トルコの皮膚科医ハルーシ・ベーチェット教授が1937年に初めて報告し、その名が付けられました。目、皮膚、口腔、粘膜、関節、外陰部、消化器など全身のいろいろな組織や臓器に、繰り返し炎症や潰瘍を生じる病気です。
日本の患者数は推定約1万8千人で、発症率は男女でほぼ変わりません。世界では中東から東アジアにかけて、特にシルクロード沿いに多いため、別名「シルクロード病」と呼ばれています。
治療法の研究が進んで昔に比べれば軽症化の傾向にありますが、原因はいまだ不明です。組織適合抗原HLA-B51(白血球の血液型のようなもの)と強い相関があると発表され、現在研究が進められています。 ベーチェット病は、サルコイドーシスと同様に厚生省の特定疾患(難病)に指定されており、治療には補助が出ます。
ベーチェット病の症状
口内炎、皮膚症状、眼症状、外陰部潰瘍がベーチェット病の4大主症状です。
口内炎
ほとんどの患者さんにみられます。舌、唇、歯肉、咽頭など口のあらゆるところに「アフタ性潰瘍」と呼ばれる口内炎が繰り返してできて痛みます。
皮膚症状
90%の患者さんにみられます。すねの皮膚が赤く腫れ上がって痛む「結節性紅斑 (けっせつせいこうはん)」、採血や注射の跡が赤く腫れて化膿する、にきびができやすくなる、皮下の静脈がつまって静脈炎を起こすなどの症状があります。
眼症状
男性に約90%、女性に約65%に出現します。
ベーチェット病のぶどう膜炎は、目の炎症が突然起こっては2〜3週間で治ることを繰り返します。両眼交互に起こることが多いですが、両目同時に起こることもあります。寒い時期や梅雨期にやや多くおこります。 また、虹彩と毛様体に炎症が起きる「虹彩毛様体炎」と、眼底にまで炎症が及ぶ「網膜ぶどう膜炎」の二つのタイプに分類されています。
虹彩毛様体炎は、前房蓄膿(ぜんぼうちくのう)を伴って、充血、眼の痛み、まぶしさなどの症状が出ます。前房蓄膿は、房水で満たされている前房に炎症細胞がたくさんできて、膿(うみ)のように白く濁ってたまる状態のことをいいます。 症状が軽く、炎症が虹彩と毛様体だけの場合は、治療も容易で視力も保たれます。 しかし、何度も再発を繰り返して続発性緑内障(虹彩と周囲の組織が癒着し、房水の循環が妨げられて眼圧が上昇)や、併発性白内障(水晶体に房水中の線維物が付着して、白い膜のようにたまる)などの合併症を併発すると、視力に影響が出てきます。
網膜ぶどう膜炎は、前房や硝子体のにごり、網膜の炎症やはれ、飛蚊症などの症状が出ます。炎症が起こった網膜の一部は破壊され、炎症を繰り返していると網膜の損傷が広い範囲に及び、視力が徐々に低下します。網膜や視神経乳頭の血管がつまったりして眼底出血を起こしたりすると、失明の恐れも出てきます。
外陰部潰瘍
外陰部の皮膚や粘膜に潰瘍ができます。患者さんの70〜80%にみられます。男性より女性のほうが発生頻度が高く、男性では陰嚢(いんのう)、女性では大陰唇(だいいんしん)や小陰唇(しょういんしん)によく出ます。
ベーチェット病のその他の症状
関節炎症状
ひざ、足首、ひじ、手などの関節が赤く腫れたり痛んだりします。 慢性関節リウマチと間違われることがあります。

消化器症状(腸管ベーチェット病)
腹痛や血便が起こります。右の下腹部の回盲部(かいもうぶ)と呼ばれる腸管に潰瘍ができることが多く、急性虫垂炎と間違われがちです。進行すると、腸管に孔(あな)が開いて手術が必要になるので要注意です。
副睾丸炎
睾丸の一部がはがれて痛みます。
血管系症状(血管ベーチェット病)
血行障害により太い動脈や静脈に病変が起きて、血管がつまったり血管壁に瘤(こぶ)ができたりして、破裂すると大出血を起こします。
精神・神経系症状(神経ベーチェット病)
脳幹部、脊髄、大脳などの病変のために、歩行障害、言語障害、記憶力低下、性格変化、頭痛などのさまざまな症状が出ます。
ベーチェット病の診断基準
1.主症状
(1)口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
(2)皮膚症状
a) 結節性紅斑
b) 皮下の血栓性静脈炎
c) 毛嚢炎様皮疹
参考所見:皮膚の被刺激性の亢進
(3)眼症状
a) 虹彩毛様体炎
b) 網膜ぶどう炎(網脈絡膜炎)
c) a・bによる虹彩後癒着、水晶体上色素沈着、網脈絡膜萎縮、視神経萎縮、併発白内障、続発緑内障、眼球癆
(4)外陰部潰瘍
2.副症状
(1)変形や硬直を伴わない関節炎
(2)副睾丸炎
(3)消化器症状(腸管ベーチェット病)
(4)血管病変(血管ベーチェット病。呼吸器症状や泌尿器症状含む)
(5)中等度以上の中枢神経病変(神経ベーチェット病)
完全型:経過中に4主症状の出現したもの
不完全型:経過中に3主症状(または2主症状と2副症状)の出現したもの、または眼症状とその他の1主症状(あるいは2副症状)の出現したもの
ベーチェット病の治療
虹彩毛様体炎では、ステロイド薬や散瞳薬の点眼・局所注射(結膜下注射)を行います。ステロイド薬は炎症を抑える著しい効果がありますが、副作用もあるため必要最小限に使用することが肝心です。散瞳薬は、虹彩の癒着を防いで瞳孔を広げる薬です。
網膜ぶどう膜炎では、目の局所治療に加えて、炎症の再発防止のために全身治療も必要です。最もよく使われるのは、白血球の反応を抑えて炎症を起こりにくくする「コルヒチン」です。この薬は副作用が比較的少なく、痛風の治療薬としても使われています。その他、リンパ球の働きを抑えて炎症を防止する「シクロスポリン」などが使われます。
いずれも、患者さんのあらゆる症状、薬の血中濃度や副作用を考慮しながら、慎重に治療薬を選ぶことになります。定期的に通院し、医師の指示に従って治療をすることが重要です。
