吟 醸 (長田・しゃれた居酒屋)

   思い入れと思い込み

  
訪れたときの様子
是非にも訪れてみたい店というのがいくつかあるが、今回の大阪行きが決まった際にまっ先に思いついたのはこの店だった。足を伸ばす余裕はないだろうと詳細な場所は調べていなかったが、大きく期待していた大阪の老舗に幻滅したせいか、うろ覚えの最寄駅だけを頼りに、自然と新快速に乗り込んでいた。

少なからぬ縁のある神戸というだけでつい思い入れが入るのに、震災後、特に被害がひどかったという長田の町の人に旨い酒を飲んでもらいたいとバラックで安く出している、そんなことを言われればいやがおうにも期待は高まる。ひょっとしてここは自分が追い求めていた店ではないかとすら。

長田駅を探し出し降りるも、その後は全くわからない。近くになかなか良い日本酒を並べる酒屋を見つけ、お茶を買うついでにダメもとで尋ねてみる。教えてもらった場所にはこぎれいなビルにおしゃれな照明、わが目を疑ったが店名に間違いは無く、扉を開くと金属を中心としてパイプに据え付けられたスポットライト、うねるカウンターはアルミか? 振り返ればおそらくはフェイクの石壁で、およそ想像とかけ離れた内装、山田錦の稲穂があるのがほっとはするが、やや、きつねにつままれて品書きをながめる。

冷蔵庫に並ぶ日本酒が適価なのが救いだ。「Sサイズ」と称して6勺弱(110cc)を用意しているのは良心的、値段もきちんと1合の2/3にしてある。お気に入りの「松の司」が「あらばしり」で300円台だったので、つい頼む。
スーツに荷物持ちの初顔は珍しいのか、なかなか店の人が近寄ってくれないが、「春野菜炊き合せ」(500円)を頼むと、カウンターにずらっと並ぶ鉢(大皿)料理が盛り合わせられる。菜の花・わらび・たけのこが旬をとらえ、えんどう豆玉子とじなど意表をついたものまで5品、いずれも単品なら400円前後なのだから正に盛りだくさん、味も薄めのだしが見事だ。

いっしょに頼んだ「明石タコ」刺身、天然ものと唄う通り、暗めの色も「明治屋」のタコよりも一味上だ。しかも皿いっぱいで450円は実にお買い得、酒がどんどんすすむ。
燗酒とも合わせたくなり品書きを見れば、「梅の宿」特別本醸造が1合400円である。申し分ない。ちろりのまま出されたやや熱めの燗は「吟醸」と呼ぶのは言い過ぎも、むしろつまみには合い、更なるものが欲しくなった。

品書きにはなんと200円前後の品も。「絹揚げ焼」を興味半分で頼めば、これが上品な厚揚げに見事なだしがはられ、おろしに青ネギでつまめばとても150円とは思えない。これ2つに燗2つだと1100円か〜、イヤな客だろうが、もしかしたらそれだけで十分満足できるのではないか。500円の炊き合わせに450円のタコを合わせるなんて贅沢しすぎたなあと思わせる。

安く飲むと思い込んで来たため、もう一酒・もう一品が、たとえ200円の「青菜・揚げ煮」でも頼めなかった。何より、一昔前でいう業界人が隠れ家として使ってもおかしくない雰囲気には激しく違和感を覚える。実際、おしゃれな恰好をして4000円前後使って長居して平気でつまみを残しかねない常連がけっこういた。この店では2000円以下でさらっと実においしく酒が飲めるはず。

しかしそれは聞きかじりの話に幻想を覚えて訪れた一見の勝手であろうし、思い入れと思い込みは区別しなければならないのだろう、きっと・・
この日注文したもの
つまみ
春野菜炊き合せ(500円)、明石タコ(刺身、450円)、絹あげ焼(150円)、各1、
日本酒
「松の司」(「あらばしり」、Sサイズ110cc、390円)、「梅の宿」(燗、特別本醸造、1合400円)、各1、
(お通し無し)
1人で1890円(1時間弱滞在)
勝手なコメント
1500円で飲む人から4000円以上使う人までが満足できるであろう
★★★★★(5つ星が最高)
詳しい紹介

「吟醸」
神戸市長田区四番町7丁目
16時半からの営業、21時半ラストオーダー 
日祝定休

神戸市営地下鉄 長田駅 西1番出口出て歩道を渡り左を見る、徒歩1分
(神戸高速東西線高速長田駅三番町・四番町出口からも徒歩1分みたい)

日本酒は「梅の宿」「松の司」がほぼフルラインアップ、他にも「磯自慢」「酔鯨」「東一」などの純米吟醸・大吟醸(へたすると鑑評会出品酒)などが冷蔵庫に並ぶ。
ビールも大瓶500円・生中450円である
焼酎もあった
奥に小部屋があり、コース料理もあるらしいので宴会も可だろう

⇒ 「日本の居酒屋を行く 望郷篇」 太田和彦 新潮社
     「神戸」の部分
  「ニッポン居酒屋放浪記 望郷篇」(上記の文庫版) 新潮文庫


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