リレーエッセイ「ニュータウンの街かどから」

第23話 「地域に住まうこと・ハコに住まうこと」


 ■はじめに……私のこと

 まず私なりの自己紹介をしておきましょう。
 『緑の小径』にハンドル「Maco」で参加させていただいてますが、港北ニュータウンとの地縁はありません。 現住所は稲城市で多摩ニュータウンの一角ですが、ニュータウンつながりということでもありません。 強いていえば、地域ネットとしてのつながりから参加させていただいています。

 もう6年ほど前になりますが、当時住んでいた浦安市で、「うらやす市民ネット」というのを立ち上げました。 NiftyserveのHPから、大幅値下げのパティオに移行するなど、当時の港北ニュータウンネットと同じ歩みをたどってきました。 「地域をテーマに交流できるネットワーク」をめざして、お知り合いになれたJoeさんとのご縁で、こちらにも寄せていただいています。

 そういう立場ですから、寝に帰るだけの地元では面白くない。 オヤジこそ地域に根ざすべきだとの信条で、転居した東京都稲城市でも、自治会やまちウォッチ活動などに参加しています。 職業は、建設会社のソフト系研究所で都市計画やマンションについての研究をしていることになっています。 本当のところは、気持ちよく住める地域づくりまちづくりや運営が本業で、日曜小細工と電気モノいじりが副業のオヤジが、アルバイトに研究所に通勤しているというのが実態ですかね。

 そのような訳で、公私あわせて「まちと住まい大好き人間」ですから、ニュータウンのこと、団地のこと、マンションのこと、DIYのこと、ちょっと振って貰えれば言いたいことは山ほどあるのですが、本日はその応用問題にしましょう。
 

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 ■持家施策を背景にした個人の定住……どこかおかしい?

 地域内定住という言葉をご存じでしょうか。 あまりお耳に入ることはないと思います。 日本中でもごく少ない人数の方々が、提案されたり仕組みを考えられたりしている概念で、私もその一人として、情報発信に務めています。

 現在の日本では、「家を買って腰を据えたマトモなヤツ」とか「いい歳をして家も持たない浮き草人生」とかいう具合に、定住の程度でその人を評価する習慣がまだ残っています。 これを追い風にして、定住施策ともいう、「家を買いなさい・子々孫々住みなさい」というかけ声がかけられてきています。

 この政策は、国や自治体が公共住宅を作るだけでは間に合わない住宅需要に個人の投資を誘導し、日本の住宅水準を、極めて短期間に、しかも大幅に引き上げた(なお進行中)マジックでもあります。 事実、その結果として、日本の都市住宅の水準は、世界の都市にに例を見ない速度で向上した(なお進行中)ことは確かなのですが、今回のテーマからは外れますので、これ以上は触れますまい。

 家を、より高い水準で建設していくためには、誰かが投資しなくてはなりません。 実際に住む人は、居住期間に応じて、住居費として負担していくことになりますが、最初の投資が誰かということです。 賃貸住宅では、公団や大家さんが投資しています。 分譲マンションではマンション業者?いいえ、マンション業者は完売すれば資金回収できますから、住居費負担をあてにして住宅に投資したのは、実は購入者本人です。 自分の将来所得をカタに個人名義のローンという手段で資金投下に参加したことになるのです。

 これはこれで美談です。 投資に参加することで自分の好みの住宅を優先的に確保でき、快適な居住生活がもたらされます。 しかし、投資に参加することをもって「腰が据わった」だの「落ち着いた」だのと考えてしまうとしたら、どこかおかしいのです。 そのおかしさに気づいていただくことが、私の最初の提案です。
 

 ■家を持つことの意味について………投資行動をするかしないか

 「家を買ったからにはもう転居はできない(しない)」という言葉はよく聞くところです。 本当にそうですか? 家を持つことの意味について投資の面から考えてみましょう。

 まず、賃貸住宅に住むということを考えてみます。 居住者は大家に家賃を払い、大家は家賃で投資を回収していくという構造が見えます。 これを分譲住宅に当てはめてみてください。 大家は居住者本人になりますが、前半分は同じこと。つまり、自分で自分に家賃を払うと仮定すれば、その家賃が住宅投資の見返りとなります。家賃というと混乱しますから、居住負担とでも言いましょう。

 生活するからには、「生活の場を確保する居住負担が要る」ことは当然ですから、これは分譲でも賃貸でも計上(仮想)してみれば、前半分が同じだと理解できるでしょう。 残るは後ろ半分、つまり、住宅投資をするか否かということだけです。

 なんと、賃貸か分譲か、の違いは、「個人レベルで住宅投資をするかどうか」に過ぎなかったのです。 しない場合には、資金力に余裕がありますから、別の投資をするなり、貯蓄するなりで個人会計のバランスが取れています。

 「住宅を買うこと」は、生活の場の確保という人類共通の課題を外してみれば、「投資先に住宅を選ぶか否か」だったのです。 普通に住宅を買うヒトは、生活の場としての住宅と投資先としての住宅を一致させます。 「通勤30分では高すぎるから1時間まで妥協」とか「80m2は欲しいからバス便でもしょうがない」という具合ですね。 つまり「生活の場」としての性能と「投資可能な物件」としての射程範囲がギリギリでも一致するよう悩むことになります。

 住宅購入では、この二つが一致することを理想としますが、考えてみれば、住要求も投資能力も、それぞれ個人ごとに違うのですから、特定の個人(あなた)の場合にだけは、両者がぴたり一致するなんて不思議な気はしませんか? 買う瞬間だけならまだしも、その後の長い人生の間も一致し続けるというのは、よほど余裕のある(適応範囲の広い)生活と住まいの場合で、田舎にこそあれ都市部では期待薄です。

 例を挙げましょう。 最近でこそ広いマンションが安く買えるようになりましたが、これまでの日本の住宅供給は、30代でお子さんが小さい頃に「買えた」マンションでは、例えば高校生の娘と中学生の息子との4人世帯には狭すぎる筈です。 しかし、彼らの独立も近い。 結婚したら実家としかみない彼らが広い部屋を必要とするのはせいぜい10年。 それ以前に独立と称して別居になることもあります。 その後は親夫婦には余裕のある住まいなのです。

 長い人生、長い居住生活の中に数年間だけのこういうピーク時期のために、余裕ある広い家を(うんと遠くに)買うことは、投資が可能でも生活の場としての最適解とは限りません。 そうなると、その期間だけ、広い家を使えるよう考える。 自宅を貸したり売却して、他を借りるなど一時的な対策であれば、家賃差損や家賃赤字を割り切ることもできるでしょう。 ピークを吸収できれば、生活はもっとリッチになります。
 

 ■縛られる気持ちを解き放つこと………生活の場と投資とは本来別物

 考えてきたことを整理すれば、「家を買ったらそこに定住」という意識が、あまりに固定的な観念であったことに思い至ります。

 「生活の場」としての性能と「投資可能な物件」としての射程範囲がギリギリでも一致する場合には、分譲住宅に住み続けることが最善の答になるかもしれませんが、一致しない場合には、投資と居住を別々のものとすることが最適解だったりもします。

 この時、居住の方の選択肢には、賃貸住宅もあれば分譲もある。 会社での立場によっては社宅もあるでしょうし、二つ以上の住宅に分けて使うのが良いこともあります。 投資の方の選択肢はもっと多様です。 住宅投資だけでなく、株など別対象の投資もあるし、預金や保険など金融商品にしておくことも選択できます。 比較的に個人が安心して取り組める住宅投資にしても、マンションや戸建の別、立地の別など多様な選択肢が存在します。 一人で2戸に投資したり複数人でシェアする投資もあるのです。

 しかし、「定住するのがマトモな社会人だぞ」という声が聞こえてきます。 同じ住所にずっと住むことで「社会的信用ができる」などと言うのは、江戸時代も後半には崩れ去った農本思想のカケラに過ぎません。ここは都市なのです。

 都市だからこそ、住宅というハコへの定住ではなく、すぐ近くの別の住宅に住むことができます。 選択肢は広い。 マンションなら同じ棟内にも貸し物件があるかもしれません。 先に挙げた例でも、異動により通勤が不便だとかの事情がなければ、わざわざ遠くに引越す人はいないでしょう。 同じ地域に住めばよい。 住宅というハコにこだわらず、地域にこだわって定住することこそが、都市での『地域内定住』なのです。

 生活の場と投資とは本来別物です。 生活に適した場所を探すことと、自分の投資目的に合う投資行動は必ずしも一致しません。 こう考えれば、最初の住宅選びから、投資と生活を分けても構わないのです。 本人は郊外の賃貸マンションに住んだまま、投資に有利といわれる都心のワンルームを2戸持つ(個人年金になる)とか、社宅に住んだまま郊外戸建の大家になる生活もありますが、その話は別の機会に譲るとして、自分の投資能力をさておいて、好きな地域好きな環境に住むというのは魅力です。

 さらに、万一の失業や死別離別の際に、都落ちをするように住替えるのではなく、住み慣れた地域に『地域内定住』を実現しつつ、資産は処分するなりできるということを前提に、あなたの住む町を愛してみませんか、というのがこの話の結論です。
 

 ■建物が老朽化しても………地域内に好みの方法で住替える

 話題になっているマンション建替えにも、『地域内定住』はかかわってきます。 マンションもいつかは老朽してこれ以上使うことは合理的ではない日が来ます。 これまでのマンション建替えでは、100戸なら100戸、100世帯なら100世帯が再び入居するマンションに建替えることが目標になっていました。

 それは自然な情というものですが、全ての人に適した方法ではありません。 老後の生活のために費用負担したくない人もいるでしょう。 現建物の解体から新建物の竣工まで2年もの仮住居生活が苦痛な人もいます。 新築の頃には揃っていた生活ニーズや経済事情が、建替えを迎えてもまだ揃っていると思うのが間違いです。 このような状態で賛成だの反対だのと言い合っても一致は見られません。 ハコにこだわるとロクなことがないのです。

 ここでも、『地域内定住』に心を開くことで、問題解決が見えてきます。 ハコに縛られること、全員の投資と生活とを同時に再生すべきと直結させなければ、合理的な選択が可能になります。 つまり、建替え事業による事業利益(不動産価値の上昇)は、ある程度まで全員に配分することを前提に別の選択もアリにするのです。 例えば、建物解体と同時に『地域内に住替え』れば、2年もの仮移転なしに安定して住むことができます。 また、投資行為のみ止めることにして、他者が投資した住戸を借りることにすることもできます。 底地権利の譲渡益を先払い家賃に充当すれば、相当長い間家賃なしで住むこともできるだけでなく、投資する人も現金支出がなくラクになるでしょう。

 これらの考えを押しつけると、「弱者を追い出す建替え事業」「貧乏人は出ていけということか」という被害意識が頭をもたげます。 マンションは、区分所有者全員が権利者ですから、あくまで個々の立場で、その選択が合理的だと思い至っていただかないと合意は成立しないのです。 これがマンションの特殊性であり、一人で建替える戸建なら、個人の事情で売るなり建てるなりの選択ができることとの違いです。それだからこそ、一人ひとりが心を解き放っておく必要があるのです。

 なお、マンションでは、100人101脚をしているようなものですから、足並みが揃わない場合には、思い切って建替えをしない。 土地を全員で売却してしまう選択肢もあります。 理想の建替えは、隣接敷地に代替住宅を建設してから、前の建物を壊して売却することだと言われます。 それに近い考え方ですが、ここでも『地域内定住』が実現するのなら、思ったほどみじめな結論ではありません。
 

 ■『地域内定住』と市民ネットワーク………新しい地域社会の形成

 これまでは、長く住むことにより、地域のコミュニティが育ち、交流や協力の態勢が整うと考えられてきました。そのための定住施策であったのです。 しかし、ここは都市です。隣家が300m離れた田舎ではない。 向こう三軒両隣という位置関係によるコミュニティより、価値観や趣味を共有できる隣人関係が複数成立し、人の出入りも含めて緩やかに継承されていく可能性をもつ場所です。 このような関係は、アソシエーションと呼んだ方が良いでしょう。

 『地域内定住』とは、このアソシエーションを維持しながら、流動的な居住を可能にする方法概念として、都市に受け入れられなくてはならない価値観です。語るのは簡単ですが、思うことはまだ難しい。 しかし、その自由を受け入れることなく農村型人間関係にこだわり過ぎると、買った家に縛られたり、投資より大事な生活の場に無理を生じたりします。 都市ならではの新しい地域社会をつくることは、都市を享受し生活を向上させる生活の知恵と思ってください。

 『緑の小径』という核の存在と、何という理由なしに自然発生するオフ会の繁盛ぶりは、そういう『地域内定住』という概念が確かに成立することを感じさせます。 パソコンネットワークという新しい情報ツールによる地域交流の可能性を確かめさせてくれる大事な財産に見えるのです。
 

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 ■おわりに………継続した議論はパティオの方で

 駄文をお読みいただきありがとうございました。 軽いエッセイのつもりが、ついつい深入りしてしまいました。 字数と根気の限界もあり、丁寧な説明を省略した部分もあります。 しかし、普段当たり前と思っていることを疑ってかかる、常識と称される意識の中にあるウソを見抜くことは、実はとても大事なことです。 いつの間にか忘れてしまった「ちゃんと議論する」場は、パティオに用意されています。

 ここに述べたこと、日頃考えていることのごく一部です。 この続きはパティオにいたしましょう。 疑問・反論・ご意見・ご指導・別の話題、何であれ、パティオで振ってくださいませ。 責任もってお話に参加させていただきます。

 最後に、こういう機会と場をお与えいただいた『緑の小径』に感謝します。 
 

------------------------ Maco(maco.yamamoto@nifty.ne.jp) 

     


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