に横顔を見せて
いる。額の赤い丹頂鶴やダチョウ、ジャッカルやハイエナたちまで、大木の裏側
から、声なく見つめている。
 大きな縦の木の途中から、キリンの穏やかな眼を見つけて、思わずどきりとし
た。その長い足のわきには、腹に袋をもったオオカンガルーやワラビーがいる。
有袋類は、長い耳をひょこひょこ動かし、灰色の半身を見せながら、好奇心にあ
ふれた顔つきで口からよだれを垂らしている。
 おさだまりの動物園でしか、お目にかかれないとりあわせだ。まだまだたくさ
んの動物たちが、この丘の上の森に登っているらしかった。その全部が、傍聴人
ということなのだろう。
 さすがに私も、ここまできた以上、腹をくくらねばならなかった。どんな裁判
になろうと、できる限り、受けて立とうと開き直る。控訴や上告があるかどうか
はわからないが、判決が不当だと思える限りは、どこまでも抗弁する決意を固め
る。
 小次郎たちはといえば、窪地に生い茂った下生えの間に見え隠れしている。
 何をやっているかと思えば、裁判とは何の関係もなさそうなことだ。下草の中
に立ちつくす私をしりめに、わあわあ声をあげ、鬼ごっこやかくれんぼをしてい
るのだ。そのはしゃぎ声には、はじけんばかりの楽しさがあふれている。被告と
いう立場になければ、つられていっしょに遊びたくなるほどだ。
 とちゅうで、草や低木の茂みから、ただひとり小次郎が上半身をのびあがら
せ、こちらに顔を向けて笑う。ペこりと頭をさげ、うふうふうと笑い声をもら
す。その片手には、まだ食べかけの蜂の巣が乗っている。
「ども。さあ、おいしいおいしい、かくれんぼ。どぞ。ささ、こちらヘ、どぞ。
それとも、鬼ごっこがいいですか。もちろん、あなたが鬼ですよ。終身オニでよ
ろしいですか」
 ユカリ市長たちは、下生えの中で追いかけっこし、「もういいかい」を繰り返
している。せっかく決意を固めたのに、人を馬鹿にするにもほどがある。憤然と
小次郎に指をつきつけた。
「なにが、鬼だ。裁判っていうのは、かくれんぼのことなのか」
「うふ、うふう。いま説明しますから。そんなに熱くならないでください。短気
は損気の自転車操業、かっかと熱い火の車、爪にともす火うつくしく……」
 のんきすぎる熊に、これ以上ざれごとを言わせるわけにはいかなかった。
「さっさと、説明してくれ。裁判をするのかしないのか。俺はほんとうに裁かれ
るべき被告なのかどうか。はっきりさせようじゃないか」
 熊はきょとんと首をかしげ、蜂の巣をばりりとかじった。しばらく、小首をか
しげたままじっとしていたが、ふいに何かを思いついたらしく、さも楽しげに、
うふうふうと笑った。
「わたくし、今とっても、いいことを思いつきましたよ。あなた、本当に被告に
ふさわしいかどうか。まず、それを決める裁判をいたしましょう」
 小次郎は返事も待たずに、勝手にひとり決めして、森じゅうに幾重にもこだま
するほえ声をあげた。
「ぐおっも−ん。みなさまお待ちかねの裁判は、これから裁判するかどうかを決
める裁判に、変更になっただよ」
 小次郎のほえ声に応じ、森じゅうの獣や鳥や虫たちが、どっと喜びの声をあげ
た。耳がおかしくなるほどの喝采の嵐だ。鳴き声とはばたきの暴風が通りすぎた
かのようだ。
 何がうれしいのかわからないが、生き物たちの喧轟(けんごう)がひとしきり
去ったあと、森の中に聞きおぼえのあるひとつの獣の声が響きわたった。七色の
木もれ陽したたる大木の間を、もうだいぶ前に聞いたような気がする、あの虎の
声が叫んでいた。
「ベあべあ日暮ら市市民の諸君。静粛に、静粛にしてください。諸君、どうかこ
のトラリン大学ワン教授の顔とひげを立ててやってはくれませんか。ほんとう
に、そうでないと、裁判がはじまらないばかりでなく、ただ腹がへるばかり、と
いう事実も学術的に証明されているのですからね」
 あたりは水をうったようにしんとなった。
「ふむふむ、よろしいです。実にりっぱ。実におりこう。実にワンダフルです」
 虎は声高らかに宣言したあと、茂みの中を、こちらに向かって歩きだした。右
手の下草がゆれて、虎縞の顔が見え隠れしている。トレードマークの黒縁めがね
をかけ、知識階級ぷって胸をはり、草むらをかきわけて近づいてくる。
 彼は私の正面に、まばらな低木をへだてて立ち止まると、コホンと咳ばらいし
た。つんと顔を上げ、樹陰に隠れている動物たちを得意そうに見渡す。白い腹毛
を見せて両腕を広げると、スター気取りなのか、ごうごうと森じゅうに響きわた
るほえ声で告げた。
「さて、お集まりの諸君。ウェルカムのようこそ、いらっしゃいませ。ベあべあ
日暮ら市のレディス・アンド・ジェントルマン。生きとし生けるもの、天地万
物、奈良と鎌倉の大仏、森羅万象、有象無象、アフリカ象にインド象のみなさ
ん。わたしワン教授は、ここに"こ"さまのたっての御希望により、被告の最低動
物、人間くんをめぐる『臨時ジリリンうる裁判』の開廷を、万歳快哉、拍手喝
来、千客万来を祝して、高らかに宣言するものであります」
 虎教授の宣言が終わると、ふたたび森じゅうを、かまびすしい鳴き声と吠え
声、羽音の嵐が吹き荒れた。やんやの喝采と興奮した叫びが、森をふるわせこだ
まする。
 虎教授は、勝利宣言するように、握りしめた両腕を左右に振り、傍聴動物たち
の大きな歓呼に答えた。
「どうも、諸君、御声援、ありがとう、ありがとう。まことにもって、なんです
な、傍聴人のみなさまは、神さまでございます」
 ワン教授はずりさがった眼鏡をなおし、まわりが静まるのを待ってから、私の
顔を琥珀
(こはく)の目でじっと見つめた。小脇には、頁のすべてが変にごわごわと波打
った褐色の分厚い本をかかえている。
「さて、名誉ある被告くん。あなたには口答弁論がはじまる前に、是非してもら
いたいことがあるのですよ」
「ちょっと待ってくれ。あんたはたしか、医学教授だろう。なんで裁判にまでし
ゃしゃり出るんだ」
 驚きあきれる私の問いに、虎の教授は気取って眉をあげた。黒いぴんとしたひ
げを、爪の先ですいとなでつける。
「いえ、いえ。あなた、どうもその、なんですね。トラリン大学の高度な学術シ
ステムをですね、まったく理解していないのは、たいへんに困ります。これはべ
あべあ日幕ら市の学問の発展にとっては、実に由々しきことです。はやく覚えな
いと、生涯にわたる痛恨の念を生むこと、まずまちがいありません。百聞は一見
にしかず。百豚は一犬におびえる。、さよう、わたしは、もう日が変わったの
で、医学の下剤学の教授はやめて、法学教授になっているのです。その証拠に、
ここに持参した本は、権威ある法律書です。つまり、このべあべあ日暮らしで
は、日替わりで自分の好きな専門や職業を選べるのです。もちろん、御飯のおか
わりも、自由にできますがね。ところで、あなた、さっき法螺貝の音を聞きまし
たね」
 私はすっかりきげんを損ね、ぶすっとしたままうなずいた。
「ああ、そんなような音は、電車から降りたときに聞いたがね」
 ワン教授は、目の前の低い木に手を伸ばすと、しなやかな枝をはっているカタ
ツムリをぱっとつかまえ、口に放りこんでむしゃむしゃ食べた。生のエスカルゴ
だ。
「ええ、ええ。それこそが、キマグレコ大明神さまのお知らせです」
 口をまわりを大きな舌でなめ終わると、教授は続けた。
「一日が終わって次の日がはじまるという境目、キマグ零時の法螺サイレンなの
です」
「キマグ零時、法螺サイレン?」
「キマグ零時は、これより今日が終わって明日がはじまる時刻です。キマグレコ
大明神さまの日々のくぎりを意味します。法螺サイレンは、その時報なのです」
 固い決意にひびを入れる新しい混乱の種の出現だ。こいつが出てくると、事態
がいつもややこしくなる。裁判の行方も、相当に不安なものだ。肩をすくめ、大
きなため息をつかずにはいられない。
「ワン教授、それは午前零時の時報のことだろう。一日は二十四時間にきまって
る。なのに、どうして昼日中に一日の区切りがあるんだ。それとも、日没から一
日がはじまるって、パターンか」
 ワン教授はそのとき、ぶるぶると震えだした。さも恐ろしいことを聞いたかの
ように、鋭い牙ののぞく口に、手をあてて目を丸くする。
「グルル。なんと恐ろしいよこしまな学説だ。一日の時間の長さが二十四時間…
…しかも固定的に決めるなんて、なんと恐ろしい……。わたしはこれを、人間界
における、時間の奴隷化として、緊急に学問の対象にしたい。う〜む。従来の時
間学説に欠けていたのは、これだ。まさにこれだ。これまで、時間にもオスとメ
スがあり、部族や階級、年収や地位名誉、血液型のちがいがある所まではわかっ
ていたのですがね。彼らの基本的な人格権が認められていないという条件を、す
っかり失念しておりました。人間は時間さえも、オスメスや階級相当の待遇を無
視し、自分たちの奴隷にし私物化する。ちなみに、ベあべあ日暮ら市では、一日
の長さはキマグレコ大明神さまが、時間たちの自主性と個性を重んじて、ケー
ス・バイ・ケースでフレキシブルにお決めになるのです。一分の長さも、一時間
の長さもそうです」
「ま、待てよ。一分は六十秒、一時間は六十分じやないのか」
 虎は目も当てられないと言わんばかりに、片手で顔をおおった。
「オー・マイ・キマグレコッ。なんたるショック。なんて恐ろしい。そんな、時
間たちを統一するなんて、檻(おり)に閉じ込めてしまうことになるではないで
すか。それでは、時間があんまり可愛そうじゃないですか。われわれは、キマグ
レコ大明神さまにお願いして、時間をなるたけ自由に楽にしてやり、時間本人の
したいようにさせてあげることが一番だと思っているのですよ。時間にも主体性
が必要です。自立心のある健康な時間を育てて、繁殖させてやらなくちゃなりま
せんからね。時間が激減したり、絶滅するようなことにでもなったら、この世界
は終わりですからねえ」
 時間をまるで生き物のように語る虎の言葉は、脳裏がぐらぐらするしろものだ
った。つまり、この世界における時間と時刻の幅は、一秒から一年にいたるま
で、すべてキマグレコ大明神の匙かげんひとつというわけだ。
 ということは、ある一日が、たった一分間しか続かないということもありうる
し、逆に一日が三十日間も続く日もあるだろう。昨日と今日を分けるものは、正
確無比な原子時計の時報ではなく、科学的根拠がなにもない気まぐれな法螺貝の
音、キマグ零時の法螺サイレンだけなのだ。
 私は草地の間に立ちつくした。しゃべる唇がわなないていた。
「そんな……。時間が固定していなくちゃ、約束も予定も計画も、全然立たない
じゃないか」
 そこで虎は、小脇にかかえた法律書だという分厚い本をとり、ガサゴソ音をた
てて顔の前に広げた。よく見ると、ページごとに大きなホオの木の葉を貼り合わ
せ、本の形に断裁し、蔓草(つるくさ)で綴じ合わせたものだった。
 ワン教授は、長い尾をにゅるんと曲げ、右手を上げて宣誓の格好をする。
「では、時間についての学術的な論議はともかく、法律にしたがって、裁判の段
取りに入ることに致しましょう。これから、被告人にやってもらいたいことにつ
いての、法的な根拠はこの法律書にあります。すなわち、ベあべあ日暮ら市掟守
りま省公布のイキモノスキズキモノズキ条例には、こう記載されております。第
九条、動物は食用ならびにやむをえない事由以外の動機によって、植物や魚や虫
や小動物を傷つけ、また死にいたらしめてはならない。別項その三、ただし、人
間は当地において、草刈り柴刈りキノコとりをしなけれぱならない。なぜ、人間
だけ別かと言うと、人間はイキモノの中で、いちばんバカでいちばん賢いからで
ある」
 言うにことかいて、人間批判のつづられた法律書を、虎は平然と読み終えた。
 私が、どれほど渋面をつくっても、虎はいっこうにこたえた様子もない。もっ
たいをつけてメガネをずりあげると、こちらの顔をじっとのぞきこんだ。
「とにかくですね。"こ"さまの御希望通りに、裁判をはじめることが目下の急務
であるわけです。あなたも立派な被告として、ぜひその崇高なる任務を果たして
もらいたいものです。ええ、わかっております。あなたはただ、自分が被告に選
ばれるという、非常に名誉な事態に際して、単に当惑し照れているにすぎないの
です。もっと自分に素直になって、この喜びごとを純真に受け止めればいいので
す。そうすれば、時間のみなさんも、きっと自主性と主体性をもって歓待してく
れることでしょう」
 私は憤然として、目の前のツツジやシャクナゲに似た低木を、強引にかきわて
身を乗り出した。その指を、虎への恐怖も忘れて、黒縁めがねの鼻先につきつけ
た。
「なにが崇高な任務なんだ。冗談じゃないよ。こんなにめちゃくちゃな目に合わ
されて、これ以上、だまっていられるか。いったい何をさせる気なんだ。ふざけ
るな」
 虎は軽く眉をあげ、コホンと咳払いする。
「ふざける?いえ、いえ。わたしは、常に大まじめですよ。なにしろ謹厳実直、
獣毛ゴワゴワのドクター・ワンと言えば、知らぬ者はないくらいでして。ふざけ
たことは、大きらいです。御存知の通り、冗談など生まれてこの方、口にしたこ
ともありません。はっきり言って、きちょうめん、かつ、きまじめすぎる性格な
ので、困っております。そう言えば、わたしはあなたの教育係として、さっき任
命されたばかりですね。わたしのことも、よく知っておいてもらいたいもので
す。トラリン大学の名誉教授として、学術的な厳格さと正確さを心がけているつ
もりです。あなたの、『冗談じゃないよ』『ふざけるな』というわたしに対する
批判は、以上の理由から、いささか当を得ていないように思えますが、いかがな
ものでしょうか」
 どう言おうが、やっぱりふざけた理屈をこねている。
 ワン教授は、下生えの間に見え隠れしている市長たちにふりかえった。鬼ごっ
ことかくれんぼはまだ続いている。腰のあたりまで伸びている下草に、カミュは
もちろん、ユカリ市長もすっかり隠れてしまっている。草や低木ごしに、灰色の
コアラの体と、白い鶏の体が盛んに走りまわっているのが、ちらちらと影絵のよ
うに見える。
 ムーンタッタやシロたちは、鬼ごっこをやめて立ち止まっていた。草の影から
頭だけ、ひょっこり飛び出している。オタマとヨイトマケも隣にいるが、赤と白
のベレーから出た三角の耳を、茂みの上からぴょこんと突き出すばかり。何を聞
いているものやら、猫たちの耳はしじゅう、私と虎の方に向けられていて、パラ
ボラアンテナのように向きを変え、右に左に、ひこひこ動いているのだった。
              (ドクター・ワンには、あきれたわん、で次回)