b週間翻訳日記:週間で、ある単位を目安に翻訳していきます。
特に誤訳、誤字などの指摘があったらメールください
翻訳を取りまとめときましょうか。もちろんプロジェクト杉田玄白でも手に入ります。![]()
ごちゃごちゃ言い訳してないでちゃんとクリスマス前になんとか終えた、のかな? もう少し見直さないと。
で、ちなみにピーターパンの最後も指摘をいただいて直してます、ご指摘ありがとうございます
クリスマスキャロル全訳ごちゃごちゃ言い訳してないで進めますか。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
しかしまもなく協会の尖塔の鐘が教会や礼拝堂へと善良な人々を呼び集め、みんなせいいっぱい着飾って通りへとあふれ、その顔も喜びにあふれていた。それと同時にありとあらゆる横道、路地、名前もついてないような曲がり角から大勢の人が、みずからの夕食を手にパン屋へと姿をあらわした。そういった貧しい人々のどんちゃんさわぎはいたく精霊の興味をひいたようだった。というのは精霊はスクルージとともにパン屋の入り口に立ち、食事を運ぶものがパン屋を通り過ぎるときにその覆いととると、カンテラから夕食へと香料をふりかけたからだった。たいまつはふつうのものとは全く違ったもので、一度ならず二度、夕食を運んでいるものがおしあいへしあいで怒号がとびかうと、カンテラから数滴しずくをふりかけると、すぐに騒ぎはしずまった。かれらは口々に、クリスマスに喧嘩なんて恥ずかしいにもほどがあると話すのだった。たしかにその通りだった。神もまったくそうであることを望んだだにちがいない。
そのうちベルがなりやみ、パン屋も店を閉めた。ただ運ばれていた夕食の前方や料理の進む先にはあたたかい影のようなものがあり、パン屋のオーブンの上で水が蒸発するように、舗道の上で石が調理されたかのように湯気をあげていたのだ。
「カンテラからふりかけていたのは特別な香料ですか」スクルージは尋ねた。
「あぁそうだよ、私の香りだよ」
「今日のどんな料理にも合うんですか?」
「どんな種類でも。とくに貧しいものの食事にはね」
「なぜ貧しいものの食事に合うんでしょう?」
「いちばん必要としているからだよ」
「精霊さま、」スクルージはしばし黙り込んだあと続けた「なんだってわしたちの世の中のすべての存在のなかで、あなたがそうした貧しい人々のむじゃきな喜びの機会をうばうたいとおもっているのか、わしには全く不思議です」
「わたしがかい」精霊は声を大きくした。
「あなたは七日おきに貧しい人々が夕食を得る手段をうばってるじゃありませんか。とくにこういった夕食が必要な日に」スクルージは言った「そうじゃありませんか」
「わたしがかい」精霊は繰り返した。
「あなたがこうした場所を七日おきに閉めるようにしてますよね」スクルージは続けた「だから結局同じことになるんじゃないでしょうか」
「わたしがかい」精霊はさけんだ
「間違っていればお許しください。ただあなたの名のもとや少なくとも同じようなものの名のもとでそういうことが行われてきているのです」
「たしかにおまえたちの世の中ではそういうこともあるようだ」精霊は答えた。「わたしのことを知ってると声を大きくしながら、自分の欲望やプライド、悪意、憎悪、ねたみ、偏見、身勝手さをわたしの名のもとに行い、まったく存在したことがなかったもののようにわたしやわたしの知ってるものからしてみれば、全くなじみがないものたちなんだ。それをおぼえておいてくれ、やつらの行為は全くもってやつらのせいで、わたしたちのせいではないよ」
スクルージはそうすることを約束し、二人は先をいそいだ。前といっしょで姿はみえなかったが、街の郊外へと足をふみいれた。精霊のすばらしい能力で(スクルージはすでにパン屋で目にしていたが)それほどの巨体にもかかわらず、どこにいてもさして苦もなく体をあわせ、天井の低い屋根の下でも、まるで天井の高いホールでそうしているように、摩訶不思議な存在として優雅に立ち振る舞うことが可能だった。
だからたぶん善なる精霊がまっすぐスクルージの店員の家へといそいだのは、こうした能力をみせつけるのが楽しかったからか、あるいはやさしい、親切な、心温まる性根、そして貧しいすべての人々への共感のせいだったのだろう。精霊は道をいそぎ、スクルージは精霊のローブをつかみ同行していた。そしてドアの戸口のところで微笑み、立ち止まってBob Cratchitの住まいをカンテラからのしずくで祝した。考えても見れば、Bobは自身週に15bob(シリングの俗称)をえるにすぎなかった。毎土曜日に自分と同じ名前のものを15枚手に入れるわけだ。現在のクリスマスの精霊は、かれの4つの部屋の家を祝福したのだった。
それからCratchitと妻はたちあがり、妻は二回は裏表にしたガウンを羽織って、それはみすぼらしいものだったがリボンをつけ飾っていた。リボンも安物だったが、6ペンスにしてはみばえがよかった。同じようにリボンでかざりたてていた二番目の娘の Belinda Cratchit の助けをかりテーブルクロスを拡げると、そのときご子息のPeter Cratchit はじゃがいもを煮ていた鍋の中にフォークをつきたて、ぶかっこうなシャツの襟の両端をくわえながら(そのシャツはもともとはボブの持ち物だったが、クリスマスのお祝いとして息子にして後継ぎへと譲り渡されたもの)、きちんと礼装したのが自分ながらにうれしくて、友達の集まる公園に行ってリネンのシャツの襟をみせびらかしたくてたまらなかった。そこへ弟と妹がパン屋の外で七面鳥のにおいをかいだと騒ぎ立て、それが自分たちのだと知って、いそいで駆け込んできた。ぜいたくなサルビヤやたまねぎが食べられると思って、子供たちはテーブルの周りで踊り、大いにPeter Cratchit をほめそやした。Peter Cratchit は別に誇らしげではなく、襟で首をきつくしめられ窒息しそうになっていたが、ゆっくり煮えるじゃがいもが外にだしてくれ、外をのぞかせてくれとふたをたたいて煮あがるまで、火を吹いておこしていた。
「お父様はどうしたんだろうね?」Cratchit夫人は話しかけた。「それにおまえの弟のちびっこのトム。それにマーサは去年のクリスマスは30分も遅れなかったのにねぇ」
「マーサがきたよ」妹が姿をみせ教えてくれました。
「マーサがきたぜ」二人の男の子たちがさけびました。「ほーら、七面鳥だよ、マーサ」
「ほら、よくかえってきたね、おまえ、なんだってこんなに遅かったんだい」母親はそういうと、十回は娘にキスをして、ショールや帽子をぬがすのをおせっかいにてつだった。
「昨晩で終わらせなきゃいけない仕事が山ほどよ」娘は答えた。「今朝までに片付けなきゃいけなかったわけ、お母さん」
「はいはい、来てくれたんだからもう気にしないわ」母親は答えると「暖炉の前におかけなさい、あったまるのよ」
「だめ、だめ、お父さんが帰ってきたよ」いたるところに姿をあらわす男の子二人組がそうさけぶと「隠れて、マーサ、隠れなよ」
マーサが隠れると同時に、ふさをのぞいて少なくとも3フィートは襟巻きを前にたらしながら小さなボブが帰ってきた。着古した服はつぎはぎだらけだが、クリスマスにふさわしくよくブラシがかかっていた。ちびっこティムは肩車をしてもらっていた。かわいそうに、小さな義足をつけていて、両足を鉄製の器具で支えていた。
「おい、マーサはどこだい」ボブ・クラチェットは、あたりをみまわしながら声を大きくした。
「まだ帰ってこないのよ」とクラチェット夫人は答えた。
「まだだって」ボブは、高揚していた気分がすっかり落ち込んだというように言った。じっさいのところ教会からの道すがらずっとティムを肩車し、息せき切って家にかえってきたのだった。「クリスマスだというのにまだ帰ってきてないんだ」
マーサは、冗談にせよ父親ががっかりしているところを見ていられなかったので、クローゼットのドアの陰から早々に姿をあらわし、父親の胸にとびこんでいった。そうこうしているあいだに二人の息子はちびっこティムを急かして、プディングが蒸されている音を聞かせるために台所につれていった。
「ティムはどうでした?」クラチェット夫人は、夫がだまされやすいのをひやかしながら言った。ボブは娘をだきしめてすっかり満足していた。
「まったくすばらしかったよ」ボブはそう言うと「よかったよ。あんなに長く一人きりでこしかけていたから考え込んだんだよ。思いもつかないことを考えてたよ。帰り道で私に言うんだよ。教会でみんなに自分のことをみてほしいと思ったってね。その理由がふるってて、あいつは足が不自由だろ、だからみんながクリスマスに足が不自由な人が歩けるようになって、目が見えない人が見えるようになったっていうのを思い出してくれれば、幸せな気分になるんじゃないかっていうんだ」
ボブの声は話しながら震えていて、そしてちびっこティムが元気でたくましく育っているといったときにはもっとその声は震えていた。
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だから夏にクリスマスキャロルは、いくら冷夏だからって想像力の限界に挑戦する取り組みなんだよな。こういう暑くてだるいときはグレートギャッピーのあの章とかがめちゃくちゃ上手く訳せそう。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
その理由はといえば、家の屋根の上で雪かきをやっている人たちが陽気で、歓声をこれでもかと上げていたからだ。屋根のへりのところからお互いに話しかけたり、ときどきは口で言う冗談よりもよっぽど楽しい口撃である、雪合戦をやり、あたったといっては心から楽しそう、あたらなかったといっては残念そうにしていた。七面鳥をあつかう店はもう半分開業休店状態だったが、一方果物をあつかう店はかなりにぎわっていた。形がまるで陽気な老紳士のチョッキのような、大きくまんまるでだるま型のクリが入った籠があり、ドアのところにもたれかかっていたり、ふくれすぎて表にまで転がったりしているものがあった。色つやのいい、茶色のまんまるとしたスペインタマネギがあり、その肥え具合はスペイン修道士さながらで、とおりすぎる女性たちにいやらしい目つきで棚の上からウィンクしてみせたり、おどおどとつるされてるヤドリギの方をみつめたりしていた。なしとりんごも巨大なピラミッドのようにつみあげられ、とおりがかりの人たちの渇きを潤すようにとの店主の寛大さでぶどうが人目につくようにぶらさげてあった。こけのついたいい色のハシバミの実も山とつまれていて、その香りはくるぶしまで落ち葉にうもれながら歩いた楽しい散歩を思い起こさせた。ノーフォーク産りんごも、とれたてでよく日に焼けていて、オレンジやレモンの色合いを補ったり、ひきしまったジューシーさで、どうか紙袋でお持ち帰りいただいて夕食後に召し上がってくださいと懇願しているかのようだった。金魚や銀色の魚がこうしたフルーツのあいだの金魚鉢にいれられて飾られていたが、こうした頭のにぶく血の巡りのわるい連中にも何がおきているのかわかっているように思われた。魚たちもゆっくり興奮を表にださず、その小さな世界を息もたえだえに回遊していた。
食料品屋、えぇ食料品屋は、シャッターを一〜二枚ほどおろしほぼ店を閉めかけていましたが、開いている場所は盛況なものでした。カウンターの上で天秤皿が陽気な音をたてているだけではなく、糸と滑車は天秤皿をいきおいよく動かし、おかげでジャグリングでもしているかのように天秤皿は上下していた。紅茶とコーヒーの香りが鼻をつき、レーズンは極上のものがたっぷりあり、アーモンドはこれでもかというほどまっしろで、シナモンはまっすぐで長く、その他の香辛料もとても香ばしそうだった。砂糖漬けの果物が溶けた砂糖でしっかりかためられ、それにはいかなるそっけない見物人でも気が遠くなり、しまいにはおこりっぽくなるほどだった。またいちじくは汁気が多く熟れていて、フランス産のプラムは赤みがかって、適度なすっぱさで箱の中にきれいに陳列されていて、なにもかもが食べごろでクリスマスのよそおいをしていた。ただお客さんたちはみなこの日にうかれてせかせかしていて我先にとほしがり、ドアのところでおしありへしあいになり、買い物かごはひどくぶつけあうは、カウンターの上に買い物を忘れてまた急いで取りに帰るなど、そういった間違いを数限りなくこれ以上ないほど上機嫌で繰り返すのだった。一方食料品屋の店員たちはあまりに機嫌よく生き生きとしており、エプロンを後ろでとめている心臓の形をしたかざりは、まるでみんなに見てもらうように、自分たちの心臓をクリスマスのコクマルカラスがほじくりかえしたとでもいうかのようだった。
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さぼりがちだけど、クリスマスには間がありすぎるものなぁ、笑
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
セイヨウヒイラギ、赤い木の実、蔦、七面鳥、がちょう、鳥獣、家禽、ブローン、肉、豚、ソーセージ、牡蠣、パイ、プディング、フルーツ、ポンチはすべてただちに消え去った。そして部屋の暖炉の火、赤い光も消えてなくなり、時間も夜から、クリスマスの朝になって街頭に二人はたちつくしていた。寒さがきびしく、人々はそうぞうしいがきびきびとした気持ちのいい音をたてて、自分たちの家の前や屋根の上の雪かきをしていた。男の子にしてみれば屋根から雪が下の道路にズシンと落ちて、自分が小さな雪嵐をおこせるのをみるのは何物にもかえがたい喜びでした。
屋根の上につもった真っ白な一面の雪や、地面につもったそれよりは汚れた雪とくらべても家や窓はくろずんでみえた。地上に積もった雪には馬車や荷馬車の車輪で深いわだちができていた。わだちは大きな通りが交差するところでは、何百回となく交差しており、いりくんだ形になっていて、黄色っぽい厚いどろや氷で跡をたどるのはむずかしくなっていた。天候もさえず、みじかい通りでさえどんよりした霧がはんぶん溶けてはんぶん凍っていて、息苦しくなりそうだった。その霧の重い粒がすすのシャワーとなってふりそそぎ、まるでイギリス中の煙突がそろって、火をつけ、思う存分すすをはきだしているといった具合だった。天候にも街のようすにも心がうきたつようなところはどこもなかったが、それでもすみきった夏の大気やすがすがしい夏の太陽がどれほどかきたてようとしてもできないような楽しげな雰囲気が街じゅうにただよっていた。
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これくらいのペースだったら何の無理もなく一生翻訳つづけられそう、ってそんなわけもなく、いつかは終わりもくるわけだけど。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
スクルージは敬意をはらって幽霊を見た。緑色の上着というか外套を一枚はおっており、それは白い毛皮でふちどられていた。このふくはあんまりゆったりしていたので、広々とした胸がはだけられており、それはまるでどんなものでもさえぎったり隠したりできないとでもいうようだった。足はうわぎの大きなひだの下から姿をのぞかせており、やはりむきだしで、頭といえばヒイラギの冠のほかはなにもなく、その冠のあちこちにはつららが光っていた。黒い髪の毛はながくゆったりとカールされていた。そのゆったりさ加減は、にこやかな表情、活気のある目、開いた手、華やいだ声、くつろいだ物腰や楽しそうな雰囲気にみられるものと同じだった。腰の周りには、アンティークなさやをぶらさげていたが、刀は入っておらず、その古いさやもさびだらけだった。予告とおりぼちぼちと
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
スクルージの手がノブにかかった瞬間に、奇妙な声でスクルージの名が呼ばれ、中へとはいるように命じ、スクルージもそれにしたがった。よく考えてみればこの訳はじめたのは戦争の開始からだったけど、終わりはやっぱりクリスマスで、クリスマスに杉田玄白に公開だよなー。クリスマスまでまだずいぶん間があるような、今週から一文ずつにしなきゃ(笑)
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
第三章:三人のうち二人目の幽霊
大きな響くいびきをかいている最中にスクルージはとつぜん目をさまし、ベッドにこしかけて、頭をはっきりさせようとしたが、すぐに鐘がふたたび一時をしらせるのがわかった。まさしくいい時間に目がさめたものだと思った。というのは、ジェイコブ・マーレーの招きによる使者の二人目との会合をもつという特別な目的があったのだから。ただ、こんどの幽霊はどのカーテンをひいてでてくるのかと考え始めたら、ひどく寒気がしてきたので、自分の手であらかじめカーテンを片側に寄せてしまって、ふたたび横になった。ただベッドのまわりを注意深く見回しながらだが。そう、幽霊がでてきた瞬間からしっかり心構えをしたいからで、不意をつかれて驚くようなことにはなりたくなったのだ。
むとんちゃくな種類の紳士というものは、抜け目がなくいつも時間にうるさいが、自分がコイントスから殺人にいたるまであらゆることができるのだといって、どんな冒険でもできる能力をほこるものである。なるほどたしかに、このコイントスと殺人のあいだには、ありとあらゆる物事がふくまれるといった具合だろう。スクルージがこれほどのことをするわけではないが、わたしとしてはみなさんにスクルージが不思議なものごとが起こるうちのかなりの広範囲のことにたいして覚悟ができていたと信じているといってもかまわないと思う。それに赤ん坊からしかばねに至るまでの何がでてきても、それほどスクルージをおどろかせないだろうということも。
さて、ほとんどありとあらゆることに覚悟ができていたが、スクルージは何も起きないということには準備が整っていなかった。そして鐘が一時をしらせても、何も姿をあらわすものはなかった。スクルージはひどい身震いを感じた。五分、十分、十五分がすぎたが、何も起こらなかった。このあいだずっとスクルージはベッドに横たわっていて、炎のような赤みがかかった光のまさに真ん中にいた。その光は時計が時間をしらせたときから拡がったものである。ただの光だが、スクルージにはそれが何を意味しているのか、あるいは意味するのか全くわからなかったので、何十もの幽霊よりずっと恐ろしいものに感じられた。ふと頭によぎったのは、そうと分かればほっとできるものを分からずに、自分が自然発火現象のめずらしいケースに遭遇しているのではなどということだった。ただ、とうとう、わたしやみなさんなら最初に思い当たっただろうことに、スクルージも思い当たった。まあ当事者というものはいつも、何をしなければならないのか、明らかにしなければならないことが分からない状態にあるものだから。で、とうとうスクルージは、この不思議な光がきている源と秘密がとなりの部屋にあるらしいということに思い当たった。たどっていくと、そのあたりから光が発せられているようだった。この考えが心の全てを占めてしまい、スクルージはゆっくり起き上がると、スリッパをつっかけてドアの方へとむかった。
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クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
別の光景が目の前にはくりひろげられていて、ある部屋が、それほど大きくはないがきちんとしていて、快適そうな部屋があった。冬の暖炉の前には一人の美しい女性がこしかけており、スクルージは女性の向かいにすわっている美しい母親の婦人を見るまでは、その女性が前にみていた女性と同一人物だと思ったくらいだった。この部屋は騒々しく、スクルージの高ぶった気持ちではかぞえられないほどの子供であふれていた。詩の中の有名な羊の群れとはちがって、一つになって行動する四十人ではなく、四十人がそれぞればらばらに行動するのだった。結果はといえば、信じられないくらいの騒々しさということになろうか。ただ誰もそれを気にしている様子はなかったし、それどころか母も娘も心から笑顔をうかべており、とても楽しんでいた。娘の方は遊びの輪にくわわり、残虐にも山賊たちに略奪されてしまった。わたしもかれらにはなんでも呉れてやっただろう。ただあんなに乱暴にはしない、そう、決して。どんな富をつまれても、あのゆわえられた髪をくしゃくしゃにしたり、ほどいたりはしない。あの小さなかわいらしい靴ときたら、わたしなら決してむりやり脱がせたりはしない、あぁなんてことだ、どんなことがあってもそうはしない。かれらがしたようにたわむれに彼女のウエストを測るなんて、ずうずうしい若造たちめ。わたしならそんなことは決してできない。そんなことをしようものなら罰として腕が曲がったままになって決してふたたびまっすぐになることはないだろう。で、本当のことを言えば、わたしは彼女のくちびるにふれたかったのだ。彼女にいろいろ聞いて、そのくちびるが開き、伏目がちな目がまばたきするのをみて、顔を赤くしたくなかったのだ。髪をほどいて、その髪のほんのちょっとでも値段がつけられないくらいのものなのだが。そうわたしは、言わせてもらえば、いかにも子供の権利をもちながら、その価値を十分に知っているくらいの大人になりたかったのだ。
でもノックの音がして、それにひきつづいてすごいドアへの殺到があり、彼女は笑って着ているものはめちゃくちゃなままで、ドアに向かってどっと押し寄せた騒々しい一団の真ん中にいた。まさしくお父さんの出迎えで、お父さんはクリスマスのおもちゃやプレゼントをたくさんかかえて家に帰ってきたところだった。そして大声があがり、うばいあいが起きて、無防備な荷物運びへといっせいに襲いかかった。椅子をつかってお父さんによじのぼり、ポケットをさぐるかと思えば、茶色の紙包みを奪い取り、ネクタイをひっぱり、くびまわりにしがみつき、背中をたたき、元気一杯といったようすでお父さんの足をけりつけたりしていた。包みが開かれるたびに、驚きと喜びのさけび声にむかえられた。赤ちゃんがおもちゃのフライパンを食べ
ゃったとか、それからおもちゃの七面鳥を木のお皿ごと飲み込んじゃったみたいだなどという声があがった。これはすぐにぜんぶでたらめだってことがわかってほっとしたが。歓喜と感謝と興奮があった。どれも表現できないほどだが、子供たちとその騒々しさが居間をでて、一段一段、階段をのぼりベッドに行って、ようやく落ち着いたくらいとでも言えばいいだろうか。
スクルージは今までよりいっそう注意深くみていたが、この家の主人が娘がもたれかかるままにしながら、ゆったりと奥さんといっしょに暖炉のそばに腰をおろしていた。そしてちょうどこんな娘が、優美で前途洋洋たる娘が、自分のことをお父さんなどと呼んでくれたら、自分の味気ない冬の人生の春のひとときとなるのにと考えていたら、視界が涙でうるんできた。
「ベル」主人は奥さんに笑顔で声をかけた。「今日の午後、君の古い知り合いに会ったよ」
「誰かしら」
「あててごらん」
「わからないわ、えーっと、だめ、わからない」と一呼吸おいて、旦那さんといっしょに笑いながら「あぁ、スクルージさんね」とつけ加えた。
「そう、スクルージさんだよ。事務所の前を通りかかって、閉まってなくて中であかりを灯していたから、のぞきこまずにはいられなかったよ。かれの共同経営者は今にも死にそうだと聞いたけどね。一人きりで座ってたよ。まったくのひとりぼっちなんだろうと私は思うな」
「幽霊さん」スクルージはしゃがれ声で頼んだ。「ここから帰してください」
「これらは全部過去の影だといったと思うが、」幽霊は答えた。「これがありのままの姿であって、わたしに文句をいうのは筋違いだよ」
「帰してください」スクルージは声を大きくした。「わしには耐えられん」
スクルージは幽霊の方をふりむくと、その顔にはいままで見てきたようないろいろな顔の一部が奇妙にからみあっているように見えて、しばらく見つめあった。
「ほっといてください、帰してください。これ以上わしにかまわんでください」
こうしてもめていると、もし幽霊それ自体にはなんら目に見えるような抵抗せず、相手になんにもしていないのに、それがもめているといえればだが、スクルージには幽霊の光がいっそう明るく、かがやくようにみえた。それが自分に与える影響とばくぜんとむすびつけて、灯りをけすカバーをつかむととつぜん幽霊のあたまにそれをかぶせた。
幽霊はその下にかくれ、カバーで体全体が隠れた。ただスクルージは全力でおさえつけたが、明かりを消すことはできなかった。明かりはその下から切れ目ない光の洪水として地面にもれていた。
スクルージは自分がつかれはてて、どうしようもなく眠気を感じた。それで自分が寝室にいることがわかった。カバーに最後の一押しをして、手が緩んだ。そしてベッドに倒れ込むかこまないうちに、深い眠りについた。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
これはスクルージに向かっていったのでも、目に見える誰に向けたというのでもなかったが、すぐさま効果があった。ふたたびスクルージは自分の姿を目にすることになった。少し年をとり、青春をむかえていた。スクルージの顔には年をとったときの厳格さや厳しい様子が見られなかったが、不安と貪欲さの兆候は見受けられた。目にはいきごんでいる貪欲さ、落ち着きのない様子があり、それはすっかり性格に根をおろした情熱を示しており、大きくなっていく木がその影を落とすだろうところでもあった。
一人ではなく、喪服をきた美しく若い娘がそばにこしかけていた。その目には涙があり、過去のクリスマスの幽霊による光のできらめていた。
「なんでもないことだわ」娘は優しく口にした。「あなたにとってはどうでもいいこと。他の幻想がわたしにとってかわっただけですもの。もしわたしがそうしようとしてきたように、これからそれがあなたを勇気づけて喜ばせるなら、わたしが悲しむ理由はなにもないわ」
「どんな幻想が君にとってかわるっていうんだい」スクルージは口をはさんだ。
「お金よ」
「それが世の中の公平な扱いというもんじゃないのかな」スクルージは続けた。「貧乏ほどつらいものがあるかい。豊かになろうと一生懸命になることほど否定しようとするのが難しいものはないな」
「あなたは世の中を恐れすぎているの」娘はやさしく答えを返した。
「あなたのお金以外への希望はすべて、お金に関する非難をうけたくないという希望になってしまったの。わたしは、あなたの高いところをめざす大志がひとつひとつ無くなっていくのを目の当たりにしたもの。で、結局、儲けることだけでしょ、あなたの心をしめているのは。そうじゃないの」
「だからどうだっていうんだい」スクルージは答えた。「ぼくが年をとってそれだけ賢くなったからといって、それがどうしたっていうんだよ。君に対する態度は変わらないじゃないか」
娘は頭をふった。
「変わったとでもいうのかい」
「わたしたちの約束は昔のことだわ。貧しかったけど、それでも満足してたころのね。近い将来に一生懸命がんばればこの世の豊かさはすこしづつよくなっていくと思えたもの。あなたは変わったわ。変わって、別の人になってしまったの」
「ぼくは子供だったんだよ」スクルージは我慢強くいった。
「自分でも昔の自分ではないことは分かるでしょう」娘は答えた。「わたしにも分かるわ。二人の心がひとつだったときに幸せを約束してくれたものは、心がばらばらになってしまった今となっては惨めなだけよ。どれくらいたくさん、そして真剣にわたしがこのことを考えたと思う? 言いたくないけど。そのことを考えて、あなたと別れるっていうことで十分でしょう」
「ぼくが別れて欲しいって言ったかい」
「言葉の上では、たしかに言ってないわ」
「じゃあどうやって言ったんだい」
「性格がかわり、心がかわり、生活態度がかわって、最終目標である希望が変わったことで。あなたがみて、わたしの愛をすこしでも価値がある貴重なものとしてくれた全てのことで。もしそんなものがわたしたちのあいだになかったとしたら、」娘は、穏やかだがしっかりとスクルージを見据えてつづけた。「いってください、今わたしのことを探し出してわたしの愛を勝ち取ろうとするかしら? なんてことでしょう」
スクルージはその推測が当たっていることに我を忘れて屈しそうに見えた。でもなんとかふりしぼってこう答えた。「本気でそう思ってるわけじゃないだろう?」
「もしそうならどんなに嬉しいことでしょう」娘はそう答えると、「確かに心からそう思ってるのよ。わたしがこの真実をさとったとき、真実がいかに強いものであらがえないものなのかを知りました。でももしあなたが今日も、明日も、昨日も自由になったとしても、わたしがあなたが持参金をもたない女を選ぶなんてことは信じられないわ。どんなに親しい仲でも、なにより損得を大事にするあなたがね。でも一時の気まぐれで自分の主義に反して、そういう女を選んだとしても、あとになってぜったいあなたが後悔してくやまないとわたしは確信できないわ。いやあなたは絶対後悔するわ。わたしはあなたと別れてあげます。あなたのことを思って、あなたのかつての愛のために」
スクルージは口を開こうとしたが、娘の顔はスクルージを避けたままで、娘が続けた。
「あなたもこのことで心を痛めるかも。過去の記憶であなたがそうであってほしいと思うけど。でもとってもとても短い時間のこと。一円のお金にもならない夢として、そんな思い出は喜んですてるでしょうから。目がさめてよかったと思ってね。どうかあなたの選んだ道でお幸せに」
娘はそういってスクルージのもとを離れ、二人は別れた。
「幽霊や」スクルージは言った。「これ以上見せんでくれ。家につれてかえってくれ。こんなにわしを苦しめてうれしいかい?」
「もう一つだ」幽霊は断言した。
「もういやだ」スクルージは声をあらげた。「もう十分だ。見たくない。もう見せないでくれ」
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
その瞬間に二人はそうした人々をあとにして学校を離れ、街の人通りの激しい大通りにやってきた。その大通りでは影のような通行人が行き来をしており、影のような荷車や馬車が道をあらそっていた。そうした争いと騒ぎはまるで本当の街そのものだった。店のかざりをみれば、今が再びクリスマスの時期であることは明白だった。でももう夕方で、通りはライトアップされていた。
幽霊は、一軒の店のまえで立ち止まり、スクルージにここを知っているかたずねた。
「知ってるかだって」スクルージはさけんだ。「わしはここで丁稚奉公してたんだ」
店にはいっていくと、ウェールズ風のかつらをつけた老人が高い机のむこうに座っているのが目に入った。もしもう二インチほども背が高かったら、天井に頭をぶつけたに違いない。スクルージは興奮して大声をだした。
「あぁ、フェジウィッグさんだ。なんてことだ、フェジウィッグさんが生き返った」
フェジウィッグはペンをおき、時計をみあげ、それは7時を指していた。両手をこすると、ゆったりしたチョッキをただし、つまさきから慈悲を感じる部分までをふるわせ一人で思い出し笑いをした。そして耳に心地よい、テンポのいい、ふかみのある、豊かで楽しげな声で名前をよんだ。
「おーい、エベニーザーや、ディックや」
昔のスクルージはもう若者になっていて、急いでいっしょの見習いと部屋にはいってきた。
「確かにディック・ウィルキンだ」スクルージは幽霊にささやいた。
「なんてことだ、そう、あいつに違いない。わしとどこに行くのでもいっしょだった。ディックだ、そうディックだ。あぁ」
「さて、おまえたち」フェジウィッグは話しかけた。「今晩は仕事はおわり。クリスマスイブだものな、ディック。クリスマスだぞ、エベニーザー。店を閉めるんだ」フェジウィッグはぱんぱんと両手をたたきながら、声を大きくした。「ただちにな」
そして見習二人がどんなふうに取りかかったかはみなさんには信じられないほどでしょう。とおりに戸板をもってとびだし、一、二、三、戸板をはめこみ、四、五、六、横木をわたし固定して、七、八、九、とみなさんが十二まで数え終わらないうちに競走馬のように息をきらしてもどってきました。
「でかした」フェジウィッグはさけぶと、高い机からすばらしい身のこなしで飛び降りて、「片づけるんだ、ぼうやたち。ここにスペースをつくろう。そらそら、ディック。ほらほら、エベニーザー」
片づけ。フェジウィッグがみていて、片付かないもの、あるいは片づけられないものは何もなかった。すぐに片づけがおわり、動かせるものはまるで永遠にみんなの目前からなくなってしまうかのように片づけられた。床をはき、水がまかれ、ランプは調整され、暖炉には燃料がたっぷりくべられた。お店は、気持ちのいい暖かな、すっきりとした輝くダンスルームになった。冬の夜にはだれもが目にしたいと望むようなところだ。
そこに楽譜をもったフィドル奏者がやってきて、高い机に陣取り、そこを音楽をかきならす場所として、50人もの胃が痙攣しているかのようにチューニングをした。満面に笑みをうかべたフェジウィッグ夫人がやってきて、三人の明るく愛らしいフェジウィッグの娘たち、娘たちに心を奪われた六人の若者たちもやってきた。召使もいとこのパン屋をつれてやってきた。コックは、兄の親友だという牛乳配達をつれてやってきた。わざわざやってきた男の子もいて、どうやら主人からは満足に食べさせてもらってないようだ。隣の店の少女の影にかくれながらやってきて、ただ少女も店主に耳をひっぱられてやってきたことがわかったのだが。次から次へと人がやってきた。恥ずかしそうに入ってくるものもあれば、堂々としているものもいて、上品なものもいれば、下品なものもいて、引っ張ってくるものがあれば、引っ張られてくるものもいた。とにかくもともかくも、みんながやってきた。すぐに20組の組み合わせができ、手をとりあって部屋を半分まわり、反対側を引き返してきた。部屋の真ん中まで行っては引き返してきて、仲の良いグループがさまざまな形でくるくるまわって踊っていた。先頭のカップルはいつも間違った場所で曲がっていって、新しく先頭になったカップルがその場所にくるとすぐに再び同じことを繰り返し、しまいには列の最後までばらばらになってしまった。そうなったところで、フェジウィッグが手をうちならしてダンスを止めさせて、大声をあげた。「いいぞ」そしてフィドル奏者は火照った顔を、特別そのためにあつらえられた冷たい水にひたした。ただ休んでいられるかとばかりに、顔をあげ、すぐに再度演奏しはじめた。ただまだダンスをするものがいなかったので、まるで前のフィドル奏者がつかれはてて家に説いたにのせて連れて帰られ、彼は新しい奏者ですっかり前の奏者に打ち勝つか、死ぬまでがんばるといった具合だった。
ダンスはもっとつづき、罰金をとる遊びがあり、またダンスをやり、ケーキ、ニーガス酒、つめたいロースト肉とつめたい煮た肉がたっぷりあった。そしてクリスマスに食べるひき肉入りの小さなパイがあり、ビールがたっぷりあった。ただこの世の一番の見ものはローストや煮た肉のあとにやってきて、それはフィドル奏者(器用なやつで、あなたやわたしが命ずるまでもなく自分の仕事を心得てるやからです)がサーロジャー・デ・カバリーをうちならしはじめたときだった。そしてフェジウィッグが夫人とダンスをはじめた。それもトップとして。二人にとってはずいぶんとやっかいなダンスだったのだが。三組か四組そして二十組が進み出て、いずれもダンスに自信がある組で、歩くなんて思ったこともなくいつもダンスをしている連中だ
。
ただ倍の人数でも、いや4倍でも、フェジウィッグと夫人は立派にはりあえたことだろう。夫人もありとあらゆる点から、フェジウィッグの立派なパートナーだった。もしまだ誉めたりないというなら、もっといい誉め言葉を教えてもらえれば、それを使おう。フェジウィッグのふくらはぎからは火花がはっきりと出ているようで、ダンスとありとあらゆるところが月のように輝いていた。いつのどのときでも、次にどのようなダンスがくりひろげられるか予言することはできなかっただろう。フェジウィッグ夫妻はダンスを最後までおどり、前にでて下がり、両手をパートナーとつないで、お辞儀をして、コークスクリューやスレッド・ザ・ニードルなんかをこなし、元の場所にもどった。フェジウィッグはとつぜんダンスをとめた、ものすごく上手くとめたので、両足がウインクをして、まったくよろめくこともなく再び立ったように見えたくらいだった。
時計が11時を知らせたとき、この内輪でのダンスはお開きになった。フェジウィッグ夫妻もドアの両側の位置に立ち、一人一人出て行くときに握手をかわし、メリークリスマスと声をかけた。二人の見習をのぞいて全ての人が帰ったときに、夫妻は二人にも同じように挨拶をした。そうぞうしい声も小さくなり、見習の二人も店の奥のカウンターの下のベッドへ入った。
そうしたあいだ中ずっと、スクルージは放心した男のようだった。心は見た光景の中に入り込み、その中の自分と一体になっていた。すべてのことが本当だと確認し、すべてのことを思い出し、すべてのことを楽しみ、不思議な興奮を味わった。自分のすがたとディックの明るい顔がみえなくなってはじめて、幽霊のことを思い出し、幽霊が頭の上にとても明るいあかりを灯しながら、自分のことをずっと見ていたことに気づいた。
「なんでもないことだな」幽霊はつぶやいた。「こうしたつまらないやつらをどんなに喜ばせたって」
「なんでもないだって」とスクルージは繰り返した。
幽霊はてぶりで二人の見習の言ってることに耳を傾けろと合図した。二人は心からフェジウィッグのことを褒め称えているのだった。それから幽霊は言った。
「どうだい、なんでもないことじゃないか。あの男はこの世でいうお金を数ポンド費やしただけだろ。たぶん3、4ポンドといったところだ。これほど褒め称えられるのに値することかい?」
「そうじゃない」スクルージはその言葉に頭に血がのぼり、まるで今の自分ではなく光景の中の自分であるかのように無意識に答えました。「そんなことじゃない、幽霊さん。フェジウィッグさんは、わしらを幸福にすることも不幸にすることもできるんだ。仕事を軽くすることもつらくすることも、楽しくすることも疲れるものにすることも。その力が言葉や見かけにあるとしても、つまりささやかであまり重要でないので、加えたり、数えたりできないようなものの中にあるとしてもです。フェジウィッグさんが与えてくれた幸福は、身代を費やすほどの価値があるものですよ」
スクルージは幽霊の視線を感じて、立ち止まった。
「どうしたんだ」幽霊はたずね、
「別に」とスクルージは答えた。
「どうかしているようだがね」幽霊がいいはると、
「いや」と答え、こう続けた。「別になんでもないが、今ふっと自分の事務員にも一言か二言かけてやれればよかったなぁと思っただけです」
スクルージがこの言葉を口にしたとき、光景の中の自分がランプを消した。スクルージと幽霊はふたたび横に並んで外へと出て行った。
「時間がない」幽霊は早口でいうと「急げ」と続けた。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
スクルージの子供の姿は一瞬にして大きくなり、部屋は少し暗くそして汚くなりました。窓枠はちぢみ、窓にはひびがはいっており、せっこうのかけらが天井からおちてきて、そのかわりにはだかの下地が姿をみせていた。ただいったいどうしてこういうことが起こったのかは、スクルージにもまったくわかっていなかった。スクルージにわかっていたことは、ただこれがきわめて正しいことだということだった。なにもかもが
起きるべくして起こったことであり、そしてふたたび他の子供たちが楽しい休暇で家に帰ったのに、スクルージはまたもやひとりぼっちだった。
スクルージはこんどは本をよんでおらず、肩をおとしてうろうろ歩き回っていた。
スクルージは幽霊の方をみて、悲しげに頭をふり、心配そうにドアの方をみやった。
そしてドアがひらき、少年よりもっと小さな少女がかけこんできて、両腕を首に回してなんどもキスをして、「お兄ちゃん、お兄ちゃん」とこうふんしながら口にした。
「わたしはお兄ちゃんが家にかえってこれるようにきたの」少女は小さな手をたたいたり、わらいころげながらそういった。「家に帰ってきてよ、家に」
「家にだって、ファン」少年は答えた。
「そう」よろこびいっぱいの少女も答えをかえした。「家にね、それもずっとよ。家なの、それもいつまでも。お父さんは前よりずっとやさしいの。家は天国みたいよ。お父さんがある素敵な晩に寝るときわたしにやさしく話しかけてくれたから、わたしもおもいきってお兄ちゃんが家に帰ってきたらどうかしらってもう一回おねがいしてみたの。そうしたらお父さんはうんっていったわ、帰ってこいって。で、わたしを馬車に乗せて迎えにやらせたの。お兄さんも大人になるんだし」少女は両目を見開いてつづけた。「ここにはもうもどってこなくていいでしょ。でもその前にいっしょにクリスマスを過ごせるの、すっごくすてきなクリスマスをね」
「おまえはまったく大人だよ、ファン」少年も声をあげた。
少女は両手をたたき笑い転げ、少年の頭にさわろうとした。でもあまりに小さかったので、また笑い転げ、つまさきだちして少年をだきしめた。それから子供みたいに一生懸命兄をドアの方へとひきずっていき、少年もよろこんでそれに従った。
「スクルージの荷物をここへ持って来い」という恐ろしい声がホールにひびき、校長が姿をあらわし、スクルージを見下すような態度で一瞥すると、握手をしてスクルージをふるえあがらせた。そして二人をまるで古い井戸の中といったような寒さでぞくぞくするような客間へまねきいれ、そこはいつもそういった具合で、壁の地図も、窓のところの天体儀と地球儀も寒さで青白く見えた。ここで校長はふしぎなほどさっぱりしたワインとふしぎなほどくどいケーキをもちだしてきて、二人にすすめてくれた。それからやせこけた召使に御者にもなにかいっぱいすすめるよう申し付けた。ただ御者はお礼は言ったが、前にいただいたのと同じならけっこうですわ、と答えたということだった。そのときまでにはスクルージのトランクも馬車の上に積みこまれ、子供たちは喜び勇んで校長に別れをつげて、馬車にのりこみ、楽しそうに庭の方へと去っていった。馬車の軽快な車輪は、常緑種の濃緑の葉っぱからスプレーのように白霜や雪をまきちらした。
「いつもはかなげな娘で、一息でふきとんでしまうほどだったな」幽霊はそうもらした。「でも心は広い娘だった」
「そのとおり」スクルージはさけんだ。「まったくそうだ。わしもそれは否定せんよ、ぜったいに」
「彼女は大人になって亡くなったが」幽霊はつづけた。「わたしが思うには子供が何人かいたと思ったがな」
「一人」
「そうだ」幽霊は言った。「あの甥だよ」
スクルージは心中おだやかでなかったようだったが、短い答えをかえした。「そうだ」
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
陽気な一団がやってきて、やってくると、スクルージはひとりひとりその名をあげることができた。いったいどうしてかれらの姿をみてスクルージはこの上ない喜びを感じたのか? いったいどうしてその冷たい目は涙にぬれたのか、またかれらが通り過ぎていくときにはげしい動悸がしたのか。かれらがお互いにメリークリスマスと、辻やわき道で自分たちの家へと別れるときに声を掛け合うのが聞こえたのがどうしてこれほど嬉しかったのか。メリークリスマスがスクルージにとってなんだというんだ。メリークリスマスだなんて。いままでメリークリスマスがスクルージになにかしてくれたとでも言うのだろうか。
「みんなが学校からかえってきたわけじゃない」幽霊は言葉をもらした。「ひとりだけ、友達からも仲間はずれにされて、そこに残っている子がいる」
スクルージは自分もわかっていると、うなずいた。
ふたりは大きな道をはずれて、よくおぼえているわき道へと入っていった。するとすぐにくすんだ赤いレンガでできていて、小さな風見鶏がのっている丸屋根がありベルがついている大きな建物についた。そこは大きな家だったが、破産した家だった。というのも広々とした部屋もほとんど使われておらず、壁はしめっていてコケがむしていて、窓は割れており、門も朽ち果てていた。鶏が小屋でコッコと鳴き声をもらし、歩き回り、馬車入れや物置小屋には雑草がおいしげっていた。そして室内でも、むかしの面影はとどめていなかった。荒涼としたホールを入っていくと、多くの部屋のドアが開きっぱなしでのぞいてみると、家具もほとんどなく、寒々しく広々としていた。空気には土臭さがあり、冷え冷えとしていたが、それはろうそくはたくさん立っているのだが、食べるものはそれほどないという光景を連想させた。
幽霊とスクルージはホールをよこぎり、家の裏手のドアまでやってきた。ドアがあくと、広々とした何もない陰鬱な部屋が姿をあらわし、かざりもなにもない松材のいすや机がいくつかならんでいるのがいっそうむきだしな感じを与えていた。そのひとつで、ひとりの少年がわずかな暖のそばだが読書をしていた。スクルージも椅子のひとつに腰をおろし、かつての忘れ去った自分の姿を目にして涙をながした。
家の中では物音ひとつも、壁のむこうからネズミがチューチューないたりばたばたしているのさえ、あるいは荒れた裏庭で半分こわれた雨どいから水がもれる音も、元気がないポプラの葉のない大枝のため息も、空の貯蔵庫のドアが無駄に開いたり閉じたりしているのも、暖炉の火がはじけるのでさえ、どれもスクルージの心をなごませないものはなかった。そしてよりいっそうスクルージに涙を流させた。
幽霊はスクルージのうでにふれると、熱心に本を読みふけっている昔のスクルージ自身を指さした。とつぜんひとりの男が外国風の衣装をまとって、見た目は立派で目立つふうだったが、窓の外にたっていた。ベルトに斧をはさみこみ、薪をつんだロバの手綱をひいていた。
「あぁ、アリババさんだ」スクルージは感極まって言葉をもらした。「なつかしい素敵なアリババさんだよ。そうだ、そうだ。あるクリスマスのとき、あのひとりぼっちの子供がここでひとりっきりだったときに、アリババさんははじめてああいう風にきてくれたんだ。かわいそうな坊や、それにバレンタインも」スクルージは続けた。「それからその乱暴な兄弟のオルソン。みんないっしょだった。それにあいつの名前、ダマスカスの門で眠ったまま、股下をはいたまま置いていかれた奴。あれが見えるでしょう。それに守護神によってさかさまにされた悪魔の馬丁。ほらさかさまになっている。お似合いだよ。うれしいな。なんだってあいつがお姫様と結婚しなきゃならないんだ」
スクルージがこんなことについて、笑っているとも泣いているともつかないような興奮した声で心のそこから熱心に語っているのを聞いたり、その高調し興奮した顔をみたなら、街でのふだんのビジネスの付き合いのある人たちはどれほど驚いたことでしょう。
「オウムだ」スクルージはさけびました。「緑の体に黄色の尻尾、頭の上にはレタスみたいなものがついてる。あいつだ、そうロビンソー・クルーソー。島を一周して帰ってきたときに、オウムが呼びかけている『ロビンソー・クルーソー、どこにいってたの、ロビンソー・クルーソー』夢をみていたのかと思っていたがそうではなく、オウムだったわけだ。フライデーもいる。入り江をめざして全速力で駆けている。おーい、おーい」
それから急にいつもの様子とはうってかわって、昔の自分をあわれんでこうもらした。「かわいそうな子供だ」そしてふたたび泣き始めた。
「そうしてやればよかった」スクルージはポケットに手をいれてつぶやきました。目をそででぬぐい、少年の姿を追っています。「でももう遅すぎる」
「どうしたんだい」幽霊はたずねました。
「なんでもないです」スクルージは答えます。「なんでもないんです。ただ昨晩ドアのところにクリスマスキャロルを歌っていた少年がひとりいて、なにかをやればよかったのにと。それだけです」
幽霊はおもいやりのある笑顔をみせ、「さて別のクリスマスを見に行こうか」といいながら手をふった。
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
第二章:三人のうち最初の幽霊
スクルージが目を覚ましたとき、あたりはとても暗く、ベットからでてみると寝室のくすんだ壁と透明な窓がほとんど区別がつかないくらいだった。探るような目で暗闇を見通そうとしたが、そのとき近くの教会の鐘が45分をしらせ、スクルージは何時かをききとろうとした。
びっくりぎょうてんしたことに、荘厳なる鐘は六、七、そして七、八、とうとう十二で終わった。十二時とは。自分がベットに入ったのは二時をすぎていた。時計が狂っている。つららででも入ったに違いない。十二時だって。
スクルージはこの途方もない時刻をただすために自分の時計のボタンをおした。そのせわしげな小さな音は12回なりひびき、そしてとまった。
「なんだって、ありえないぞ」スクルージはひとりごちた。「まるまる一日眠りこけてて、次の夜になっただって。太陽がどうかしちまったにちがいない、昼の十二時だよ」
この考えはもっともに思えたので、ベットから飛び出ると、手探りで窓の方まで行った。部屋着のそでで霜をおとさなければ何もみえなかった。ただそうしてみても、ほとんど何も見えなかった。分かったことといえば、まだすごく霧がかかっていて、とても寒いということ、そしてあちこちを走り回っていたり、あわてふためいてる人の音は聞こえなかったということだ。もし夜が日が照る昼間を駆逐し、ずっと夜のままになってしまったら、まちがいなく騒がしかっただろうから。これでまぁ一安心というわけだ。というのも「エベニーザー・スクルージの指定どおりこの小切手が一覧されてから三日後には支払うこと」などというのは、数えるべき日がなければたんに国が保証してくれるものになってしまうだろうから。
スクルージはふたたびベットにもどると、何度も何度も何度もそのことについて考えたが、結局考えはまとまらなかった。考えれば考えるほど、わけがわからなかった。そして考えないようにすればするほど、どうしても思いはそこへともどってしまうのだった。
マーレーの幽霊がとくに気にかかった。すべては夢だったんだとじっくり考えて、自分の中で考えがまとまるたびに、また強いばねがはじけるように、最初にもどってしまい、始終同じ問題が心にうかんでくるのだった。「あれは夢だったのか、あるいはそうではないのか」
スクルージは鐘が45分をしらせるまでそんなことを考えていたが、とつぜん幽霊が鐘が一時をしらせるときに訪問があるということを警告したのを思い出した。そしてその時間まで起きていることにした。寝ないことが天国にいけないことと同じだとおもえば、たぶんそうしたのは出来るだけのこととしては一番賢いことだったのだろう。
あと15分はとても長く、無意識のうちにも眠りにつきそうになって、時計を聞き逃したのではと思うのも一度や二度ではなかった。とうとうスクルージの耳にも鐘の音が響いた。
「ガラン、ガラン」
「15分」スクルージは数えながら言った。
「ガラン、ガラン」
「30分」
「ガラン、ガラン」
「あと15分」
「ガラン、ガラン」
「時間だ」スクルージはかちほこったようにもらした。「でも何も起きない」
スクルージが言葉をもらしたのは鐘が鳴り響く前で、今荘厳で、鈍く、どこかうつろで憂うつな鐘の音が響いた。その瞬間に、部屋に光がさし、ベットのカーテンが開いた。
ベットのカーテンは開いた、ちゃんと言おう、そう一つの手で。それも足や背中の方のカーテンではなく、まさしく顔が向いている方のカーテンだ。ベットのカーテンは開いた。そしてスクルージはいそいで体を半分おこし、カーテンをひいたこの世のものではない訪問者と正面から向き合うこととなった。まるでわたしとあなたがたと同じくらい近くに。そうわたしもあなたがたの気持ちのすぐ側に立っているんですよ。
訪問者のすがたは奇妙なものだった。子供のようでもあり、子供というよりは老人のようでもあり、この世のものではないふうに見えるので、姿がうすれていって、子供の背格好にまで縮んだとでもいうようだった。髪は首と背中までたれさがっていて、年をとっているかのように真っ白だった。ただ顔にはしわが一つもなく、肌は若い人のそれだった。腕はとても長く筋骨たくましかったし、手も同じで、まるでとんでもない力でつかめるかのようだった。そして足もすらっとしていて、腕とおなじようにむきだしになっていた。まっしろなガウンをはおっていたが、腰のまわりにはかがやくベルトをしており、その衣装は本当にうつくしいものだった。手には若々しい緑のヒイラギの枝をもち、それは冬のしるしなのにもかかわらず、装いには夏の花がかざられていた。しかし全体で一番奇妙だったのは、頭にいだかれた冠から光の洪水があふれていることだった。そのおかげでさきほどのようなことが全部みてとれたのだ。そしてもっと光を弱めたい場合は、まちがいなく今は脇にはさんでいる大きなろうそく消しを帽子にして使うんだろう。
ただスクルージがだんだん落ち着いて見てみると、このことでさえ一番変わっている特徴とはいえなかった。というのは、ベルトがある場所できらっと光ると、次には別の場所で光り、あるときは明るく、別のときには暗く、だから全体の姿も形をかえ、今は手が一本と思うと、次のときには足が一本、そして足が二十本、頭がない二本足、体がなく頭だけといった具合だった。体もどろどろにとけ、輪郭も漆黒の闇に溶けてはっきりとしなかった。ただすごく不思議なことに、そうなっていてもまた元にもどり、明確な輪郭のはっきりした姿になるのだった。
「あなたは、わしのところに来る予告されていた幽霊でしょうか」スクルージは尋ねてみた。
「そのとおり」
声はやさしく落ち着いていた。すごく低い声で、まるですごく側にいるのではなくずっと遠くにでもいるかのようだったが。
「どなた、というかあなたは何なのですか」スクルージはたたみかけた。
「昔のクリスマスの幽霊だよ」
「ずっと昔のですか」スクルージは、その小柄な姿を目にしてたずねた。
「いやおまえの昔だよ」
たぶん誰かに聞かれてもスクルージもどうしてか説明できなかったでしょうが、かれは幽霊が帽子をかぶっているところを見てみたくなり、かぶってほしいとお願いしてみました。
「なんだと」幽霊は声をあらげました。「世俗にまみれた手で私の光をこんなにすぐに消すつもりとはな。おまえは、こういった帽子をつくるのに情熱をかたむけわたしにまぶかにこれをかぶらせようと永遠とがんばっているうちの一人だってことで十分じゃないのか」
スクルージはうやうやしく、あなたの気に障ることをわざとしたり、自分としては幽霊にむりやり帽子をかぶせようとするなんてことはいままで思いもよらなかったと言い訳をした。それから大胆にもどうして自分のところにやってきたのかを尋ねた。
「おまえの幸せのためだよ」幽霊は答えた。
スクルージはとても感謝しているといったが、夜の眠りを邪魔しないでくれた方がどれだけ自分の幸せになっただろうかと考えずにはいられなかった。幽霊はまるでスクルージの考えをよみとったように、すぐにこう言った。
「じゃあ、おまえの更正のためだな、さて」
そして話しながら手をさしのべると、やさしく腕をまわした。
「起きて、わたしと一緒に歩くんだ」
スクルージが天候と時刻が歩き回るのにはふさわしくないと嘆願したといっても無駄だっただろう。ベットは暖かく、温度計は氷点下をさしていたとか、薄着で、はいてるものといったらスリッパと部屋着とナイトキャップだけで、そのとき風邪をひいいてるといったところで無駄だっただろう。手は女性のようにやさしかったが、抗いがたいものだった。スクルージは起き上がり、幽霊が窓の方へと行くのを目にして、上着をつかみ嘆願した。
「わしは人間だよ」スクルージは異議を申し立てた。「下に落っこちてしまうよ」
「そこにわたしの手がふれるから我慢するんだな」幽霊はそう答え、心臓の上に手を置いた。「そうすればこういった場合だけじゃなく支えてやれるからな」
そういっているあいだにも、壁を通り抜け、左右に畑がひろがる田舎のひらけた道にたっていた。街は姿を消し、あとかたもなかった。暗闇と霧もともに姿をけし、はれやかで冷ややかな冬の日であり、地面には雪がつもっていた。
「すごい」スクルージはあたりをみまわし両手を組み合わせ、声をあげた。「わしはこの土地で育ったんだ、子供のころここにいたんだ」
幽霊はやさしいまなざしでスクルージを見守った。幽霊がやさしくふれたのは、軽く一瞬だったが、老人の感覚では今でもそこにあるかのようだった。スクルージは、さまざまなたくさんの香りがあたりにはただよっているのに気づいた。それぞれのさまざまな香りはさまざまな長いあいだ忘れ去られていた考えや希望、喜び、気づかいに結びついていた。
「おまえの唇はふるえてるな」幽霊は言った。「ほおには何かついてるぞ」
スクルージはいつもとは違う声でもごもごと、にきびだと答えた。そして幽霊に行きたいところに連れて行ってくれと頼んだ。
「この道をおぼえているか」幽霊はたずねた。
「覚えている」スクルージは熱のこもった声で答えた。「目をつむったって歩けるよ」
「なんだってこんなに長いあいだ忘れていたのかな」幽霊はつぶやいた。「さぁ行こうか」
二人は道を歩いていって、スクルージはすべての門、ポスト、木を覚えていた。そして小さな市のたつ町が遠くにあらわれ、橋、教会、曲がりくねった川があった。毛足のながい小馬が何頭かかれらの方に歩いてきて、その背中には少年がのっているのが目にとまった。その子供たちは農民たちが駆っている軽馬車にのっている他の少年たちに声をかけていた。そういった子供たちは元気一杯でおたがいにどなりあい、とうとう広い野畑が軽快な音にみちて、さわやかな大気が笑い出したかのようだった。
「これらはかつて存在したものの影にすぎない」幽霊は語った。「わたしたちの存在には気づかないんだよ」
クリスマスキャロル チャールズ・ディケンズ
チャールズ・ディケンズ
わたしはこの幽霊のでてくるささやかな本で、想像上の幽霊をよびおこし、
読者が自分たちでも、お互いにでも、この季節にでも、あるいはわたし自身にも
飽きないようにするのにがんばったつもりだ。
幽霊がみなさんの家庭を楽しく訪れ、だれも幽霊が口をつぐんでしまうことを願わないように。
あなたがたの親愛なる友人でしもべのC.D
1843年12月
第一章
マーレーのお化け
マーレーは死んだ、これがそもそもの始まりだ。これにはまったく疑う余地はない。お墓の記録には牧師、教会の書記、葬儀担当者、喪主がサインをしたから。スクルージももちろんサインした。スクルージの名前ときたら、手をそめることには何でもてきめんの効果があったものだ。 年をとったマーレーは、とびらの金具のごとく(訳注1)完全に亡くなっていた。 でも、わたしは自分がとびらの金具がどんなふうに亡くなっているのかを知ってるなんて言うつもりはない。自分としては、棺おけの金具の方が同じような道具としてはよっぽど死に近いものだと思いたいのだが。いいや、でも昔の人達の知恵は例えにあるわけで、わたしのような下々の手がそれを汚すことはまかりならんということだろう。さもなくば国もほろびてしまう(訳注2)。だからみなさんもわたしが断固としてこう繰り返すのをどうか許してほしい。マーレーはとびらの金具のごとく完全に亡くなっていたと。
スクルージは、マーレーが亡くなっていたことを知っていたか? もちろん知っていた。知らないなんて事があろうか? スクルージとマーレーはわたしが何年とも知らないほど長い間、共同の経営者だったのだから。スクルージはマーレーの唯一の、遺言執行者にして相続人、友達にして会葬人だった。ただスクルージはそのような悲しい出来事にすっかり気落ちしてしまわずに、葬式当日でさえ抜け目のないビジネスマンぶりを発揮したのだった。というのはとてつもない割引価格でその葬式をあげたということだ。 マーレーの葬式のことにふれたので、最初のお話にもどることとしよう。マーレーが死んだのは疑いもない事実だ。これはちゃんと意識しておかなければならない、でないと、これからお話ししようとすることがなんら不思議な事とは言えなくなってしまうから。もし劇を見る前にハムレットの父親が死んだと思っていなかったら、夜半に東からの風に乗じて城壁を父親が歩き回るのはそうびっくりしたことともいえず、中年の紳士が暗くなってから涼をもとめて無分別にも外出して、そうたとえばセントポール寺院にでもだろうか、息子の弱々しい心を文字通りびっくりさせるというようなものだ。 スクルージはマーレーの名前を消すことはなかった。だから何年もあとになっても、事務所のドアの上には「スクルージとマーレー」という看板がかかっていた。会社は「スクルージとマーレー」として知られており、ときおり仕事に詳しくない人がスクルージのことをスクルージとかマーレーなどと呼んだものの、スクルージときたらどちらの名前にでも返事をするのだった。結局名前などスクルージにとってみればどうでもいいものだった。 ただ、スクルージの仕事に対するがめつさときたら。スクルージ、そう彼は、搾れるだけ搾り取り(訳注3)、しめあげ、捕まえたらはなさず、ばらばらにして、握りしめ、何もかもをほしがる罪深い輩だった。火打石ほどかたくなかつ冷酷で、ただこの火打石からは鉄をつかっても慈悲の火はおこせなかっただろう。かれは秘密をこのみ、人と打ち解けず、無口で孤独な性格だった。性格の冷酷さが姿も寒々しいものにしており、とがった鼻は凍りつき、ほおにはしわが深くきざまれて、その歩みはぎこちないものだった。目は血走り、薄いくちびるは青ざめ、金切り声で抜け目なく自分の意見を述べたものだった。頭上も、まゆ毛も霜がふりつもっているかのように白く、あごはとがっていた。いたっていつも冷酷で、夏にも事務所を冷たくしたものだが、クリスマスだからといってその冷酷さがゆるむようなことは少しもなかった。 まわりが暑かろうが寒かろうが、スクルージにはなんの関係もなかった。まわりが暖かくてもスクルージを暖めることはなかったし、寒々とした気候もかれを寒がらせることはなかった。どれほど吹きすさぶ風もスクルージほど身を切るほどの冷たさではなかったし、降り積もる雪も目的への集中ではかれにかなわず、打ちつける雨も嘆願を聞き入れないことではかれの足元にも及ばなかった。悪天候はどんな点でもスクルージほどのことはないというわけだ。どしゃぶりの雨、雪、あられ、ひょうもどの点をとっても一つとしてスクルージを上回るところはなかった。天気はときどき「気前がよく」なることもあったが、スクルージには決してそんなことはありえなかった。 道ばたでスクルージと出くわしても、にっこりして「やぁスクルージさん、調子はどうですか? 家に遊びにきてくださいよ」などと声をかけるものはいなかったし、こじきでさえ小銭をせがむことなかった。子供もスクルージには「今何時ですか?」とは尋ねなかったし、スクルージが生まれてこの方どこそこまでの道を聞いたものも皆無だった。盲導犬たちでさえスクルージがどんな人かを知っているかのようだった。というのは、盲導犬たちはスクルージが近づいてくるのを見ると、飼い主を門や路地の方へとひっぱったものだから。その尻尾をふり、まるで「悪魔の目をもってるぐらいなら、目なんて見えない方がましですよ、ご主人様」とでも言ってるようだった。 ただそんなことはスクルージの知ったことではない。それこそスクルージの望んだとおりだ。人生のこみあった道を人情なんぞは知ったことかと警告しながら進んで行くことこそが、スクルージにとっての快心事だったのだから。
昔のことだが、1年の中で一番素敵な日々、クリスマスイブにスクルージは会計事務所で忙しそうにしていた。寒々とした身も凍るような気候でその上霧がたちこめていて、往来の人達が温まるために白い息をはぁはぁ吐き、胸の前で手をこすりあわせ、敷石の上であしぶみをしているのがスクルージの耳にも入ってきていた。街の時計は三時をしらせたばかりだったのに、すでにあたりは暗くなっていた、まぁその日は1日中、日はささなかったわけだが。そして周辺の事務所の窓にもろうそくがゆらめいており、その様子はまるで手でふれることができるほどの藍色の大気に赤い斑点があるかのようだった。霧はどんな隙間や鍵穴からもはいりこんできて、外では濃くたちこめて、ごくごく狭い通りにもかかわらず道の向こう側の家々が幻影のように見えるほどだった。黒ずんだ雲がたちこめ、全ての物を覆い隠していくのをみると、自然というのはすぐ近くにあって、大量の雲をつくりだしているのだと考える人がいるかもしれない。 スクルージの会計事務所のドアは開けっぱなしで、というのは事務員に目を光らせているためだった。事務員は向こうの陰気な小さな部屋にいて、まるで監房のようで、手紙の写しをとっていた。スクルージのところにもわずかながらの暖があったが、事務員の暖ときたらあまりに小さいもので、石炭一個ぽっちといったようなものだった。ただスクルージが石炭箱を自分の部屋においていたので事務員は継ぎ足すこともできず、石炭のスコップをもってスクルージの部屋にはいろうもんなら、「われわれは別れなきゃならんようだな」と言われるのは必至でした。そういうわけで、事務員は白い襟巻きをしてろうそくで暖をとろうとしましたが、もともと想像力がそうあるといったわけではなかったので、まぁ無駄なことでした。 「メリークリスマス、おじさん、神のご加護がありますように」明るい声がしました。スクルージの甥の声でした。あまりに急にやってきたので、その声がしてはじめてきたのに気づいたくらいでした。 「ふん」スクルージはもらしました。「たわごとを」 霧がたちこめ霜が降りる中をあまりに急いでやってきたので甥は体がすっかり暖まっており、気分もすっかり高揚していました。ほおには赤みがさし美しく、目はきらきらと光り、はぁはぁと白い息をはきながら「クリスマスがたわごとですって、おじさん」と聞き返しました。「どういう意味なんです? 僕にはわかりませんよ」 「その通りの意味だよ」スクルージは吐き捨てました。「メリークリスマスだと! なんの権利があってお祝いするんだ? どんな理由があってのお祝いだ? そんなに貧乏なのに」 「ふーん、じゃあ」甥は快活に答えをかえします。「なんの権利があってそんなに憂鬱にしてるんです? どんな理由があっての不機嫌なんですか? そんなにお金持ちなのに」 スクルージはとっさにはいい答えがうかびませんで、「ふん」と再びいうとこう続けました。「たわごとだよ」 「そう怒らないでくださいよ、おじさん」 「そうする以外にどうしようがある。こんなばかどもがうようよしている世の中なんだぞ? メリークリスマスだって! 言うに事欠いてメリークリスマスとは! クリスマスなんてものは金もないのに勘定をしなきゃならんときじゃないか。また一年としをとるがすこしばかりだって金持ちにはなってないのを確認するときじゃないか、帳簿をしめて、そのどの項目をみても一年どの月でも赤字だったことを知るときじゃないか。もしわしの思い通りになるなら」スクルージはぷんぷんに怒って言いました。「『メリークリスマス』なんてぬかす頭のたりない間抜けどもは、お祝いのプディングなんかと一緒に煮詰めてやって、心臓にヒイラギの棒でもつきさして埋葬してやりゃいいんだ。そうするべきだな」 「おじさんったら」甥は嘆願しました。 「甥よ」おじは冷たく言い放ちました。「おまえはおまえのやり方でクリスマスをやればいい。わしはわしのやり方があるから放っておいてもらおう」 「やり方ですって!」甥は繰返しました。「でもなんにもやりゃしないじゃないですか」 「どうか放っておいてくれ、それから」スクルージは吐き捨てました。「クリスマスはさぞかしめでたいんだろうよ。そうさな、今までもさぞかしいいことがあったんだろうし」 「言わせてもらえば、いいことがあったかもしれないことはたくさんありますよ。でもそれで得をしたことはないけれど」おいは答えました。「クリスマスはとくにそういうものじゃないですか。クリスマスがやってくるといつも思うんですが、神の名と起源に畏敬の念をいただくことは置いといても、クリスマスに属するもので畏敬の念から切り離せるものがあればですが、クリスマスはクリスマスなりにいいものだと思うんですよ。親切になり、許しあえ、慈悲ぶかく、楽しいときでしょう。ながい一年のカレンダーをめくってみても、男女が閉じきった心を開き、自分より目下の人達を、ぜんぜん違う旅路を歩んでいる別の生物ではなく、本当に墓場まで旅の道づれとみなす、唯一のときじゃないですか。それにおじさん、クリスマスがぼくのポケットに金や銀の切れ端ひとつ入れてくれたことがなかったとしても、クリスマスはぼくにとってはいいものですし、これからもそうでしょう。だから言いますよ、神のご加護がありますように」 監房にいた事務員はおもわず手をたたきました。がすぐに間が悪くなって、火をかきまわし、最後のはかない暖を消し去ってしまいました。 「余計な音をもう少しでも立ててみろ」スクルージはどなりました。「首になったクリスマスを迎えることになるぞ。まったくこうるさい奴だ、おまえは」と甥の方をむくと、「国会議員にでもなったほうがよかろうよ」と言い放ちました。 「おこらないでください、おじさん。さぁ明日は僕らと一緒に夕食をとってください」 スクルージは、おまえが墓場に、そう確かにそう言ったのだ。まったくこの通り口にしたのだった。おまえが墓場に落ちるところをみたいものだなと。 「どうしてなんです?」甥は叫びました。「いったいどうして」 「どうしておまえは結婚したんだ?」 「恋に落ちたからです」 「恋に落ちたからとはな!」スクルージはまるでその言葉が、メリークリスマスより腹立たしい唯一の言葉であるかのように吐き捨てた。「ごきげんよう」 「でも、おじさん、結婚する前だって来てはくれなかったじゃないですか。どうして今になって結婚したことが理由になるんです」 「ごきげんよう」 「別におじさんにどうこうしてもらうなんて思ってませんよ。頼んでもないでしょう、どうして仲良くできないんですか?」 「ごきげんよう」 「おじさんがそんなに頑固なのは本当に残念です。一度だって喧嘩したことはないじゃないですか、僕が相手になって。でも今回はクリスマスに経緯をはらってやってみたんです。だから最後までクリスマスの気持ちを忘れないようにしますよ。メリークリスマス、おじさん」 「ごきげんよう」 「それによいお年を」 「ごきげんよう」 にもかかわらず、甥は罵倒に類する言葉はひとつも言わずに部屋を離れました。外にでるドアの前で立ち止まり、事務員にもクリスマスの挨拶をすると、事務員も冷たかったが、それでもスクルージよりは暖かい心をもっていました。というのは心をこめて挨拶をかえしたからです。 「もう一人いるわい」スクルージはぶつぶつ言いました。一週間に15シリングで、妻と家族がいるにもかかわらず、メリークリスマスと言っているのが耳にはいったのです。「わしも精神病院にでも隠遁した方がいいみたいだな」
この頭がおかしい男は、甥をおいだして、二人の男を中に通した。二人はかっぷくのいい紳士で、楽しそうに見ており、今は帽子をぬいでスクルージの事務所に立っていた。手には帳簿と書類をもっていて、スクルージにむかって挨拶をしました。 「こちらは、スクルージとマーレー事務所ですな」片方がリストをさししめしながら言うと。「スクルージさま、あるいはマーレーさま、どちらでお呼びすればよろしいでしょうか」と続けた。 「マーレーは亡くなってもう七年になりますよ」とスクルージは答えた「七年前になくなったんです、そう七年前の今晩に」 「まちがいなくマーレーさんの寛容なところは共同経営者の方にも受け継がれているんでしょうな」紳士は紹介状をさしだしながら口にした。 たしかにそうだった。というのは二人は同じ性格だったからだ。「寛容」という不吉な言葉を耳にすると、スクルージは眉をしかめ頭を左右にふり、紹介状をつっかえした。 「一年で一番おめでたい時期です、スクルージさん」紳士はペンを手にしてそう切り出した。「この季節にはいつもよりもっと貧しいものや困っている人へのちょっとの施しがいただけるとありがたいんですが。かれらは今でもすごく苦しんでいるんです。何千もの人々が日常の品々にも事欠くありさまで、何十万という人たちが快適な生活を送れないのです」 「監獄がないのかな?」スクルージは尋ねた。 「監獄は足りています」紳士は、ペンをふたたび置きながら答えました。 「貧民収容施設はどうでしょう?」スクルージはたたみかけた。「あれはまだちゃんとやってるんですかね」 「ええ、まだやってますよ」紳士は答えました。「私からすればやってないといいたいところですが」 「それに軽作業や貧民法も活用されてるんでしょうな?」 「二つともかなり活用されていますとも」 「あぁ、最初にあなたがおっしゃったことからすると、そういった仕組みがちゃんと使われなくなるようなことが何か起こったのかと心配しましたよ」スクルージはつづけた。「それを聞いてとても安心しました」 「多くの人たちにそういった施設ではクリスマスの喜びを肉体的にも精神的にももたらすことがむずかしいということで、」紳士は答えを返した。「われわれ数人が貧しいものにいくらかの食べ物と飲み物、暖めるものを買い与える資金を集めようとしているのです。われわれが今の時期を選んでいるのは、みなにとって、不足が切実であるととともに豊かさを享受できるときだからです。さて寄付はおいくらにしましょう?」 「いいや」 「匿名がよろしいのですか?」 「放っておいてもらいたいものだね」スクルージは言い放ちました。「わしが望むことを尋ねられたから、そう答えたまでだ。クリスマスにだってわしは楽しんじゃおらん。怠け者たちを楽しませる余裕なんざないよ。先ほどお話ししたような施設にもずいぶんお金をだしているんでね。もう十分金くい虫じゃないか。暮らし向きの悪い人たちはそういったところに行くべきですな」 「そういったところに行かれない人も大勢いますし、そういったところに行くくらいなら死をえらぶものさえいます」 「死にたいなら」スクルージは即答しました。「そうした方がよかろうよ。余分な人口も減るだろうし。それに、もうしわけないが、そんなことは知らないな」 「ご存知のはずですが」紳士は異をとなえた。 「わしには関係ないよ」スクルージも反論した。「自分の商売のことをやるので精一杯なものでね、他人のことまでかまっちゃおれんよ。いつも自分のことだけで一杯一杯だよ。ごきげんよう」 自分たちの主張をいいはってみてもどうしようもないことは明らかだったので、紳士たちはひきあげた。スクルージもすっかり自分のことを誇らしげに思いながら仕事にもどり、いつもよりすこし気分がよいくらいだった。
そのあいだにも霧と暗闇は濃さをまし、人々は炎のゆらめくたいまつをもち、馬車の馬の前でたいまつをかかげ、道案内をしていた。教会の古い塔、その荒々しい鐘はいつも壁のゴシック調の窓からスクルージをいつも陰ながら見下ろしていたものだが、その姿も見えなくなった。そして雲のなかで時間と十五分の間隔を知らせ、まるで向こうにある凍りついた頭で歯をがたがたいわせているかのようにその後に余韻がひびきわたった。寒さも厳しさをまし、中央通りの路地の隅では、何人かの労働者がガス管を修理していて、大きな火を焚いていて、そのまわりにはぼろぼろの服を着た男たちや少年の一団が集っていた。手をかざし、目はうっとりと炎をみつめていた。消火栓はほっておかれたので、あふれた水はゆっくりと凍りつき、厭世的な氷の態をなしていた。ヒイラギの枝や実がウィンドウのランプの熱でパチパチと音をたてているところの店の灯りは、通り過ぎる人々の顔を赤くそめた。鶏肉屋や食料品店の商売は冗談みたいなものになり、はでな飾り付けがされ、取引や販売などといった当たり前のことが何らかの関係があるとはほとんど信じられないくらいだった。市長は公邸のなかで、50人からなるコックと召使にクリスマスを市長の家としてあるべきものとするように命じた。それにしがない仕立て屋でさえ、先週の月曜日によっぱらって道で流血沙汰をおこして五シリングの罰金を課されていたが、やせた妻と赤ん坊が肉を買いに出かけているあいだに屋根裏部屋で明日のプディングをかき回していた。 霧もふかくなり、寒さもました。突きさすような、厳しい、身にしみる寒さだった。もし聖ダンスタンがいつもの武器をつかうかわりにこんな天気で悪魔の鼻を一刺ししたら、悪魔は勇気をふりしぼるために大声をあげたことだろう。寸足らずの若々しい鼻の持ち主が犬が骨をかじるように、空腹と寒さでさいなまれぶつぶつこぼして、スクルージの事務所の鍵穴からクリスマスキャロルで楽しませようと立ち止まったところ、最初の歌いだしで、 神のご加護を、陽気な紳士たち 心配することは何もなし スクルージは大急ぎで定規を手にして、歌い手は恐れをなして鍵穴から離れ、霧の中、そしてよりその気質にあった霜の中へと逃げ出していった。 ついに会計事務所を閉める時間がやってきた。いやいやながらスクルージは椅子から腰をあげ、監房で待ち構えている事務員にその事実を無言でみとめた。事務員はすぐにろうそくを吹き消し、帽子をかぶった。 「明日は一日休みがほしいんだろうな」スクルージは切り出した。 「よければ」 「よくないよ」スクルージは答えた。「フェアじゃないよ。だからって半クラウンをけずったら、虐待されてるとでも思うんだろう、そうだろう?」 事務員はかすかに微笑むだけだった。 「それに」スクルージは続けた。「おまえはわしを虐待してるとは思わんのだ。おまえが働いてないのに一日の給金を払うからといってな」 事務員は一年にたった一日のことだと反論した。 「毎年12月25日に人のポケットから金を掠め取ろうとするには陳腐な言い訳だな」スクルージは、立派なコートの襟までボタンをかけながらこぼした。「でもおまえは一日やすまざるをえんのだろう。次の日はそれだけ朝早くから来てもらうぞ」 事務員はそうしましょうと約束し、スクルージはぶつぶついいながら外にでていき、その瞬間、事務室は閉じられた。事務員は長く白い襟巻きを腰の下までぶらさげながら(誇れるような立派なコートを持っていなかったから)、コーンヒルを少年たちの列の端につらなりながら二十回は行ったりきたりしながら、クリスマスイブ