2008-01-26

 

二〇〇八年一月二十五日 桜を待ちながら

 

青に塗った芝川水門と

青空を背景にして光るコスモス

風に震える赤、桃色、白

差し出す小さな拳の中に隠された一輪分の花弁

指の端に微小な桃色の点がいくつか写っている

居間の棚で

大きめの麦藁帽子を被って

俯いて悪戯っ子の笑いを見せる

まだ五歳のリュウト

拳の中の草の匂い

日を浴びた帽子の匂いが

私の気管を少し開いて息を楽にする

この一枚のこちら側にはカメラを握って

息を詰めて蹲る妻がいる

 

もう一枚は私のデスクトップにあるもの

二年後の春の夕暮

リードの先の犬を走らせて土手の斜面を下ってくる妻

いつもは私のカメラを嫌う妻が私に向って走る

都立農業公園に咲く

満開の桜を見ようと

退院した私を誘ったのだ

 

この日の日付のフォルダには

何枚もの桜のファイルがある

水門が閉じられて動かない芝川が写り込んでいる数枚

春の夕暮に光を失った水面と

対岸の黒い工場群

妻の顔は写らずに

抱き上げた犬を柵越しの桜に近づけている一枚

桜の下で黒メガネの私が

頬を歪ませて犬を抱いている一枚など

 

二〇〇五年四月七日のフォルダにある

薄暗い撮り損ないの

すべて五時過ぎのファイルは

私の気まぐれのこの記録の確認のために

一分ほどのスライドショウとなる

これは何度目のスライドショウであることか

珠玉のような

励ましと慰めのもう一枚を満開の桜に捜して

空しく繰り返し

開いては閉じ開いては閉じて暗いフォルダに戻した

この後の日付のフォルダはない

カメラは仕舞い込まれたままだ

 

今から頼んでおこう

今年の桜にも

きっと連れて行って貰おう

すでに古色蒼然たるカメラは要らない

暖かく晴れて日の高い時間の

上野が良い

池之端から寛永寺まで

酒とゴミ臭い桜並木の大通りを避けて

隅々まで知っている満開の木々の在処を

二人して教えあって確かめよう

妻が好きなものと

私が好きなものを

何か一つずつ食べに行こう

 

 

2007-05-18

 中島さんに頂いた励ましの、依田川の桜と鯉のぼり。幾つかの論文の追加があります。更新しなかった事情は(たいしたことはありませんが)、おいおい書きます。表紙の様子も、少し変えてあります。