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Literary Freeware: Not for Commercial Use
THE HACKER
CRACKDOWN Law and Disorder on the Electronic Frontier by Bruce
Sterling The Crash Post-Mortem
自由な文書(ただし商用利用を除く)
事故のあと
最初から、取り締まりに名前がつく前でも、秘密にしておくことは重要な問題だった。ハッカーの取締りには、秘密にしておく理由が十分にたくさんあった。ハッカーたちやコードを盗むものはずるがしこく、なにかやっかいなことがありそうだと見てとると、こそこそと自分のベッドルームや地下室へ逃げ帰って、明らかな有罪の証拠を隠滅してしまう。それだけではなく、犯罪それ自体がきわめて高い技術を要するもので、警察にでさえ説明するのが困難である。ましてや一般大衆に説明するのはきわめて難しい。
過去において、このような犯罪が大衆に分かりやすく説明されていたら、その説明は犯罪を際限なく増加させたことだろう。電話会社の社員は、自分たちのシステムが攻撃を受けやすいものだということを嫌というほど思い知っていたので、それらの弱点が大衆に知らされないように願っていた。経験では、そのような弱点が、一度でも明らかになると、情け容赦なく何万という人々が利用し尽くすのである。プロの詐欺師やアンダーグラウンドのハッカーたちや電話フリークのみならず、知らなければだいたいにおいては正直な多くの人々でさえ利用する。そのような人々にしてみれば、顔のみえない、非人間的な「電話会社」からサービスを盗むことは、なにか害のないインドアのスポーツでもやっているようなものなのだろう。自分たちの利益を守らなければならなくなり、電話会社はその後ずっと「微笑みに満ちた声」への一般大衆の同情には見切りをつけてきた。現在、電話会社の「声」は、だいたいコンピュータのものだ。そしてアメリカの大衆は、ベル博士やバイル氏によって遺されたすばらしい公共サービスへふさわしい尊敬と感謝の念を示すことはなくなった。より効率的なハイテクのコンピュータ化された、非人間的な電話会社になればなるほど、より大衆の気難しい怒りと信じられないような強欲さに相対(あいたい)することになるように思われた。
電話会社の社員は、アンダーグラウンドの電話フリークが出来るかぎり公に、そして見せしめに罰せられることを望んでいた。彼らは一番悪い奴を極悪人の例にして、首謀者をとっつかまえ、小魚はおどしてやりたいと思っていた。そしてむちゃくちゃな趣味をもっているやつらを脅して挫かせ、プロの詐欺師は刑務所に送ろうと考えていた。これを全てやりとげるためには、宣伝が肝心だった。
作戦上の秘密はいっそう大事だった。もし全国一斉の取締りが近いなんてことが一言でももれたら、ハッカーたちはすぐに姿を消してしまうだろう。証拠を隠滅し、コンピュータを隠して、姿をくらましてしまうだろう。そしてキャンペーンがすっかり終るのを待つのだ。若いハッカーたちでさえ悪賢いし、疑り深い。プロの詐欺師たちときたら、なにかトラブルがありそうだというだけで、一番近くの州境を越えて逃げていこうとするだろう。取締りを上手くやるためには、現行犯で捕まえ、突然だしぬけに隅から隅まで一掃しなければならない。
秘密にしておくのには、もう一つ大きな動機があった。最悪のシナリオでは、キャンペーンの秘密がもれて、電話会社が破壊的なハッカーに反撃をうける恐れがあった。もし本当にアメリカ中に、1月15日の事件を引き起こしたようなハッカーたちがうようよしていたら、もし本当に才能のあるハッカーたちがいて、全国の長距離回線の交換システムに自由に出入りしていて、取り締まりに怒ったり、おびえたりして、つかまえようとしたとき予期しない反撃をしたとしたら。たとえ逮捕したところで、才能のある復讐心に燃えた友人がそこらにまだうようよしているかもしれない。おそらく、ひどいことになるだろう。とてもひどいことに。実際、その可能性を考えると、どれほどひどいことになるか想像もできないほどだ。
ハッカーたちからの反撃は、電話会社にとって関心の的だった。実際のところは、そんな反撃を受けることはありそうになかったのだが。しかしそれからの数ヶ月、電話会社はこの考えを宣伝し、厳しい警告を発するように骨折らなければならなかった。
それでもそのリスクは冒す価値があるように思われた。影の見えない破壊者たちのなすがままで暮らすよりは、復讐心に燃えた攻撃をうけるリスクを冒すほうがましだ。どんな警官でも防御しているだけじゃ将来はないと言うことだろう。
宣伝は有効な手段だった。企業のセキュリティ担当者は、電話会社のセキュリティ担当も含むが、きわめて制約をうけて仕事をしているものだ。企業のセキュリティ担当者は会社のために金をうみだすわけではない。彼らの仕事は損失を防ぐことであり、じっさいに利益をあげるのに比べるといささか魅力には欠ける。
もしあなたがセキュリティ担当者で、仕事でベストをつくしたら、会社には全く何も起きることはない。そのために、あなたは明らかに全く余計ということになる。これはセキュリティの仕事の多くの魅力に欠ける側面の一つだ。セキュリティの担当者が自分の努力に正当な評価を受ける機会は、きわめてまれといえるだろう。
宣伝には、法の施行者の中の味方の利益にもなった。役人は、法を施行する役人も含めて、好意的な大衆の関心を集めることで出世する。世間の関心を集める事件で手際よく訴追できれば、検察官として出世ができる。そして警察の役人にとっても、有効な宣伝は、立法府の予算をつけ、表彰や昇進、少なくとも状況がよくなり、仲間たちから尊敬されることだろう。
しかし宣伝と秘密を両立させることは、ケーキをもちながら同時にそれを食べてしまうようなものだ。これから見ていくが、それから数ヵ月後に、この不可能な行為が取り締まりの担当者をひどく悩ませることになる。しかし初期においては、取締りが宣伝と秘密をこのうえなく上手く結びつけることは可能、たぶんできるだろうくらいに思われていた。ハッカーたちを捕まえれば、宣伝効果は抜群だろう。実際にハッカーたちがやったことは、技術的には説明するのが難しく、セキュリティ上もリスクがともなうので、大部分はあいまいなままにしておく。ハッカーのもたらす脅威は、大々的に喧伝される。そしてハッカーたちが実際にこれほどの恐るべき犯罪をおかしたのかどうかは、大衆の想像にゆだねられるわけだ。コンピュータのアンダーグラウンドの拡大とその技術の洗練化も、大々的に報じられるだろう。実際のハッカーたち自身については、たいてい眼鏡をかけていて、中流階級の郊外の家庭に住む白人のティーンエイジャーたちだが、なにも個人的なことは報道しない。
電話会社の人間は、だれも訴えられたハッカーたちが法廷で審理を要求するなどということは、思いつきさえしなかったようだ。また、ジャーナリストたちがハッカーたちに「いいネタだ」なんて微笑むことや、金をもったハイテクの起業家たちが取り締まりの犠牲者に精神的、財政的な援助を申し出ることや、憲法の弁護士たちがブリーフケースをもって登場し、ひどく眉をしかめるなどということも思いつかなかったようだ。つまり、こんなことが起きるとは、作戦には全く入っていなかったようだ。
そして入っていたとしても、流暢な名称「拡張された911サービスの特別なサービスと主課金センターの管理局の運営」で知られる電話会社の盗まれた書類の厳しい追及が緩むことは、おそらくなかっただろう。
これ以降の章では、警察とコンピュータのアンダーグラウンド、そしてそれらが重なり合う広大な影の領域の世界をみていく。手始めに、戦場も見ておかなければならない。電話会社の世界を離れる前に、交換機とは実際にはどういうものか、電話がどういう風に動いているのか理解しておこう。