科学的社会主義との出合い
第 7回
鉛筆なんかありませんからね、鉛筆を手に入れなきゃなりません。で、どういうふうにして鉛筆を手に入れるか。まず
第一に鉛筆の芯を手に入れなきゃなりません。芯さえあれば鉛筆ができますからね。爪楊枝を6本抜いて、一本お尻
あてて、周り 6本あてるわけです。それで着物の襟から糸を引き抜いて、二カ所ほどきりきりっと巻きますと、これが鉛
筆になるわけです。そういうような簡易鉛筆作成方というのがありまして、それで芯さえ手に入れば鉛筆ができるわけ
です。予審判事の調べ室で鉛筆で書くときにね、予審判事の見てる前でね、鉛筆を長くしといて、ポキンと折るわけで
す。体が衰弱してますからスローモーションですよね。そうしてやったんですが、中には気が滅入ってるやつがおりまし
てね、『またこんな巻き添えされてもかなわん』と届けたやつがおるんです。『何かよからぬ事をやっとるじゃろが』と問
い詰めらて、一ヶ月ほどとぼけておりました。そのうちに拘置所の当局が焦れだしたわけです。なんぼ調べても犯人が
分からん。あんな中でレポで通信しているのですから、何としてもなんとけせないかん。僕らの上級生、なんべんも、な
んべんも出入りしているので、顔なじみになってるもんですから、ある看守が『おまえさんらがやってるあれなあ、もう手
じまいにせんとやばいで、当局がもうかんかんになって、いっせいに、抜き打ちに根こそぎに監房調査をやると言っと
るど』と言いに来たわけです。抜き打ちに全部やられますと、外との連絡で、日本軍隊が太平洋で敗色濃厚になって
きていますから、日本が降伏したときにどうするかを含めて、ハイレベルな連絡網ができあがっておりますから、抜き
打ち調査をやられたらたいへんだ。それを防ぐために、僕ともうひとり僕の友人に、二人自首してくれ。『ええー』いや
がってるのに無理にやれやれ言うてやらしといて、それで自首せい言うんですか。そんな殺生な。『いやー、やってく
れ、たのむ。』 それで『しゃーない』 プイ―と合図すると、『なんやー』言うて看守が来よるんです。『申し上げたいこと
があります。先生があまりにもお気の毒なんでなんとかしたいと思いまして・・・』
当局としては犯人が分かった以上、監房調査は取りやめになった。そのかわり私と友人は厳重な懲罰を受けまして
手紙は出せない。面会は禁止。本は全部取り上げ。一番こたえたのは食事減らされたこと。それでなくったってね、あ
のときはワカモトという薬がありましてね、これがね、ぬかのような味なんです。それでワカモトの大瓶を注文しまして、
ピスケット代わりに食うんです。それで、ワカモトがきたら、このへんで止めようと思うのに止まらんのです。いつも空腹
ですから。 トップページに戻る