「・・・・・・・ウザイ」
そう呟いたなり携帯を閉じて机に顔を埋めた人物に、近くにいた者達は顔を見合わせた。
ちなみに現在は昼休み、学生達のささやかなオアシス。お昼を食べたり友人とお喋りしたり、放課後の為にメイクに勤しんだり。
一応美卯もまだ高校生なので、ちゃんと学校に通っています。
美卯は手作りのお弁当、李卯は兄の愛情弁当。リエルは10秒チャージ。
昼食を終えてそれぞれ好きにしていた所に、オレンジ頭の人物―李卯がボソリと呟いたのだ。
普段は気持ち悪いくらいに笑っているのだが、現在は大層機嫌が悪いらしい。珍しいその態度に、友人達は首を傾げた。
「ウザイって、どうしたのかなあ?何か悩み事とか?!」
ワタワタと慌てているのは、ウザイと言った人物の双子の兄である美卯。大事な弟の一大事だと思い、どうしよう!?とオロオロしている。
そんな美卯に対して、残念ながら友人達は冷めていた。
「大袈裟よ美卯君。どうせイタズラ電話とかじゃないの?」
そう言ったのは、美卯達のクラスメートである小春。何だかんだ言って面倒見が良くて、人見知りの激しい李卯が珍しく懐いている少女だ。
ケラケラと笑って否定しているのを見る限り、楽しんでいるに違いない。
日頃から李卯にからかわれている彼女は、コレ幸いとばかりに面白がっている。
「酷いよ小春ちゃん!勇二君はどう思う!?」
「・・・・・・・」
小春の態度に酷い!と言うと、その隣にいた少年に問いかけた。
勇二と呼ばれた少年は李卯ほどではないが背が高く、無愛想だが面倒見の良い好青年(少年)だ。美卯にとっては兄というよりお父さん的な存在でよく甘えたりしている。
彼は美卯の問いに少し考えて、首を傾げるコトで意思を表明した。要はそんなの知らねえよという事だ。
またやも賛同して貰えず、それでも美卯はこりずに最後の1人に問いかける。
「リエルちゃんは?リエルちゃんはどう思う!?」
先程から話に参加していなかったのは、李卯と美卯の従姉妹であるリエル。 彼(外見はどう見ても少女だが)は美卯の声に顔を上げると、
「どうでも良いですよ」
0.1秒の速さで切り捨てると、読んでいた本に視線を落とした。
リエルは従姉妹の1人である李卯を日頃から『ウザイ』と公言している仲なので、頗るどうでも良いらしい。
その反応に美卯は固まって、さすがの小春達も頬を引き攣らせた。
「ひ、酷いよリエルちゃん!李卯君のコトなんてどうでもいいのねー!」
「いくらなんでも言いすぎよ!そういうコトは思ってても口に出したら駄目なの!」
「それも問題だろ・・・・・・・」
うわあんと泣き出す美卯を小春が慌ててフォローするが、さり気に毒を吐いたのを勇二は聞き逃さなかった。
当のリエルは完全に無視していて、ナチュラルに凹んだ李卯は相変わらずダンマリ状態。
その一部始終を見ていたクラス一同は、我関せずと見て見ぬ振りをしていた。ああ薄情。
あんなにも機嫌が悪そうなのに誰にも気にして貰えないなんて、何て可哀想な弟なんだろうか。
まあ、日頃の態度が悪いから仕方ないんだろうけど・・・・・・・(それもどうだろう)
なんて実の兄がそう思っていると、
「――あ」
「どうしたの?美卯君」
突然声を上げた美卯に、小春だけでなくリエルや勇二も視線を向けた。
それに気付かず、美卯は1人で何かを酷く納得していた。
「そっかあ、そうだったんだー」
「?」
「何がそうなんだ?」
「えっとね、李卯君が不機嫌なのは・・・・・・・」
気になった勇二の問いに、美卯が答えようとしたそのとき、
〜♪♪
聞こえてきた着メロ(ダース○イダー)の方に視線を向けると、そこにはやはり李卯の姿があった。
東京は東京でもかなり隅にあるこの土地では、携帯はあまり普及していない。
都会では小学生でさえ持っているのだが、ここでは大人ですらあまり持っていない。なので学生達も持っている人数は非常に少なくて、携帯は一種の憧れでもあるのだ。
そんな訳でこの学校でも持っている生徒は非常に少なく、美卯達のクラスでも持っているのは仕事の関係上使うリエルと李卯のみ(美卯は貰った初日に破壊した)
なので携帯が鳴ると、李卯とリエルしかいないのだ。
ちなみにリエルが着メロなんて使う訳がないから、直ぐに李卯だと判明した(しかも初期設定のまま)
机に顔を埋めていた李卯はもそもそと起き上がると、嫌々携帯を開けてメールをチェック。暫く指を動かして画面を見ていたかと思えば、思い切り眉を潜めて携帯をバチンッ!と閉めると鞄の置くにしまいこんでまた机に顔を埋めた。
その光景に?マークを浮かべた小春達だったが、美卯はやけに納得していた。
「やっぱり李卯君、迷惑メールでイラついてたんだ」
「迷惑メール?」
「うん。最近メールが来る度にイラついてたし、凄く機嫌悪そうな顔するし。それに李卯君の携帯、メールがくるとダースベ○ダーが流れるから」
どうでもいい無駄知識が少し入っていたが、美卯の言葉に納得する一同。
確かに迷惑メールほどムカつくモノはない。出会い系なら尚更だ。もっとも、携帯を持っていない小春達には分からないが。
成る程ねーと納得していたが、直ぐに否定の言葉が返ってきた。
「ただの迷惑メールじゃないよ」
「李卯君」
そう言ったのは、当の本人の李卯。
机に肘をつけて、珍しく不機嫌ですという文字が顔に大きく書かれている。
そんな彼を小春達は物珍しげに見ていて、従姉妹のリエルは又もや無視、兄の美卯だけが心配している。
「ただの迷惑メールじゃないってどういうコト?っもしかして、不幸のメール!?」
「「違うから(だろ」」
「ダブル突っ込みはどうでもいいですよ。それで、リウシフィル。唯の迷惑メールじゃないとは?」
綺麗にハモッた李卯と小春の突っ込みを無視して、リエルは従姉妹その2(その1は兄)を呼んだ。
大好きな従姉妹に呼ばれた李卯は、途端にニッコリと笑って説明し始めた。これが思春期男子のあるべき姿です。
「まあ美卯君の言う通り、迷惑メールには変わりないんだ。でも出会い系とか広告じゃないんだよ」
「やっぱり不幸のメールとか?それとも棒とか?」
「いい加減離れろよ・・・・・」
不幸のメールから離れない美卯に、今までずっと黙っていた勇二が始めて口を開いた。
勇二の突っ込みレベルに経験地が5ポイント溜まった。
「広告じゃないんだったら、悪戯メールとか?アンタ恨み山ほど買ってそうだもんねー」
「否定出来ませんね」
楽しそうに言う小春と肯定するリエルに、李卯は眉を顰めた。否定出来ないのが痛い。面白がっている面々に気付き、気付かれないように小さく溜息を吐いた。
「・・・・広告でも悪戯メールでもなくて、女の子からだよ」
「「「女の子??」」」
思いがけない言葉に、美卯達はオウム返しに口に出して李卯に頷かれる。
女の子からのメール。
年頃の男子にすれば、何通来ても構わないむしろ来い!といった感じで、全然迷惑ではないだろう。
何故迷惑ないのか、美卯達には全く理解出来なかった。むしろ負の感情が浮かんだ。
「女の子からのメールが迷惑って、嫌味よねー。いくら顔が良いからって」
「だな」
「そうだよ、酷いよ李卯君!」
「何様のつもりですか」
贅沢なコトを言っているという自覚はあったので、李卯は非難されても反論しなかった。
意外な事だが、李卯は大層容姿が良い。
染めてると思われるオレンジ色の髪は実は地毛で、とてもサラサラで艶がある。スッと通った鼻梁に、薄めの唇。肌は白くて木目細かい。思春期にありがちな出来物なんて無縁の美肌。
ハーフというコトもあるのか身長は182cmと長身で、スラリとしているスタイル。
普段の言動からそうは見えないが、一見するととても綺麗な美少年なのだ。
学校でも女子生徒に次々と告白され(ゴメンね2秒)、イベントにはプレゼントの山。
学校1モテる男として、この辺一体でも有名な存在だった。ちなみに、男子からの人気が低い男No.1でもある。
そんな李卯にとって、女の子とメールなんて面倒なモノ。何ていったって、彼には山ほど相手がいる。 だから迷惑メールに等しいのだろう。
そんな風に小春達は考えていて、非難轟々の視線を注いでいたが、真相は違っていた。
自分の誤解を解くために、李卯はスッと左手を差し出した。
その左手には携帯電話。どうやら見ろというコトらしい。試しに美卯が見ていいの?と確認すると、コクコクと頷いた。
携帯の扱いに慣れているリエルに渡して(物凄く嫌そうな顔をされたが)、メールボックスを開いて本人曰くの迷惑メールを読み始めた。
「随分と来てるのね」
「凄いね〜」
画面には本日だけで何十件も届いている、宛先不明のメールがズラリと表示されていた。
可愛らしいアドレスから全て女の子だというのが分かり、やはりコイツはモテるのだなあと実感する。見てくれが良いとは得だ。
だが、
「・・・・・え?」
「うわあ・・・・」
初めは面白そうにメールを読んでいた小春達だが、読みにつれて表情が変わっていく。全部読み終わる頃には、すっかり表情が引き攣っていた。
「分かってくれた?」
「よく分かったわ・・・・・」
「ゴメンね李卯君!辛かったよねー!」
これで分かっただろう?という顔をしている李卯に、小春と素直に頷き美卯は涙目だ。何気にチラチラと見ていた勇二も、同情するような目で李卯を見ている。
大量のメールに書かれている内容を要約すると、
・友達に聞いたけど、これって本当に桂木李卯のアドレスなの?
・友達に教えて貰ってメールしてみた
・電話番号教えて
・付き合って下さい
・いい気になってんじゃねえよ、殺すぞ(男から)
のようなモノが殆どで、どうやら本人の知らない所でアドレスが出回っていたらしい。
更に毎日毎日知らない人から何十通もメールがきたら、それではどんな人でもムカつくだろう。
これにはさすがの小春も同情した。
「見事に迷惑メールねえ。よく携帯壊さなかったわね」
「アドレス変えればいいんじゃないか?」
「変えても何でか直ぐに出回ってるんだよ。酷いと変えたその日の内にとか」
「それって携帯を勝手に見られてるってコト!?」
サラリと言った李卯の言葉に、美卯が心底驚いたような顔をする。
携帯を勝手に見るなんていくら何でも失礼、もとい犯罪だ。さすがにそんなコトをする子なんていない筈・・・・・・・・
「そういえばリウシフィル、昨日携帯が無いって言ってましたよね。それじゃないですか?」
「え!?」
「本当なの李卯君!?」
「ああ。食堂にいたときにちょっと目を離したら無くなってて、休み時間にトイレから戻ったら机の中に入ってたよ。成る程ねえ・・・・・」
ウンウンと納得している李卯に、小春と美卯は言葉も無い。
いくら女の子に人気とはいえ、携帯を盗まれてアドレスが流出するなんていくら何でもやりすぎだ。迷惑以外の何者でもないだろう。ご愁傷様としかいいようがない。
「李卯君、平気なのそれ!?電話番号とかは?」
「指定番号以外は着信拒否したけど、さすがにメールまではね・・・・。さっき変更したから暫くは平気だけど、
また盗まれてバラ撒かれるだろうし」
「携帯学校に持ってくるのやめたら?家だけにしとくとか」
「そうしたいのは山々なんだけど、いつ緊急の会議が入るか分からないからねー。そればかりはねえ」
家の会社をこの年で継いでいる李卯は、緊急の会議が入ったときに直ぐに迎えるように携帯は常に所持しなければならないので小春の案は敢え無く却下(リエルもそんな事情で携帯を所持している)
その後あーだこーだと案が出たが、どれも却下。そうこうしている内に予鈴が鳴り、荷物を片付けて小春達は席に戻ろうとした。
小春達が自分達の席に戻ろうと背を向けた瞬間、ふとあるコトに美卯は気付いた。
ぽてぽてと李卯の傍に行き、頭1つ分違う弟の顔を見る為に顔を上げる。
「ねえ李卯君」
「何?美卯君」
「あのねえ、さっきから気になってたんだけどね」
「うん」
ゆっくりと喋る美卯の口調は人によってはイラつくのだが、さすがは双子の兄弟。李卯は焦るコトなく、美卯が話すのを待っている。
どのような会話か気になっていた小春と勇二は、こっそりと聞き耳を立てていた。
そして次の瞬間、酷く後悔するコトになった。
「李卯君、ちゃんと携帯にロックかけてる?」
「・・・・何それ?」
「「はあっ!?」」
((ちょっと待てこの野郎!))
席に戻ろうとしていた2人は凄まじい勢いで振り返り、美卯を傷付けないようにそっと押しのけて李卯に詰め寄った。
「あああああんた、携帯にロック掛けてなかったの!?」
「お前まさか本気で・・・・・・っ」
「だからロックって何よ?」
必死の形相で詰め寄る2人に対して、李卯は首を傾げながら尋ねた。
ヤバイ、この反応は素だ!こいつ、本気で『ロック』というモノを知らないらしい。
「ロックというのは、携帯に暗証番号をかけて本人以外に使えなくさせる機能ですよ」
「へえーそんなのあったんだ。便利だねえ」
ガックリとしている勇二と小春を尻目に、リエルが淡々と説明して感心している李卯が心底ムカつく。
折角人が珍しく本気で悩んでいたみたいだから色々と解決策を考えていたのに、そんなオチが待っているとは・・・・・・・!
早速リエルからロック機能を教わっている李卯の横では、怒りを通り越して凹んでいる2人。美卯はオロオロと慌てながら、引き攣った笑みでフォローした。
「李卯君、変な所でおっちょこちょいだから・・・・・。怒らないであげてね!」
「美卯君・・・・・・・・」
あんな馬鹿タレをそれでもフォローしようとしている美卯の姿に、小春は純粋に感動した。
あの悪魔とは似ても似つかないプリティな美卯は、本当にあの悪魔と元は1つだったのだろうか?
小春は美卯の頭をそっと撫でると、ホッとした美卯にふわりと笑いかけて立ち上がった。
そのまま席に戻るのだと思い美卯が安心して、ほうっと息を吐いた瞬間
「このクソ馬鹿がぁっ!!」
という怒声と凄まじい破壊音が、本鈴の音と共に燈井伊汰高校に響き渡った。
迷惑メールウザイねというのが書きたかっただけの話。よく友人がそれでアドレスを変えていますが、当の私は1度も来たことありません。変わったアドレスなんです。