『ハッカーを追え』の翻訳。特に誤訳、誤字などの指摘があったら、メールでもいただければ。
太字は英文のポップアップつき。
Literary Freeware: Not for Commercial Use
THE HACKER
CRACKDOWN Law and Disorder on the Electronic Frontier by Bruce
Sterling
The Rake's Progress
自由な文書(ただし商用利用を除く)
不良少年の進化
掲示板によりハッカーたちが作り上げられる過程は、こういったぐあいだ。若者はコンピュータ、通常はコンピュータゲームに興味をおぼえ、友達からゲームがただで手に入る「掲示板」が存在することをききつける(多くのコンピュータゲームは著作権の発生しない「フリーウェア」で、好きが高じて作られたもので誰でもプレイできるようになっている。これらのゲームのいくつかは、本当にできがいい)。両親にモデムをねだり、あるいはもっとありそうなことは両親のモデムをつかうことだ。
掲示板の世界が、目の前に急に開ける。コンピュータゲームはきわめて高価で、子供のこづかい泣かせだが、海賊版のゲームはコピープロテクトがはずされていて、きわめて安価かただである。もちろん違法だが、小規模のソフトウェア海賊が取り締まられるということはきわめてまれか、ほとんど聞いたことがない。一度プロテクトを「解除」されたら、プログラムはデジタルデータゆえに無限に再生産することが可能になる。ゲームの説明書さえ、それはゲームに付いているマニュアルだが、テキストファイルとして再生産可能だし、正規版からコピーをとることも可能だ。掲示板のほかの利用者は、ゲームを遊ぶ上でのたくさんの役にたつヒントをくれる。ただのコンピュータゲームがいくらでも手に入る若者は、確実にモデムをもってない友達のあいだでは頭ひとつ抜け出した存在だ。
掲示板ではペンネームがつかえる。だれにも14才だとはわからない。少しごまかす練習をすれば、大人と大人の会話ができるし、相手に受け入れられまじめに扱われるだろう! 少女、老人あるいは想像できるかぎりの誰のまねだってできる。もしこの種のごまかしが気に入れば、そういった技能をみがく機会は掲示板ではいくらでもある。
しかし地域の掲示板にはだんだん飽きてくる。そしてほとんど全ての掲示板には、他の掲示板の電話番号の一覧があり、そのいくつかは遠くの魅力的なそそる地域にある。オレゴン、アラスカ、フロリダやカリフォルニアのやつらが何を考えているかなんて誰がわかるというのだろう? それを知るのは簡単だ。モデムにソフトを通して命令するだけ、というようなものでもない。ほとんどのコンピュータゲームをやるのと同じことをするだけ、つまりただキーボードをたたくだけだ。機械がすぐに反応して、数秒後には別海岸のわんさかといる楽しいやつらと会話をかわしているというわけだ。
しかしこのささやかな行動に対する請求ときたら、たじろがせるには十分だ! 指でぱたぱたと叩いただけで、長距離通話で400ドルも両親に負担させることになるのだ。そしてひどく怒られることになる。これは決してフェアとはいえない。
他の州で友達をつくったのに、仲間やそしてソフトウェアを奪われるなんて、それもただ電話会社がとほうもない請求をしたからというだけで、なんと恐ろしいことなんだろう! 自分の「市内局番」だけの掲示板に制約をうけるなんてつらすぎる、だいたい「市内局番」がなんだっていうんだ、どうして特別なんだ? こういった類の少しの不平不満や率直な疑問が、他の掲示板ユーザーの同情をこめた返事をさそうのはよくあることだ。そいつらは、盗んだ課金コードをわたしてくれる。よくないことだとはわかっているから、、しばらくは悩むだろう。それからともかくも試してみようとする。「そして上手くいく!」 とつぜん両親にさえできないことができるようになる。6ヶ月前までは単なるガキだったが、今やエリアコード512の紅の閃光だ。いっぱしのワルで、それも全国区だ!
いくつか課金コードをつかっただけで、やめるかもしれない。掲示板なんてたいして面白いものでもないし、だいいち間違ったことで、リスクにも値しないと、ただあるいはそうしないかもしれない。次の段階は、自分で自動ダイヤルプログラムをもってきて、不正課金コードを作り出すことを覚えることだ(この方法は5年前まではめちゃくちゃ簡単だった。最近は犯罪にならないように上手くやるのはかなり難しくなったが、それでも不可能というわけではない)。こういったダイヤルプログラムは複雑なものでも、おどろくほどものでもない。20行やそこらのソフトウェアにすぎない。
さて、君も課金コードを分配することができるようになった。他のテクニックを覚えるために課金コードをやりとりすることができる。もしいろいろなことが理解できるほど頭がよくて、迷惑になるほどまとわりつけて、ルールを全くこじつけてしまうほど断固とした態度がとれれば、もっとすばやく腕をあげることができる。仲間内での評判もあがりはじめる。もっと過激な掲示板にうつることになる。君のクラスメイトや以前の君のようなナイーブな輩だったら耳にもしたことがなかったような、悪い掲示板に! 掲示板でフリーキングやハッキングの専門用語を聞きかじり、社会を混乱に陥れるようなファイルをいくつか読む。そう、君はベットルームにいながらにして、本物の「アウトロー」になっているのに気づきさえしないのだ。
君はまだコンピュータゲームをやってるともいえる、ただ新しくより大きなゲームだ。それは、どうでもいいスペースインベーダーを8兆億匹も殺すのとはぜんぜん違った状況をもたらすことになるだろう。
ハッキングはハッカーたちにとっては「ゲーム」にすぎない。そしてこれは全く間違った、社会病質的な認識であるともいえない。ハッキングしていると勝ったり、負けたり、成功したり、失敗したりがある、ただし「リアル」であると感じることはない。これは、想像力豊かな若者がときどき「リアルな生活」と「作りごと」を区別できないというのとは、明らかに違うことだ。サイバースペースは「リアルでない」ものだ! 「リアル」なものは木や靴や車のような形のあるものだ。ハッキングはスクリーン上でおこなわれる。言葉に形はない、番号(電話番号やクレジットカード番号にも)にも形はない。棒や石で骨を折ることはできるが、データで体を傷つけることはできない。コンピュータゲームが戦車戦や空中戦や宇宙船をシミュレートするように、コンピュータは現実をシミュレートする。シミュレーションはつくりごとにすぎない、コンピュータの中での物事は「リアルではない」!
こう考えてみればどうだろう。もし「ハッキング」が深刻な、現実の世界での危険なものだとしてみよう。そうするとどうして「9歳の子供」がコンピュータやモデムをもっているんだ? 9歳の子供に車やライフル、あるいはチェーンソーを与えたりはしないだろう。こういったものこそが「リアル」なものだ。
アンダーグラウンドの人々は、こういった「ゲーム」が当局からにらまれていることをよく分かっている。アンダーグラウンドでは手入れに関しての噂はかけまわる。手入れを知らせることは海賊掲示板の主要な機能の一つであるが、かれらは手入れについての態度や正義についての独特の考え方も広めている。アンダーグラウンド掲示板のユーザーたちは、もしシステムを破壊したり、ウイルスをばら撒いたり、電子詐欺で金を盗んでだれかが逮捕されたからといって、文句をつけることはないだろう。こっそりにやにやしながら頭をふるかもしれないが、表立ってその行為を弁護することはないだろう。しかしある子供が理論上多額の窃盗、たとえば$233,846.14で逮捕されたとき、コンピュータに侵入し、何かをコピーして、フロッピーディスクで家に置いておいたら、取締官にとってはほとんど狂気の沙汰のしるしであり、ハッカーたちにとっては実体のないコンピュータをつかったゲームを、金に物をいわせる企業の金が動かしている現実のたいくつな日々の世界とまったく混同しているというしるしとみなされる。
大企業とおべっかつかいの弁護士たちは、コンピュータを使うのは自分たちで、それに定価をつけて売りつける、つまり洗濯用洗剤箱のようなものだと考えている! しかし「情報」に価格をつけるのは、空気や夢に価格をつけようとするものだ。そう、海賊掲示板のだれもが、コンピュータを使うのは「ただ」だし、そうあるべきだと知っている。海賊掲示板はサイバースペースの小さな独立した世界で、アンダーグラウンド以外のどこにも属していない。アンダーグラウンドの掲示板は、「P&G(Procter & Gamble)によってもたらされる」ものではない。
アンダーグラウンドの掲示板へのログオンは、経験から解放され、今度はお金が全てではなく、大人が全ての答えを知っているわけではない新しい世界にはいっていくことを意味する。
他のハッカーの生き生きとした告白のサンプルをみてみよう。これは、Phrack1巻7号ファイル3で「メンター」による「ハッカーの良心」からの抜粋である。
「僕は今日発見した。コンピュータを。待ってくれ、こいつはクールだ。これこそほしかったものだ。コンピュータが間違ったとしたら、それは僕がへまをしたからだ。コンピュータが僕を好きじゃないからじゃない」
「それからことが起こって...世界へのドアが開いたのだ...中毒患者の静脈をヘロインがかけめぐるように電話回線をかけめぐり、電子パルスが発信された。毎日のつまらない世界からの隠れ場所をさがし、掲示板をみつけた。ここだ、こここそ僕がいるべき場所だ」
「僕はここにいる人たちを全員知っている...会ったことや話したことや、たとえ再び連絡をもらうことがなくなったとしても。僕はみんなのことを知っている...」
「今やここが僕らの世界だ。電子とスイッチの世界であり、変調速度はきれいだ。暴利をむさぼる大食漢が経営しているのでなければただみたいに安いものに、僕らは金を払わず、すでにあるサービスを利用しただけだ。君らは僕らのことを犯罪者とよぶだろう。僕らは探索してるだけだ...僕らは犯罪者よわばりされる。僕らは知識を追い求めている...僕らは犯罪者とよばれる。僕らは、肌の色も国籍も宗教的な偏見もなく存在している...僕らは犯罪者とよばれる。君らは原子爆弾をつくり、戦争を行い、人を殺し、僕らをだましてウソをつき、おまけにそれが僕らにとっていいことなんだと信じ込ませようとしている。そのあげくに、僕らが犯罪者というわけだ」
「そう、僕は犯罪者だ。僕の罪は、好奇心による罪だ。僕の罪は人がどう見えるかではなく、何を言って何を考えたかによって判断した罪だ。僕の罪は君らを負かした罪だ。だからこそ君らは僕を決して許さないだろう」