買ってはいけない批判本に対する感想文

普通なら買わない類の本ではありますが、買ってみました。

「買ってはいけない」は買ってはいけない 夏目BOOKLET3

この本の出版予告を見たとき、実はイヤな予感がしました。定価1000円、準備期間が短いということで科学的反論の書にはならないだろうということが予測できたからです。中身は「買ってはいけない」に対する逐次反論、ですがライターが複数であるせいもあるでしょうが出来はバラバラという感じです。もちろん「買ってはいけない」と比べるのなら間違いなくこっちの方がいいのですが、それだけに物足りなさが多いです。
科学的反論なのか感情的反論なのかよくわからない本ではあります。特に「買ってもいい度」はよくわかりません。私にとっては少なくともスヴェルトやドモホルンリンクルはとてもじゃないけど他人に薦められるような代物ではありません。避妊薬マイルーラをジェンダーが生み出した最悪の商品だというのなら、女性だけが年老いてもなおすべすべつやつやの美しい肌でなければならないという感覚の方がさらに悪質で、そういう意味では化粧品のほとんど全てが「買ってもいい度」はゼロになると思いますが。まあ、そんなことを言うほどのレベルではないようです。
メーカーに取材したとありますが、メーカーの回答が得られなかったものは出来が悪いような印象です。つまりライターの質があまり良くないということ。1000円で手に入る情報だと思えばそんなものなのかもしれません。

巻末に参考文献リストがついているのですが、これはただ並べただけだろうという感じです。この玉石混淆のリストを見て、普通の読者はただ圧倒されるだけでしょうし、どの章のどの記述がどの文献に関係あるのかわからないと思います。専門家向けの本も多く、素人が読んで価値ある情報にたどり着けるとは到底思えません。中には私が共同執筆者になってる本も挙げられているのですが「「買ってはいけない」は買ってはいけない」の分担執筆者も多分ほとんど目を通してないと思います(こういうふうに自分が読んでいない文献を参考文献に挙げることを「孫引き」といいまして、あまり誉められる行為ではありません)。読んでいるのならもっと書くべきことがあっただろうという章がいくつかあります。少なくともソルビン酸の件でラットの異物発ガンはわかったはずですし。食品添加物公定書解説書は第7版が既に出ています。定価は68250円。
それから使用が許可されている物質の問い合わせ先として厚生省、農水省、環境庁などの役所の電話番号が書いてありますがほとんど役に立たないでしょう。普通の人がちょっと疑問に思ったことを霞ヶ関にいきなり電話して詳しい情報が手に入るとは考えないと思います(せめてウェブサイトにして欲しかった)。こういうのは業界団体に聞くべきで、例えば食品添加物なら日本食品添加物協会、薬なら日本薬剤師会日本製薬工業協会というのがあって、担当がころころ変わる霞ヶ関の役人などよりよほど豊富な資料をもっていますし、より丁寧な回答が期待できるでしょう。業界団体にももちろんピンからキリまでありますが、それなりに取材をすればきちんとした情報が得られるはずです。そういう業界団体の存在は企業人なら常識ですよね?

「情報に愛を込めて」とありますが、まともなメーカーはまともに質問すればきちんと答えてくれるはずで、そういうメーカーの言い分をそのまま出版した方がまだましだったのではないかと思います。回答拒否のメーカーはそのまま回答拒否と載せればそれなりに面白い読み物になったでしょう。但し「まともに質問をする」というのが絶対欠かせない条件です。はっきり言って何も勉強しないで稼いでいる物書きが多すぎる。医薬品メーカーの科学の水準と食品メーカーの水準とは非常に大きな差があるし、当然会社によっても雲泥の差があります。一般消費者に対する説明責任の感覚も多分違うと思う。その辺をふまえた上で情報に対する「企業の責任」と「国の責任」、「マスコミの責任」とをきちんと追求して欲しかったです。ジャーナリストならそういう書き方はできたでしょう。 結局「買ってはいけない」と「「買ってはいけない」は買ってはいけない」を両方読んだ一般消費者(って誰のことだろう?)が得た知識は、企業のお客様相談室に電話して回答をもらった、という次元と大して変わらないようなものでしょう。それで満足ならはじめから何も心配する必要はないし、「知識」だ「情報」だと大げさに言うほどのものでもない。
「買ってはいけない」講演会に嬉々として参加していた生活クラブ生協の皆さんはこの本をどう読んだのか聞いてみたいものです。「買ってはいけない」が、問題提起だから評価するという声もあるようですが、あまりにも低レベルの問題提起には低レベルの回答しか得られない、ということです。
現時点で「買ってはいけない」と「「買ってはいけない」は買ってはいけない」が売れたという状況は、消費者にとってはかなり危機的であるということは言えると思います。もしかしたら市民運動にも相当なダメージを与えたかもしれません。そういう危機感が「消費者」の側にないのなら、日本にはまだまともな運動のできる「市民」なるものは存在しないのでしょう。

「買ってはいけない」は嘘である 日垣隆 文藝春秋

これは日垣氏の主張をまとめたもので、読み物としては上述の本より面白かった。少なくとも日垣氏がどういうスタンスの人であるかがわかるし、個人の意見だから責任をもって言ってるという迫力がある。環境ホルモンとダイオキシンの章は「買ってはいけない」と直接関係ないような気がしますが、これらの問題に関する基本的スタンスは私と大体一緒でしたので特に異論はないです。文献を読んだと言うのも多分本当でしょう。「ファシズム」とか「オウム」とかの過激な言い分はキャラクターでしょうし(私も言ってますね)、気持ちは分かる。でもこういう言い方だとやっぱり「向こうの世界」の住人には伝わらないのだろうとも思います。「買ってはいけない」の執筆者たちには科学的誤りを指摘しても無意味だろうけれど、日垣氏には多分通じるでしょうし、誠意ある対応が期待できると思います。願わくば科学的にもう少し頼りになるブレインが複数いるといいのですが。現時点ではこの分野に関しては立花隆氏よりまともな書き手であると思います。

その後続々と関連本が出版されているようですが、トンデモ本のオンパレードといった状態でとても真面目にコメントする気になれません。この手の本は一切読まない、というのが最も賢明な方法かもしれません。

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