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"裁判ダンス"にあわせ、やっと草を刈り終えた。が、日頃の運動不足がたたった
らしい。腰が痛くて立てない。近くの木の根にぐったりと座りこみ、鎌を放りだ
す。
汗みずくで顔を上げると、平らにならされた窪地のまんなかに、ハラショーが
立った。彼は、針だらけの背中を丸め、ペこりと小次郎や傍聴動物たちに頭を下
げた。
「さて、おまちかねのみなさま。これより、不肖、わたくしハラショーめが、ヨ
イショとコラショと、エッサッサの裁判行司をさせていただきます。その前に、
土俵をひとまわり、お清めしますので、どうかよろしく。いつものように、裁判
の気分はハリハリのチクチクです」
小次郎や市長たちは小躍りし、森の動物たちが、いっせいにやんやの喝采を浴
びせた。
「それっ。ハーリハリーのチークチク。うんとこどっこい。ハラショッショッ」
ハリネズミは、松の枝を軍配がわりにうちふり、針だらけの体でバレリーナの
ように窪地の上を舞った。
くるりと回転するたびに、かかえた椀から砕いた岩塩を、ぱっとまきちらす。
白い結晶が、刈ったばかりの草地の上にばらまかれ、その上をハリネズミが、枝
をふりふり軽やかに踊り続ける。
踊って塩をまき、すっかり椀が空になると、ハラショーは再び窪地のまんなか
に立った。頭に空の椀を網笠のようにかぶる。小さな手に、ほんの小さな岩塩の
かけらをだいじそうに握り、ぺこりと一礼した。
「どうも。これで、お清めのおわりです。ハリハリ」
言い終わるや、ハリネズミは逃げるように、窪地のはずれへ駆け出した。まる
でその場にいるのは危険だと言わんばかりだ。
ハラショーの不審な脱出の直後、とんでもない騒動がわきおこった。
なんと、ばらまかれた塩めがけて、森じゅうの動物という動物たちが、目を血
走らせ、窪地に殺到してきたのだ。
獣といわず鳥といわず、ありとあらゆる動物が、すさまじい勢いで群がってく
る。無数の鳴き声とはばたき、いななきと吠え声が、森を震撼させる。興奮して
駆け込む動物たちは数知れず、羽をちらかして飛来する鳥たちも、何千何百羽と
もつかない。
窪地の塩にむらがる動物たちは、塩分欲しさに無我夢中だ。頭をぶつけ角つき
あわせ、もみあいながら、必死に塩をなめまくる。
窪地を埋めつくした何千もの動物たちに圧倒され、私は座っていた木にとりす
がり、呆然と見つめるばかりだった。何百もの動物園でいっぺんに火事が起こ
り、動物たちがいっせいに騒動を起こしたようなありさまだ。
小次郎たちも、虎の教授も、群れの中にまじっで、おしあいへしあいしながら
一生懸命に塩をなめている。
私は、なぜ彼らがあんなに裁判を喜んだのか、理由のひとつを知った。清めに
ばらまかれる塩が目当てだったのだ。
野生動物にとって塩分はごちそうだ。ミネラルが不足しがちなので、馬や羊も
塩気のある土をなめたりして補給する。イエス・キリストが言ったように、たし
かに「塩はよきもの」である。
だが、彼らが待ちに待っていた塩の響宴は、ものの数分でなめつくされ、すぐ
に終わってしまった。現れたときと同じく、動物たちはいっせいにまた森の木陰
に戻っていった。あたりには、彼らが残した毛や羽が一面にちりしかれ、足跡が
おびただしく残された。動物たちが、よってたかって乱痴気さわぎを繰り広げた
のだ。羽と毛と足跡だらけの窪地は、今の塩の騒ぎですっかりたいらに踏み固め
られていた。
まだ塩の興奮が冷めやらず、森の中は狂乱の熱気が残っていた。小次郎たち
は、フォークダンスの輪の形に窪地をとりまいている。口のまわりをべらりべら
りとなめながら、うっとりした目をして座っている。
窪地の真ん中に、松の枝だけ持ったハリネズミが、ぶたたびトコトコと歩いて
きた。彼はぺこりとおじぎをすると、枝を天にかざした。
「それでは、これよりはじまるは、東西動物大決戦、臨時ジリリンうる裁判の裁
判勝負」
ハラショーは、松の枝を軍配がわりにふり、相撲の行司のように、きんきん声
をはりあげた。
「ひが−しい。"こ"さまのや〜ま〜」
ハリネズミは松の枝で、蜂の巣を持った小次郎をさした。小次郎は、自分のほ
っぺたを爪で軽くひっかくと、おほほんと咳ばらいして目を細めた。
「うふふん。わたくしの出番ですよ。このいっちょうらの裁判官の服が、ようや
く役に立ちますよ」
紫色のつんつるてんの法服をみせびらかし、小次郎はどってりと、窪地の一画
に立った。
たちまち、森じゅうの動物たちの歓声と応援の鳴き声が、巨木の間に轟き渡っ
た。
声援を一身に浴びる小次郎は、にこにこしながら蜂の巣にかぶりつく。
ハリネズミは、今度は小次郎の反対側を松の枝でさししめした。
「に−しい。"たけ"さまのう〜み〜」
その声に引きよせられたように、桧の巨木の影から、一頭の大型のヒグマが現
れた。
大きな熊だ。私よりもずっと背が高い。おまけに、目つきは鋭く獰猛で、褐色
の毛に包まれた体は、見るからに怪力を発しそうだ。その片手には、やはり一本
の新鮮な銀色の鮭があった。口からえらにかけて笹の枝を通されてぶらさがって
いる。
森の動物たちは、小次郎に勝るとも劣らない声援を、そのヒグマに与えた。ヒ
グマは、うさんくさそうに黒い鼻をならし、私を横目で見ながら小次郎と反対側
の窪地のへりに座りこんだ。
そいつは、私を見つめて不快げに鼻をならし、がふがふと牙をむいた。乱暴に
吐き出す声はごろごろしていて、小次郎のような温和さとは縁がなさそうだっ
た。
「やいっ、人間め。おいらは、ヒグマ族の武太郎(たけたろう)ってんだ。小次
郎みたいに、おいらは甘ちゃんじゃねえぞ。覚悟しとけ。ちょっと少ないが、こ
いつをとっとけ。すっとこどっこい。ドングリびっくり、らんちき野郎め」
ヒグマはいきなり、手に握りしめていたドングリを、十個ばかり私にぶん投げ
てきた。ドングリの砲弾型の実は、ばらばらにはじけ、土俵や草地じゅうにちら
ばった。その姿にすごい迫力があったので、私はひとことも声が出せなかった。
ふるえあがる私をよそに、窪地を隔てて対座する小次郎とヒグマの武太郎の間
を、ハリネズミが行ったり来たりしている。窪地を横ぎって歩き、こぶしと節ま
わしををたっぷりきかせ、空に向けて叫ぶ。
「さ−てさて。御両人、あい、対座いたしました。みあってみあって、御両人。
とざい、と−ざい。裁判勝負、いざっ、さいばん、しょ〜ぶ〜」
小次郎と武太郎は、その場で目をむいてにらみあう。だが、いきりたつヒグマ
と呑気な月の輪熊の組み合わせでは、緊張感が決定的に欠けていた。まるで漫才
のボケとツッコミである。
ハリネズミは、土俵の中央に立ち、ふたたび大声で叫んだ。
「さあて、おたちあい。まずは、検察、けんさつ−。いでよ、けんさつ〜」
はりあげる声に応じて、向かいの森の中から、朱色がかったピンク色の鶴に似
た鳥が、ふわりふわりと飛んできた。ひとめでわかる美しいフラミンゴだった。
長くて細い水かきのついた足と、鉤型にのびた先の黒いくちばしが特徴的だ。
私はことの成り行きを固唾(かたず)をのんで見守る。窪地のまんなかに、フ
ラミンゴがふんわりと降りたつ。
フラミンゴは、酔っぱらったような、ぽわんとした目つきをしている。ベニヅ
ルとも呼ばれるその鳥は、小次郎と武太郎に、長い首を折って挨拶するが、その
口調はとろくて心もとない。歯のぬけたような、のろのろしたしゃべり方だっ
た。
「これは、これは、これは……。え−と、東の裁判長さまに、え−と、西の裁判
長さまですか。あ−、本日はお日柄もよく……。あ−、なんですね。つまりその
お。あれが、なにでして。裁判は、つつがなくて……」
まだるっこしいこと、おびただしい。これで検察なのだ。彼はハリネズミに、
首をのばし、とろんとした目つきで尋ねる。
「え−と、わたしの名前は、名前は……。え−と、なんだっけ?。なんて名前だ
っけ」
ハラショーは、すばやくフラミンゴの耳元にささやいた。自分の名前さえよく
思い出せない検察官は、首をふにやふにゃさせながらうなずいた。
「はあ、あ−。わかりました。わたしの名前は、え−と、そのド、ド、ド……。
ドレミ、ドレミ……。あ−、ちょっとちがうような、気がするんですけどもお。
まあ、いいかあ。え−、その。ド、レ、ミ、ファ、じゃなくて、あ−、なんでご
ざいますね。裁判というのは、まったく、えー久しぶりでございまして。あの
お、そのお、わたしの名前ですけど、ド、ド、ドミンゴと申しますです。え−
と、たしか、これでよかったような、そういう気がするんですけどもお。なんと
なく、いまひとつ、確信もてませんけどお、まあ、これでいいんじゃないかな−
って」
フラミンゴは、そこでくちばしを開いてあくびし、片足だけ膝をまげ、ゆっく
り上げる。
一本足で立ったまま、とろとろと眠りこむ。
ハリネズミのハラショーは、小さな目で私をじっと見つめ、そのかぼそい手で
おいでおいでをした。窪地の中央まで来いといっているらしい。
私は、うしろの虎教授にふりかえり、小声で尋ねる。
「あれは、どういうことだ?やっぱり、行かなくちゃだめなのか」
ワン教授は、人の肩に肉球のもりあがった手を置き、ぽんぽんとたたいた。
「当然のことです。あの場所が、被告の立つ場所です。さあ、行きましょう。ゴ
ー・アへッドですよ」
「ゴ、ゴーアヘッドって……」
被告が被告席につくのに、ゴー・アヘッドもないものである。
とまどう私の背中を押して、虎は窪地のまんなかに向かって歩きだした。逆ら
えずに、草刈りの疲労によろめきながら、仕方なく前に出る。
私と虎が近づくと、ハリネズミはうやうやしく虎に頭を下げた。フラミンゴの
方はこっくりこっくり舟をこいでいる。
ハリネズミは、すぐに後ろむきになり、鳥の脚を背中の針で軽くつついた。
「おい、起きろ。起きろ。起きろったら」
紅色のドミンゴは、もっさりと頭をあげた。やっと気づいたらしい。のろのろ
と、私たちの方を見る。
「あ−、いたいなあ。なんだかあ、ちくちくするが……。お−、これは、ど−
も、ど−も。あ−、なんでございますね。ワン教授さまは、いつもお毛並みがよ
くて、つつがなきや友がき……。黒と黄色のツートンカラー。え−、たぶん、工
事中につき注意のもようとは、ちょっとちがうとおもうんですが−。それで−、
よろしかったでしょうかあ」
虎は、のったらもったらしているフラミンゴの挨拶を、手で軽く制した。
「あなたの言いたいことは、何も言わずともよくわかります。ところで、ドミン
ゴ氏。そろそろ検察の席について欲しいのですが、よろしいですかな」
窪地のまんなかに立った私と虎に、フラミンゴは居眠り老人のように何度もう
なずきながら座をゆずった。彼は、小次郎からも武太郎からも等しく離れた、窪
地のへりの一画に下がり、美しく濃いピンク色の羽を大きくひろげた。そこが検
察席ということなのだろう。
窪地を時計の盤にたとえれば、九時のところに武太郎、三時の場所に小次郎が
いて、十二時の所にフラミンゴがいることになる。
ここまで来れば、だいたい推測がつく。六時のところに座るのは、弁護をする
動物にちがいない。被告を中央に置いて、四方を二人の裁判長と検察、弁護人が
占めることになるのだ。
がっかりして立ちつくす私の足元で、ハリネズミが松の枝を六時の方向に差し
上げ、声をはりあげた。
「いでよ、弁護士その一。ベんごし、そのいち〜」
何が現れるかと思いながら、ハラショーの指し示す方を見上げた。そこには赤
松の巨木が生えていた。その枝の上に、隣の唐松からとびうつってくる影が、三
つばかりあった。キイキイという声が聞こえ、キャッキャッと騒いでいる。
赤松から、赤い顔と赤い尻を持った灰色の日本猿が、三匹するすると降りてき
た。
赤松の根元にあたる弁護士席に並んだ日本猿たちは、三匹いっしょに私と虎を
見つめた。ハラショーは弁護士「その一」と言ったから、弁護士はこの猿たちだ
けではなく、続きがいるのだろう。頼もしすぎて、涙が出そうだ。
よく見ると三匹は少しずつ違っている。まんなかのが背がやや高く、体つきの
いい猿だ。左隣はやせていて小柄で若い。右のはでっぷりと肥った猿だった。
体格のいい猿が、双眼鏡をのぞくように、眼に両手を丸めてあてがった。私を
その手でつくった望遠鏡でのぞき、もの珍しそうに身を乗り出した。
「おいら、見る猿。名前はミルベエ。ねえ、もっと見せて、見せて見せて。なに
がいったいどうなってるの、ねえ早く見せてよ」
左隣の若い小柄なオスが、耳のうしろに、広げた両手を象の耳のようにあてが
った。首をかしげ、耳をかたむけ物音を聞く格好をした。
「ぼくちゃん。聞く猿。その名もキクエモンなの。ほんとのこと聞かせて、聞か
せて聞かせてったら。どういう事情で何がどうなったの。聞かせてよ。もっと聞
かせてよ」
やたらと騒ぐ二匹の仲間に負けず、右はしにいた肥満ザルが、両手でメガホン
をつくりヤッホーと叫んだ。
「わたし、言う猿。イウノスケっていいます。言わせて言わせて、言わせてく
れ。こればっかりは言わずに死ねないことを、言わせておくれ。しゃべりたいん
だ、話したいんだ。黙っていたら死んじまう」
この連中、うるさいことこの上ない。弁護士席についたとたんに、見せろ、聞
かせろ、しゃべらせろと、ひっきりなしに騒ぐうえ、短い尾をひこひこ動かしな
がらキッキッととびはねる。
他の動物たちは、あたりまえと言った表情だが、私には迷惑このうえない話で
神経にさわった。好奇心が強くて、なんでも尋ねる幼児みたいなものだ。うるさ
くて仕方がない。
あまりにもうるさい猿たちなので、耳を両手でふさぎ、虎教授に抗議する。
「なんてうるさいんだ。弁護士って、あんなのか。それに、好奇心をむきだしに
するなんて、失礼じゃないか」
ワン教授は、脇にかかえたホウの葉の法律書を開き、眼鏡ごしにのぞいて、ふ
むふむとうなずいた。
「あれでいいのです。彼らは、べあべあ日暮ら市でも有名な、見る猿、聞く猿、
言う猿のサンザン猿と呼ばれています」
「そんな。三匹の猿といったら、見ざる聞かざる言わざるの三猿だろ。こんなの
ないよ」
「ここでは、彼らが正しいのです。なにしろ、動物掟守りま省の動物警察庁の刑
事たちでもあるのですからね」
私はあっけにとられて、見せろ、聞かせろ、言わせろと騒ぎたてる猿たちを見
つめた。
「け、刑事だと……」
「そうです。これから、あなたを取り調べするのです」
「待てよ。弁護士が、なんで被告を取り調べるんだ」
うろたえる私に、虎は落ち着いた様子で肩をたたいた。
「簡単なことです。それが決まりなんです。決まりにしたがえば、きまりの悪い
思いをすることはありません。つまり、思うにまかせぬ定めのつらさというやつ
です。これが最後の品定め。正直にあるがままを、見せて、聞かせて、しゃべら
せればいいんです。すべてなすがままに、レット・イット・ビーのボーイズ・ビ
ー・アンビシャスです。もしジョン・レノンとクラーク博士が出会ったなら、ふ
たりはきっと蜜蜂(ビー)とアンビシャスの煮物を食べたことでしょう。そし
て、二人は、蜜蜂の羽がうまいかアンビシャスがうまいかで、告訴しあったにち
がいありません。実に味のある民事訴訟法における新学説が、それをきっかけに
生まれたことでしょう。まったく残念なことです」
虎教授のめちゃくちゃな駄洒落には、ついていけない。今は、それどころでは
ないのだ。
あんなうるさい猿たちに、だいたい何を見せたり聞かせたりすればいいのだ。
それに、しゃべりたいやつは、いったい何を言おうというのだろうか。全く、ろ
くでもないことになってきた。
小次郎に目をやれば、蜂の巣をあいかわらずベロベロなめている。ヒグマの武
太郎も、持参の鮭を抱いて背びれのあたりをしきりに噛んでいる。どちらも、気
に入った食べ物に夢中で、はぐはぐと吐息もせわしく食べている。
不安で不安でたまらず、狼狽する私のまわりに、ついにこらえきれなくなった
か、三匹の猿が、ぴょんぴょんとびはねながらやってきた。私とワン教授とハラ
ショーのまわりを、さんざんはねまわって質問を浴びせかける。
「ねえ、見せて。あなたの素顔、髪の毛の数と視力、指紋は?舌の長さはどれく
らい?
見せて見せて、交尾はどうやってするの。見せて見せて、あなたの隠しているも
の、ぜーんぶ見せて」
「聞かせてよ。聞かせて。あんたの生年月日、家族構成、作家になった動機は?
出身校はどこ。聞かせてよ、聞かせて。好きな人はいるの?浮気したことある?
下着の数は?布団は週に何回ほす?あなたの秘密、ぜんぶ聞かせてよ」
「しゃべらせて。しゃべらせてくれ。おたく、駆け出し作家だね。知ってるよ。
みんなに教えてあげよう。あなたの恥ずかしい体験だ。みんな知っておいた方が
いい。それはね…」「やめろっ。何をしゃべる気だ。人の恥ずかしい体験だと?
弁護人のくせに、なんてことを言うんだ」
私は青くなって、イウノスケの言葉をさえぎって続けた。
「だいたい、なんのために、そんな暴露をしようっていうんだ」
おしゃべり猿は、そこで得意げに胸をはり、灰色のふかふかした毛を、赤い
両手でいじりながら答えた。
「それはね。革命とね、筆を折った作家のつぶやきの重大な関係のためなんだ
よ。それでね、社会的正義とか真実とかいうもののために、あんたの秘密をみん
なに教えたくって仕方ない」
私は、やかましいイウノスケを、再びさえぎった。
「ちょっと待った。その、革命だか、筆を折った作家のつぶやきって、いったい
なんのことだ」
イウノスケは両方の手で、真赤な頬をつつんで口をぱくりと開いた。ムンクの
『叫び』の絵みたいなかっこうで答える。
「革命とかけて、筆を折った作家のつぶやきと解く。そのこころは、もう"書く
めえ−っ"」
私は一気に体のカがぬけた。ばかばかしさのあまり声も出ない。肥ったイウノ
スケは、再び二匹の仲間ととびはねながら、サイレンよろしく叫びたてた。
「わたしはしゃべりたいんだ。人間はなんて言うか知らないけど、沈黙は金じゃ
ないよ。時は金なり、トキは金では買えないけれど、雄弁こそ金だよ。プロパガ
ンダは、プロパンガスとは何にも関係ないけど、爆発しそうな力なりけり。勢力
絶倫、よいとまけ。ほら、イウノスケは、こんなに人間の世界のことを知って
る、おりこうさんなんだよ。言わせてくれ、言わせてくれ。おたくに恋人がい
て、今まで失恋を何十回とした上、もうこんなもてない男はいないということも
ね。もちろん、それが真実かどうか、事実かどうかは問題じゃないよ。とにか
く、つくり話でも嘘でもかまわない。おたくについて、あることないこと、ない
ことないこと、みんなしゃべらせてくれ。もう、そうせずにはいられないよ」
とにかく質問ぜめ言葉ぜめで、機関銃のようにしゃべりまくる猿たちだった。
(サンザン猿にさんざんな目にあわされつつ、次回へ)