『ハッカーを追え』の翻訳。特に誤訳、誤字などの指摘があったら、メールでもいただければ。

太字は英文のポップアップつき。


Literary Freeware: Not for Commercial Use
THE HACKER CRACKDOWN  Law and Disorder on the Electronic Frontier by Bruce Sterling

The U.S. Secret Service

The U.S. Secret Service

初心者にとってハッカーの一斉取締りでわかりにくいことの一つは、一体なぜアメリカのシークレットサービスがこれに関わっているのかということだ。

シークレットサービスは、その主要な任務でよく知れ渡っている。それはアメリカの大統領を警護するという任務である。そして大統領の家族、副大統領とその家族、かつての大統領たち、大統領の候補者たちも警護している。ときにはアメリカを訪問している政府高官、とくにその国の元首を警護するし、海外でのアメリカ高官の外交上の任務にも同行することも知られている。

シークレットサービスの特別捜査員は制服を着用していないが、シークレットサービスには2つの制服組がいる。一つは元ホワイトハウス警護官(現在ではシークレットサービスの制服組として知られている。というのも今ではホワイトハウスだけではなく、ワシントンの各国の大使館も警護しているからだ)、もう一つは財務省警護官である。

シークレットサービスは、ほとんど一般に知られていない多くの任務を議会に命じられてきた。財務省の金庫の貴金属、憲法や独立宣言リンカーンの第二次大統領就任演説の原本、マグナカルタのアメリカの持っている写本等といったアメリカの歴史的に価値がある文書を警護しているし、1960年にアメリカにモナリザがやってきたときには、その警護も受け持っている。

シークレットサービス全体としては、財務省の一部門である。シークレットサービスの特別捜査官(1900人ほどだが)は大統領などの警備を行うが、また財務省のためにも働いているのだ。そして財務省は(アメリカの造幣部門、紙幣の製版、印刷を行う部門で)、国の紙幣を印刷している。

財務省を守るものとして、シークレットサービスは国家の貨幣も守らなければならない。唯一の連邦の法執行部門として、紙幣の偽造や改竄には直接取り締まりを行う。文書の真贋を分析するし、偽造紙幣との戦いは、(とくにコロンビアのメデリンが一枚噛んでいるきわめて精巧な偽造があって以来)きわめて激烈である。政府の小切手、債券、その他の証書、何百万枚とあり何十億もの価値をもつもの、は偽造の対象になりがちであり、シークレットサービスはそれとも戦っている。シークレットサービスでは、切手の偽造さえも扱っている。

しかしお金が電子的になってきた今日では、紙幣の重要性は薄れつつある。当然の帰結として、シークレットサービスの扱うところも、紙の紙幣や小切手の偽造との戦いから、回線を経由する資金の保護へと移行してきた。

回線の詐欺から、公式には「アクセス装置の詐欺」と扱われているものまでは、ほんのひとっとびである。議会はシークレットサービスに、合衆国法典18編(セクション1029)で「アクセス装置詐欺」の捜査を行う権限を認めている。

「アクセス装置」という用語は、直感的に明らかなように思える。お金を引き出すための一種のハイテクなしかけであり、この種のものを偽造と回線詐欺の専門家が取り締るのは当然といっていい。

ただセクション1029の「アクセス装置」には、きわめて多くの意味がある。アクセス装置とは、「あらゆる種類のカード、プレート、コード、口座番号、その他口座にアクセスするのに使う手段であり、単独でも他のアクセス装置と組み合わせても、お金、財、サービスやその他の価値あるものを手に入れるため、あるいは資金を移動させようとするために使われるものである」とされている。

したがって「アクセス装置」には、クレジットカードそのものも含まれる(今日ではよくある偽造の対象だ)。またクレジットカード番号も含まれるし、それはデジタルアンダーグラウンドではよく見かけるものといっていい。テレホンカードにも同じことが言えるし(公衆電話泥棒の小銭を盗まれることにうんざりした電話会社が広めている)、電話の課金コードについても同様で、それはデジタルアンダーグラウンドでよく見かけるもう一つのものだ(盗まれた電話の課金コードは、「お金を得ること」とは違うかもしれないが、価値あるサービスを手に入れることにはなるし、それはセクション1029によって禁じられている)。

これですでにセクション1029をつかって、コンピュータという言葉には一言もふれることなく、シークレットサービスがデジタルアンダーグラウンドと直接戦えるようになっていることが分かるだろう。

ブルーボックスのようなよくあるフリーキングの装置では、旧型の機械式の交換機から電話サービスを盗むためのものであり、間違いなく詐欺アクセス装置である。セクション1029によれば、詐欺アクセス装置を「使う」のが違法なだけではなく、それを「製造」することも違法になる。ブルーボックスを製造、設計、複製、組み立てすることのいずれもが今日では連邦犯罪であり、もしじっさいにそれを犯すと、議会の命をうけたシークレットサービスがあなたを逮捕しにくることになる。

1980年代にアメリカ中に配置されたATMは、確かに「アクセス装置」といえるだろう。そして暗証番号やキャッシュカードを不正に使用するとセクション1029に直接ひっかかる。

セクション1029はとても融通のきくものである。誰かのゴミ箱に捨てられているコンピュータのパスワードを見つけたとしよう。そのパスワードは「コード」であるかもしれないし、アカウントにアクセスする手段であることは間違いない。コンピュータにログオンして、自分で使うためにソフトを何本かコピーしたとしよう。間違いなく「サービス」(コンピュータサービス)、「価値のあるもの」(ソフトウェア)を手に入れたことになる。かっぱらったパスワードを十何人の友達に教えて、使えば? と勧めたとしよう。あなたは「認可をうけてないアクセス装置を密売した」ことになる。だから Legion of Doom の Prophet が盗んだ電話会社の文書を雑誌 Phrack の Knight Lightning に渡したとき、2人ともセクション1029に抵触したことになるのだ。

セクション1029には2つの制約がある。一つは、犯罪が「州をまたぐあるいは海外との取引に影響」がなければ、連邦警察の出る幕とはならないということである。「取引に影響がある」という言葉は厳密には定義されていないが、もし州の境界を越えてなにかをしでかしたらシークレットサービスが興味を示すと思って間違いない。州や地域の警察はシークレットサービスが口をだすことには神経質だし、連邦捜査官が姿をみせると強情になることもある。しかしコンピュータ犯罪がらみとなると、地域の警察は連邦の助けを涙ぐましいほどありがたがる。じっさい、自分たちだけでは手がたりないと文句をいっているくらいだ。もし長距離通話サービスを盗めば、すでに州の境界をこえていることは確実なので、電話会社の「州を超える取引に影響を与えている」ことになる。もしたとえばバーモントあたりから、高級カタログの品物を注文するのにクレジットカード詐欺を行えば、困った羽目に陥るだろう。

二つ目の制約はお金である。通常、連邦捜査官はけちな犯罪を追及しない。連邦判事は、自分たちの時間を浪費するような事件を棄却してしまう。連邦犯罪は、深刻なものでなければならない。セクション1029では最低限の損害を1000ドルとしている。

18編の、その次のセクションであるセクション1030をみてみよう。「コンピュータに関する詐欺および関連行為」についてのものだ。この法令は、シークレットサービスにコンピュータ侵入の行為に対して直接管轄する権利を与えている。ただ表面上は、シークレットサービスが思いのままにやれるように見えるかもしれないが、じっさいにはセクション1030はセクション1029のような融通がきくものでは全くない。

最初に困惑させられるのは、セクション1030(d)であり、こう書かれている。

「(d) シークレットサービスは、同様の権限をもつ他の政府機関とは別に、本セクションにしたがって犯罪を捜査する権利をもつ。シークレットサービスのそのような権利は、財務長官と司法長官が行う合意に基づいて執行される(太字は筆者による)」

財務長官はシークレットサービスを統括し、一方司法長官はFBIを統括している。(d)のセクションでは、議会はシークレットサービスとFBIとのコンピュータ犯罪をめぐる縄張り争いの責任からは身をかわし、争うがままにしている。その結果は、いささかシークレットサービスに不利なものになっている。というのも、FBIは国家機密、海外のスパイ行為、連邦預金保険銀行、軍隊の基地に関係があるコンピュータ侵入には独占的な捜査権をもつことになっているからだ。その一方で、その他の全てのコンピュータ侵入に対する共同捜査権も留保している。セクション1030によれば、基本的にFBIは本当に興味がある事件を取り扱えるだけでなく、好きなときにいつでもシークレットサービスの肩越しに覗きこんでちょっかいをだすことができる。

二つ目の問題は、「連邦が関係するコンピュータ」という言葉のあいまいさに関連するものだ。セクション1030(a)(2)は、もしコンピュータが金融機関やクレジットカードの発行者(詐欺事件では別の用語になるが)に属していたら、「コンピュータに許可なくアクセス」することを違法としている。議会はすすんでシークレットサービスに資金を送金するコンピュータへの捜査権を与えようとしている。しかし議会は、ありとあらゆるコンピュータ侵入の捜査を行わせることには消極的だった。そして USSS は、現金自動支払機と「連邦が関係するコンピュータ」ということで妥協せざるえなかった。連邦が関係するコンピュータとは政府が所有する、あるいは使っているコンピュータのことである。大規模な州にまたがるネットワークのコンピュータで、州境をこえて結びついているので、「連邦に関係する」と考えられているのだろう(「連邦に関係する」という考え方は、法律的にはきわめて曖昧なもので、法廷でも明確に定義されたことはない)。シークレットサービスは、「連邦に関係しない」コンピュータ侵入を捜査したからといって罰を受けたことはないが、たぶんそうなる日もくることだろう)

シークレットサービスのコンピュータへの「許可のないアクセス」の捜査権は、多くの範囲におよぶが、サイバー空間のすみからすみまでというわけではない。もしあなたが例えば、地域のコンピュータショップをやっていたり、地域の掲示板をやっているとしよう。悪意のある侵入者が押し入って、あなたのシステムを破壊し、ファイルをめちゃくちゃにして、ウイルスをばらまいたとする。アメリカのシークレットサービスには、何もできない。

シークレットサービスは、少なくとも直接には何もできないが、地域の人たちが対応できるように多くのことをしてくれるだろう。

FBIがセクション1030に関しては、とびきりのインチキをしているのかもしれない。ただしそれが話の全部でもなければ、本筋でもない。議会の考えていることは物事の一面であり、議会は心変わりをすることでもよく知られている。本当の縄張り争いは、現場の街頭で起こっている。コンピュータの問題をかかえた地域の警官に、シークレットサービスならどこで本当の専門知識が手に入れられるかを教えてくれるだろう。一方で、FBIの連中は自分たちのお気に入りの(ウィングチップの)くつを磨いて、シークレットサービスのお気に入りのくつ(女みたいなかざりがついてると)をばかにしている。だが、そのかざりのついたくつをはくシークレットサービスが即時に対応できるハッカー追跡隊をアメリカの各州の州都に配置している。アドバイスがほしければ、アドバイスをくれるし、少なくともどうすればいいかを教えてくれる。訓練が必要なら、同じようにしてくれるだろう。

地域の警官が FBI に助けをもとめたら、FBI は(口汚い噂が広くひろまっているが)その警官を奴隷扱いして命令し、その警官の逮捕の手柄を独り占めし、名声にむすびつくようなものは何でもかき集めることだろう。シークレットサービスはその反対に、自慢したりはしない。沈黙を尊び、とても寡黙である。クールで、効率を重んじ、ハイテクで装備している。銀色のサングラスをして、冷たい目つきで、耳にはイヤホンをし、ウージー機関銃を仕立てのいいジャケットのどこかにぶらさげている。アメリカ版サムライであり、自分たちの命を大統領を守るためにささげている。頑固な捜査官たちで、マーシャルアーツの訓練をうけており、恐れ知らずで、一人一人がトップシークレットの秘密を扱う資格を所有している。何かが少しくらい上手くいかないからといって、シークレットサービスの泣き言や愚痴や責任転換を聞くことはないだろう。

頑固な捜査官の見せかけは、もちろん現実のものではない。シークレットサービスの捜査官も人間であり、その仕事の本当の栄光は、コンピュータ犯罪との格闘ではなく、すくなくとも今のところはともかく大統領を警護することにある。つまりシークレットサービスの仕事の栄冠は、ホワイトハウスでの任務にあるというわけだ。もし大統領のそばにつけば、子供や妻はテレビでその姿をみることになる。世界でもっとも権力をもつ人々と肩をならべることになるのだ。それこそがシークレットサービスの仕事の真髄であり、最優先事項だ。シークレットサービスの捜査員が大統領の警護から姿を消したときは、いくつかのコンピュータ捜査がてこずっているということだ。

シークレットサービスの仕事にはロマンがある。偉大な権力をもつ階級に密接にかかわることができる。高いレベルの訓練をうけ、規律があるエリートが団結心をもっている。元首を守るという高度な責任を請け負っている。愛国的な義務をはたすことができる。そして警察の仕事としては、給料もそれほど悪くはない。しかしシークレットサービスの仕事には汚いところもある。抗議をするものたちから、ひどい暴言をはきかけられるかもしれないし、暴力をふるったり、近づきすぎたりするものがいたら、慎重にそのうちの一人を取り押さえなければならないこともある。

シークレットサービスの一番やっかいな仕事は、年に4回やるような退屈な仕事だ。毎年毎年、年に4回さまざまな愛国者、多くは刑務所や保護施設にいるが、大統領の生命を脅かそうとしたことがあるものたちにインタビューをする。それから永遠につづくような群集の中からそういった面々をさがしだしたり、憎しみにもえた人物や精神異常者をさがしだし、Arthur Bremer、キーキー声の Fromme 、Lee Harvey Oswald のようなはりつめた神経質な顔をさがさなければならない、胃がきりきりとするようなストレスもある。突然の動きでつかみかかったり、振り回される手をずっと監視し、そうしているあいだも耳のイヤホンに神経をかたむけ、「銃だ!」という何回もリハーサルしている叫び声を聞き取ろうとする。

かなり詳細な点まで、大統領を狙撃したがみじめに失敗した人物の素性を調べるという仕事もある。警備調査部門の仕事も報われないものだ。偽造文書の技術を生かした綿密なツールで、匿名の手書きの殺しの脅迫を調べるということをしている。

そして大統領の生命を脅迫したことのある人物に関する、巨大な電子化したファイルのメンテナンスもおこなっている。市民活動家は、アメリカ市民を追跡するコンピュータファイルの政府利用に関心をいだきつつあるが、シークレットサービスの大統領暗殺を行うかもしれない、2万人にも及ぼうかというファイルには抗議の声があがることはない。もし大統領を殺してやると言ったことがあるなら、シークレットサービスはその人物が誰であるか、どこにいるか、何をしているか、その意図は何かを知って記録しようとするだろう。もし真剣な脅しで、公的に「警備上の関心」があると考えられたら、シークレットサービスはその人物が死ぬまで監視を続けることになる。

大統領を守るのは、シークレットサービスの第一の使命である。しかし大統領執務室の外で立って警備をする以外にも、シークレットサービスの伝統と歴史には多くのことがある。

シークレットサービスは、国家の最も古くからの連邦の取り締まり機関だ。シークレットサービスと比べれば、FBIは新入社員みたいなものだし、CIA にいたってはアルバイトといってもいい。シークレットサービスははるか昔の1865年に、Abraham Lincoln の財務長官である Hugh McCulloch の提案によって創設された。McCulloch は、紙幣偽造と戦う財務省の特殊な警察を必要としていた。Abraham Lincoln もそれはいい考えだと賛成したが、皮肉なことに、その晩に John Wilkes Booth によって狙撃されることになった。

シークレットサービスはもともともは大統領の警備とは関係なかった。1881年の Garfield 大統領の暗殺までは、シークレットサービスは大統領警護を通常の任務とはしていなかった。そして1901年に McKinley大統領が狙撃されるまでは、議会の予算を警護では割り当てられていなかった。シークレットサービスはもともと一つの目的しかもっていなかった。それは紙幣偽造の撲滅だ。

INDEXに戻る