「はい、蒼。クリスマスプレゼント」




  そう言って京介から渡された茶封筒に入っていたのは、千円札が2枚だった。

















            僕が本当に欲しかったモノは
















今日はクリスマスで、神代先生の家でパーティ。
僕と京介と神代先生、あと深春と食事をしてたくさん話をして。
夕食も終わってケーキを食べていると、僕は3人からプレゼントを貰った。


深春からは可愛い動物の刺繍の入ったセーター。   
名前とは違って熊の様な大男だけど、深春はとても器用でこれだって手編みなんだ。
お礼を言って早速着るとそれはピッタリで、深春はよく似合うと笑った。

神代先生は本を買ってくれて、今度一緒に読もうなと頭を撫でてくれた。
先生は大学の教授をやっていて、たまに僕に勉強を教えてくれる。
挿絵が全くないその本は、難しそうだけど僕が好きそうな内容だった。




 そして京介から渡されたのは、1枚の茶封筒だった。




先日のコトだった。
僕が部屋で本を読んでいると、京介がやって来てクリスマスに何が欲しい?と聞いた。
彼はサンタクロースを信じるような人ではないし、僕も別に信じてはいなかった。
だから京介にそう言われたときもショックなど受けず、この前2人で訪れた本屋で見た本(定価2900円)が欲しいと答えた。
すると彼は分かったと言い、自分の部屋に戻って行った。



それが先日のコトで、今日がその当日。
京介が僕にプレゼントと言って渡したのは、1枚の茶封筒。
「コレ」は僕が欲しがっていた本でもないし、中には2枚の千円札。僕が呆然としていると、京介はコーヒーを口にしながら言った。


「蒼が欲しいって言ってた本がよく分からなかったんだ。出版社とかも聞いてなかったし。だからコレで買ってくれないか」


そう言われたとき、僕は漸く「コレ」の正体を理解した。これは僕が欲しがった本の元で、彼はコレであの本を手に入れなさいと言ったのだと。
この2枚の千円札はその為のモノだった。



「おい京介、だからって現金はないだろっ!蒼はまだ子供だぞ!」
「そうだぜ京介。クリスマスに現金ってぇのは夢が無さ過ぎるぞ」


僕が固まっていると、深春と神代先生が代わりに京介を非難した。
与えられる側である子供の僕が言うのも何だけど、確かにプレゼントが現金っていうのは少し生々し過ぎると思う。一休さんのお寺で株の話をするくらいには。


でも京介はどうして自分が怒られているのか何て分からないらしく、不思議そうな顔をした。
それを見た瞬間、僕は何かを感じたけど押し込めて口を開いた。



「っありがとう京介!早速明日行ってくるね!京介も一緒に着いて来てくれる?」
「いや、僕は明日用事があるんだ。蒼1人で行けるね?」
「きょ・・・・・・・」
「大丈夫だよ。京介は心配性だなあ」


何か言おうとした深春の声を遮って、僕はアハハと笑った。
神代先生と深春が何か言いたそうな顔をしていたけど、僕は何も見ていない振りをして半分ほど残っていたケーキを口にした。


甘いクリームとは対照的な、何故か暗い気持ちが胸に残った。







その後は神代先生達がお酒を飲むコトになって、もう遅かったので僕は先に寝るコトにして部屋に戻った。
布団を敷いて横になっても眠りが訪れる気配がしなくて、僕は先程京介から貰った『プレゼント』のコト。
京介から貰った2枚の千円札。僕はそれに対して何ともいえない気持ちを抱いていた。
  

京介は何の本か分からないからと言って、それを買う為の現金を僕にくれた。深春達と違って1人だけ現金というコトに対してではないし、900円足りないというコトに怒っているのでもない。
例え封筒に入っていたのが五千円札だったとしても、僕は同じコトを考えていただろう。
クリスマスなのに現金というコトでもない。
そもそも京介がくれた時点で僕にとっては凄く重要なコトで、決して嬉しくない筈が無い。
それよりも、この何ともいえない気持ちの方が大きかっただけなんだ。



きっと僕は、例え京介がくれた物が僕が欲しがっていた本じゃなく、チロルチョコ1000円分でも喜んでいただろう。
さっき頑張って作った笑顔じゃなくて、心からの笑顔を見せられた筈。
僕がこんなにも落ち込んでいるのは、現金だったというこれだけのコトなんだ。

プレゼントには代わりないし、逆に現金を喜ぶ人もいるだろ。でも僕はこんなに落ち込んでいる。それは何故?


すると突然、ある1つの答えに辿り着いた。



「・・・・・そっか。そうだったんだ・・・・・・・・・・」


ポツリと声に出して呟いた後、僕は思わず笑ってしまった。
こんなにも簡単なコトに気付かなかったコトに対してでもあるし、それが分からなかった自分への笑いでもある。
クスクスと笑いながら、目の奥が熱くなっていくのを感じた。



僕がこんなにも落ち込んでいたのは、僕が欲しがっていた物を貰えなかったコトでもなくお金が足りなかったからでもない。

『現金』を代わりに貰ったのが悲しかったんだ。




もし縫い包みや絵本を貰ったとしても、僕は素直に喜べた筈だ。だってそれは、京介が『僕の為』に選んでくれたプレゼントだから。
僕が望んだモノではないけど、僕のコトを考えて送られるプレゼントだから。
だから現金を貰ったときに悲しいと感じたのは、それが僕の為を思ってのプレゼントではなかったからだ。


多分京介は、僕が欲しかった本が分からなくて買えなかったから、この現金で買いに行って来なさいと思ったんだと思う。
それは京介の紛れもない想いで、僕への思いやりだったんだと思う。


でも僕は現金を貰うよりも、何日先でも良いから京介からその本が欲しかった。
2人でその本を選んで買って貰って、京介から渡して欲しかった。


僕が出版社と題名を教えて買って貰ったとしても、それはプレゼントとは言えないだろう。それは決してプレゼントと呼んでもいいモノではないから。
京介自身が僕を想ってじゃないとプレゼントにはなれないのだ。




僕が本当に欲しかったのは、「プレゼント」という名の京介からの愛情だったんだ。







枕がジワジワと濡れていくのを感じながら、僕はそっと目を閉じた。














望んだのは貴女からの愛情。それが得られなかったのが何よりも悲しかったんです。