愛している
 だからこそ悲しいことがある







  

  21.愛しい(かなしい)









 俺こそ桂木李卯にはには好きな人がいる。
 Likeの好きじゃなくてLoveの方の好きで、好き過ぎてどうしようもないっていう相手がいる。


 その人は俺の母方の従姉妹で、1つ年上のリエルちゃん。
 名前を聞いたら女の子だと思うけど、リエルちゃんは俺と同じ性別の立派な男。
 見た目だってどう見たって美少女なのに、俺と同じものが付いちゃってる。神様は気まぐれだ。


 リエルちゃんは物凄く頭が良くて、10歳で海外の名門大学に入った天才児なんだ。大学院を出た後はニューヨークに行って、
 父親が残した会社を継いでいた。
 過去形なのは、イシュリオナの命令と雫君の力で、現在は日本に戻って俺と同じ高校に通ってるから。学年も俺と同じ。
 学校に行ったら毎日会えて同じクラスにいられて、俺はとても幸せだ。
 リエルちゃんに会えたのは、実に7年ぶりだったから。 




 従姉妹の俺だから知っているけど、リエルちゃんの家庭環境は俺以上に複雑だ。

 リエルちゃんには実のお姉さんがいて、その人は俺達の友人のラゼルちゃんなんだ。
 ラゼルちゃんはそのことを知らなくて、リエルちゃんが自分の弟だってことを知らない。
 それにはリエルちゃんの祖父が絡んでいた。



 まずリエルちゃんの母親が俺の母親の妹で、日本人の父親との間に出来た子供だった。リエルちゃんの父親の父親(祖父ね)は
結婚に反対していて、頑として認めようとしなかったらしい。
 リエルちゃんの父方の三澤家は結構な名家で、外国の血が入るのを拒んでいたからだそうだ。祖父さんはとにかく反対して、少しも
 許そうとしなかった。


 ラゼルちゃんが生まれたのは、反対されていた最中のことだった。子供を機に結婚を認めさせようとしたリエルちゃんの両親の考えを
 祖父さんは読んでいて、とんでもない行動に出たんだ。




 医者を買収してラゼルちゃんを死んだことにして、祖父さんの知り合いの人の養子にするということだった。
 
 

 当然リエルちゃんの両親はそれを知らなくて、とても悲しんだらしい。これで2人は別れるだろうと祖父さんは考えたけど、そんなことで
 2人は別れなかった。当たり前だよね。
 その後も2人は決して別れず、9年経ってリエルちゃんを身篭ったときに漸く結婚を許した。
 それでもラゼルちゃんのことは告げずにいた。リエルちゃんがラゼルちゃんのことを知ったのは、祖父さんの遺品の日記を読んでからの
ことだったから。




リエルちゃんが生まれて、今までのことが嘘のように平和な中でリエルちゃんは育てられた。
 リエルちゃんの両親はとても優しい人で、甥に当たる俺も凄く可愛がって貰った。


 今でこそリエルちゃんは人形のように感情が無いけど、当時は少ーしだけ感情が有った。
 叔母さんに頭を撫でられたら目が笑ってたし、叔父さんに抱っこされたらホッとしてた。俺がイタズラすると頬っぺたを抓られたし。
 頻繁には会っていなかったけど、俺から見たリエルちゃんは幸せそうに見えた。





 そんな日々が終わったのは、リエルちゃんが4歳のときだった。
 両親が飛行機の事故で亡くなって、祖父さんに引き取られたから。

 今までリエルちゃんは東京で暮らしていたけど、秋田の祖父さんの家に住むことになった。当時の俺は青森に住んでて、近く
 なったから今まで以上に会えると喜んだ。
 親を亡くして悲しんでいるリエルちゃんを慰めようとも思っていた。
 それは出来なかったけど。




 俺がそれからリエルちゃんに会えたのは、意外に頻繁だった。リエルちゃんは2ヶ月に1度は俺の家に来て、1週間くらい寝込んでいた。

 そのときのリエルちゃんは、必ず傷だらけだった。
 全身にガーゼやら包帯やらを巻いていて、どこかを骨折していた。

 小さかった俺は分からなかったけど、それは祖父さんがリエルちゃんを虐待してたからだった。

 祖父さんはやはりリエルちゃんの両親の結婚を許していなくて、表面上は納得してても心の中ではしていなかった。
 自分の息子が事故で死んだのはあの女(リエルちゃんの母親)と結婚した所為だと思い込んでいて、その女の子供のリエルちゃんを
とても憎んでいた。
 そして当然のように、毎日小さなリエルちゃんに暴力を振るっていた。


 当時の使用人によると、殴る蹴るは当たり前。杖で全身を叩いたり、暗い物置に数日間閉じ込めてたこともあったらしい。
 使用人達が止めると今度は使用人に暴力を振るうので、何も出来なかったと小柄なおばさんは泣いていた。
 俺はそれを冷めた目で見ていた。

 逆にリエルちゃんは痛がる素振りも見せず、黙って暴力を振るう祖父さんを見ていたそうだ。それが更に祖父さんを暴力に掻きたてて、
 虐待をエスカレートしていた。
 病院に連れて行くと事が発覚するので連れて行かず、発熱するまでに至ると俺達の家に預けていた。



 俺の母親は泣いていて、父親はとても怒って祖父さんに電話していた。警察に連絡するのはリエルちゃんが止めたのでしなかったらしい。
 美卯君や姉達もよく分かってなかったけど、痛がって熱を出したリエルちゃんをとても心配していた。

 熱が下がって少し落ち着くと、計ったかのように祖父さんがやって来てリエルちゃんを連れてった。
 俺の親は酷く反対して連れて行かせようとしなかったけど、リエルちゃんが黙って首を横に振ると何も言えなかった。
 行っちゃダメだよと泣いている美卯君の頭を撫でると、黙って祖父さんと行ってしまった。


 そんなのが俺が7歳のときに俺の家族が事故死するまで続いていた。
 その頃にはリエルちゃんはすっかり笑わなくなって、どんなに怪我を負っても何の反応もしなくなっていた。


 俺の家はそれはもう凄まじい名家で、当主だった父親が死んだことで当然のようにお家騒動が起こった。
 当主の息子である俺が次の後継者だけど、当主の座を狙う親戚達によって監禁されるわ乱暴されるわで死にそうになっていた。
 たった1人の家族になってしまった美卯君とも理由があっての離れ離れになり、俺は俺のことで一杯一杯だった。


 リエルちゃんに会えたのは、事故で入院していたときのお見舞いや監禁されていたのを助けてくれた時と、
 祖父さんの葬式のときだけだった。
 それから直ぐにリエルちゃんは海外に行ってしまい、俺がリエルちゃんに会うことは無かった。


 俺もお家騒動を治めるのに精一杯で、それからの日々は正直思い出したくない。
 それでも俺が頑張ったのは、もう1度美卯君と暮らすためとリエルちゃんに会いたいからだった。




 リエルちゃんのことを語る上で欠かせないのは、何故リエルちゃんが女装しているか?ということだよね。
 髪だって腰近くまであるし、いつも女の恰好をしている。
 何故かと言うと、これまた祖父さんの仕業だった。

 リエルちゃんは男だから、三澤の次の当主は息子のリエルちゃんになる。祖父さんは酷く嫌がったが、息子が死んでリエルちゃんが
 継がないと三澤の家は途絶えてしまう。
 散々悩んだ末、せめてと思いリエルちゃんを男として扱わないようにした。馬鹿だね。

  
 服も部屋も全部女の物で埋め尽くして、下着だって女の子のを着けさせた。当然リエルちゃんは嫌がったけど、殴って黙らせた。
 言葉遣いも徹底的に覚えさせて、『男の子』だったときのリエルちゃんを俺は思い出せない。
 それが俺は悔しくて堪らない。

 10歳のときに祖父さんが死んだのに、今もリエルちゃんは髪を伸ばしていて女装もやめない。 
 何故かと不思議でしか仕方ない俺に、祖父さんのことを調べさせた雫君が教えてくれた。



 『旦那様はリエル様を殴りながら、時々泣いておられました。儂の息子を返せ、あの子を返してくれ、と言いながら。
 リエル様はそれがあったから、何の抵抗もしなかったんでしょうね・・・・・・・』

 

 葬式のときにリエルちゃんは泣かなかったんじゃなくて、「だから」泣けなかったんだと俺はそのときに漸く知った。 





 そして俺が16歳になって正式に家を継げ、美卯君を日本に呼び戻せた。
 まだ色々あって一緒に暮らせてないけど、俺はそれだけで幸せだった。 
 9年の月日はとても長いけど、美卯君はあのときと変わってなくて『美卯君』のままだ。雫君という恋人が出来て恋愛を知っちゃったのは
 少し残念だけど、それは仕方ない。

 俺は美卯君のことになると暴走する傾向があるから、そのお目付け役として渋々リエルちゃんが日本に呼び戻された。



 ふと考えると、俺はいつからリエルちゃんを好きになったのか分からない。
 日本人が米を主食とするのは当然だと認識するように、当然のように俺はリエルちゃんが好きだと思っている。
 それをリエルちゃんに言ったら、馬鹿じゃないですかと返された。



 7年ぶりに会ったリエルちゃんは、毎日祖父さんに暴行されて罵声を浴びせられていた所為ですっかり感情というものが欠落していた。
 面白いテレビを見ても笑わないし、悲しい物語を見ても泣かない。怪我をしたときも何の反応も見せず、味覚もおかしかった。

 リフ君に聞くと、幼いときの虐待が精神をおかしくしてしまったらしい。
 少しも表情を変えないリエルちゃんは、綺麗な容姿と相まって人形のようにだった。

 だから「好き」という気持ちも分からない。まあ、男の俺が男のリエルちゃんを好きになること自体がアレなんだけどね。
 それは美卯君と雫君もだから、置いといて貰うとして。



 
 毎日好きだと言ってもリエルちゃんは何も思わないし、何の反応もしない。リエルちゃんの世界に「好き」という感情は存在しないからだ。


 「リエルちゃん、俺リエルちゃんが好きだよー」
 「だから何ですか。もう聞き飽きました」


 放課後の教室に2人きりというロマンチックなシチュエーションで真面目に告白しても、リエルちゃんは本から視線を逸らさないで
 間髪入れずにそう返す。
 リエルちゃんの世界では、俺の愛の告白はニュートンが書いた本以下の存在だ。




 いつも笑っている俺がそれで密かに傷付くことも、凹んでしまうことも、リエルちゃんは気付かない。
 だってリエルちゃんには、傷付くということも凹むという感情も無いからだ。

 
 だから、それでも泣きたいほどリエルちゃんが好きだということも気付かないし知らない。
 従姉妹同士の男同士で異常だと分かっていても、たった17年の人生で俺はリエルちゃんを愛していると結論づけることが出来ても。
 



 「・・・俺さ、リエルちゃんが好きなんだよ・・・・・っ」
 「・・・・・貴方がそう言う理由や泣く理由も、私には解かりませんよ」


 そう言って目から液体を流す俺を人形のように見詰めながら残酷な台詞をサラリと言うリエルちゃんは、泣きたくなるほど愛しているという
 気持ちも知らない。

 愛しているからこそ涙が出るほど悲しいという意味も、リエルちゃんは知らない。
 







 俺の思いが報われてリエルちゃんが人形じゃなくなる日が来るなんて、神様だって知らない。




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だから知らない」の李卯バージョン。この2人はくっつくまでがとにかく痛くて暗いです(汗)
これでリエルの生い立ちは終わりなので、あとはくっついていくまでを書けたらいいなと思います。