私は大学の研究室で、広範囲で浅い雑多な仕事をしています。その一つにレーベル病の遺伝子診断があります。レーベル病はミトコンドリアの遺伝子に変異があるもので、徐々に視力が失われて行き、診断されればなす術が無いようです。まだ一般の検査会社では検査が出来ず、以前は慶応大学に送っていましたが、現在はプロトコールをいただき、うちの大学でもやるようになりました。しかし手間がかかる上に珍しい病気ですから、次々検体が来て分析しても、いつも陰性ばかりのつまらない仕事でした。
そんなある日、出たのです。私は少し興奮しました。初めて見る電気泳動で浮き上がったバンドに「ヤッター」という感じでした。研究室には誰もいませんし、居合わせた西田朋美先生に「先生、出ましたよ」と伝えたところ、先生の第一声は「ご家族の方はどんなでしょうねぇ」。
私の胸にグサリときた一言でした。私はなんて事を考えていたのかしらと反省しました。研究室は患者さんの顔が見えない閉鎖空間ですから、DNAも物としか見てなかったのです。抽出したDNAマイクロチューブに「ごめんね」と語り、もう一度確認の分析をして報告書を書いたのでした。この方の運命を左右する事だからです。
先日、至急血清で点眼薬を作るよう頼まれました。遠心分離して「まぁひどい血」と従来はここまででした。出来上がった点眼薬を外来に持って行くと、ベンチで長らく待っておられたのでしょう。1人ポツリと座っている方がいました。
以前は点眼薬を看護婦さんに渡して終わりでしたが、お名前を確認して「今、血液がドロドロで、体がカラカラの状態ですよ。今すぐスポーツ飲料か水でもいいので飲んでから帰って下さいね」と血の通った会話を交わすことが出来ました。先生ありがとうと心でつぶやきながら。(2006年1月25日記)
