その17:レンタルビデオへ行こう
| 私は映画館で映画を観るのが好きであるが、もちろん観たいものすべてを劇場に観にいけるわけではない。
それは時間や予算の関係だったり、行こうと思ってたが単にめんどくさくなってやめる場合だってある。そうこうしてるうちに上映が終わり、観たかったのに行けなかった作品は数知れない。本当は毎週末にでも一本観れるのが理想的なのだが、他にもやりたいことややるべきことがあるのが現実だ。 そんなときはレンタルビデオへゴーである。 今回は、とある休日にレンタル屋へ行く私の行動をドキュメンタリータッチでお送りしたい。
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今日は日曜日。ちょっとお寝坊さんの昼近く。外を見ると天気は薄曇りだ。特に予定もないが、さてどうするか。都心まで出るのも面倒だし、かといって家でボーッとしてるのももったいない。
そうだ、今日はレンタルビデオのチュタヤ(仮名)に行って、なにか映画でも借りてくるとしよう。 チュタヤは家から自転車で5分ほどのところである。昼飯後、さっそく支度をし、妻に声をかける。 「ちょっと出かけてくるよ」
「あー、チュタヤ?」
……なぜわかった!?おのれはエスパー魔美か?つーかその例えもどうか!? 夫婦でツーカーだから――といいたいところだが、単に私の行動範囲がバレバレなだけらしい。情けない思いに駆られ、少しへこむ。 ちなみに妻は、私がせっかく一緒に観ようとビデオを借りてきても、時々半分も観ないうちに寝てしまうことがある。本人いわくつまらないからだそうだが、「今のシーンは良いなあ!」と言おうとしてふと横を見ると、ぐっすり夢の中にあらせられるので、私の熱っぽい言葉は宙に浮いたまま空しく漂うのであった――。 まあそんなことはどうでもいい(と涙を拭く)。さっそく出発だ。私は愛車レイチェル号(チャリンコ)にまたがり、さっそうとペダルを漕ぎ出す。チリンチリ〜ン。
ほどなくチュタヤへ到着。ここはそれほど規模が大きいわけではないが、近所ということでよく利用する店である。 レイチェル号を店前のスペースに駐輪し、自動ドアをくぐり店内に入る。店内は多少混んでいるが、休みの日なのでしょうがあるまい。老若男女、カップルから家族連れまで客層もさまざまだ。まずは新作コーナーに向かう。 新作は一週間レンタルできない上に値段も高いのでまず借りることはないのだが、見逃した作品が新たにビデオ化したかどうかをチェックするのだ。そして新作落ちした時期にゲットである。まれに古いが置いてなかった作品が新たに入荷してたり、予想外の珍品が並ぶこともあったりするので侮れな――
おお、これは!?
――『トレマーズ』というケビン・ベーコン主演の傑作モンスターパニック映画がある。子供のころ手に汗握って観たのは記憶にあるのだが、今私の目の前にあるのはその続編なのであった!
タイトル:『トレマーズ4』。
『4』かよ!
1作目の公開が1989年。15年もたってまだ続いていたとは。なにやら得体の知れない感慨に見まわれたが、よく考えたら『2』さえ観てないので、あっさりスルーしておく。 他の品も見るが、大作は映画館ですでに観たものも多く、なかなか惹かれるものがない。大量に並んだ『マトリックス レボリューションズ』がほとんど借りられていない事実に、伝説になり損ねたシリーズ映画の悲哀を感じつつ、歩を進める。
次のコーナーはアクションやアドベンチャーが並んでいる。血沸き肉踊る私の好きなジャンルだ。大作からB級まで粒ぞろいだ。 一口にアクションといってもわりと細かく分類されており、「ヒーローもの」や「ハードボイルド」もあれば「刑事もの」もある。 ほう、「スパイもの」か。当然並ぶのは007シリーズであるが……しかしそのすぐ隣に『スパイ・キッズ』シリーズを置くのはいかがなものだろうか。かたやファミリーで大冒険、かたやマティーニ片手に美女とベッドインである。
そこで私はハタと気づく。 ――そうか!きっと『スパイ・キッズ』を取る手が、隣に並ぶ『007』に伸びるようになったとき、人は大人の階段を上るのだなぁ。
一瞬素晴らしい洞察に思えたが、別にたいした話でもないことに気づいて嘆息する。
おっと、「クライムストーリー」というジャンルもあるな。中の一本を何気なく手に取ってみる。と、パッケージには、燃え上がる炎をバックに3人のセクシー美女。そして「エンジェル」の文字。 おう、これは。いま蘇るあの名セリフ。「グッモーニン、エンジェルズ」「グッモーニン、チャ――
あ、あぶねえ!バッタもんじゃん!チャーリーいねえじゃん! 一応裏のあらすじを読んでみる。
……うわぁ。 ん、ちょっと待て。「第1弾」?
となりに並んでました。続編が。
タイトル:『スパイ・エンジェル/フルスピード』 ……うわぁ。
あれ、ま、まだあるぞ。
タイトル:『スパイ・エンジェル/フロントミッション』
本家の倍も作ってるのか……なんか、ちょっと観たくなってきたな……。 かなり後ろ髪引かれるが、とりあえずスルーしておく。ちなみにこのシリーズ、ドイツ映画であった。これまた微妙だ。次へ進む。
そのとき。なにやら異様な空気が辺りに立ち込めていることに気づく。 なんだろう、と思い見回す。ハッ。あそこだ。あの右手の棚の脇――あそこは何かが違う。なにやら狭い通路があり、しかもなぜかのれんがかかっている……。ん、なになに、18歳みま……。 ヤバイ!あの艶かしい桃色の波動はヤバイッ! あれは罠だ!回避しろ!面舵いっぱい!弾幕薄いぞ、なにやってんの!
さてお次は「香港映画」のコーナーか。私がチュタヤを訪れるたび欠かさずチェックするコーナーだ。香港映画の激しく、華麗で、時に切なく、時に大バカなアクション映画が大好きなのである。 ああしかし、たいがいのめぼしいものは既に鑑賞済みだ。ジェット・リー作品は完全制覇したし、ジャッキー・チェンやブルース・リー作品もほぼ制覇。というよりジャッキー作品は多すぎてどれを観たのかわかんなくなってしまった、というのが正直なところだが。 しょうがない、今日もこのコーナーでは成果なしか。そう思った矢先――
昨年秋に行われた、東京国際ファンタスティック映画祭2003。その際何十年ぶりかに特別上映されたものを、どうしても都合があわずに見逃し、もはや観ることは叶わないのかと諦めていたカルト作品―― 『片腕カンフー対空とぶギロチン』!! かつてブルース・リーやジャッキーがカンフー映画の黄金時代を築く前カンフー映画の元祖ともいうべき作品を発表し続けのちにゴールデンハーベスト映画社の重鎮ともなった人呼んで”天皇巨星”ジミー・ウォングことジミーさんの代表作あのタランティーノが大好きで『キル・ビル』のゴーゴー夕張のモデルともなった空とぶギロチンが今私の目の前にああ会いたかったよジミーさんしかも新作じゃないいつの間に入荷してたんだやるじゃねーかチュタヤ!
一瞬にして様々な思いが錯綜し、思わず本当に「おお」と小声が漏れてしまった。すかさず周囲を見回し、ちょうど周りに人がいなかったことを確認して安堵する。 そして震える手でゲット。 まあ作品自体は知らない人のほうが多いだろうが、わかってもらえるだろうかこの感慨が。「これこれ!観たかったんだよ!まさか置いてあるとはなあ!」という気持ちが。 しかしここまで興奮することは滅多にない。なんだか新鮮な感動を味わってしまった。ここまでくると、実際に観てつまらなかったとしても悔いはないであろう。そう、たとえつまらなかったとしても!と、一応心の予防線を張っておく。
おっと。いつの間にか40分も経ってしまった。まったく、あれも観たいこれも観たいと悩むのも贅沢な時間の使い方だなあ。――しかし、40分もあれば映画半分は観れるだろうという事実に気づき、このうえなくあせる。 帰ろう。
いらっしゃいませ〜。一週間のご利用でよろしいですか〜?ありがとうございました〜。
チュタヤを後にし、再びレイチェル号にまたがる。あとは帰ってコーヒーでも用意し、菓子でもボリボリ食らいながら、ゆったりと鑑賞会である。ああ、アンニュイな午後のひと時。
しかし『片腕カンフー対空とぶギロチン』ではアンニュイには程遠いということに、このときの私は気づくはずもなかった……。 さーて、次は何を借りようかな?
2004/6/6 |