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[: 日比野則彦 メジャー1stアルバム
「燈」 NOW
ON SALE :]
: CHEMISTRY、平井堅などのアーティストを手がける 松尾潔 氏よりアルバム「燈」のライナーノーツをご提供頂きました :
:
知人の紹介で日比野さんを知ったのは2年ほど前のことである。
私がプロデュースを手がけていたアーティストのレコーディングで、極めてジャズ・オリエンティッドなソプラノ・サックスを吹いていただいた。
実際のレコーディングにあたって私は日比野さんに漠たるイメージを伝えただけだが、
それでも彼は期待に応えて余りある見事な演奏を披露してくれた。レコーディングは無事終了し、私たちはしばし歓談の時間を持った。
その時の短いやりとりを通じて、日比野さんがサックス演奏のみならずトラックメイキング全般を手がけることを初めて知った。
小生寡聞にして日比野さんがゲーム音楽の世界で若きマエストロと称されていることを知らなかったのである。
無知とはおそろしいもので、私は彼に随分と初歩的な問いかけをしたように記憶している。
トラック制作は何のソフトを使ってますか、とか、作曲は何の楽器を使いますか、とか。
つまり私はその時点で彼のことを「トラック制作にも手を伸ばすジャズ・サックス・プレイヤー」くらいに認識していたのである。
その認識には誤解が含まれていた。がしかし、その背景には私なりの日比野さんへの敬意があった。
なぜなら、彼のソプラノ・サックスのプレイには、それが専業であると私に信じ込ませるに足る説得力があったから。
喩えるなら、イチローが美しいヒットを放つ姿を見て、彼が守備面でも超のつく名手であることにまで
思いをめぐらせる人はそうそういない…そういうことだ。イチローはその打撃だけで「今そこにいる理由」を得ている。
私にとって日比野さんの第一義はサックス・プレイヤーなのである。
これを「美しき誤解」と呼ぶのだろう。
『燈(akashi)』は、そんな日比野さんのバーサタイルな才能がパッケージされた快作である。
このアルバムには日比野さんが日本そしてボストンで培ってきた音楽についての豊穣な知識と体験が溢れんばかりにパッケージされている。
ジャズは勿論だが、クラシック、ソウル、ロック、ハウスといったジャンルを縦横無尽に疾走する日比野則彦がここにいる。
アルバムを貫くコンセプトの確かさゆえに映画音楽を想起する向きも少なくない筈だ。物欲や消費欲に翻弄されていた女性が、
ある時急に閉塞感をおぼえ、自我と向き合い、そして再生していく……。これは救済の物語である。
キリスト教的な宗教観・倫理観が基になっているが、日比野則彦はそこに「今の日本を生きること」という視点を加えることを忘れない。
この視座の据え方は大江健三郎の文学姿勢にも通ずる。フィロソフィーがなければ音楽をやっている意味がない。
エンターテインメントとして成立しなければ現代を生きている意味がない。日比野さんのミュージカル・アティテュードを
あらためて認識させられる思いである。何よりも現代的な音意匠を施すことを忘れない点がすばらしい。
たとえば私が強く好むのは滋味に満ちた懐古的R&B流儀のナンバー”Like A River”であるが、
リスナーによってお気に入りの曲はずいぶん異なるだろう。それでいい。そこがいい。
『燈(akashi)』がワンジャンルに規定できない自分の音楽性のショウケースとして機能することを、日比野さんは強く意識しているだろうから。
才能である。完成を心から祝いたい。
2005年7月 松尾
潔(KC MATSUO for Never Too Much Productions) OFFICIAL
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