週間翻訳日記:週間で、ある単位を目安に翻訳していきます。
特に誤訳、誤字などの指摘があったらメールください
翻訳を取りまとめときましょうか。もちろんプロジェクト杉田玄白でも手に入ります。
絵のない絵本 クリスチャン・アンデルセン
第一夜
「昨晩」、わたしはお月さまが口にしたままを書いています。「昨晩、私はインドの雲ひとつない空にいて、私の顔がガンジス河の水面に映し出されていました。私の光は、下の方でまるでカメの甲羅みたいにこんもりしているバナナの太い絡み合う枝のあいだまで照らし出しました。そのこんもりとしているところから、カモシカのように身軽で、イブのように美しい一人のインド人のメイドが飛び出してきました。このヒンドゥーの娘は立っていて、見た目は軽やかでとても美しく、それでいてまわりの闇からははっきりと目立ちました。彼女の繊細な表情から、どうしてここにきたかを読み取ることが出来ます。下を這うとげだらけの植物が彼女のサンダルを破りましたが、そんなことには全然かまわず彼女は先へといそいでいました。かわきをいやすために河へとやってきたシカは、彼女が手にもえさかる炎をもっていたので、びっくりして飛びのきました。彼女はゆらぐ炎が消えないように手でおおっていましたから、その細い指先には血管がすけてみえました。河のそばまで降りてくると、炎が水面に映りました。映った炎は河の流れにそって流れていきます。炎は前後に大きくゆらいで、今にも消えてしまいそうでしたが、まだ燃えつづけてしました。少女の黒くかがやける瞳は、長いシルクのようなまつげで半分かくれていましたが、真剣なまなざしで河に映った炎を追っています。彼女は知っていたのです。もし見えている限り炎がもえつづけていれば、彼女のいいなづけはまだ生きているということを。ただもし炎がとつぜん消えてしまえば、彼は死んでしまったのだということを。炎はりっぱに燃えつづけ、彼女はひざまづき祈りました。すぐわきの草のなかには一匹の斑点のある蛇がいましたが、彼女はそんなことは気にしませんでした。彼女が考えていたのは、インドの神様といいなづけのことだけでした。「生きてる」 彼女はよろこびのあまり叫びました。「生きてるのよ」 山々からはこだまがかえってきます。「生きているのよ」
絵のない絵本 クリスチャン・アンデルセン
はじめに
大きく心をゆり動かされ感動したときに、手や舌がうまく動かなくなるのは不思議なことです。だからわたしはそんなとき心にうかんでくることをちゃんと言葉にだしたり、そのまま絵にしたりできません。そのくせわたしは画家で、わたしの目は自分にそう言って聞かせるし、わたしのスケッチや手すさびをみてくれた友達もみんなおなじことを言ってくれます。
わたしは貧しく、たいへん細い通りぞいに住んでいましたが、光がさしてこないといったことはありません。わたしの部屋は高い場所にあって、近所の屋根ごしにずっと遠くまで見晴らすことができます。この街にすみはじめた最初の数日は、元気もなくすごく寂しい思いをしました。前にすんでいたところからみえたような森や緑の丘のかわりに、見えるものといったら煙突がたちならぶ風景だけでしたから。それに友達も一人もいませんでしたし、あいさつを交わすような知り合いさえいなかったのです。
そしてある晩、わたしはおちこんだ気分で窓ぎわに腰かけ、やがて窓をあけ、外をながめました。あぁ、わたしの心はどれほど喜びのあまり踊ったことでしょう。とうとうなじみの顔を目にしたのです。丸い親しみのこもった表情、故郷でもよくしっていた親友の顔、そう、それはわたしの顔をのぞきこんでくれていたお月さまでした。まったく変わらないやさしい昔ながらのお月さまで、荒地のやなぎの木々のあいだからわたしを見下ろしてくれていたときに見せてくれたのとまったく同じ顔をしていました。わたしは何度も何度も、お月さまにむかって投げキッスをしました。お月さまはわたしの小さな部屋まで照らしだし、毎晩、夜にでてきたときには少しのあいだわたしの部屋を照らしだしてくれると約束しました。お月さまはちゃんと約束を守ってくれました。照らし出すのが短い時間なのは残念でしたけど。そして照らし出してくれたときはいつも、前の晩やその晩に目にしたことをあれこれ話してくれました。「私が話したことをそのまま絵にお描きなさい」 これがお月さまがわたしに言ってくれたことです。「そうすれば、とてもすてきな絵本ができるでしょう」 わたしはその指示にいく晩も従いました。そうした絵から、わたしなりの新しい「千一夜物語」を作りあげることもできるかもしれません。でもつまるところ数があまりに多すぎるんです。ここでわたしが手にした絵は、手当たり次第選んだものではありません。お月さまがわたしに対して話してくれた通りの順番です。才能ある偉大な絵描き、詩人、音楽家の何人かは、この材料からもし望めばもっといいものを作れるかもしれません。わたしがここに描いたものは、あわただしいスケッチといったもので、せかせかと紙にかきつけ、そこにはわたしの考えもいくらか混じっています。というのもお月さまは毎晩わたしのところに来てくれたわけではありませんし、時には雲がお月さまの顔を隠してしまうこともあったのです。
山根さん、ご指摘どうもありがとうございます。【指摘前/指摘後】といったフォーマットでいただいています。
あとがきから(crack5aj)
>1980年代後半のサイバースペースで恐ろしいものといえば、ティーンエイジャーハッカーの天才少年達【の前でその恐ろしさ/を前にした恐怖】にふるえながら、【その裏をかく/彼らの裏をかこうとした】権力の恐ろしさだったが
The specter of cyberspace in the late 1980s, of outwitted authorities trembling in fear before teenage hacker whiz-kids,
1980年代後半のサイバースペースで恐ろしいものといえば、ティーンエイジャーハッカーの天才少年達を前にした恐怖にふるえながら、彼らの裏をかく権力の恐ろしさだったが
に修正します。
>1993年【のお気に入りの悪者/に狙われている電子の悪人】は、
the favorite electronic villain of 1993
たしかに悪者にお気に入りっていうのもなんなので、
1993年に電子上で注目をあつめる悪者は、
に修正します。
>U.S. Customs Service/アメリカ税務局
U.S. Customs Serviceってふつうはアメリカ税関とか訳されているんですが、税関っていうのが日本でのイメージと上手くあわないかなとこのままにしています。
アメリカ税務局っていうと Internal Revenue Service、IRS なんて感じですが。
このままで。
>【Finger-hackers /finger-hackers】
ここらへんも訳さないと根本的な解決になりにくいですね。ひとまずこのままで。
>オーキッドストリートの finger-hacker たちは、【驚くほどの天才的な/本物の】技術知識の類【は欠けている普通とは異なる「ハッカーたち」だった/にあきれるほど欠けているという点で通常の「ハッカー」ではない】。
The finger-hackers of Orchard Street were very unusual "hackers," with an astonishing lack of any kind of genuine technological knowledge.
オーキッドストリートの finger-hacker たちは、本物の技術知識の類にはあきれるほど欠けているという点でとうてい通常の「ハッカー」とはいえなかった。
と修正します。
>EFF は反乱側から【体制側/公共的な団体】へとあっという間に姿をかえた。
EFF had transmuted at light-speed from an insurrection to an institution
たしかにEFFを体制側の団体っていうのも単独では無理がある表現なんですが、ここでの from an insurrection to an institution というペアに対応できる訳は「反乱から体制」かなと。
このままで。
もうひとつ続きのコメントをいただいてます。
>insurrection/institution は反対語のペアではなく,発音の韻を踏んでいる
んだと思います.この感じを日本語にするとなると,「反乱から団欒へ」,
「反乱から揺籃へ」,「反乱戦隊から安定団体へ」とかの似た響きの単語を並
べる方が近いかと.でもわかりにくいですね.私の提案した代案はあくまで前
後の文章とのつながりしか考えていないので,総合的な見地からの判断は
<katokt>さんにおまかせいたします.
次善の策としては,原文の単語をつけて手堅い翻訳をだすとか,日本語の駄
洒落をつくってから手堅い訳に言い直すという手も考えられます.
< >の部分は名前を置き換えてます。内容については、少し考えてみます。
12/26 しばらく考えて、意味とリズム(発音)って一体だと思っているので、
意味の対を発音の対で表現したり、発音の対を意味の対で表現することにも
ケースバイケースですがそれほど違和感はないんですよね。(そもそも翻訳ってそういうもの
だと思ってるし)。とごちゃごちゃ書いてきましたけど、
EFF
は雑然とした反乱軍から整然とした組織へとあっという間に姿をかえた。
とリズムを意味に置き換えて対比をさせて訳してみました。
(ここにはいろいろご意見がありそうだなー)
>Neidorf の裁判後、Dorothy Denning はさらに連邦【;要するにFBIなんだけど彼女は各国の捜査機関も想定しているので連邦政府機関とした方がいいか...】による盗聴の有効性と
federal wiretapping
連邦政府機関に修正します。
>学者としての確固たる独立心を示して見せた【/;[訳注: 詳しくはレヴィー著「暗号化」参照】。
至急読んでみます。そのあと注としてつけます。
>「【変わっている/風変わりな; 変心したようにも読めるので】」 Denning【/博士】
風変わりな Denning博士
に修正します。
>弁護するというコメディ【/のようなおち】にはがっかりした。
to the point of comedy
弁護するというコメディのようなおちにはがっかりした。
に修正します。
>彼女は自分の心にきめただけではなく、【公を守り/それを公の場で主張し】、自分の立場を一歩も譲ろうとはしなかった。
She not only made up her own mind, she made it up in public and then stuck to her guns
彼女は自分の心にきめただけではなく、公の場でも同じことを主張し、自分の立場を一歩も譲ろうとはしなかった。
に修正します。
>第4回目【;全角数字はあえて使っているのでしょうか?】の
第4回目
に修正します。
>、【EFF のオースティン/EFFオースティン支部】
EFFオースティン支部
に修正します。
>、【テキサスのインターネットのコンサルタント/テキサス・インターネット・コンサルタンツ】社だ
テキサス・インターネット・コンサルタンツ社だ。
に修正します。
>僕は、この本を【自由/無料(非商用利用に限る);製品化の自由がない.】にしておくことにも価値があると思っている。
I think it is a worthwhile act to let this work go free.
事実は指摘とおりなんですが、go free っていう表現とスターリングの気持ちとしては自由って意味だと思うので、併記させてください。
僕は、この本を自由(非商用利用に限り無料)にしておくことにも価値があると思っている。
に修正します。
一人の学者の研究(crack4hj)
>【/この】論争の初期からの影響力のある参加者として【他には/もう一人】、Dorothy Denning がいる
この論争の初期からの影響力のある参加者としてもう一人、Dorothy Denning がいる。
に修正します。
>、「Cryptography and Data Security【」/(邦訳は「暗号とデータセキュリティ」)】
邦訳のアマゾンのリンクも含めてつけておきます。
「Cryptography and Data Security」(邦訳は「暗号とデータセキュリティ」)
に修正します。
>【高セキュリティ/強力なセキュリティを備えた】情報の流れに【おける/ついて】深い知識
強力なセキュリティを備えた情報の流れについて深い知識
に修正します。
>Dorothy Denning はアメリカの【数学における/理数系】知識階級のかがやかしい【例/見本】であり、
Dorothy Denning was a shining example of the American mathematical intelligentsia
Dorothy Denning はアメリカの理数系知識階級のかがやかしい見本であり、
に修正します。
>弁護側の専門家として証言するための準備をしていた【/[訳注: 裁判の報告は,http://www.cs.georgetown.edu/~denning/infosec/Neidorf.txt,邦訳は大谷和子訳「クレイグ・ニードルフ事件」bit, No. 24, No. 1, pp. 12-24(前編), No. 2, pp. 6--58(後編)]】。
訳注としてつけさせていただきます。
>コンピュータサイエンス学部の【学長/学部長】をつとめている
コンピュータサイエンス学部の学部長をつとめている。
>【;原文の見出し「#」は残しておいたほうがいいのでは.】
日本語の文では「#」の見出しはあまりみないので、もう一行改行をいれておきます。
>【他の人たち/Kapor以外のスターたち】には公的な肩書き、あるいは政府の地位があり、犯罪、法律、もしくは【不可解な/理解できる人の少ない】コンピュータセキュリティ
Other people might have formal titles, or governmental positions, have more experience with crime, or with the law, or with the arcanities of computer security or constitutional theory.
日本語のスターって響きがいまいちなのであんまり多用したくないってのもあるんですが、
他の人たちには公的な肩書き、あるいは政府の地位があり、犯罪、法律、もしくは理解できる人の少ないコンピュータセキュリティ
に修正します。
>、【国家アカデミーサイエンス&エンジニアリングのコンピュータサイエンスおよび電気通信委員会/米国科学工学アカデミーの計算機科学および通信にかんする理事会】
指摘通り修正します。
>EFF は、「コンピュータ、自由、プライバシー」【/会議】や CPSR の【懇談会/円卓会議】といったような会合も支援した。
指摘通り修正します。
>アメリカ【にしてみれば、/では】非常に古い都市であり、
It is a very old city by American standards,
わざと強調している風もあるので、
アメリカにしてみれば、非常に古い都市であり、
のままで。
>128号線沿いのハイテクのベンチャー企業が【手工業の前産業時代の/工業化以前の手工業による】「【古い/いにしえの】装甲艦」 【Constitution号/合衆国船Constitution号】の優雅な姿と共存しているところだ。
where the high-tech start-up companies of Route 128 co-exist with the hand-wrought pre-industrial grace of "Old Ironsides," the USS *Constitution.*
128号線沿いのハイテクのベンチャー企業が工業化以前の手工業による「いにしえの装甲艦」米国艦船 Constitution号の優雅な姿と共存しているところだ。
と修正します。
>【アメリカの共和制/アメリカ独立戦争】
修正します。
>【/http://www.eff.org/Publications/Mitch_Kapor/cyberliberties_kapor.article,邦訳は石田晴久訳「魔女狩りにあうハッカーたち」『別冊日経サイエンス コンピュータネットワーク』105, 1992. pp. 110--115.】。
訳注としてつけさせていただきます。
>「ロータス」【/Lotus=「蓮」】の世界
「ロータス」(Lotus=「蓮」)の世界
と修正します。
>そこでは【超自然瞑想運動で/超越瞑想法運動(TM運動)が】、
以降もふくめ、指摘とおり修正します。
>EFF【;半角と全角の使い分けに意味があるんでしょうか】
EFF
半角に修正します。
>(【C.C.P. Section 2, Page 1/刑事訴訟法 第2章 1ページ目に基づく】)
修正します。
まず訳へのリンクを。
訳をはじめたのが2001年の8月30日なので、2002年12月21日でだいたい一年半弱、そのあいだいろんな翻訳も手伝ったりしたので、まずまずのペースだったんじゃないでしょうか。
かなり長い本で、けっこう昔に書かれていたりもするけれど、今でも読む価値は十分にあると思う。ローレンス・レッシグが「コード」「コモンズ」で指摘しているような規制のバランスの取り方が、ハッカーの一斉取締りを通じて、規制側、規制される側それぞれの観点で具体的に示されてるし、なによりネット以外のところにも十分目が行き届いている。
ちなみにこの文書はネットで配る上では自由な文書であり、パブリックドメインだったりはしないのでその点にはくれぐれもご注意を。
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武井さん、青空文庫のむしとりあみの関係者のみなさん指摘ありがとうございます。他の方も指摘あれば気軽にメールください。もちろんむしとりあみに指摘していただいてもかまいません。あらゆる形での指摘を歓迎します。
「ジキルとハイド」
芝居好きにもかからわず→かかわらず【らわ】
アメリカ大統領就任演説(ケネディ〜W・ブッシュまで)
眠りにまどむ子供のまなこ→まどろむ【ろ抜け】
「ケンジントン公園のピーターパン」
屋根に頭をぶつけてまいました。→頭をぶつけてしまいました。【し抜け】
以上です。
武井さん指摘ありがとうございます。他の方も指摘あれば気軽にメールください。
>
> もしお母さんに、幼かった頃にピーターびパンを
>
ピーターパン
修正します。
>
> とうとう公園までたとりつくこと
>
たどりつく
修正します。
>
> つぐみたけに呼びかけたのか
> だけ
修正します。
>
> ケイトと言う名前のちいさな鳥のご婦人 は
>
~の"婦人"と"は"の間にスペースが入っ
>
ています.
修正します。
>
> 何日も先延ばしにしまし
> た。
> "しまし"と"た"の間で改行されています.
修正します。
>
>
片腕がまるで何かをだくように動きました。ピーターには何を抱こうとしてい
> るのか分かっていました。
> 一段落内で「だく」「抱こう」と,"抱く"
の表記がかな・漢字の両者があり
> ます.どちらかに統一でしょうか.
抱くに統一します。
ありがとうございました。
指摘ありがとうございます。他にも指摘あればメールください。
ページはebkのページ。まずはhtmlから修正、横山さんご指摘ありがとうございます。ebkの修正も終わってます。その他は後で...
>372ページ
>怪我したのものの
怪我したものの
>383ページ
>そこに四つんばではいつくばり
四つんばい
>385ページ
>の舟を説明にするには、
の舟を説明するには、
>526ページ
>言い方をかりえば
おまえの言い方を借りれば
、
>559ページ
>「そんな話はやめとめ。
やめとけ。
暗黒の火曜日に影響をうけて、ざっと訳してます。ブッシュってどんな人かもう忘れちゃったんで、いまいちな自分でもふにおちない訳。まぁメールください。
大統領による全国民への演説 東部夏時間 8:30
こんばんは、国民のみなさん、われわれの生活、まさにわれわれの自由が、一連の計画的な恐ろしいテロリストの仕業による攻撃をうけました。犠牲者は、航空機に乗っていたり、オフィスにいた、官僚やビジネスに携わる人たち、国防省や連邦政府で働く人たち、そして母親や父親、友人や隣人です。邪悪で卑劣なテロの仕業で、とつぜん何千という命が絶たれたのです。
航空機がビルにつっこみ、炎上し、大規模な崩壊がおこった光景は、われわれを信じられないほどひどい哀しみと、静かなる断固とした怒りで満たしました。このような大規模な殺人行為は、われわれの国を脅して、混乱させ敗北させようとするものです。しかし、かれらは間違いを犯しました。われわれの国は強いのです。
偉大なる人々が偉大なる国を守ってきました。テロリストの攻撃は、われわれの巨大なビルの土台を揺るがすことはできるかもしれませんが、アメリカの土台には手をふれることさえできません。このような仕業は、鋼鉄を揺さぶりましたが、鉄のようなアメリカ人の心を参らせることはできません。
アメリカは、攻撃の標的となりました。その理由は、われわれが世界の自由と機会のもっとも明るいかがり火をかかげているからです。そのかがり火が光を放つのを、誰にも妨げさせません。
今日、われわれの国は、人間の性質のなかでもっとも悪い「悪」を目撃しました。それにわれわれは、アメリカのもっともよいもので対抗しましょう。救助にたずさわる人たちの勇気で、献血やできることをなんでもしたいと集まった見知らぬ人たちや近所の人たちのやさしさでもって対抗しましょう。
最初の攻撃に引き続いてすぐ、私は政府の緊急時の対応プランを実行に移しました。われわれの軍隊は強大で、準備は整っています。緊急時の対応チームは、地域の救助活動と助け合い、NYやワシントンDCで活動しています。
われわれの優先順位の一番目は、怪我をした人々を救助すること、そしてアメリカ国内や世界中のアメリカ国民をこれ以上の攻撃から守るために細心の注意を払うことです。
われわれの政府の機能は、中断することなく動きつづけます。今日は避難せざるを得なかったワシントンの連邦機関も、今夜本当に必要な職員には再開しますし、明日は通常通り再開されるでしょう。われわれの金融機関も強いままです。そしてアメリカの経済も、通常通り再開されることでしょう。
このような邪悪な仕業の背後にいるものの捜査は進行中です。私は諜報機関と法律を施行する組織の全ての力を指揮して、この責任をもつものを探し出し、司法の場に引き出します。われわれは、このような行動を実行したテロリストと彼らを匿うものとを区別しません。
私は、私とともにこのような攻撃を強く非難してくれた議員たちにも、とても感謝したいと思います。そしてアメリカ国民を代表して、哀悼の意と助力を申し出てくれた多くの世界のリーダーたちにも感謝します。
アメリカとわれわれの味方や同盟国は、世界の平和と安全を望むすべての国と手を結び、テロリズムとの戦いに打ち勝とうとしています。今夜、私はあなたがたにこのような人のために祈ってほしい。哀しんでいる全ての人に、世界がこなごなになってしまった子供たちに、安全や安心といった気持ちがおびやかされた人のために。そして私は、そのような人たちがわれわれより大きな力によって癒されることを祈ります。昔から賛美歌23番で歌われているように、「私は死の影の谷を通り過ぎているときでさえ、主が私といてくれたので、悪をおそれない」
今日は、全ての階級のあらゆるアメリカ人が正義と平和を求めて団結した日です。アメリカは敵を目の前にひざまづかせてきました、そしてわれわれは今回もそうするでしょう。われわれのうち誰一人として、この日のことを決して忘れはしない。しかしながら、われわれは自由とわれわれの世界で善なる正しいもの全てを守るために前進する。
ありがとう、おやすみなさい、そしてアメリカに神のご加護がありますように
8:35
原文はここ。いろんなところで刺激をうけて少しやり方もかえてみようかなと。乞うご期待。指摘があればメールください。
自由な文書(ただし商用利用を除く)
ハッカーを追え
エレクトリックフロンティアの法と無秩序
電子版への序文
1994年1月1日 テキサス州、オースティン
よう、ぼくはブルース・スターリング、この電子本の作者。
古来からの印刷の世界では、「ハッカーを追え」は ISBN 番号が0-553-08058-X、国会図書館にもこういう分類で正式に収められている。「1.コンピュータ犯罪―アメリカ、2.電話―アメリカ―買収行為、3.プログラミング(コンピュータ)―アメリカ―買収行為」。いやはや「買収行為」とは。ぼくはいつも、この言葉には楽しませてもらってる。図書館員っていうのは本当に気がきいた人たちだ。
ペーパーバックのISBN 番号は 0-553-56370-X、もし「ハッカーを追え」の印刷した本が買いにいけば、ぼくは心からそれを薦めるけど、本の表紙の下の方にコピーライトの表示があるのに気づくかもしれない。「Copyright (C) 1992 by Bruce Sterling」ってね。これには、次のような出版社からの短い法律上の決まりきった文言がついてくる。こんなふうに、引用してみよう。
「出版社からの文書での許可がない限りにおいては、この本のいかなる部分をも、いかなる形や手段でも複製したり他人に配布してはいけません。電子的にも機械的にも、写真複写、録音や、その他のいかなる情報を蓄積し再生するシステムを使っても、複製したり他人に配布してはいけません。出版社への連絡先:バンタムブックス」
これはきわめていい免責事項だ、まぁ免責事項としてはね。ぼくは知的所有の免責事項のコレクターで、たくさんの免責事項をみてきたけど、これは少なくともわかりやすい。ただ、この特定の限定したケースでは、きわめて正確とはいいがたい。バンタムブックスはこの免責事項を自社が発行する本に片っぱしから載せてるけど、実際にはバンタムブックスはこの本についての電子的な権利はもっていない。ぼくがもってるんだ、というのは、ぼくの代理人とぼくはこの本を書き終える前に、広範囲にわたる契約をしていたからだ。ぼくはこの本を電子的に出版する権利を、金もうけじゃない媒体を通して、無料で配布したかった。で、ぼくはバンタムにもそれがいいアイデアだって納得させたんだ。
バンタムは、もめずにぼくの計画に賛成するのがいいと思ってくれたので、これについてはあれこれ言わないだろう。もしこの本を売らなければ、電子的なコピーで何をやろうともバンタムといざこざになるようなことはないだろう。もし自分で確かめたければ、尋ねてみればいい。連絡先は1540 Broadway NY NY 10036。でももしぼくの著作権とバンタムブックスの商業上の利益を侵して、金儲けのためにこの本を印刷して販売するほどまぬけだとすると、巨大なベルテルスマン多国籍企業連合の一部門であるバンタムは、情け容赦ない弁護士たちを眠りからたたきおこし、そいつを虫けらみたいにひねりつぶすだろう。これは当然のことだ。ぼくはこの本を君が金儲けするために書いたわけじゃないんだし。もし誰かがこの本で金儲けをするとしたら、それは僕と出版社でしょう。
出版社は、この本の儲けを受け取るに値する。というのは、バンタムブックスの人たちがぼくにこの本を書くように依頼して、たんまりと支払ってくれたからってだけじゃない。彼らは勇敢にも、一度は連邦犯罪とされた電子的な文書を、紙で印刷して再録したんだ。バンタムブックスと何人もの弁護士たちは、この本に対してとても勇敢で率直だった。その上バンタムブックスのぼくの前の編集者、ベッツィー・ミッチェルは心からこのプロジェクトに配慮してくれて、熱心に働いて、原稿にもためになるアドバイスをたくさんくれた。ベッツィーもこの本の本当のクレジットに値する。編集者がめったに値しないようなクレジットにね。
批評家たちは「ハッカーを追え」に好意的だったし、商業的にもこの本は成功した。でも一方で僕は、この本をお金のない16才のサイバーパンクの高校生の手から、なけなしの小銭をしぼりとるために書いたわけじゃない。ティーンエイジャーはお金もってないもの(いや、もちろん魅力的な明るい赤の表紙と便利な索引のついた、6ドルの「ハッカーを追え」を買うほどのお金をって意味だけど)。それが、ティーンエイジャーが時々やっちゃいけないことの誘惑に負けちゃう主な理由なわけだ。たとえば僕の本を図書館からかっぱらうとかね。おいおいぼうや、ここに君のがあるよ、満足だろ? 印刷されたやつはかえしておいで *8-)
善意があり、公共心に富んだリバータリアンの市民も、たいして金なんてもちあわせてないしね。しかもアメリカの悲惨なほど正当な賃金をもらっていない、法律を施行するコミュニティの手から金を奪いとるのは、ほとんど犯罪のようにも思えるんだ。
もし君がコンピュータ犯罪をとりしまる警官だったり、ハッカー、電子上での市民の自由のための活動家だったら、まさしくこの本で想定していた読者なんだ。ぼくはこの本が君の助けになればと思って、つまり他の人たちが君を、そして君の独自の、うーん、問題を理解できるようにと思って、この本を書いたんだよ。この本は君の活動を助けるため、重要な政治的な問題に貢献するために書いたんだ。こういう風にテキストを配布することで、ぼくはサイバースペースを文明化する助けになるっていう、この本の究極の目的の役にたってるわけ。
情報は自由になることを求めている。この本の中の情報は、とくにもーれつに自由を求めてることでしょう。ぼくはこの本のあるべき場所は、電子的なネットワークの中なんじゃないかとだんだん信じるようになってきました。たしかに本の作者には安易に直接の収入をもたらしはしないかもしれないけど、そんなことは問題じゃないんだ。まさしくここがこの本があるべき場所なんだ。ぼくは何冊も、たくさん本を書いてきた。これからも書くだろうし、今だって書いている。でもこの本は特別だ。ぼくは「ハッカーを追え」をできる限り広範囲で、電子的に自由に使えるようにする。もし君がこの本を気に入って、役にたつと思ったら、ぼくは君にこの本を同じように広範囲で電子的に自由にとりあつかえるようにお願いしたい。
この電子的な本のコピーは自由。どうぞご自由にコピーしておくれ。それで、コピーは誰でもほしいやつにはあげて。花開こうとしているサイバースペースの世界は、システム管理者、教師、教える人、サイブラリアン(訳注)、ネット伝道師、そしていろんなサイバースペースの活動家たちであふれんばかりだ。もしあなたがそういう人たちの一人だったら、ぼくはあなたのことがわかるし、あなたがエレクトリックフロンティアのことをみんなに説明しようとして辟易としたこともわかる。この本を電子的な形で所有していることが、あなたのトラブルを軽減してくれればと思う。まあでも仮にその役にたったとしても、ぼくらの電子社会の状況をとりあつかったものとして、学問的に厳密にいって極めてるってわけじゃない。そして政治的にみれば、ほとんど全員を怒らせたり悩ませたりするところがある。でもほら、ぼくの本はまあまあ読めるって評価されたし、それに少なくとも価格は適正だろ。
この本を、BBSやインターネットのサーバーや電子掲示板にアップロードするのもかまわない。どんどんやってくれ、今はっきりとした許可を与えてるわけだから。ま、楽しんでくださいな。
ディスクにいれて、そのディスクをあげてもいい、お金をとらないかぎりはね。
でもこの本は、パブリックドメインじゃない。この本に自分のコピーライトはつけられない。コピーライトはぼくがもってる。この本の海賊版をつくって、それでもうけようなんてしたら、そりゃひどい訴訟の渦にまきこまれるだろうね。ホントだよ、そんなことしたってほんの小銭しか手に入らない、やる価値ないって。この本は君のものじゃない。奇妙だけど正確にいえばね。この本はぼくのものでもない。これはサイバースペースの人たちの本で、この情報がサイバースペースの人たちに、自由で簡単に、そして実際に使い物になるようにするには、こうやって配るのが一番いい方法なんだ。もちろんこれには、アメリカ国境からはるか遠くに住んでる人もふくむよ。そういう人たちは、そうでもしなきゃこの本のどんな版にもお目にかかるチャンスがないし、それにこの遠く離れた、複雑でわかりにくいけど、いわゆる「アメリカのサイバースペース」での驚くべきできごとの不思議な話から、何かためになることを学べるかもしれないだろ。
この電子本は自由な本だ。もうこの本は二者択一の情報経済の広大な領域に属してる。この電子本を昔からの商業の流れの一部にする権利は君にはない。情報の流れの一部にしようじゃないか、大きな違いだ。ぼくはこの本を4つの節に分けることにした。そうすればアップロードしたりダウンロードするのに手間が省けるし。一つの節が君や君の友達に特別気に入れば、そこだけ複製して他をとばすのもご自由に。
ほしければほしいだけ取ってけばいいし、必要かも知れない人には誰にでもあげていい。
さて、楽しんで。
Bruce Sterling -- bruces@well.sf.ca.us
サイブラリアン:
サイバースペース(Cyberspace)とライブラリアン(Librarian/司書)からきた造語で、インターネットなどのネットワークの中で図書館の司書のように、本のデータをデジタル化してネットワークで閲覧できるようにしたり、自由に検索できる環境を構築したり、申し込みがあった書籍のデータを探すなどの職業に従事する人の総称。Library(図書館)とLabyrinth(迷宮)を組み合わせた造語としてLibyrinthという言葉があるように、図書館は情報の集積場所であると同時に、最も必要な情報をより簡単に探し出すことが困難に成りやすい環境でもあり、その中で活躍する人は、一種の救世主でもある。
原文はここ。よしみねさんの提案に再び感謝。指摘があればメールください。
アレキサンダー・アブラハムの家での隔離 モンゴメリ
私は最初に頼まれたとき、日曜学校のクラスをもつことを断った。日曜学校で教えるのがいやだったわけじゃない。むしろその反対で、教えることは気に入ってたくらいだ。でも頼んだのは、アラン牧師だった。私の主義として、男性に頼まれたことは絶対にしないことにしているのだ。私はそのことで有名だった。そのおかげでたくさんのトラブルを避けられて、物事は実に簡単になった。ずっと前から男性は嫌いだった。生まれながらにちがいない。というのも思い出せる限り過去にさかのぼっても、男性と犬に対する嫌悪は、私の中ではっきりとした特徴の一つだったからだ。私はそのことで有名だった。今までの人生経験も、ただそれを強めたにすぎなかった。男性のことを知れば知るほど、猫が好きになったものだ。
だから、もちろんアラン牧師が日曜学校のクラスをもってくれないかと頼んだ時も、彼のことを正しく矯正してあげるようなつもりで「いいえ」と答えたものだ。もし彼が2回目にそうしたように、最初から奥さんをよこしていたら、より賢明だっただろう。みんなもだいたいがアラン夫人が物を頼むようにすれば、時間が節約できることがわかるだろう。
アラン夫人は日曜学校の話題に入るまえに、30分ばかりも流暢に話をして、私のことをいくつか誉めた。アラン夫人は如才がない人で、如才がないというのは、目的に向かってまっすぐ行く代わりに廻り道ができる能力のことだ。私は、自分がそうではないことを分かっている。アラン夫人の話が日曜学校のことになりそうになるとすぐに、私は最初からどうなるかすっかり分かっていたので、率直にこう言った。
「何のクラスを教えてほしいの?」
アラン夫人はあまりに驚いて、如才のなさもだいなしだった。そして生まれて始めてはっきりと答えを返した。
「先生が必要なのは、2つのクラスで、一つが男の子のクラス、もう一つが女の子のクラスなの。私が女の子のクラスを教えていたけれど、赤ん坊のために少しばかり休まなければならないし。あなたが選んでくれていいのよ、マクファーソンさん」
「それでは、男の子のクラスを」私はすぐさま決めた。決断には自信がある。「大人の男になる前に、すぐにでもよく鍛えてあげないとね。男の子はきっと、どんなときでもやっかい者になるんだから。でも十分若いうちに世話をしてあげれば、世話をしてあげなかったときになるような、そしてある不幸な女性が引き受けるようなやっかい者にならずにすむかもしれないし」
アラン夫人は疑っているようだった。彼女は私が女の子のクラスを選ぶと思っていたのだ。
「あの子たちは、それはわんぱくな男の子よ」とアラン夫人は言ったが、
「そうじゃない男の子なんています」と私は答えた。
「えーと、そうね、私にはあなたは女の子の方がいいと思うけど、」とためらいがちにアラン夫人は言った。もしあることがなかったら、私はアラン夫人には決してそうだと認めなかったと思うけれど、自分でも女の子のクラスを選んでいただろう。でも本当のことを言えば、アン・シャーリーがそのクラスにいたからというのが理由だった。アン・シャーリーは、私がこの世で唯一恐れている子なのだ。嫌いというわけではない。ただ彼女は奇妙な予想だにしないような質問をするくせがあって、フィラデルフィラの弁護士だってその質問には答えられなかっただろう。ロジャーソン先生が前にそのクラスをうけもっていて、アンはこてんぱんにロジャーソン先生をやっつけてしまったのだ。私としては、そんな生きている疑問符がいるようなクラスを受け持ちたいとは思わなかった。その上、私はアラン夫人が断ってほしいようにも思ったのだ。牧師の夫人などというものは、もし時折きちんと釘をさしておかないと、全てを仕切ってみんなを動かせるんだと思いかねないものである。
「私がどうしたいなんて問題じゃありませんわ、アラン夫人」私は非難するように言った。「その男の子たちにとって何が一番いいかが問題です。私が思うには、私がうけもつのが彼らにとってもいいことでしょう」
「もちろんそうですとも、マクファーソンさん」アラン夫人は感じよく答えた。それは嘘だった。牧師の夫人にもかかわらず、彼女は疑っていたのだ。アラン夫人は、私が男の子のクラスの教師をうけもって、惨さんたる失敗に終るだろうと思ったのだ。
でも私はそうではなかった。私はやるときめたときには、ひどく失敗することはそんなにない。私はそのことでも有名だった。。
「あのクラスをどんなによくしてくるか本当に楽しみだよ、マクファーソンさん、楽しだ」アラン牧師は、数週間後にそう言った。牧師は自分が、男嫌いで知られている未婚女性が上手くやりとげることをどれほどびっくりしているかを示すつもりはなかったのだろう。でもその顔つきはそうではなかった。
「ジミー・スペンサーはどこに住んでいるの?」私は牧師にきびきびと尋ねた。「3週間前の日曜日に来ていらい、来ないじゃないの。私はどうしてかを知りたいわ」
アラン氏は咳き込んだ。
「私が思うには、その子はホワイト・サンズ街道に住んでいるアレキサンダー・アブラハム・ベネットにいろいろな雑用をするために雇われているよ」
「じゃあ、ホワイト・サンズ街道のアレキサンダー・アブラハム・ベネットのところに行って、どうしてジミー・スペンサーを日曜学校によこさないのか確かめてくるわ」私は断固として言った。
アラン氏はぱちくりとまばたきをした。私はいつも言ってきたものだけど、この人が牧師じゃなかったら、ユーモアのセンスがあったでしょうに。
「たぶんベネット氏は君の親切なおせっかいを喜ばないだろうよ! 彼は、うーん、なんていうか、女性が死ぬほど嫌いだからなぁ。彼の妹が20年前に死んで以来、ベネット氏の家のなかに入った女性は一人としていないよ」
「あぁ、彼はそうなの?」私は思い出しながら口を開いた。「彼が女性が嫌いで、女性が彼の家の庭に入ったら、タール用のくまでで追い払おうっていうんなら、いいでしょう、私を追い出してごらんなさい!」
アラン氏はくすくす笑った。牧師らしい笑い方だが、まだくすくす笑いだった。まるで牧師にアレキサンダー・アブラハム・ベネットは私の手には余ると言われているようで、ちょっと気にさわったが、アラン氏にはそのそぶりを見せなかった。男の人に、あなたをいらいらさせることができるんだということを分からせてしまうのは、いつでも大きな間違いだと言えるだろう。
次の日の午後、私は自分の月毛のポニーを軽装馬車につないで、アレキサンダー・アブラハム・ベネットのところまで出かけていった。いつも通り、ウィリアム・アドルフが私と一緒に行ってくれた。ウィリアム・アドルフは私の6匹の猫の中でもとくにお気に入りの猫だ。黒い毛並みで胸のところは白くて、白く美しい足をしている。猫は私のとなりにすわり、同じ場所にすわっていたいかなる男よりも紳士っぽく遠くを見つめている。
アレキサンダー・アブラハムの家はホワイト・サンドの道を3マイルほど行った所にあった。そばまで行くと荒れ果てた外観で、私はすぐにそれとわかった。ペンキを塗る必要があったし、ブラインドは曲がっていて引き裂かれ、雑草がドアのとこまで生い茂っていた。明らかにこの場所には女性はいなかった。でもいい家ではあったし、納屋はりっぱなものだった。私の父はいつも言ってたものだ。家より納屋の方が大きければ、稼ぎの方が使うより多い証拠だって。でも納屋が大きいのは確かにその通りだけれども、納屋のほうが草もぼうぼうだったし、ペンキを塗る必要もあったのはどうなんだろう。でも女嫌いにしちゃどうしようもないかと私は思った。
「あら、アレキサンダー・アブラハムは農場の経営の仕方はちゃんと知ってるみたいね。女嫌いとしちゃってことだけど」私は馬車をおりて、欄干にポニーをつなぎながらウィリアム・アドルフにそうもらした。
私はその家の裏口にのりつけたけれど、ベランダに通じるドアの反対側にいた。そこまで行ったほうがいいと思ったので、ウィリアム・アドルフを腕にかかえて、小道を歩いていった。半分くらい歩いていったところで、一匹の犬が急に建物のかげからでてきて、私の方へまっすぐやってきた。見たこともないほどみにくい犬で、ほえもせず、まっすぐ足早にこちらにやってきた。
私は、ほえない犬とは立ち止まってあれこれしようとはしない。私はいつ慎重なのが勇気に必要かも分かっていた。ウィリアム・アドルフをしっかりだきしめて、ドアではなく、というのも犬は私とドアの間にいたから、家の裏手の方の低く枝を垂らした大きな桜の木の方へかけていった。私はぎりぎり間に合ってその木にたどりついた。最初にウィリアム・アドルフを頭の上の枝にのせて、アレキサンダー・アブラハムがたまたま見ていたらどう見えるかしらなんて思うひまもなく、そのすばらしい木に登った。
私が落ち着いて考えることができたのは、ウィリアム・アドルフをわきにおいて、木の半分ほどのところに腰かけたときだった。ウィリアム・アドルフはすっかり落ち着いて、冷静だった。私もそうだったとは正直言えない、というかその反対で、私はかなり取り乱していたことをみとめざるえない。
犬はすっかり腰を地面におろして、私たちをにらみながら座り込んでいた。そのゆうゆうとした様子からは、今日はいそがしくないのは明らかなようだ。私と目があると歯をむいてうなりごえをあげた。
「いかにも女嫌いの飼う犬だわ」私はその犬にいってやったが、皮肉のつもりが、犬はおせじと受け取ったようだった。
それから自問自答してみた。「この苦境からどうやってぬけだせばいいかしらね?」
簡単には答えがでそうにはなかった。
「叫んでみようかしら、ウィリアム・アドルフ?」そのかしこい猫にきいてみたが、ウィリアム・アドルフは首をふった。確かに。そうよね。
「えぇ、叫ぶのはやめるわ、ウィリアム・アドルフ」私は言った。「たぶんアレキサンダー・アブラハム以外にその声がきこえる人もいそうにないし、彼にやさしい慈悲の心があるかはかなり疑わしいしね。さぁ、上に登って行くのはだめかしら。あら、ウィリアム・アドルフ、上に登れそうじゃない」
上を見上げると、頭の真上に窓が開いていて、まあまあ太い枝がその窓のところまでのびていた。
「これはいけそうじゃない、ウィリアム・アドルフ?」私はたずねた。
ウィリアム・アドルフは一言もいわなかったけど、木をのぼりはじめ、私はその後についていった。犬は木のまわりをくるくる走って、ほえてもどうしようもない状況を見守った。もしほえるのがその犬の主義に反していなかったら、ほえればたぶん気休めになっただろうに。
しごく簡単に私は窓から家に入ると、そこは寝室で、今まで見たこともないほどちらかって、ごみだらけで、一面身の毛もよだつようなものだった。しかしたちどまって、細かいことまで関わりたいなんて思わなかった。ウィリアム・アドルフを腕にかかえて、誰にも会わないようにと強く祈りながら、私は階下へどしどしと下りて行った。
誰にも会わなかった。一階の通路にはだれもいなくて、ほこりまみれだった。行き当たった最初のドアをあけて、堂々と中に入っていった。窓のそばに一人の男がすわっていて、不機嫌そうに外を見ていた。その男がアレキサンダー・アブラハムだってことは、彼がどこにいてもわかったにちがいない。アブラハムは家と同じで、ほったらかしのぼろぼろの身なりだった。でも家と同じで、少し身なりを整えれば、アブラハム自身はそれほど悪くない風貌だったろう。髪はまるで一回もくしをいれたことがなかったようだったし、ほおひげときたら荒れ放題に荒れていた。
私をみると、アブラハムはぽかんと口をあけて驚いたようだった。
「ジミー・スペンサーはどこです?」私はたずねた。「ジミーに会いに来たんです」
「あいつがどうやっておまえを中にいれたんだ?」その男は私をにらみつけてたずねた。
「あいつは中に入れようとはしませんでしたよ」私は答えた。「私を庭中追いまわしたあげく、木に登って、かみ砕かれるのをようやく逃れたんですから。あんな犬を飼ってるなんて訴えられるべきですわ! ジミーはどこなんです?」
アレキサンダー・アブラハムは答える代わりに、このうえなく不愉快に笑いはじめた。
「女なんてものはそうと決めたら、男の家に入ってくるもんだからな」アブラハムは不愉快にいいはなった。
私を怒らせようとしていると思ったので、落ち着いて勇気をふるいおこした。
「あら、好き好んであなたの家なんかに入るもんですか、ベネットさん」私はおだやかに言い聞かした。「私には選択の余地がなかったの。中にはいらなきゃ、もっと悪いことになっていたから。私が会いたいのはあなたやあなたの家なんかじゃなくて、まぁどれほど散らかすことができるかって知リたければ、見る価値はありますけどね、私が会いたいのはジミーなんです。三回目で最後ですけど聞きますよ。ジミーはどこなんです?」
「ジミーはここにはいない」ベネット氏はつっけんどんだが、それほど自信なさげに答えた。「先週でてって、ニューブリッジの男に雇われた」
「そうなら、」私は、軽蔑するようにその部屋をさぐりはじめていたウィリアム・アドルフを拾い上げて、
こう言った。「これ以上おじゃましませんわ、行きますから」
「あぁ、それがいいと思うよ」アレキサンダー・アブラハムは今度は不愉快というわけではなく、まるでなにか心配事があって懸念しているような口調でそう言った。「裏口から出してあげましょう。そうしたら、えへん、あの犬にも会わないですむでしょうし。足音をたてずにさっさと行ってください」
アレキサンダー・アブラハムは、私が叫び声をあげながら帰るとでもおもってるんだろうか? でも私は何も言わずに、その方が威厳のある態度だとおもったので、アブラハムのあとをついて、彼のねがってる通りに足音をたてず、すばやく台所をぬけていった。
アレキサンダー・アブラハムは鍵のかかっていたドアをあけたちょうどそのとき、2人の男をのせた馬車が庭にはいってきた。
「遅かった!」アブラハムは残念そうに声をあげた。私にも何か恐ろしいことが起きたにちがいないということがわかったが、私には愚かにも自分には関係ないと気にしなかった。私はアブラハムをおしのけた。アブラハムときたらまるで強盗をはたらいたところを捕まりでもしたかのように、悪いところをみられたといったふうだった。そして、馬車からとびでてきた男の一人と私ははちあわせた。それはカーモディの老ブレア医師で、私が万引きでもしているところをみつけたように私をみつめた。
「ピーターさん」医師は深刻そうに言った。「こんなところで会うとは残念しごくですな、とても残念です」
こう聞いていらいらしたことは認めよう。そのうえどんな男だろうと、かかりつけの医者でも、私のことを「ピーター」なんてよぶ権利はない!
「そんな大声で残念なんて言わなくてけっこうです、先生」私はきっぱり言った。
「一人の女性が、48にもなって、長老派教会の正規の正会員なのに、日曜学校の生徒の家をたずねるのが礼儀に反しているっていうんなら、何才になればいいんです?」
医師は、私の質問には答えなかった。その代わりに責めるようにアレキサンダー・アブラハムを見つめた。
「これが約束を守ったんですか、ベネットさん?」医師は言った。「だれも家の中にいれないっていう約束を守っていただけると思ってたんですがな」
「私は中に入れてない」ベネット氏は大きな声でいった。「とんでもない、先生、この女が木をのぼって二階の窓からはいってきたんだ。巡査が一人と犬が一匹、わたしの農場にいたにもかからわずね! こんな女にどうしろっているんです?」
「私には、なにがなんだかさっぱりわかりませんが」医師の方を向き、アレキサンダー・アブラハムはすっかり無視して、私は言った。「私がここにいるとみなさんにご迷惑がかかるみたいですから、ご安心ください、すぐに行きますから」
「非常に残念ですが、ピーターさん」医師は言い聞かせるように言った。「そうさせるわけにはいかないんです。この家は天然痘で隔離されているんです。あなたもここに留まってもらわなければなりません」
天然痘ですって! 男の人にあれほど開けっぴろげに腹をたてたのは、私の人生で最初で最後だった。
「なぜいってくれなかったんです?」私は大声をあげた。
「いってくれなかっただって!」アブラハムは私の方をみて言った。「最初にあんたの姿を見たときは、言うにはおそすぎたんだ。一番いいのはだまって、なにも知らないまま行かせることだと思ったんだ。これで男の家を強襲することがどういうことだか分かっただろうよ、ご婦人!」
「まあ、まあ、喧嘩はやめてください、あなたたち」医師は心配して割って入った。でもその目がきらりと光ったのを私はみた。「あなたがたは、同じ屋根の下でしばらく過ごさなきゃならんのですから、いがみあってても状況は改善しないでしょう。わかるでしょう、ピーター、こういうわけなんです。ベネット氏は昨日、町で食事をした。あなたも知ってるとおり、町では天然痘がはやっているんですよ。そしてベネット氏は、給仕の一人が病気にかかったまかない付きの下宿で夕食をとったんです。昨晩、給仕はまぎれもない天然痘の兆候が現れました。保健課は、すぐに昨日その下宿にいた人を全員、わかるかぎりでつきとめて、隔離したんです。今朝私はここにきて、事態をベネット氏に説明しました。私はジェレミア・ジェフリーをつれてきて、この家の前を見張らせました。そしてベネット氏には裏口からはだれも入らせないと誓わせて、私はもう一人警官をつれてくるのと、他のすべての手はずを整えるためにその場所を離れました。私はトマス・ライトをつれてきて、ベネット氏の納屋仕事をする男をもう一人確保して、いろんな支給品をもってきました。夜はジャコブ・グリーンとクレオファス・リーが見張ってくれるでしょう。私が思うにベネット氏が天然痘にかかる危険はそんなにないと思うが、われわれが確信するまでは、ここにいてもらわなければなりません、ピーター」
医師のいうことをきいているあいだ、私はずっと考えていた。人生でこれほど悩ましい状況に陥ったことはなかったが、その状況を悪化させてもしょうがない。
「よくわかりました、先生」私はおだやかに言った。「えぇ、私は天然痘がはやってるときいた1ヶ月前にワクチンを打っています。帰りにアボンリーを通るときに、どうかサラ・パイのところによっていただいて、私がいないあいだ家にすんでもらって、留守をよろしく、特に猫の世話をと、お願いできないでしょうか。猫に日に2回ミルクと週に一回バターを一切れあげるように言ってください。黒いプリント地の部屋着を2着とエプロンをいくつかと、下着のかえを何着かを私の三番目に上等なスーツケースにつめて、届けるように言ってください。私の乗ってきたポニーは、そこの柵のところにつないでいます。家につれてかえってください。それだけだと思いますけど」
「だめだ、それだけじゃない」アレキサンダー・アブラハムは不機嫌そうに言った。「あの猫もつれてかえってもらおう。ここらで猫なんて見かけたくないね、それなら天然痘の方がましなくらいだ」
私はアレキサンダー・アブラハムを、いつも私がやるように、つまさきから頭の先までじっくりと全身眺めてやった。じっくり時間をかけて。それから落ち着きはらった声でこう言った。
「両方ともかもしれないわ。とにかく、ウィリアム・アドルフはここにおいてもらいます。私やあなたとおなじように隔離されないとね。あなたは、私が自分の猫がアボンリーで自由にうろつきまわって、天然痘の病原菌を罪のない人々にばらまくままにしておくなんて思ってるの? 私もあなたの犬に我慢しなきゃいけないんですから、あなたにもウィリアム・アドルフに我慢してもらいます」
アレキサンダー・アブラハムはうめきごえをあげた。でも彼を眺めてやったことで、彼は十分にこりたようだった。
医師は帰っていって、私は家の中に入った。ぐずぐず外にいてトマス・ライトににやにや笑われるのはまっぴらだった。廊下でコートを脱いで、帽子をていねいに居間のテーブルの上においた。ただ置く前に、ハンカチでその場所のほこりを払ってからだが。すぐにでもこの家で掃除にとりかかってきれいにしたかったが、医師が部屋着をもってかえってきてくれるまで待たなければならなかった。新しい上着とシルクのブラウスで、掃除にとりかかるわけにはいかなかったから。
アレキサンダー・アブラハムは椅子にすわって、私をみていた。
「別に興味があるわけじゃないが、どうしてあんたのことをあの先生はピーターと呼んでいたのかおしえてくれないか?」
「私の名前だからだと思いますけど」と私はウィリアム・アドルフのためにクッションをふって整えたが、それで何年分ものほこりがまった。
アレキサンダー・アブラハムはかるくせきこんだ。
「女として、ごほん、もっとましな名前はなかったのか?」
「あるわ」私はいったいこの家にはせっけんが、あったなら、どれくらいあるのかしらと思いながら答えた。
「別に興味があるわけじゃないんだが、」アレキサンダー・アブラハムは言った。「どうしてピーターって呼ばれるようになったのか教えてくれないかい?」
「もし私が男の子だったら、私の両親は私のことをお金持ちのおじにあやかって、ピーターにするつもりだったの。でも幸運にも、私が女の子だってわかったから、母親がアンジェリーナにしましょうと言ったの。それで両親は両方の名前をつけて、アンジェリーナってよぶことにしたの。でも私は大きくなって、ピーターってよんでもらうことにした。いいとは言えないけど、アンジェリーナほどは悪くないでしょう」
「まぁそうでしょうなと言っておきましょう」アレキサンダー・アブラハムは私のみるところでは、賛成できないといった風に答えを返した。
「確かにそうね」私はおだやかに賛成した。「私のラストネームは、マクファーソン。アボンリーに住んでます。興味しんしんでもなければ、それだけで私についてあなたが知っておくことは十分でしょう」
「あぁ!」アレキサンダー・アブラハムははっと思い当たったように、「うわさを聞いたことがあるよ、あぁ、男を嫌いなふりをしているんだろう」
ふりですって。もしちょうどこのとき、気をそらすことがおこらなかったら、アレキサンダー・アブラハムはどうなっていただろうか。でもドアが開いて、犬が入ってきた。あの犬だ。私とウィリアム・アドルフが下りてくるのを、あの桜の木の下で待ってるのにもくたびれたんだろう。外にいるより家の中にいる方がいっそう醜くみえた。
「あぁ、ライリー、ライリー、おまえのおかげでどんなことにまきこまれたか見てごらん」アレキサンダー・アブラハムは非難がましく言った。
ただライリー、それはあの猛犬の名前だが、アレキサンダー・アブラハムには少しも注意をはらわなかった。クッションの上で丸くなっているウィリアム・アドルフを見ると、調べに部屋をよこぎってやってきた。ウィリアム・アドルフは座りなおして、注意をはらった。
「犬を出してください」私は注意するようにアレキサンダー・アブラハムに言った。
「自分でやればいい」アブラハムは答えた。「あんたがその猫をここにつれてきたんだから、守るのもご自分でどうぞ」
「あら、私が言ってるのはウィリアム・アドルフのためじゃないわ」楽しそうに私は言った。「ウィリアム・アドルフは自分で自分の身は守れますもの」
ウィリアム・アドルフは自分の身は自分で守れたし、実際にそうした。背中を丸くし、両耳をねかせて、一回うなると、ライリーにとびかかった。ウィリアム・アドルフはライリーのまだらの背中にしっかり着地してしっかりとしがみついて、うなりごえをあげ、ひっかいてぎゃ―ぎゃ―わめいた。
ライリーほどあわてふためいた犬をみたことはない。恐怖のさけび声をあげ、台所へと逃げ出した。台所を通り抜けて廊下へでて、廊下をぬけて部屋に、そしてまた台所へとくるくる走り回った。1周まわるごとにだんだん早くなって、まるで上の方に白と黒が少し交じったまだらのしまのようだった。あんなさわぎや騒動は聞いたことがないし、笑いすぎて涙がこぼれてきた。ライリーはくるくる飛び回って、ウィリアム・アドルフは断固としてしがみついていた。アレキサンダー・アブラハムは怒りのあまり顔色は真っ赤だった。
「あんた、そのいまいましい猫がわたしの犬を殺しちまう前によびもどせ」アブラハムはその鳴いたり、吠えたりの騒がしい音を上回る声でさけんだ。
「あぁ、殺しはしないでしょう」私は安心させるように言った。「でももしよびかけても、あんなに速く走ってるんですもの聞こえないわ。犬が走るのを止めて下されば、ベネットさん、ウィリアム・アドルフに言って聞かせるけど。でもいなずま相手に議論しようたって無駄でしょう」
アレキサンダー・アブラハムは、まだらのしまへと廻って通り過ぎようとしているところへ狂ったように突進した。その結果アブラハムはぶつかって、バランスをくずして床の上に大の字になってしまった。私は助けようとかけよったが、それはさらにアブラハムを怒らせるだけみたいだった。
「あんた」アブラハムは怒ってひどい言葉でまくしたてた。「おまえとおまえの悪魔の猫のいる場所は、」
「アボンリーね」と私はすぐに答えて、アレキサンダー・アブラハムが悪態をつくのをやめさせた。「私も心から同じ気持ちよ。でもそうはできないでしょう。ちゃんとした人たちみたいにがまんしましょう。それから今後私の名前はマクファーソンで、あんたじゃないことはどうか憶えておいてくださいな」
これで一件落着し、私はほっとした。というのも二匹の動物があまりに大騒ぎしたので、警官が天然痘にはかまわずに、アレキサンダー・アブラハムと私が殺し合いでもしてるのではと確かめに、家の中にはいってくるんじゃないかと思ったからだ。ライリーはとつぜん狂ったようにはしっていた方向をかえて、ストーブと木箱のあいだの暗いすみへとはいりこんだ。ウィリアム・アドルフはちょうどいいタイミングで離れた。
これでライリーの件ではこれ以降なやまされることはなかった。これほどおとなしくなった、完全に懲らしめられた犬はみたことがないほどだった。ウィリアム・アドルフは争いに勝ち、以降も優位な立場だった。
事態がおちついて、5時になったので、私は食事にすることにした。アレキサンダー・アブラハムにどこに食べるものがあるか教えてくれたら、用意するわと言った。
「かまわんでくれ」アレキサンダー・アブラハムは答えた。「ここ20年も自分で食事は用意することにしてるから」
「言っておきますけど、私の分も用意はしてこなかったでしょう」私は断固としていった。「飢え死にしても、あなたの作ったものなんて食べたくないですから。あなたがひまなら、あのかわいそうな犬の背中の傷に薬でもぬってやったらどうです」
アレキサンダー・アブラハムはなにやらもごもご口を開いたが、私は賢明にも聞いてなかった。なにも教えてくれないことはわかったので、食料品部屋に探しにでかけた。その場所も口にだせないほどひどくて、はじめてアレキサンダー・アブラハムのことをかわいそうだと思う気持ちが、私の胸にちらっと浮かんだ。男もこんな環境で暮らしていたら、女だけじゃなく人類を憎んでも不思議はない。
でもとにかく私は夕食の準備をした。私は夕食の準備でも有名なのだ。パンはカーモディのパン屋のもので、わたしはすばらしいお茶とトーストを用意した。ももの缶詰を食料品部屋でみつけたが、買ったものだったので、躊躇せずに食べた。
そのお茶とトーストでアレキサンダー・アブラハムは、自分でも意識せずに態度が軟化した。ひとかけらも残さずに食べ、残ったクリームをウィリアム・アドルフにやってもぶつぶつ言わなかった。ライリーはなにも食べたくないようだった。食欲がなかったのだ。
このときには医師の使いが、私のスーツケースをもってきてくれていた。
アレキサンダー・アブラハムはきわめて丁寧に廊下の向こうに空いてる部屋があって、そこをつかってよいということを教えてくれた。私はそこに行って、部屋着にきがえた。その部屋にはよい家具がそろっていて、ベッドもよさそうだった。でもほこりときたら! ウィリアム・アドルフは私について部屋に入ってきたが、その足跡が歩いたいたるところについていた。
「さて、」私は台所にもどってきびきびと声にだした。「きれいにしましょう。台所からはじめるわ。居間にでも行っててくださいな、ベネットさん、じゃまにならないようにね」
アレキサンダー・アブラハムは私をにらみつけた。
「わたしの家によけいなことはしないでもらいたいな」と私に釘をさした。「このままでいいんだ。気に入らなきゃ、帰ればいいんだ」
「あら、帰れませんわ。だから困ってるんじゃないの」私は快活に言った。「帰れるなら、少しでもこんなところにいるもんですか。帰れないから、きれいにしなきゃならないの。おしつけられた男と犬は我慢するけど、ほこりと散らかっているのは我慢できないし、我慢するつもりもありませんから。居間に行ってください」
アレキサンダー・アブラハムは居間に行った。ドアをしめるときに、はっきりこういうのが聞こえた。「いけすかない女だ!」
私は台所とそこに続いている食料品部屋をきれいにした。やりとげたときには、10時になっていた。そしてアレキサンダー・アブラハムは、それ以上何もいわずに寝てしまっていた。私もライリーとウィリアム・アドルフを別の部屋にとじこめて、ベッドへ向かった。いまだかつてないくらいに疲れ果てていた。つらい一日だった。
でも次の日朝早くのめざめは快適で、私はとびきりの朝食を用意した。その朝食をアレキサンダー・アブラハムは食べてやるとでもいわんばかりの態度で食べた。食料をもってきてくれる人が庭に入ってきたので、私は窓から午後には石鹸をひとはこ持ってきてくださいと頼んだ。そして私は居間にとりかかった。
その家をきちんとするのには一週間の大部分を費やしたが、徹底的にやった。私は物事を徹底的にやるので有名なのだ。一週間後には、屋根裏部屋から地下の貯蔵庫まできれいになっていた。アレキサンダー・アブラハムは私のやっていることには何ひとついわなかったが、ときどき大きなうめき声をあげて、ライリーに皮肉をこぼしていた。でもライリーはウィリアム・アドルフにひっかかれてからは口答えする気力もないようだった。私はアレキサンダー・アブラハムのことを大目に見てあげた。彼はワクチンをうって、ひどく腕がいたんだのだから。そしていったん何もかも磨き上げてしまうと、大してやることもなくなったので、腕によりをかけて料理をつくった。食料は十分にあったし、アレキサンダー・アブラハムはそういうことにはごちゃごちゃ言わなかった。彼のためにこれだけは言っておこう。私は予想したよりは、快適な生活をおくっていた。アレキサンダー・アブラハムが口をきかないときは、私はほっておいた。口をきくときは、私も彼と同じくらい皮肉な口をきいた。でも私は笑いながら、楽しそうにそうしてたけど。アブラハムが私にすっかり畏敬の念をいだいていることは分かっていた。でもときどきいつものようすを忘れたように、人間らしい口のききかたをすることもあった。一回や二回は面白い会話をしたこともあった。アレキサンダー・アブラハムは、ひどくねじまがってはいたけれど、知性を感じさせる男だった。私は一度彼にもそう言ったけど、子供のころはさぞかしいい子だったんでしょうねと思った。
ある夕食のとき、アブラハムは髪をとかして白いカラーをつけて姿をあらわし、私を驚かせた。私たちはその晩はすばらしい夕食をたべた。女嫌いにはもったいないようなプディングを私は作っておいたのだ。アレキサンダー・アブラハムはそれを二皿にいっぱい片付け、ため息をついてこう言った。
「あなたの料理はいけますね。でも他の点では、ひどいひねくれものなのが残念ですな」
「ひねくれものも、まあ便利なものですよ」私は言った。「みんなが余計なおせっかいをやかないように注意してくれるし、あなた自身がよくご存知でしょうに?」
「わたしはひねくれものなんかじゃない」アレキサンダー・アブラハムは憤慨して、がみがみ言った。「わたしが望んでいるのは、一人にしておいてくれってことですよ」
「それがひねくれもの中のひねくれものじゃない」私はいった。「一人にしてくれなんて思う人は、神の摂理に反してますよ。神は、しもべが自身のためにも一人でいるべきではないと定めたんですから。でも元気をだしてください、ベネットさん。火曜日には隔離も解けるでしょうし、そうすればそれ以降、少なくとも私とウィリアム・アドルフに関する限りは、全くかからわずにすむわけですからね。そうすれば、あなたも恥知らずな生活にもどって、過ぎし良き日のきたない快適な生活が送れるわけでしょう」
アレキサンダー・アブラハムは再びうなった。その見通しは私が思ったほどは、アブラハムのことを元気づけはしなかったようだ。それからアブラハムは驚くべきことをした。クリームを皿に注いで、ウィリアム・アドルフにやったのだ。ウィリアム・アドルフはそれをぺろぺろ飲んだ、片目はアレキサンダー・アブラハムの気がかわらないかと見張りながら。負けるものかと、私はライリーに骨をやった。
アレキサンダー・アブラハムも私も天然痘の心配は全くしてなかった。アブラハムがかかるだろうとは二人とも思ってなかったのだ。なんせその病気になった給仕をみてもいないのだから。でもその次の朝、彼が私のことを2階の踊り場から呼ぶ声がきこえた。
「マクファーソンさん」アブラハムは私には気味悪くおもえるほどの、いつにないやさしい声で私をよんだ。「天然痘の兆候ってなんですか?」
「寒気と顔が熱くなって、四肢と背中に痛みがあります。吐き気がしてじっさいに吐きます」私はすぐに答えた。医薬品図鑑をしっかり読んでいたのだ。
「全部あてはまります」アレキサンダー・アブラハムは気の抜けた声で言った。
私はおもったほどはびっくりしなかった。女嫌いとまだらな犬とこの家のかつてのあれ具合にも耐えて、その三つともなんとか上手くやってきた後では、天然痘なんてとるに足らないものに思われた。窓のところにいって、トマス・ライトをよんで医師をよこさせた。
医師は、アレキサンダー・アブラハムの部屋から深刻そうなようすで降りてきた。
「まだ天然痘とははっきりいえない」医師は言った。「発疹がでるまでは、はっきりしないから。でももちろん天然痘の可能性はとても高い。まずいなぁ。看護婦をよこすのは難しいと思うんだ。天然痘を診れる町の看護婦はみんなてんてこまいなんだ。天然痘は猛威をふるってるからな。でも、今晩町に行って最善をつくしてみる。そのあいだは、しばらく、アブラハムに近づいちゃいけないよ、ピーター」
私はどんな男からも命令されるつもりはなかったので、医師がかえるとすぐに、アレキサンダー・アブラハムのところへ夕食をお盆にのせて上がっていった。天然痘でものどを通るようにとレモンクリームにした。
「近づかないで」アブラハムはぶつぶつ言った。「あなたの命が危険だ」
「同じ人間を餓死させるわけにはいきませんからね、たとえ男でもね」私は答えた。
「なにより始末におえないのは」アレキサンダー・アブラハムは、口をレモンクリームで一杯にしながらぶつぶつ言った。「先生がわたしに看護婦をつけると言ったことだ。この家にあなたがいるのにようやく慣れて気にならなくなったんだが、もう一人女がここにくるなんて思っただけでもぞっとする。わたしのかわいそうな犬は何か食べたかな?」
「たいがいのキリスト教徒よりもずっといいものを食べましたよ」私はぴしっと答えた。
アレキサンダー・アブラハムは他の女性が来るのを心配する必要はなかった。医師は眉間にしわをよせてその晩にもどってきた。
「どうしたらいいかわからないよ」医師は言った。「一人もこれるものがいないんだ」
「私がベネットさんの看護をしましょう」私は威厳をもって言った。「私の義務ですし、私は義務を放棄するようなことはしません。私はそれで有名ですから。彼は男ですけど、天然痘ですし、不愉快な犬も飼っています。でもそれだけで、看護がなくて見殺しにしたいとは思いませんから」
「あなたはいいひとだ、ピーター」医師は、責任を肩代わりをしてくれる女がみつかったときに男が見せるような安心したようすで言った。
私は天然痘にかかっているあいだアレキサンダー・アブラハムの看護をした。それほど大変でもなかった。アブラハムは病気でないときより病気のときの方が親しみやすかった。病気もひどくはなかった。一階はすっかり私の支配下で、ライリーとウィリアム・アドルフはライオンと子羊のようにいっしょになって横になっていた。私はちゃんとライリーにえさをやったが、一度、あんまりさみしそうに見えたので、用心しながらなでてやった。思ったよりはよかった。ライリーは頭をもちあげ、私をみた。私はその目をみて、いったいどうしてこんな猛獣をアレキサンダー・アブラハムがかわいがっているのか不思議に思っていたのを思い直した。
アレキサンダー・アブラハムがおきあがれるようになると、感じがよかった時間の埋め合わせをはじめた。病気から回復しているあの男より皮肉なものは想像できない。ただ私は笑いかけるだけにした、それだけで彼がいらいらすることがわかったからだ。もっと彼をいらいらさせるために、私は家中をふたたびきれいにした。しかしなんといってもアブラハムを困惑させたのは、ライリーが私のあとをついてまわり、しっぽといえるようなものを私にふったことだろう。
「平穏な私の家にずかずか上がりこんで、めちゃくちゃにするだけじゃ十分じゃなくて、私の犬の愛情まで引き離すとはね」アレキサンダー・アブラハムは文句をいった。
「私が帰れば、またあなたのことが好きになりますよ」私はやさしくそう言った。「犬はそんなことはめずらしくありませんからね。ただ骨がほしいだけなんです。猫は無欲ですよ。ウィリアム・アドルフは私への愛情をなくしたりしたことはないですから。たとえあなたが、食料部屋でこそこそとクリームをやっててもね」
アレキサンダー・アブラハムはあんぐり口をあけていた。私が知ってるとは思わなかったのだ。
私は天然痘にはかからず、次の週に医者がきて、警官を帰した。私は殺菌され、ウィリアム・アドルフは消毒された。そして帰ってもよいことになった。
「さようなら、ベネットさん」私はなにもかも許す気持ちで握手をもうしでた。「私がいなくなってさぞかしうれしいことでしょうが、私も帰れてあなたと同じくらいうれしいですよ。この家も一ヶ月もたてば以前よりもっときたなくなるんでしょう。ライリーも少しは身につけた礼儀正しさをなくしてしまうんでしょうね。男や犬を矯正しても、心からってわけにはいきませんからね」
すてぜりふを残して、私はアレキサンダー・アブラハムを見るのもこれで最後だと思いながら、家をでた。
もちろん、自分の家に帰るのはうれしかった。でもものさびしい気もした。猫は私を人見知りしたし、ウィリアム・アドルフはさみしそうにうろつきまわり、まるで追放されたようなようすを見せた。なんだか自分のことでおおさわぎするのもばかばかしくて、料理をするのもいつもほどは楽しくなかった。骨をみれば、ライリーを思い出した。近所のひとたちは、私がいつなんどき天然痘にかかるかもしれない恐れを捨てられなくて、ひどく私を避けた。日曜学校のクラスは他の女性がうけもっていたし、私はすっかりどこにも属してないように感じた。
私はアレキサンダー・アブラハムがとつぜん姿をあらわすまで、二週間こんなふうにしていた。アブラハムはある夕方に歩いてきた。ただ一目見ただけでは、彼があんまり身なりがきれいでひげをそっていたので、誰だかわからないほどだった。でもウィリアム・アドルフはすぐにだれだかわかって、信じてもらえるかどうか、ウィリアム・アドルフが、私だけのウィリアム・アドルフがその男のずばんのところに身をすりよせ、心から満足の意を表した。
「わたしは来なきゃならなかったんだ、アンジェリーナ」アレキサンダー・アブラハムは言った。「もうこれ以上がまんできなかったんだ」
「私の名前はピーターですけど」私は冷たくそう言いはなったけれど、なんだか悪い気はしなかった。
「そうじゃない」アレキサンダー・アブラハムは頑固に言った。「わたしにはアンジェリーナなんだ、それにこれからもずっと。君のことをピーターとはよばないよ、絶対。アンジェリーナが君にはぴったりだよ。アンジェリーナ・ベネットはもっとぴったりだと思うんだけど。帰ってきてくれないか、アンジェリーナ。ライリーも君を恋しがっているよ。もうわたしは自分の皮肉をわかってくれる人がいないことにはやっていけないんだ。だって君がわたしのことをそれに慣らしたんだよ」
「他の5匹の猫はどうするの?」私はたずねた。
アレキサンダー・アブラハムはため息をついた。
「5匹ともきてもらわないと」とため息をついた。「まちがいなくかわいそうなライリーを家から追い出してしまうだろうなぁ。でもライリーなしでも生きてはいけるけど、君なしでは生きてはいけないんだ。はやければいつわたしと結婚してくれるかな?」
「あなたと結婚するつもりだなんて言ったおぼえはないけど」私はいままでとおり辛らつに言った。でも気持ちはそうでもなかったけれど。
「あぁ、でも結婚してくれるよね?」アレキサンダー・アブラハムは心配そうに言った。「結婚してくれないなら、天然痘で死なせてくれたほうがよかったよ。おねがいだ、いとしのアンジェリーナ」
男が私のことを「いとしのアンジェリーナ」なんて呼ぼうとは思いもよらなかった! しかも私がまんざらでもないなんて!
「私の行くところには、ウィリアム・アドルフもいっしょです」私は言った。「でも他の五匹の猫は、ライリーのためにあきらめますわ」