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2人が旅行から帰ってきて数週間が過ぎた午後、キャンディとアニーとパティーは初めて
孤児院廻りに行くことになった。シカゴ市内にある孤児院で子供は20人程が生活しているらしい。
夫人達の中心となっていたのは、マリオットさんという50代の夫人だった。とても優しい笑顔を
見せ、とても気の付く女性だった。この日は、現地集合になっていたので、3人は車を出して
貰い、孤児院に行く事になっていた。3人が出掛けようとした時、大おば様が様子を見に来た。
「キャンディ!何です、その格好は!あなたはアードレー夫人なのですよ。それなりの服を
着ていかなければなりません。その服はウィリアムとの散歩用です。早く着替えて来なさい」
大おば様は、目を丸くして怒っていた
「大おば様、私は今日子供達と遊べると聞いて楽しみにしていました。子供と遊ぶには
アードレー夫人らしい服では動きにくくて仕方ありません。子供と本当に楽しんで遊ぶ事が
出来ません。ですから、この服を着てきました。ダメでしょうか?」
キャンディは大おば様に頼むように言った
「ダメです。貴女はアードレー本家の妻なのですよ。その様な服で外へ出すことは出来ません」
大おば様は、きっぱりと言った
この日は、本宅で仕事をしていたアルバートさんが騒ぎを聞き、部屋から出て来た。
「くすっ、キャンディ怒られちゃったね。大おば様、キャンディは孤児院に行って、子供と遊びたい
のです。その為には動きやすい服装の方が楽しめます。僕がキャンディに許可していますので、
何の問題もありません」
アルバートさんも、きっぱりと言った
「しかし、ウィリアム・・・貴方の妻が、この様な格好で外へ出ていたら、貴方が周りから言われて
しまうのですよ」
「僕は構いません。キャンディが伸び伸びと子供達と遊んでくれた方が、僕は嬉しいですし、
子供達も喜ぶと思います。さぁ、キャンディ、行っておいで」
アルバートさんはキャンディに優しい笑みを見せた
「ありがとう、アルバート。行ってきます」
キャンディに笑顔が戻り、出かけて行った
「貴方達夫婦には、本当に手をやきますね・・・」
「大おば様、すいません。これが僕達夫婦なんです」
アルバートさんはウィンクして言い、大おば様は諦めて笑った
無事アードレー家を出発した3人・・・
「くっくっく・・・やっぱり、大おば様に怒られると思ったわ」
アニーは、思い出し笑っていた
「くすっ、私もそう思ってたのよ。でもキャンディは負けないと思っていたけどね」
パティーも笑っていた
「アルバートさんも、さすがだわ。必ずキャンディの味方だし、キャンディを分かってるわ」
「そうね、アルバートのお陰で、私は伸び伸び出来るんだわ・・・」
「キャンディ、今日集まってる婦人達も、きっとビックリするわね」
集合場所の孤児院に着くと、既に全員が集まっていた。孤児院廻りはグループに分かれていて
1グループで決まった3ヶ所の孤児院を、月に1ヶ所ずつ廻って行くのだと3人は知らされていた。
キャンディ達は4人のグループの所に混ぜてもらい、グループのリーダーは、夫人達の中心と
なっているマリオットさんだった。他にモリスさん、ナンシーさん、ダイヤさんが居た。
「すいません、遅くなりました。キャンディス・W・アードレーです」
キャンディは車から1番に降りて、4人に挨拶をした。予想通り4人は目が点になり、キャンディを
じっと見ていた。そして、マリオットさんが言った
「あなた、アードレー夫人ですよね?」
「はい、キャンディス・W・アードレーです」
「その格好で来たの?」
今度はナンシーさんが聞いた
「はい、子供達と遊べると聞いたので、遊べる格好で来ました」
キャンディは平然と答えた
「アードレー夫人、その格好で来る事を、アードレー氏やエルロイ様は御存知ですか?」
マリオットさんは心配して言った
「はい、出てくる時に、大おば様に怒られましたが、夫が許してくれたので問題ありません」
「アードレー氏が許しているのでしたら、いいのですが・・・では、皆さん、お土産を持って入りますよ」
キャンディは子供達と遊べるとあって、わくわくしていた。どんな子供達が居るのか楽しみで仕方
なかった。しかし・・・そこにはキャンディの知ってる孤児院とは違う世界があった。ポニーの家とは
全く違っていたのだ。子供達の目には、輝きがなく、どこかスレている様だった。
お土産を持って入った夫人達に、媚を売る様に集まり、キャンディはゾッとし、鳥肌がたった。
ポニーの家の子供達と同じ子供なのに、全く違う様に思える。働く職員もだた仕事をこなしている
様にしか見えず、子供も職員も喜怒哀楽がないようだ。
それなりに広い庭もあるのに、楽しそうに外で遊ぶ子供も居ない。キャンディは不思議で
仕方なかった。アニーとパティーは子供達の目や行動に怯えてしまっているようで、動けなく
なっていた。4人の夫人達は慣れてしまっているのだろう・・・淡々とお土産を配り、適当に
子供と話し始めた。キャンディはマリオットに聞いた。
「もう、遊んでもいいんですか?」
「えぇ、いいのよ」
「庭で遊んでもいいんですか?」
「えぇ、敷地内なら大丈夫よ」
キャンディは、少し目に輝きのある子供を4人と、ずっとキャンディの近くでモジモジとしていた
女の子1人を庭に連れ出した。
「さぁ、お姉ちゃんと遊びましょう、何して遊ぶ?」
誰も返事をしない
「じゃぁ、おにごっこしようか。お姉ちゃんが初めにオニになるから逃げるのよ。いい?スタート!」
子供達は少しだけキャンディから離れて様子を見ている
”この子達は、こんな遊びもしてないんだわ・・・子供なのに・・・”
「よ〜し、つかまえちゃうぞ〜、まて〜」
子供達はキャンディの顔を見て、少し笑い走り出した。初めは声も出さなかった子供達が
小さな声でキャッキャッと言い始め、そのうちキャーと大きな声を出すようになり、走りも早くなった。
こうなったら、もうキャンディのペースだ。5人の子供達は大騒ぎになった。室内に居た子供も
その騒ぎが気になり、2人、3人と庭に出てきて仲間になった。最後には15人もの子供を庭に
引っ張り出し、大騒ぎの鬼ごっことなった。子供は汗を流して、目を輝かせて走っていた。
そんな中、1人の男の子が木の上に居ることにキャンディは気付いた。キャンディは鬼ごっこの
輪から外れ、木に登り少年に近付いて行った。
「どうしたの?こんな所で」
「あんた、女なのに木に登れるんだ」
「女なのには失礼ね。私は男よりも上手に登れるのよ」
キャンディは胸を張って言った
「くすっ、本当だな」
その少年は笑顔を見せた
「ふふっ・・・笑ってくれるのね」
「あんたみたいに、木に登って来て、俺に話しかけてくれる人は初めてだったからね」
「そう、良かったわ、私が木に登れて。あなたと話せるんですものね?私はキャンディ。あなたは?」
「俺、バック」
「バックはいくつなの?」
「13歳」
「あらっ、お兄ちゃんなのね。私とも、そんなに違わないわ」
「キャンディはいくつなの?」
「私は20歳」
「7歳も違うじゃないか」
「あらっ、私と夫なんて10歳も違うのよ」
「え?キャンディ、結婚してるの?」
「うん、してるのよ。幸せに見えるでしょ?」
「幸せか・・・俺には関係ない話だね。幸せなんてないよ・・・」
「バックは自分で幸せを探してる?幸せは自分で掴むものよ」
「今まで幸せなんてなかった・・・俺に幸せなんて探せないよ」
「そうかしら?今まで本当に幸せなかったの?誰かが何かくれて嬉しいと思ったり、小さい子を
助けて”ありがとう”って言って貰ったり、好きな女の子が笑顔を見せてくれたり・・・嬉しいと
思った事は幸せの1つじゃないかしら?
でも、それを幸せとするかどうかは、その人次第だけどね。私は、そんな小さな事も幸せだと思うわ」
「キャンディは、面白いな。そんな風に考えるんだ」
「そうよ、そうしないと、つまらないじゃない。私も捨て子で孤児院に居たのよ」
「本当?」
バックはとても驚いた様だった
「そうよ、ポニーの家っていう孤児院で12歳まで育ったのよ。それで12歳で使用人として雇われて
とても大変な日々を送ったのよ。でも、ある時、私を養女にしてくれた人がいたの。それが、今の
私の夫なのよ。人生なんて、どんな風になるか分からないのよ、バック。あなたも一杯幸せを
見つけて、自分のやりたい事も見付けたら、もっと大きな幸せが、きっと見つかるわよ」
「やりたい事って?」
バックはキャンディの話にとても興味を示していた
「そうね、私は看護婦になったわよ。自分の道を自分で切り開いて、看護婦になって働いたわ」
「へぇ、看護婦?格好いいなぁ・・・キャンディ」
「そぉ?バックもやりたい事が見つかるといいわね。じゃっ、私は下に下りるわね」
下に下りたキャンディにバックは上から言った
「キャンディの旦那さんって、どんな人?」
「とっても素敵な人よ」
キャンディは、とびっきりの笑顔を見せた
一方、孤児院の中ではキャンディの動きに、皆が釘付けになっていた。子供達を、いとも簡単に
集め、笑顔のある子供にしてしまったからだ。孤児院の院長はマリオットさんに声を掛けた。
「あの少女は、皆さんとは違う様に、お見受け致しますが、どなたですか?」
「はい、今日から私達の仲間になった、キャンディス・W・アードレーさんです」
「ア・・アードレーさんって・・・この前結婚されたアードレー氏の奥様ですか?」
院長は驚きの表情で言った
「はい、驚かれますよね・・・あれがアードレー夫人なのですから・・・」
「はい・・・アードレー家の方がジーンズをお召しになるとは思いませんでした」
「くすっ・・・たぶん、あの子が初めてなのではないでしょうか・・・それにしてもアードレー夫人は
凄いですね。すぐに子供を手なづけてます。あんな子供達の笑顔を私は初めて見ました」
マリオットさんはキャンディをみて微笑んでいた
「ええ、私も何年も働いておりますが、こんなに子供らしい姿を見たのは初めてです。
おやおや、アードレー夫人は木にも登るんですね?」
「まぁ、なんて事でしょう・・・木から落ちたらアードレー氏に何て申し上げたらいいのでしょう・・・
困りましたね・・・」
マリオットさんはオドオドしはじめた
「マリオットさん、大丈夫です。彼女とアードレー氏は、よく木の上で2人でくつろいでおります。
なんの問題もございません。木から落ちても、きっとアードレー氏は笑って終ると思います」
アニーがマリオットさんに微笑んで言った
「アードレー氏も木に登るのですか・・・ビックリです・・・」
1時間程経つと帰る時間になり、マリオットさんが声を掛けた。
「え〜、お姉ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「また、来るから、いい子で待っててね」
キャンディは子供達の顔を見渡して言った
「いつ来てくれるの?」
「マリオットさん、次はいつでしょうか?」
「次は9月ですよ、アードレー夫人」
「みんな、9月ですって。それまで、ちゃんと先生の言う事を聞いて、皆で遊んでるのよ。
もう皆で遊べるでしょ?必ず、また来るからね」
キャンディは子供達と約束をした。
「ねぇ、キャンディ。俺、キャンディの旦那さんに会ってみたいな」
・・・とバックが言うと、先生がバックの所に飛んできた
「これ、バック。そんな呼び方をしてはいけません。アードレー夫人とお呼びなさい」
「先生、いいんですよ。私は、ただのキャンディです。皆とお友達になったキャンディなので、皆に
キャンディと呼んで欲しいわ。皆、お姉ちゃんの名前はキャンディよ。キャンディと呼んでね。
ところでバック、私の旦那さんは、とっても仕事が忙しい人なの。なかなか来る事は出来ないと
思うけど、今日帰ったら必ずバックが会いたいと言ってくれた事を伝えるわ。でも会えるか
どうかは、分からないから約束は出来ないの。ごめんね」
キャンディはバックに言った
「うん、わかったよ、キャンディ。キャンディの素敵な旦那さんを見てみたいと思っただけだから
大丈夫だよ」
バックはキャンディに笑顔で言ってくれた。無事孤児院での遊びは終った。
キャンディ達は孤児院を出た。するとマリオットさんが言った。
「アードレー夫人、あなたは、とっても素晴らしいわ。私達、子供達があんな笑顔で楽しそうに
している姿を初めてみましたよ」
「はい、私もとっても楽しめました。私は外で動くのが好きなので、外に出てきた子供達は
いいのですが、大人しい子供達には、どうだったのか・・・」
キャンディは不安そうに言った
「大人しい子はアニーとパティーが上手に遊んでくれましたよ。初めアニーとパティーは子供達と
接する事が出来ないのでは・・・と心配しましたが、キャンディを見て勇気が出たようですね。
3人は合格です。また来月もお願いしますよ、今日はお疲れ様でした」
マリオットさんに誉められ、3人は安心した。3人は迎えに来てくれた車に乗り、本宅へ戻った。
本宅では、オフィスからアーチーとディックも戻り、アルバートさんと一緒に3人の帰りを心配して
待っていた。とりえず、キャンディ達は部屋に戻り着替えて、アルバートさん達の待つサンルームへ
行った。
「お疲れ様。3人ともどうだった?きちんと出来たかな?」
アルバートさんは3人を見渡して言った
「そりゃ、もう、ばっちり遊んできたわよ」
キャンディがニコニコして言ったので、アルバートさんもアーチーもディックも安心した。
「でもね、初めは怖かったのよ」
アニーが言った
「何で?」
アーチーが不思議そうな顔をして言った
「私も、アニーもパティーも最初は動けなかったの。子供の目に輝きがないの。凄く冷たい目で
見ているし、子供らしさが無いのよ。遊ぶ事もしてないみたいで・・・その中でも少し目の違う子を
私が集めて鬼ごっこを始めたの。初めは声も出さなくて、私は寒気がしたわ・・・。でも段々と
声を出して走る様になって、他の子供達も仲間に入って来て、最後は楽しく遊べたわ」
キャンディはニコッとした
「私とアニーは、中に残っていた大人しい子の相手をしたんだけど、やっぱり声を出さないのよ。
沢山話しかけてあげて、少しづつ話す様になって最後には笑顔を見せてくれたわよね?アニー?」
パティーも微笑んだ
「うん、笑ってくれた時は嬉しかったわ」
アニーも思い出して嬉しそうに話した。
「ポニーの家の子供とは、全然違うんだな・・・」
アルバートさんも少し衝撃を受けている感じだった
「1人、木の上で話した13歳の男の子が居るの。その子がキャンディの旦那さんに会ってみたいと
言ってたわ。私は、私の旦那さんは仕事の忙しい人だから、会えるという約束は出来ないけど
話だけはしておくわって話して帰ってきたの」
キャンディはアルバートさんに言った
「そうか・・・僕も一度行ってみたいな。孤児院はポニーの家しか知らないからね・・・他の所を
見て知っておくのもいいかもな。それで、次はいつ行くの?」
アルバートさんがキャンディに言った
「今日行った所は9月ですって」
「アルバートさん、もしかしてジーンズで行くんですか?」
アーチーが笑って聞いた
「行ければ、僕もジーンズで行くよ。だって木に登るんだろ?キャンディ。くすっ」
「そうよ、木に登って、木の上で話したわ。くすっ」
キャンディとアルバートさんは2人で笑った
「そうよ、キャンディ。マリオットさんが驚いていたわよ。ジーンズで来るし、木に登るし。落ちたら
アードレー氏になんて報告したら・・・って心配してたわよ」
アニーが今日の事を思い出して言った
「くっくっく・・・アードレー夫人として見るからビックリするんだよな?キャンディ?ただのキャンディ
だったら、驚かないのにな?」
アルバートさんは、一緒に行った夫人達を想像して笑っていた
無事3人の孤児院、初訪問は終った。そして9月に同じ孤児院へ行った時には、キャンディと
アルバートさんは、ペアルックのジーンズ姿で参加し、また周りを驚かせた。
皆の思いはただ1つ・・・アードレー夫妻は、本当にアードレー家の人間なのだろうか・・・
バックはアルバートさんと木の上で沢山話し、色々な事を教えて貰った様だ。最後にキャンディと
アルバートさんの元に来て
「キャンディ、キャンディの言ってたとおりキャンディの旦那さんは素敵な人だったよ」
・・・とニコニコして言った。キャンディとアルバートさんは幸せな気分になった。
この頃、テリィがストラットフォード劇団を退団し、チェルシー劇団へ移籍したと記事がでた。
チェルシー劇団は、ストラットフォード劇団と肩を並べる劇団だった。ストラットフォード劇団は
シェイクスピアばかり公演していたが、チェルシー劇団は別の民衆受けする劇もやるし、
シェイクスピアもストラットフォードの様に硬くなく、少し違う角度から見れるものにして公演
していた。テリィはストラットフォードの硬い演技が嫌になってきていた。もっと作家や演出家と
意見を戦わせたり、役者同士も意見を言い合いケンカになりながらも、劇を作っている
チェルシー劇団に魅力を感じていたのだ。その他に、もう1つストラットフォードを去る理由があった。
スザナを愛せない事だった。テリィは今でもキャンディを愛している・・・そんな事はスザナも
知っていた。自分がテリィを苦しめている事も知っていた。キャンディが結婚しても、まだキャンディを
想い、自分には指一本触れず、ただ家に居るだけのテリィを見ているのも辛くなったスザナは
テリィに別れを告げた。テリィは、もうどうでも良かった・・・キャンディも結婚し、アルバートさんの
ものとなってしまった・・・何故今なんだ・・・何故あの事故の時にスザナは分かってくれ
なかったんだ・・・あの時に、こうなる事は予想もついたはずだ。あの時に分かってくれていたら
俺は今頃キャンディを妻とし、一生一緒に居れたのに・・・もう何もかも遅い・・・でもマーロー家から
離れられるという事は、テリィにとって幸せだったのだ。自分を押し殺し、自分じゃない自分になって
生活していた日々・・・テリィにはとても辛いものだった。ただ、それから開放され自由になれた
だけでもテリィは幸せだと思った。スザナから解き放たれ、チェルシー劇団に入ったテリィは
テリィらしく役者になれる第一歩だった。そして、瞬く間に本領を発揮し、テリィはすぐに舞台に
立ち、誰もが認める実力で役を勝ち取っていった。
アルバートさんは、テリィが劇団を移った事、スザナと別れた事を新聞記事を読み知っていたが
キャンディには言ってなかった。