第一話 ふたご
第二話 絵本
第三話 星明かり
第四話 いちじく
第五話 蝉
第六話 鏡よ、鏡
第七話 とんぼ
第八話 バイバイ 〜 ガラスの靴
第九話 壁
第十話 南の国
第十一話 たからもの
第十二話 ひいらぎ
第十三話 雪の女王
第十四話 かばん
第十五話 おおかみ
第十六話 北風と旅人
第十七話 海
第十八話 雨ふり 〜 洪水
第十九話 川辺の仲間
第二十話 クリスマスツリー I
第二十一話 花水木
第二十二話 怪獣
第二十三話 クリスマスツリー II
第二十四話 あさごはん
第二十五話 クリスマスツリー III
第二十六話 水遊び
第二十七話 クリスマスツリー IV
第二十八話 クリスマスツリー V

 ほら、こっちへ来てごらん。こわくないから。おとうさんが波打ち際にしゃがみこんで、ふたごたちを呼びました。

 さらさらしたきれいな銀砂の浜辺が広がって、ざぶんざぶんと波が寄せています。春の海辺はちょっぴり肌寒いけれど、なんだか楽しそうな気持ちになってしまいます。おとうさんは誰よりも早く波打ち際に駆け寄って、潮だまりに手を浸しました。それから、きょとんとしているふたごたちに声をかけたのです。

 さあ、おいで。 大丈夫かな。ふだんはどこだって走りまわっているふたごだけど、海は初めてなのです。やわらかな砂の上をこわごわと近づいていきます。でも、もう少しで波打ち際というところで立ち止まってしまいました。

 さあ、おいで。おとうさんは楽しそうだけど、あれは何かしら。もじもじして、ちっとも前へ進みません。こういうときは、おとうさんにはとっておきの手があるのです。にこにこしながら、人差し指を立てました。一番だあれ。はあい。思わず返事してしまいます。もじもじしていたのはどこへやら、おとうさんのところまで競争してしまいました。

 見てごらん。水が動いているだろう。あれが波だ。お風呂にはあんなのはないだろう?ほら、あの青い大きなところからくるんだよ。水の中に手を入れてごらん。ちっともこわくないよ。ほら、おとうさんのまねをしてごらん。そうしていると、海から何かがつたわってくるみたいだ。暖かさといっしょに何かが入ってくるみたいだろう。

 どうして、海が暖かなのかって。それはね、ずっとずっと昔から、お前たちのような子供が小さな暖かな手をを浸してきたからさ。

人魚姫

「わあい、うみだ。おおきなおみずが、ざぶんざぶんっていってるぞ。うみをみるのは、はじめてだけど、こわくないぞ。えりこ、もっとちかくまで、いってみようよ。」

「わたちに、はなしかけないで。わたちは、くちをきいてはいけないの。うみのまじょとのやくそくよ。そうよ、わたちはにんぎょひめなのよ。」

「こんなところに、おみずがいっぱい、たまってるぞ。うみが、ちぎれてしまったのかな。なかでなにかうごいてる。あれれ、ちょきをもってるぞ。おまえが、うみをちょきしたんだな。」

「わたちのおうちは、うみのそこのきゅうでんよ。でも、うみのまじょにたのんで、ここにつれてきてもらったの。そのかわり、くちをきいてはいけないのよ。そちて、あすのひぐれまでに、おうじさまを、わたちのものにするのよ。」

「えりこ、みずのなかをみてごらん。あいつがちょきしたんだ。なかまもいっぱいいるぞ。ちいさなおさかなもいるぞ。すいすいおよいで、きもちよさそうだな。ようし、つかまえてやる!」

「とおる、そこをおどき。あなたはおうじさまじゃないわ。おうじさまは、すなあそびなんかちないのよ。みずあそびなんか、ちないのよ。」

「わっ、しょっぱい。おまえたち、こんなしおからいみずのなかを、およいでいたんだ。はやく、でておいで。おめめがいたくなっちゃうよ。」

「わたちのおうじさまはどこ? はやくでておいで、じれったいわね。おおきなこえで、よんでやろうかちら。うみのまじょとのやくそくなんて、かまわないわ。ちっとも、こわくないわ。うたもうたってみようかちら。」

「たいへんだ。えりこ、えりこ、おおきななみだ。うみがせめてくる、はやくにげよう。うわあ、つめたい。あしがびしょびしょだ。」

「きゃあ、つめたあい。うみのまじょが、しかえしにきたのね。とおる、とおる。はやく、おうじさまのふりをするのよ。いいこと、あなたはわたちのおうじさまよ。」

May/1998
おわり