「あ」
特に意味もなく部屋の片付けをしていると、懐かしい物が目に留まった。
それは僕がまだ、子供という存在だった頃のお話。
Even your temperature cannot be recalled any longer
「ねえ美卯君。可愛いのと綺麗なの、どっちが良い?」
「へ?」
今日は雫さんといつもの喫茶店デートで楽しくお喋りしていたのに、突然そんな事を言われて僕は思わず間抜けな声を出してしまった。
さっきまでチワワ(僕が凄く欲しがってる)の話をしてたのに、どうしていきなりそんな事を?
チワワに可愛いのと綺麗なのってあったっけ?
雫さんを見ても黙って微笑んでいるだけで、どういう意味なのか全然分からない。
とりあえず気になったので、素直に口にしてみた。
「めんこいのときれんたのって、チワワの話ですか?」
せっかく聞いたのに、違ったみたい。
そう言うと雫さんはゆっくりと目を瞬いて、クスクスと笑いながら否定した。
「違う違う、チワワじゃないよ。いきなり言ってごめんね」
「あ、全然大丈夫です!むしろ僕こそごめんせー!」
見事に外れたのが恥ずかしい。
でも雫さんは気にしていないみたいで、優しく微笑んでいた。
まるで宗教画から出てきた天使(イシュリオナがそう言ったんだよ)のように美しくて、思わず僕は鼻血が出そうになった。相変わらず綺麗過ぎます。
「まあこの事は置いといて。とにかく、綺麗なのと可愛いなの。美卯君はどっちが良い?」
「きれんたのとめんこいのだべですか?」
「そう。綺麗なのと可愛いの」
雫さんは肝心な部分を言わないので、聞き返してもそれしか言わない。
ニコニコ笑っているから楽しんでいるみたいだった。
うーんと考えて、
「僕はめんこいのが好ぎですよ」
「可愛いのが良いんだね?」
「?そうですたって・・・・」
「ちょっと待っててね」
雫さんはポケットを探って出すと、その手には少し大きめな包みが握られていた。
綺麗に包装されているそれはプレゼント用で、極自然な動作で僕の前に置かれた。
「何だべか?」
「開けてみてくれないかな?」
僕が聞くより早く、雫さんはそう言った。
そんなに素敵な笑顔で言われて断る人はいないと思う。
近くのテーブルに座っていたお姉さん、鼻血出てます。僕だって出そうなんだからよく分かる。
もちろん僕が断れる訳もなくて、そっと手にとってリボンを解いた。
(縫い包み、それともオモチャかな?)
雫さんは僕がまだイギリスにいた頃、雫さんは月に1度は様子を実に来てくれてその度に小さなお土産をくれた。
今回もそうなのかなと思いながら袋から出てきたのは、細長い水色のケースだった。
何だろうと思って雫さんを見ても、雫さんは微笑むだけ。
それは無言で『開けてごらん』と言っていて、やっぱり僕はケースを開けた。
こんなに細長いんだったら縫い包みは絶対に違うし、一体何んなだろう。
中に入っていたのを見た瞬間、僕は目を見開いた。
「うわぁ・・・・・っ」
シルバーの細かい鎖に繋がれた、水色のクリスタルに綺麗に細工された小さなテディベアのネックレス。
思わず歓声を上げて雫さんを見ると、楽しそうに僕を見ていた。
「この前イシュリオナと出掛けたときに、たまたま立ち寄った店にあってね。美卯君が好きそうだと思って」
それはモロに僕の好みで、もし僕が見つけていたら自分でも買っていたと思う。
雫さんが僕の好みを知っていたというのだけでも嬉しいのに、更に買ってくれていたなんて。
ジーンと僕が感動を露にしていると、
「美卯君ももう16歳なんだし、少し子供っぽかったかな?もう少し大人っぽい方が・・・・」
「いいえ、僕こいが良いです!雫さんが選んでけだんだし・・・・・」
照れたのを誤魔化すように言う雫さんに、僕は慌てて口を開いた。
可愛らしいけれどセンスが良いそれは、全然子供っぽくないし普通に女の人が着けてそうだった。
ついでとばかりに本音を言うと、最後の方は小さかったけど動物並に耳が良い雫さんには聞こえたみたいだった。
少し驚いたみたいで目を見開くと、白い頬を少ーしだけ赤くして笑った。
一層綺麗に微笑ってくれたのはずっと忘れないと思う。
「懐かしいなぁ・・・」
引き出しの奥にしまわれていたのは、貰ったときと全く変わらない形で保存されていたあのネックレスだった。
ラッピングとリボンも綺麗なあのときのままで、包み紙まで取って置いてある。
「でも僕、こったらに綺麗に出来たっけ?」
ネックレスは飾られているように綺麗にケースの中に納まっていて、未使用のように完璧な形で)に保存されていた。
自他共に不器用だと認める僕が本当にやったのだろうか?鶴すら折れないこの僕が。
真剣に考えていても、まだまだ片付けは終わらないし時間もない。
掃除が終わってもやるべきことはたくさんあるのだ。
とりあえず置いておこうと机の上に置いて、僕は大事なことを思い出した。
不器用な僕が綺麗に保存出来ていた理由(ワケ)。
それは
もう少し経ってこのネックレスが似合うようになったら、1番に雫さんに見せますね!
あのとき、少し照れている彼を見て更に照れた僕が誤魔化すようにそう言うと、楽しみに待っていると言ってくれた。
そう言って楽しそうに笑ったあの人は、もう僕の隣にはいない。
今では繋いだ手の温かさも思い出せない。
僕は約束を守れなかった。
「・・・・僕、1度も雫さんに着けた所ば見せてなかったんだ・・・・・・・」
少し視界がぼやけて鼻がツンとしたのを他人事に思いながら、そっと引き出しの奥にそれをしまった。
「Did you ever know that I loved you?」の続き。数年後設定。
この話では完璧に別れていて救われません。
別れに至るまでの過程とか、別れてからの話とか。
いっそシリーズにしたいけど痛い話になるからどうなんでしょうか・・・(悩)