先日スーパーの野菜売場に行ったらバナナの特設コーナーができていて、「第58回日本癌学会で発表」との垂れ幕にビデオでTV番組「発掘!あるある大事典」のバナナの回を繰り返し放送していました。我が家のお嬢様(5才)はこの番組が大好きなものだから(「ポケモン」のほうが好きだけど)しばらく一緒に見てしまいました。
この第58回日本癌学会は私も発表しに行っていて、バナナの発表は同じセッション(ガン予防というテーマのポスター発表)に研究室の二人が発表していたのでマスコミが騒いでいたのは知っています。といいますか、マスコミのカメラや取材の人でまともな内容の確認や質問はできなかった、というのが実状です。発表者は多分研究者同士の質疑応答は一切してないのではないかという有り様でした。もともとこの学会の発表内容は、どうでもいいような項目に限ってマスコミに取り上げられるという恒例行事になってはいましたが、今回は特にひどかったような気がします。「あるある大事典」の影響もあるのでしょう、バナナの周辺のポスターも軒並み取材対象になっていました。材料は昆布の根とか香辛料の成分とか柑橘類とかで、実験系も白血球の活性化や培養がん細胞の増殖抑制から動物実験まで様々です。いずれも例えば製薬会社が開発に乗り出そうとするほどのインパクトのあるような結果は出てないものばかり、のようでしたが、それがマスコミの手にかかると「ガンに効く!驚異のバナナパワー!」になってしまうわけです。それにしてもバナナに関しては「通常食する黄色のバナナは最低の活性であった」と要旨にあったのにその部分は飛ばして宣伝するのですから限りなく虚偽に近いような気がするのですが。

私は基本的に食べ物は「感謝して美味しく頂く」主義です。人間は生きるためには他の生き物を犠牲にしていかなければならないわけですから、そしてこの世のあらゆる生き物は決して人間に食べられるために存在しているわけではないのですから、不味いとか毒であるとかとけなすよりは偉いとかおいしいと誉めるほうがまだましだとは思います。けれども最近の傾向は行き過ぎだと言わざるを得ない。「買ってはいけない」の非科学性に腹立たしいのと同じように「○○がガンに効く」というのも腹立たしい。ただ普通の人は一時的なブームにのってもどうせすぐまた別のものに走るだろうし、大して害はないと思っています。「あるある大事典」も5才児の教養番組だと思えばまあ良くできていると(それにしては時間帯が遅いようだけれど)。

但し例外はあります。代替療法の類です。特に犯罪的だと思うのが、癌学会で去年も今年も機器展示コーナーで試飲をやっていたアガリクス(私の同行者によれば非常に不味かったそうです)。これは注意深く広告を読めば薬事法違反になるような「ガンに効く」といった類の表現はありません。けれども一般的にはガン患者にガンに効くと言って売っているし、資料ですといって手渡されたコピーにも「抗腫瘍効果」をうたっています。そして癌学会で売り込んでいる。数万円の製品を、わらにもすがる思いの癌患者に売りつけている実体は詐欺といっていいと思います。抗癌剤(というか補助剤)として、ほとんど同じ成分のレンチナン(これは椎茸の成分)やクレスチンが保険の効く医薬品として一応販売されています。ただしこれは副作用もないかわりにあまり効かないという評判のものですし、単独投与による効果は認められていないはずです。アガリクスの発売元は複数ありますが、その最大手と思われるのが株式会社サンドリーのもので、協和発酵がバックアップしてます。協和発酵は医薬品も扱う会社ですから、アガリクスが医薬品としてまともに売り出すのは難しいことを知ってるはずです。医薬品の認可のためには膨大な科学的検証(と時間とお金)が必要ですから。ところがただの(健康)食品なら何の検証も必要ない、せいぜい素人を騙すための適当な資料が数件あれば十分です。それを端的に表しているのが、会場でもらった資料です。これは小動物臨床、17巻、1998年、31-42ページの別刷ですが、この中の考察の部分にこうあります。

「この4例については、明らかに有効性がみられたと判定している。従って、ヒトの判定基準で判定するとAB-Pの有効性は約1割と考えられる。薬でないという観点からみてやや有効までを含めてみると41例中12例29.3%に有効性をみることが出来る。すなわち、約1/3に何らかの効果がみられる可能性がある。」(強調筆者)

薬でないから効かないものまで効くと言っていいのだ、というこの文章を、医薬品開発に携わっている協和の社員が認めているのだとしたら、協和発酵は自社の信頼を捨てていると言っていいと思います。私は製薬会社には社会的使命があると思っています。その研究員は、国立大学などで税金を使って得られた高度の知識を、単に会社の利益のためだけではなく、社会に役立つために使わなければならないと思います。高い水準の教育を受ける機会と才能に恵まれ、医薬品を開発することで患者さんが救われ、それが自らの誇りでもあるという恵まれた仕事をしているのだから。
アガリクス協和は商業的には成功していると言っていいでしょう。マーケティングの視点からみれば非常に賢いやりかたで、協和発酵のブランドネームを巧みに利用して最小の投資で最大の利益を獲得していると思います。ただしそれは倫理もなにもないただの金儲けであり、人間として最低のやり方であると私は思います。
健康食品に騙されてしまう方にももちろん問題はありますが、騙す企業も騙されるように誘導しているマスコミも猛省して欲しいと思います。

おまけに言えば、企業のあり方としては「医薬品を売るJT」というのはまさしくマッチポンプで、論外だと思いますが。

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