「週刊金曜日に疑問 出張コーナー」に関する補足
標記サイトに関して、いくつかの質問や指摘が寄せられました。本文に加筆すると読みにくくなるかと思いますので補足部分のみまとめてこちらにアップします。
#MSG(monosodium L-glutamate)、 L-グルタミン酸ナトリウム
グルタミン酸はアミノ酸の一種で、酸性アミノ酸に分類されます。グルタミン酸ナトリウムはグルタミン酸のCOOHひとつがCOONaに中和されたもので、グルタミン酸ソーダとよばれることもあります。ソーダはナトリウムの英語名sodiumからきたものです。グルタミン酸そのものは酸性のため、なめるとちょっと酸っぱい味がしますし、アルカリには溶けやすいものの酸には溶けず、中性付近での溶解度もあまり良くありません。ですから溶けやすい中性の塩であるグルタミン酸ナトリウムを普通使います。食品添加物としてはグルタミン酸カルシウムとグルタミン酸カリウムも認可されていて、ナトリウム過剰が気になる場合にはこれらをグルタミン酸ナトリウム同様に使うことができます。
うまみ受容体と結合してうまみを感じるためには水に溶けて二つあるカルボキシル基(-COOH)が(-COO-)の形になっている必要があります。この水素イオンの解離の割合は水溶液のpHに依存し、中性付近で最もうまみが強いことを東北大・村松先生が計算して下さいました。
「L-グルタミン酸のstability constant pK1 = 9.45, pK2=4.23
を用いて、推算(プロトンのアクティビティが水素イオン濃度と等しい
と仮定)すると、pH=6くらいでは、カルボン酸が2つとも解離されてい
ないグルタミン酸が98%なのに、pH=7では、プロトンが2つ外れたグル
タミン酸イオンが68%もあります。
この辺のpHで大きく変わるので、旨味が変化するのもうなずけますね。
#データはいろいろあるのですが、M.K.Singh and M.N.Srivastavaの一
#連の研究結果を採用しました。
なお、この計算ではアミノ基へのプロトンの結合を無視しています。
その場合は、pK1=9.67, pK2=4.28, pK3=2.30くらいで勘定しないといけ
ないのですが。」
グルタミン酸ナトリウムは昆布のうまみ成分で、かつお節のうまみ成分は5’−イノ
シン酸二ナトリウムというもので、これは核酸の仲間です。ついでにもう一つ核酸の
仲間に、しいたけのうまみ成分である5’−グアニル酸二ナトリウムというのがあり
ます。これら核酸のうまみは、アミノ酸であるグルタミン酸ナトリウムと相乗的に作
用してうまみを増強することが知られています。いずれも食品添加物として使用が認
められています。
なお、グルタミン酸ナトリウムに関してはそのうち日本語の詳しい解説書が出る予定だそうです。
*2001年1月追記
「グルタミン酸の科学-旨味から神経伝達まで-」
栗原堅三、小野武年、渡辺明治、林裕造・著
講談社サイエンティフィク
ISBN4-06-153851-9
定価:本体3200円(税別)
2000年12月10日第一刷発行
#1995年にFASEBとFDAがMSGに関する最終報告書をまとめています。
この時の発表は日本でもプレス発表されていて、味の素(株)はプレス向けコメントを出しているはずです。例によって良心的な日本のマスコミは全く報道しないか、できるだけ小さく目立たないように書いただけでした。多分少しでも問題ありという結果だったら大々的に書いたのでしょうが。
#アスパルテーム
手元にアスパルテームの項はないのですが、これを「問題があるから使うべきではない」としているのを「ちいさい・おおきい・つよい・よわい」という季刊誌(ジャパンマシニスト社)で見たことがありますのでここに反論を書いておきます。
アスパルテームに問題ありとしている人たちの根拠は何かを探してみたのですが、どうやらこれのようです。Olney JW et. al., Increasing brain tumor rates: is there a link to aspartame? J. Neuropathol Exp. Neurol., 1996 Nov;55(11):1115-23. これは1975年から1992年にかけてアメリカで脳腫瘍が増加していること、その原因として診断方法の改良に加えて1981年にFDAがアスパルテームを認可したことが考えられる、としています。これについて当然いくつかの反論があり、例えば1997年のJ. Natl. Cancer Inst.(JNCI) 89 (14), 1072-74ではアスパルテームの摂取と脳腫瘍に相関はないというケースコントロール研究の結果を報告しており、こうした結果を受けてFDAはトークペーパーという形でコメントを発表しています。それによるとアメリカでの脳腫瘍の発生は1973年から増加し始め1985年には増加が止まってその後一定になり、1991年から93年にはむしろ減少したそうです。この間にもアスパルテームの消費量は増え続けており、単純な相関関係はそれだけでも否定されます。FDAはアスパルテームの認可に当たって脳神経系への影響も詳しく調べており、今のところアスパルテームが脳腫瘍の原因となるという根拠はないとしています。さらに脳腫瘍の発生増加はアスパルテームの消費量の多寡とは関係なく日本を含め先進工業国で共通に見られる現象で、なんらかの環境要因があるであろうことは考えられるものの、現時点では犯人は不明だそうです。ただアメリカでは1973年から1985年にかけて全体で10.7%の増加、特に75-85才で増加が著しいこと(JNCI,1990,82,1621-4)、子どもの脳腫瘍の増加は脳腫瘍による死亡の増加を伴わないことなどから診断方法の技術革新(CTスキャンやMRIなど)が原因である可能性があること(JNCI,1998,90,1269-77) など、Olney教授の疑問にはきちんとした回答がなされているように思います。
ところでこのアスパルテームに問題ありとした報告を出したOlney教授というのは、グルタミン酸ナトリウムで「中華料理店症候群」がおこると報告した人物で、今でも興奮性アミノ酸(中枢神経系で神経伝達物質として働いて神経細胞を興奮させる作用のあるアミノ酸のこと)をexcitotoxin(興奮毒?)と呼んで神経毒だと主張し続けています。興奮毒から神経を守るには麻酔薬なんかがいいようですが・・・それって神経細胞を使うなということ?インターネットなんかしてるあなた、神経細胞が興奮しすぎて死んでしまわないように気をつけましょうね。冗談はともかく、科学の世界は懐が広いのでこういう人もちゃんといます。ある種のメディアが主張するように大勢に従わなければ言論を抹殺される、などということはありませんし、「まともな」科学者がスポンサーの意向でデータをねつ造するとか間違った方向に解釈するということは普通はしません。最も大きな偏りを産むのはその人の信念や信条でしょう。
余談になりますが、アメリカでアスパルテームに反対している団体の一つにステビアを使おうと言ってる団体があります。ステビアも低カロリーの甘味料ですが、植物のステビア葉に含まれる配糖体ステビオサイドが甘味成分です。ステビアについてはFDAは安全性に問題ありとして食品添加物としては認可していません。日本でも同様で、アスパルテームは認可された食品添加物ですが、ステビアは認可されていません。「ポカリスエット・ステビア」という製品があったのを覚えている方もおられると思います。食品添加物として認可されていないものでも食品に使っていいのかという疑問が浮かぶかもしれませんが、基本的に「食品」そのものには認可も何もありません。昔から食べてきた米も品種改良した野菜も珍しい南国の果物も、別に安全性について調べて売ってもいいなどという許可を受けて売ってるわけでも、成分が全てわかってるわけでもありません。ワラビには発ガン物質プタキロサイドが含まれていますが、だからといって山菜売りのおばさんが罰せられるわけではありません。食べ物とはそういうものです。だから全く新規に合成されたアスパルテームについては厳しい審査があっても、昔からどこかの地方で食べられてきた食品については何の規制もないわけです。ですので「天然物より合成品の方が安全」だということだってあるわけです。もちろんフグ毒や細菌毒素のようなはっきりした毒やカビ毒アフラトキシンのような強力な発ガン物質はたとえ天然物であろうとも監視され規制されてはいますが、わざと入れるわけではないだけに規制は難しいのが現状です。天然の食品に対する許容限度は合成品のような「いわゆる食品添加物」に対する許容限度よりゆるやかである、ということは覚えておいていいと思います。現在天然添加物(というか食品そのもの)に対しても安全性試験が行われつつありますが、主成分がわからないもの、産地によって全く中身の違うもの、など科学的検証が困難なものが多く、はっきり言って頭が痛いです。
#変異原性
変異原性試験について、簡単に説明するのはとても難しいです。その方法、意味などきちんと勉強なさりたいのであればこの本をどうぞ。「正しい」知識は面倒な知的作業なしには手に入りませんので。
化学物質のリスクアセスメント 現状と問題点
監修 厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室
編集 国立医薬品食品衛生研究所「化学物質のリスクアセスメント」編集委員会
薬業時報社 定価 本体4300円
ISBN4-8407-2359-1
#フェニルケトン尿症
フェニルアラニンの代謝異常。フェニルアラニンはアミノ酸の一種で各種蛋白質にも含まれており、アスパルテームだけに含まれているわけではありません。一部の人が敵視する「ベンゼン環」を含む物質です。
#紫と白と黄色とのまだらで堅いとうもろこし
最近滅多に見られないので、代わりに、普段食べているとうもろこしを良く見て下さい。トウモロコシの一粒一粒は兄弟の関係にあるわけですが、確立された品種ですから全てが一様に同じ色をしてるのが「組み替えが起こってない状態」です。実際には一本のトウモロコシから色の白っぽい粒、透明感がちょっと違う粒などがランダムにみつかると思います。これが自然におこった「遺伝子組み替え」の結果です。もちろん色は同じだけど組み替えがおこってるかもしれないもの、はもっとたくさんあります。もしかすると「有毒物質」や「アレルギー物質」ができてしまっているかもしれませんよねえ・・非常に低い確率ではありますが。
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