Doctor 〜 ドクター 〜
1        あとがき

 Doctor 〜 ドクター 〜

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少しずつ暖かい日差しがシカゴ市民を包み始めた3月・・・
2人の青年がシカゴの街を歩いていた。
「こんな所に小児科だけの病院なんてあったか?」
「いや、無かったよな・・・?最近出来たんだろうな・・・気付かなかったよ」
青年2人が見た小児科は、シカゴの中心部にあるアードレーオフィスから
数軒しか離れていない同じ区画に出来た、小さな病院だった。
外観は病院を思わせる白ではなく、レンガ造りの温かみのある小さな建物だった。
その建物には小さなネームプレートしかなく、そのネームプレートには
”ローズデュー小児科”と書かれていた。

青年の1人は窓から中を覗き込み、中に居る看護婦を見て驚いた。
「あっ!パティーだっ!」
「え?知ってる人なの?」
「うん、今、ぬいぐるみを持ってる看護婦がいるだろ?あの子を知ってるんだ。
あの子、前は俺達と同じシカゴ大学で教師を目指していたんだけど、1年の時に
大学を辞めちゃったんだよ・・・」
青年の1人はパティーから目を離せないまま言った
「何で?」
もう1人の青年が、相方を見て言った
「うん、教師よりもやりたい職業が見つかったって言ってたんだ・・・
その職業が看護婦だったなんて、俺、すっごく嬉しいんだけど・・・」
青年は顔を赤くして言った
「何で、お前が嬉しがるんだよ」
「え?何でって、俺達は将来医者だろ?パティーは看護婦だぜ。一緒に仕事が
出来るじゃないか」
青年は、理解し切れていない相方を睨む様に言ったが・・・すぐに、しまった・・・
とでも言いそうな顔をして下を向いた
「そりゃ、そうだけど・・・ふ〜ん、お前、あの子を好きだったんだろ?
お前が好きそうな感じの子だもんなぁ・・・」
もう1人の青年が、怪しげな笑みを浮かべ、青年の肩に手を置いた
「うるせ〜な〜・・・いいだろ・・・」
青年は真っ赤になり、肩にある手を払った
パティーを知っていた青年の名前は、エリック・バトラー
もう1人の青年の名前は、サイモン・L(レーン)・フェントン
2人ともパティーより3歳年上の25歳だった。
「それで、何でエリックは、学部も違う あの子を知ってるの?」
「あぁ、後輩のライトいるだろ?あいつとパティーが仲良かったんだよ。
俺とライトも、よく話すから、段々とパティーとも話す様になったんだよ」
エリックは少し下を向いて言った
「ふ〜ん・・・3歳年下かぁ・・・もう病院も終る時間じゃないのか?もう少し待ってたら
お茶位行けるんじゃないの?」
サイモンは、時計を見ながらエリックに言った
「え?いいよ・・・予定があるかも知れないし、迷惑かも知れないし・・・」
エリックがボソボソと言った
「そんなの言ってみなきゃ、わからないだろ?お前らしくないな・・・
せっかく会えそうなんだから、もう少し待ってみようぜ。俺も付き合うからさぁ」
サイモンがウィンクをして、エリックの肩をポンと叩いた。
2人は暫く歩道のガードに腰を掛け、病院の入口を見て、パティーが出てくるのを
待っていた。20分程経ったころ、パティーが楽しそうに笑いながら話し、もう1人の
女性と病院から出て来た。

パティーとエリックが再会する1週間前・・・
アードレーオフィスの総長室に1人の紳士が来ていた。高級なスーツを着こなした
紳士の名前は、ロジャー・G(グラント)・フェントン 47歳だった。
フェントン家は、シカゴでは、アードレー家に次ぐ富豪で、アードレー家とフェントン家は
先代同士が親友だった為、交代後も友好的な付き合いが続いていた。
アルバートさんは、フェントン氏をロジャーさんと呼び、兄の様に慕い、フェントン氏も
アルバートさんを弟の様に可愛がっていた。
そのアルバートさんも32歳になり、昨年ようやく結婚をした。妻の名前はアンナ。
アンナは27歳で結婚前は看護婦をしていた。キャンディが姉と慕っていた女性で、
キャンディが本宅に連れて来たのが、きっかけで交際が始まり、結婚に至った。
総長室でアルバートさんとロジャーは仕事の打ち合わせが終わり、コーヒーを飲みながら
雑談を始めた。
「アルバート君、君の大切な娘のキャンディは元気かい?」
「はい、相変わらず元気に木に登ってますよ、僕と一緒にね。くすっ。看護婦も楽しい様で
仕事をしてる時も、活き活きとしてますよ。あの病院を作った甲斐がありましたよ」
アルバートさんは、優しい眼差しで話した
「くすっ。君達は相変わらず2人で木に登ってるのかい?奥さんは妬かないのかい?」
ロジャーは、からかい半分で言った
「くすっ、そんな事で妬いたりしませんよ。僕とキャンディは兄と妹ですからね」
「そんな事言って、妻にする相手を間違えたんじゃないのか?」
「また、そんな冗談を・・・一時はキャンディを妻にとも考えましたが、
キャンディを幸せにするのは、僕じゃありませんよ。サイモン君は頑張ってますか?」
アルバートさんは、一笑して言った
「あぁ、息子も頑張って医者を目指してるよ」
「サイモン君は、立派な医者になりそうですよねぇ。でも、サイモン君が医者で、
キャンディが看護婦なんて、よく出来た偶然だと思いませんか?くすっ」
アルバートさんが、怪しい笑いをした
「くすっ、私も思っていたんだよ・・・今度2人を会わせてみないか?どうだろう?
アルバート君・・・サイモンには彼女も居ないし・・・」
ロジャーも楽しそうに微笑んで言った
「くすっ、それいいですね・・・キャンディにも恋人は居ないので、いいかも知れませんね。
2人で、あの病院をやってくれるといいんですけどね・・・」
アルバートさんとロジャーは、お互いの娘と息子を引き合わせる事で話をまとめた。

病院から出てくるパティーを見るとエリックは腰を上げ、パティーに声を掛けた。
「パティー、久しぶり」
「ん?え?あっ!エリック先輩・・・どうしたんですか?こんな所で・・・久しぶりですね」
パティーは3年ぶりにエリックに声を掛けられ、驚いて目がまん丸になっていた。
「くっくっく・・・相変わらず、驚くと目がまん丸になるんだな・・・さっき、この前を通って
初めて小児科がある事に気付いたんだよ。それで、中を見たらパティーが居て
ビックリしたんだ・・・久しぶりにパティーを見たから、話しでもと思って待ってたんだよ・・・」
エリックは、少し恥ずかしそうではあるが、さっきの弱気は何処へ行ったのかと思うほど、
普通に話していた。
「うわぁ・・・嬉しいです、私の事を覚えてくれていて・・・お時間はあるんですか?
お時間があれば、お茶でもいかがですか?」
パティーがエリックを覗き込む様にして言った
”おっ、エリックよかったなぁ・・・彼女の方から誘ってくれたじゃん・・・本当にエリック好みの
女の子だよなぁ・・後ろに居る子は、一緒に行くのかな?あの子が行くなら俺も行きたいな”
サイモンはエリックの後ろで1人思っていた。
「うん、行こうか・・・パティーのお連れさんも一緒に行けるのかな?」
エリックはパティーの後ろに居る女性をチラッと見て言った
「あっ・・・キャンディ、大丈夫?時間ある?」
パティーが、後ろにいた女性キャンディに確認を取ると、キャンディは頷いた
「良かったわ、彼女は、キャンディス・ホワイトさんよ」
パティーがキャンディを紹介した
「良かったよ。サイモンも行けるだろ?彼は、サイモン・レーン君だよ」
エリックはサイモンが頷いたのを確認して、サイモンを紹介した。
エリックもパティーも、お互いの連れをフルネームで紹介しなかった。キャンディにしても
サイモンにしても、ここシカゴでは有名過ぎるファミリーネームの持ち主だったので
2人共、フルネームで自己紹介したりする事が無かった。それを知っているパティーと
エリックは、自分達が紹介する時も、気を使いフルネームでの紹介をしない様になっていた。

4人は、近くの喫茶店に入り、コーヒーを飲みながらの会話が始まった。
「パティーが看護婦なんて、ビックリだよ・・・」
「くすっ、そうでしょ?教師よりも看護婦に魅力を感じたの・・・キャンディのせいね、くすっ。
キャンディのテキパキと働く看護婦姿が、とっても格好良かったのよねぇ・・・」
パティーはキャンディを見て微笑んだ
「何を言うの・・・そんな事ないわよ・・・」
キャンディが恥ずかしそうに言った
「キャンディさんは、ずっと小児科の看護婦なんですか?」
エリックがパティーのテキパキと働くという言葉に、少し違和感を感じて言った。
「いえ、私は外科の看護婦だったんです・・・大きな病院の外科に居たので、毎日忙しくて・・・
看護婦の仕事を楽しみたいと思って、今は小児科に居るんです」
キャンディは、エリックに言った
「なるほど・・・それで仕事をテキパキなんだ・・・外科の看護婦だなんて、キャンディさんは
優秀なんですね・・・外科なんて仕事の出来る人しかいけないでしょ?それで、パティーは
キャンディさんに憧れたんだね?」
エリックはパティーを見てニコッと微笑んだ。その笑顔を見せられたパティーの心臓は
バクバクと動き、顔は赤くなていた
シカゴ大学にパティーが居た時の憧れの先輩がエリックだったのだ。
エリックは背が高く、メガネをかけ、とても知的な顔立ちの好青年・・・その憧れの先輩に
再会出来たパティーの気持ちは、舞い上がっていたのだった。
「はい・・・私は、まだまだキャンディの様に仕事が出来ないんですけど・・・とっても楽しい
仕事なので、看護婦になって良かったって思ってるんですよ。ところで、先輩は今、何を
してるんですか?」
パティーはエリックが大学で何学部にいたのかも知らなかった・・・
「え?何やってるって・・・パティー失礼だなぁ・・・本当に。大学の時の学部の通りだよ」
エリックは、ふざけて怒って言った
「え?学部?何学部にいたんですか?」
パティーは真剣に聞いている
「え?パティー、俺が何学部に居たか知らないの?参ったな・・・俺は医学部に居たんだぜ。
俺とサイモンはシカゴ大学の医学部が終って、インターン3年目だよ。あと1つ試験を
パスしないと医師免許がもらえないんだよ」
エリックはパティーに言った
「え?医者?ビックリです・・・」
パティーが目を丸くして言った
「くすっ、また目がまん丸だぜ、パティー。そんなに意外?」
エリックは、そんなパティーを可愛いと思いながら言った
「え?えぇ・・・サイモンさんは医者の感じがしますけど・・・」
パティーが申し訳なさそうに言った
「くっくっく・・・パティーさん、正直だね。エリック、君は医者っぽくないってよ」
サイモンがエリックを突っついて言った
「ひどいなぁ、パティーは・・・キャンディさんも俺は医者に見えない?」
エリックは少し拗ね、キャンディを覗き込んで聞いた
「くっくっく・・・そんな事ないですよ。お医者さんに見えますよ」
キャンディは、少し気を使って言った
「ありがとう、キャンディさん。キャンディさんに、そう言って貰えると嬉しいよ」
エリックがキャンディの手を握ろうとした時、サイモンがエリックの手をパシリと叩いた。
「アホッ!キャンディさんの手を気軽に触ろうとするなっ。まったく・・・」
エリックは頭を掻き、他の3人は笑っていた。
この日、エリックはパティーの電話番号を聞き、また時間のある時に会う事を約束した。
4人は店を出て、キャンディとパティー、サイモンとエリックに別れ帰って行った。

「なぁ、エリック。またパティーさんと会うんだろ?」
「うん、電話番号を教えて貰ったから、連絡してデートに誘おうかな」
エリックは嬉しさが顔から溢れ出て、とても幸せそうな顔をしていた
「くすっ、本当に嬉しそうだなっ。その時さぁ・・・キャンディさんにも声掛けられるかな?」
サイモンが恥ずかしそうに石を蹴りながら言った
「くすっ、やっぱりな。キャンディさんは、絶対お前の好みだと思ったんだよ。一目見た時から
気に入っただろ?話して更に気に入ったんだろ?」
エリックの言葉にサイモンは真っ赤になっていた
「うるせっ、いいだろ?超ど真ん中だったよ・・・キャンディさんは・・・」
「くっくっく・・・キャンディさんが、彼女になってくれたらいいな。お前の初彼女じゃん。
珍しく本気だし・・・お前、ガールフレンドは何人か居たけど、彼女は作った事なかったもんな。
不思議だよなぁ・・・サイモンの顔、スタイル、性格なら居て当然なのになぁ・・・」
エリックはサイモンをジロジロと見て言った
「うるさいなぁ・・・ほっといてくれよ。俺は、お前みたいに何人も彼女作らないの」
サイモンがエリックを睨みつけて言った
「何言ってんだよ、人聞き悪い・・・今までに3人だけだろ?」
「3人も居たら充分だろ?よくこの勉強の忙しい医学部とインターンの身分で彼女を作ったな」
「え?まぁ・・・息抜きも必要だしなぁ・・・」
エリックは、そっぽを向いて言った
「息抜きで彼女を作るなよ。俺は勉強で彼女を作ろうなんて思わなかったぞ。
まぁ、彼女にしたいと思う女の子に巡り会わなかったのもあるけどな・・・
そういえば・・・お前、パティーさん、本気だろっ」
サイモンはエリックを肘で小突いた
「うるせぇなぁ・・・いいだろ?」
エリックは、顔を赤くしてサイモンを小突いた。お互いに小突きあいながらも楽しそうに
2人は話しながら歩いていた。
「俺達、一緒に幸せになれたらいいな・・・そういえば、さっき俺がキャンディさんの手を
握ろうとした時、お前、マジで叩いただろっ。くすっ」
エリックがサイモンを見て笑った
「あたりまえだっ。お前なんかに触って欲しくないからなっ。くすっ」

一方、キャンディとパティーは・・・
「ねぇ、キャンディ。エリック先輩、素敵でしょ?」
「くすっ、パティーの好みよね。知的で、優しさが滲み出た顔・・・ハンサムだしね」
「そうでしょ?くすっ。キャンディ、サイモンさんはどうだった?」
キャンディはサイモンの名前を言われ、心臓がドキドキとし始め、顔が赤くなった
「え?そうねぇ・・・」
「くすっ、キャンディの好みよね。とってもハンサムだし、清潔感が漂って、背もとても高いし。
サイモンさんもエリック先輩も、アルバートさんと同じ位の背があったわね・・・って事は
183cmくらいなのかしら?」
パティーが嬉しそうに言った
「あなた、よくアルバートさんの身長知ってるわね。でも、それ位よねぇ・・・」
キャンディはサイモンの顔や、しぐさを思い出し、また頬が赤くなった。
「エリック先輩から連絡が来たら、また皆で会えるように話しておくわね」
「え?いいわよ。わざわざ話さなくても・・・」
キャンディは大きく顔の前で手を振って言った
「いいじゃない・・・久しぶりに恋人作りましょ」
パティーは、キャンディに微笑みウィンクした
「パティー、あなた、いつから大胆になったの?」

”サイモンさんかぁ・・・とっても素敵な方だったわ・・・プラチナブロンドの清潔感ある髪
丹精に整ったハンサムな顔、笑うと少年の様で、とっても優しい感じがしたわ。
あんな人に会えたなんて夢のようだわ・・・でも・・・片思いよねぇ・・・”

”キャンディス・ホワイトさんかぁ・・・可愛かったなぁ。あんなにも俺の心を射抜く女性なんて
今まで会った事がないよ・・・これが運命の出会いだったら、どんなに嬉しいか・・・
また会えるかなぁ・・・今度会えたら、沢山話して、キャンディさんの事を沢山知りたい。
早く会いたいなぁ・・・”

サイモンとキャンディは、お互いの自室の窓から星を見上げ、それぞれの想いを抱いた・・・