2-1 GDPとGPI

(1)国内総生産(GDP)

世界の国々と日本の国力、それも潜在力ではなく、顕在力を比較する場合、真っ先に比較対象になるのが国内総生産(Gross Domestic Product、GDP)だ。

GDPとは、マクロ経済変数と呼ばれるものの一つで、国全体の経済状態を示す数値。この数値の算出に当たっては価値判断は抜きだ。たとえば人の利用度の低い道路建設費や打ち上げ失敗の衛星事業費も、利益率の高い輸出用高付加価値品の価額同様にGDPに加算される。

しかし日本人、外国人を問わず、国内労働の果実であることは事実。日本人限定で計算すると国民総生産(Gross National Product、GNP)になる。最近はGDP統計が重視されている。

国名 GDP 一人当たり
1 アメリカ 11,004,100 37,424 3
2 日本 4,302,557 33,727 5
3 ドイツ 2,403,160 29,136 9
4 イギリス 1,797,677 30,341 7
5 フランス 1,759,029 29,249 8
6 イタリア 1,468,284 25,571 11
7 中国 1,412.323 1,083 15
8 韓国 605,354 12,691 13
9 オーストラリア 507,674 25,731 10
10 ロシア 432,849 3,022 14
11 スイス 319,670 44,584 2
12 スウェーデン 301,605 33,965 4
13 フィンランド 161,874 31,070 6
14 ニュージーランド 77,418 19,953 12
15 ルクセンブルク 26,298 58,440 1

(注)GDPの単位は100万米ドル、一人当たりGDPの単位は米ドル

上の表は2003年の実績統計。日本は世界2位、1人当たりGDPは世界5位だ。2003年の年間平均為替相場で算出しており、この時の値は1ドル115.93円で、2005年6月の現在より円安だった。現在値の108円程度で換算すれば、日本のGDP値は更に高額になる。

注目に値するのは一人当たりGDP1位のルクセンブルクだ。人口42万人程の都市国家というべき立憲君主制の小国家だが、内容が濃い。様々な国に支配される歴史の後に1867年5月に独立、永世中立国になった。しかし第1次第2次大戦でドイツに占領され、第2次大戦下、ロシア、ポーランドに次ぐ多数のレジスタンス戦死者を出している。鉄鋼や葡萄酒で有名ではあるが、ヨーロッパの中心に位置する長所を活かし、世界の企業を受け入れ、世界一の富裕国を維持している。


(2)真の進歩指標(GPI)

GDPの数値は本当の豊かさを示す数値とは無関係、という指摘が近年多くなっている。不幸にも地震や津波の災禍に度々遭遇して、復興事業費が巨額に達すると、それはGDPを押し上げる。しかし事業終了の結果人々が手にするのは元の生活だ。一方人々が無償で労力を提供するボランティア活動は確実に社会に貢献してもGDPには加算されない。

NHK放送文化研究所の小宮山康朗(こみやま やすあき)氏は同所が発行している「放送研究と調査」2006年1月号に「『GDP神話』を超えて」という論文を寄せ、アメリカで開発され、日本でも自治体や経済研究者に注目され始めた「新しい豊かさ指標GPI」について解説している。小宮山氏の紹介によると、著名なアメリカ人経営学者、J・K・ガルブレイスが既に1969年の著書「豊かな社会」の中で、「生産の増大は社会の成功の最終的基準でもなく,あらゆる社会悪を解消するものでもない」と指摘しているとのこと。

GDPに対する「物足りなさ」から、カリフォルニア州オークランドにある民間の非営利研究機関「Redifining Progress」(通称RP)が提唱している概念がGPI(Genuine Progress Indicator=「真の進歩指標」)だ。GPIはGDPから控除したり加算したりする。控除するのは、@犯罪防止用に拡大する費用、A家庭崩壊に伴い支出される別居・裁判などの費用、B汚染対策費用、C環境破壊再生に投ぜられる費用等で、加算するのは@ボランティアの活動、A家庭労働の貢献等。


RPの計算によると、アメリカの1人当たりGDPは,1950年から2000年まで急拡大しているが、GPIを再計算すると、ほとんど横這いに近い数値になる。つまりGDPの伸びの大部分は真の豊かさの向上には役立っていないということになる。

話は小宮山氏の論文から離れるが、ブータン政府の国創り目標をご存知だろうか。ブータン国政府は、GDPやGNPを指標とする経済成長を目指すのではなく、国民が幸福感を持って暮らせる社会を最終目標とする「Gross National Happiness (GNH)」を開発の基本理念として掲げている。1999年に策定された2020年までの長期ビジョンはその名も"A Vision for Peace, Prosperity and Happiness"。GPIはブータン政府の知恵を借りたと言えるかもしれない。

再度小宮山氏の論文に戻る。日本では滋賀大学の中野 桂助教授らの研究グループがRPの手法をベースに日本のGPIを試算しているという。その結果、1993年〜2000年の8年間、1人当たりGDPは年平均1.5%上昇しているが、GPIは逆にマイナス0.1%だった。滋賀県はGPIに関する研究会を作り、2005年3月「自治体におけるGPI活用の可能性に関する調査研究」を公表した。

GDPには多くの人が疑問を持ってはいるが、GPIにも問題はある。家庭労働の価値、ボランティア奉仕の価値、親が子供を育てる価値など、客観化が困難な価値も多い。有効な国際比較データを得るには、基準の統一、洗練化が必要だ。とは言え、真の豊かさ、真の進歩とは何かを問いつつ、具体的手法を開発していく努力は本当に貴重なものである。


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