アフリカ

連作詩です。
著作者:上口裕三

    おはなし

”なぜ
 鳥たちは
 空に
 鳥たちの王国を作らなかったのだろう。
 人が地上でそうしたように。”

 彼女はあの日そんな話をした。
 ずっと昔。まだ子供だったころ。

”ときどき不思議に思う。

 魚たちだって
 海を占領すればよかったのに。

 それに
 アフリカの動物たちはなぜ
 団結をして
 革命を起こさないのだろう。”

”革命がおこると
 人は殺されるのかな。”

”たぶん食べられる分だけね。”

”ふーん”

”それと
 ときどき私は
 木に頭をなぜてもらいたくなる
 ときがある。

 そんな時には木のそばにいって
 立っている。
 でもけして近づきすぎてはいけない。
 そして待っている。”

”なにを?”

”風がふくのを。
 すると、風にしなった木はむこうから
 私の頭をなぜてくれる。”

”ばからしい。”

”ほかに頭をなぜてくれる人が
 いなかったから。”

”僕がなぜてあげる。”

”いいえ、これは昔の話。”

 でも彼女はたぶんずっと
 風がふくのをまっていた。

 そして僕は
 きずかないふりをしていた。

 これは
 すぎさった日のおはなし。




































































    木の葉


    T

あなたの
横顔をみつめる。
風の音も
人々の話し声も
木々のざわめきも
気にはならない。

ただしゃべらないでほしい言葉がある。
その言葉はあまりに強くて
私の願いを壊してしまう。

それはくりかえされる夢
わたしが夜の道へ歩き出せば
あなたはまっていたかのように
そこにいる。
そして私は知っていたかのように
笑顔をみせる。

でも
その日
あなたは私をみない。
その目をみせて
わたしをみて
わたしをみて
言葉だけではわからない。
その目をみせて。

言葉の命はそんなに弱くない。
言葉は思われているほど
たやすく死にはしない。

でもその時 たしかに
一つの言葉が死んだ。

    U

空をみていたら涙がでてきた。
どうして私は
こんなにもいたみやすいのか。
わたしはわたしのことしか
考えていられない。
さばくのかえるたちが
一夜の雨を待って
364日の日々を砂のなかですごしている間
わたしにはなにも待つべきものがない。

わたしはもう一度生まれるとしたら、
百億の歳月をこえることができる
木になりたい。
そして私は
あなたとの再会を待ちつづける。

けしてない再会を?
思考がゆらぐ。

    V

わたしが死んだら
そこから木がはえてくれるだろうか。

わたしが死ぬことと
一つの動物が絶滅すること。

わたしが抱きしめることと
あなたが抱きしめてくれること。

わたしが思うことと
あなたが思っていたこと。

ほかの人たちは知っているのに
わたしだけが知らないことがある。
それは言葉ではない。
だからわたしにはわからない。
わたしにはそれを知ることができない。

遠くから笛の声が聞こえる。
それはあなたの声に似ている。

遠くから鈴の音が聞こえる。
それはあなたの体に似ている。

遠くから太鼓の音が聞こえる。
それはあなたの心に似ている。

わたしはあまりに
あなたのことを考えすぎたので
わたしにはわたしがなくなってしまった。
こうやって指を曲げてみると
ほら、ここにあなたがいる。
ほら髪のさきにも。

でも目をあげるとあなたがいない。

あなたの手をにぎっているわたしの手
かすかにふるえる。

あなたの口をふさいでいるわたしの口
赤くて熱い。

あなたを抱きしめているわたしの体
あえぎと言葉。

言葉。
おぼえている。
でもその言葉はもうあなたに
ささげてしまったから
私は口にできない。
猫が蝶を食べている。
私はそれをみつめる。
今日と明日は
あらゆるものと流れてしまう。
私は待つすべがない。
なにか抱きしめていたいのに
なにもない。
そして死んでしまった言葉から
なにかがさってゆく。
その言葉は私にはしゃべれない。

    W


風が空をわたる。
木にぶつかる。

木のざわめき
風の声
風は2つにわかれる。
その一つが私。
木の葉
その一枚を私が持つ。
上昇
高度一万メートル
成層圏の大気
下にみえるのは雲
私は木の葉をはなす。
木の葉はしずかに落下しはじめる。

そしてその木の葉は私なのです。






































    アフリカ


”将来おとなになったら
 絶対にアフリカにいって
 ライオンやキリンやゾウをみよう。”

 僕は
 ある日
 となりに住んでいた
 同い年の女の子と
 約束をした。

 ずっと昔
 子供の頃の話

 でも
 いっしょにいこうとか
 いついくとか
 そういった約束はしなかった。

 そんな約束はするまでもない事で、
 そもそも別々に行くなんて事
 想像もしてなかったからだ。

 ”アフリカに行って
 ケガをした動物たちを助けよう。”

 約束はそうつづいた。

 僕は動物医になることを夢みていて
 それは僕たちの共通のねがいでもあった。

 あの頃 夢の時代
 僕たちはほんとうに一つだった。

 あの頃。

 でも
 世の中のことが
 もう少しみえはじめると僕は
 動物学者になることを考えはじめ
 やがて物理学者になる事を
 考えるようになっていた。

 今は工場でプラスチックを作っている。

 一年間に日本で生じる
 産業廃棄物の量を
 あなたは
 しっているだろうか。

 僕は
 動物たちをたすけたかった。

 でも動物医では地球はすくえない。
 僕はそう思った。
 動物学者でももう遅すぎる。
 そして僕は物理学者をめざした。

 しかし僕に
 いったい何が見えていたと言うのだろう。
 いったい何が出来ただろうか。
 それは僕の思い上がりだった。

 大学にいる間に
 僕はすごく多くのものを
 なくしてしまった。

 そしてなにもかも
 わからなくなった僕は
 ながされるままに
 工業技術者になった。

 アフリカ

 僕たちの呪文

 いつか僕たちは
 はなればなれになっていった。
 そして約束だけがのこった。

 今
 僕は経済効率を
 まず第一に考える。

 より安く
 より多くの
 プラスチックを。

 その為に廃液の濃度が
 一割ふえてもしかたがない。

 それが僕の仕事だ。

 僕は考える事をやめた。

 そしてひたすら
 プラスチックを作りつづけた。

 ただ
 まちかどで
 ふとみかけた
 アフリカの草原のスチール写真

 目がはなせなくなる。

 そこではいまでも
 彼女が
 微笑んでいる。

 そしてそのよこには
 僕がいるのだった。

 昔のように
 笑っている
 僕が。

以下つづく

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