1 ウィリアム征服王
 英国王ウィリアム1世となったノルマンディー公ギヨームは、フランスに定住したノルマン人でした。彼はデンマーク出身のデーン王家のハロルド2世にヘイスティングスの戦いで勝って、イングランド王となったのです。しかしこの結果、ノルマンディー公家はドーバー海峡にまたがる領土を持ち、フランス王に臣下としてオマージュ(臣従の誓い)を捧げた立場を持つ貴族であると同時に、イングランド王としてフランス王と対等の地位を持つという複雑な立場になりました。これが後の百年戦争につながる要因であることはよく知られています。
 これはウィリアム征服王の複製コインと、彼の甥に当たるスティーブン王の時代の複製コインです。製造発売元はイギリスのバーミンガムにあるWestair Reproduction Ltd. ( http://www.westair-reproductions.com )で、ギリシア・ローマ・ペルシアのページにのせたヴェスパシアヌスやドミティアヌスの複製コインと同じメーカーです。インターネットのコインオークションで発見しました。出品者はロンドン塔(ウィリアム1世がロンドンの防衛拠点として建設した城)の売店で購入したそうです。
 wil1.jpg表側です。
 wil2.jpg 裏側なので、左右が逆になります。右がウィリアムのコインです。
 表中央にウィリアムの肖像、その回りに"WILLEM"の名が刻まれています。ついでにウィリアムのイングランド征服を記した『バイユー・タペストリー』の一場面をモチーフにしたキーホルダー(親戚がフランスに行ったときのおみやげ)の画像も載せておきます。
 tapestry.jpg

2 リチャード1世とリチャード3世
 どちらにも顔が付いていませんが、同じくWestair Reproduction Ltd.のものです。実はこれもいっしょにオークションに出ていたのですが、落札し損なったものです。その後、イギリスの会社はよく通信販売をやっていることに気がつき、イギリスのヤフーで会社名を検索してみたところ、ちゃんと通信販売のページがありました。オークションより定価の方が安かった...。この会社は、大英博物館などのミュージアムショップで売っているものを作っている会社の一つのようで、他にもいろいろな複製品が売られていました。やだっちさんのHPにあるローマのコインセットもここの製品です。
 さてリチャード1世ですが、「ロビン・フッド」伝説の脇役の一人であり、イングランドの統治を弟ジョン(のちのジョン王)にまかせっきりにして十字軍に入れあげた人物、ということになっています。アンジュー王家は1にあるスティーブン王の後を受けてイングランド王になったのですが、当時は田舎の後進地帯だったイングランドよりフランスで過ごすことの方が多かったようです。フランス語しか話せなかったとの説もあるようです。写真のコインはフランスで鋳造されたペニー貨幣で、十字軍狂いのリチャード1世らしく、裏側のデザインは中央に十字が刻まれています。
 リチャード3世はシェークスピアの劇で有名な悪役ですが、イギリスの有名な歴史ミステリ「時の娘」(ジョセフィン・ティ著 小泉喜美子訳 ハヤカワ文庫HM51-1)によれば、怪物どころかむしろ高潔な王であったとのことです。悪役リチャードのイメージは、彼から王位を奪ったヘンリー7世の子分のトマス=モアと、エリザベス1世の時代にシェークスピアが作り上げたもののようです。
 richard1.jpg richard2.jpg

3 ヘンリー8世(メダル)とエリザベス1世
 これもWestair Reproduction Ltd.のものです。ヘンリーの方は大型のメダル、エリザベスの方は表に左向きのやや年取った肖像がありますが、摩滅が進んでいるため写真ではよくわからないかもしれません。このレプリカはオリジナルのコインを忠実に複製しているため、元になったのものの肖像が摩滅していれば、それを忠実に写しています。一度名古屋のコインショップで本物のエリザベス1世のしっかりした肖像のあるコインを見たことがありますが、15万円の値が付いていました。
*その後、この頃のコインは鍛造(ハンマーによる打刻)で作られていたことがわかりました。肖像は摩滅したのではなく、打刻したものの写りが良くなかった、ということです。

henry2.jpg henry3.jpg henry4.jpg 
 エリザベスのコインの裏は中央に、第一・第4クォーターにフルール・ド・リ(百合紋)、第2・第3クォーターに三頭のライオンがついたイングランド王紋章がついています。百合紋はフランス王をあらわす紋章で、三頭のライオンはイングランド王の紋章です。百年戦争が終わっても、イングランド王家は紋章の上ではフランス王位の請求権をあきらめていないことを示します。このコインのケースについているカラーの紋章もあげておきます。
 arms.jpg
 その後、エリザベス1世の本物の6ペンスコインを入手しました。ただし肖像があまりはっきりしておらず、周囲が摩滅しているので、値段は4ケタの半ばで済みました。肖像の周囲には「エリザベス、神の恩寵によるブリタニア・フランス・ヒベルニア(=アイルランド)の女王」という銘文が読みとれます。
 liz1.jpg liz2.jpg

4 スコットランド女王メアリー・スチュアート
 エリザベス1世のいとこに当たり、5のジェームズ6世(イングランド王ジェームズ1世)の母でもあるメアリー・スチュアートのコインです。Westair Reproduction Ltd.の製品です。
 mary.jpg 
 左はメアリーの肖像のある金貨、右はメアリーの紋章(王位を示す王冠の下に、左に結婚相手のフランス王フランソワ2世を示すフルール・ド・リの紋章、右はスコットランド女王メアリーの立ち姿のライオンの紋章)のついた銀貨です。

5 イングランド王ジェームズ1世とスコットランド王ジェームズ6世
 4のメアリー・スチュアートの息子で、イングランド王としてジェームズ1世、スコットランド王としてジェームズ6世となる人物です。コインは直径16mmほどの小さなものです。外縁部が摩滅しているため、銘がはっきり読めません。裏面にはジェームズの紋章があります。第1・第4クォーターはライオンとフルール・ド・リのある旧イングランド紋章なので、イングランドのコインだと思われます。絶対主義の成立のところで使います。入手先:I

 james1.jpg james2.jpg
 もう一つはWestair Reproduction Ltd.の複製コインで、スコットランド王としてのジェームズ6世のコインです。肖像の方は摩滅したものを複製したようです。裏面の方は、上の写真と見比べてみると左下の第3クォーター(アイルランドを示すハープの模様)は同じですが、第1・第4クォーターが上の写真の第2クォーターにある立ち姿のライオン(スコットランドを示す)になっており、イングランドを示すフルール・ド・リと三頭のライオンの紋が劣位の第2クォーターにあることから、スコットランド王ジェームズ6世としてのコインであることが判ります。*これも、肖像は打刻したときに十分移らなかったもので、摩滅ではないことがわかりました。
 james3.jpg james4.jpg
 イギリスの絶対王政のところで使う予定です。その際には、ジェームズ1世のイングランドとジェームズ6世のスコットランドの同君連合の説明をしてから見せようと思います。

6 チャールズ1世と共和政時代コイン
 これもWestair Reproduction Ltd.の複製コインです。顔は付いていませんが、四角い方がチャールズ1世の半クラウン、丸い方が共和政時代の1シリングです。コインの解説によれば、共和政時代のものは初めてラテン語表記でなく英語表記で作られたコインだそうです。
 charles1.jpgcharles2.jpg charles3.jpg charles4.jpg 
 共和政時代のコインには、表の中央にイングランドのセント・ジョージの十字紋とアイルランドを示すハープの紋がついた盾が描かれており、周囲には" GOD WITH US "の文字が、裏面にはセント・ジョージの盾と" THE COMMONWEALTH OF ENGLAND "の文字があります。

7 スコットランド銀行発行1ポンド紙幣
 「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国」は、イングランド・スコットランド・ウェールズ・北アイルランドの4地域からなっています。普通、日本で英ポンドへ両替すると、エリザベス2世の肖像がついたイングランド銀行発行のポンド紙幣が渡されます。しかし、スコットランドではスコットランド銀行が発行した独自の紙幣があります。写真はマシュー=フリンダースという探検家の肖像がついた1ポンド紙幣です。表裏の中央に、斜めの十字紋(スコットランドの守護聖人、聖アンドリュースの紋)がついています。イングランド銀行の1ポンド紙幣も持っているので、ジェームズ1世(ジェームズ6世)のコインと共にスチュアート王朝の時の「同君連合」の説明、資料集のユニオンジャックの旗の変化の図とともにアン女王の時の「連合王国」の成立などのところで2つ並べて提示して使います。
 pound1.jpg pound2.jpg pound3.jpg 26.jpg
8 ウェリントン将軍
 1970年代に使われた5ポンド紙幣です。表面はエリザベス2世の肖像ですが、裏にはナポレオンを破ったウェリントン将軍(ウェリントン公爵アーサー=ウェルズリー)の肖像と、ワーテルローの戦いの場面が描かれています。
wel1.jpg wel2.jpg

9 ウィリアム3世の3ペンスコイン
 名誉革命でメアリ2世とともに英国の王位についた、ウィリアム3世のコインです。ラテン語表記なので、「GVLIELMUS III」と記されています。直径1センチほどの銀貨です。
 wil3.jpg

10 ハノーヴァー朝初代 ジョージ1世
 スコットランド出身のスチュアート朝が断絶した後、グレートブリテン王を嗣いだのは、ジェームズ1世の曾孫にあたるハノーファー選帝侯ゲオルク=ルートヴィヒ=フォン=ヴェルフェンでした。即位当時54歳の彼と、後にジョージ2世となる彼の息子は英語を十分に理解できなかった(当時は英語は国際語ではなかったのでした)ため、英国は責任内閣制になったとされています。肖像面の銘文はラテン語の略号で「ゲオルギウス、神の恩寵による大ブリテン・フランスとヒベルニア(アイルランド)の王、信仰の擁護者」、裏面の銘文は全部は読めませんが、ブラウンシュヴァイク公、リューネブルク公、(ハノーファー)選帝侯などをしめす略号があります。裏面のデザインは、上がグレートブリテン(アン女王の時にイングランドとスコットランドが統合)を示すイングランドの3頭の歩行姿のライオンとスコットランドの立ち姿のライオンの楯、下がアイルランドを示すハープの楯、左は2頭のライオンと立ち姿のライオン(スコットランドのものとは異なる)と白馬の三ツ割の楯に選帝侯を示す冠のハノーファーのヴェルフェン家の家紋(1837年にウィリアム4世が亡くなるまで、英国王はハノーファー選帝侯−ジョージ3世からハノーファー王−を兼ねていました。次のヴィクトリア女王の時、大陸では古くからの習慣で女系相続を認めず、ヴィクトリアの父ケント公エドワードの弟がハノーファー王位を嗣いでいます)の楯と共に、右にフランス王位を示すフルール=ド=リの楯が付いています。ジョージ3世の1801年まで、英国王の公式紋章に使われていたのと同じ組み合わせです。公式紋章では、第1クォーター(左上)がグレートブリテン、第2クォーター(右上)がフランス、第3クォーター(左下)がアイルランド、そして第4クォーター(右下)がハノーファーです。イギリス王は、エリザベス1世のコインの紋章にもあった「我こそは正しきフランス王」という主張を百年戦争から400年もたったこの時点でもアピールしていることを示します。
 george1.jpg george2.jpg

11 アイザック=ニュートン
 1978年から82年に使われたイギリスの1ポンド紙幣です。表面はエリザベス2世、裏面はアイザック=ニュートンの肖像です。ついでに未入手のものも紹介すると、このころの10ポンド紙幣の肖像はフローレンス=ナイチンゲール、1990年〜2001年の5ポンドはスティーブンソンと蒸気機関車ロケット号(産業革命のところで使いたいのですが、まだ入手できていません)、2000年発行の10ポンド紙幣には進化論で有名なチャールズ=ダーウィンの肖像がついています。
 newton.jpg

戻る