ゾーンシステム研究会は1988年、川崎市市民ミュージアムで始まったワークショップ、 グレードアップ・フォトグラフィーに参加した人たちによって作られました。 このワークショップのテーマは、アンセル・アダムスが提唱したゾーンシステムを学ぶことでした。

 写真技術のグレードアップに我々は、写真原理を基礎から学び、露出、フィルム現像、プリントなどに関わる問題を明快にすることが必要だと思っていました。 ゾーンシステムはこれらの問題を実践の中で明快にしてくれる方法論だと理解しました。

 昨今、写真のデジタル化に大きな注目が集まり、情報社会の中でそのシステムはほぼ確立されたように見えます。

 しかし、写真のデジタル化は従来の写真システムとは多くの部分で異なり、写真のすべてがこの方式に変わるとは思えません。 銀の化学変化による従来の写真の美しさは未だにそれにとって変わるものは無いようです。

 我々は、多くの写真作品から、また、多くの写真家から銀塩写真の美しさを学んできました。中でもアンセル・アダムスのファインプリントから受けた衝撃は格別です。 彼が提唱したゾーンシステムを学んだことで写真技術の面ばかりではなく、写真表現においても大きな助けになりました。
 フィルムの感度、キャリブレーション、ゾーンルーラー、ビジュアライズ、ゾーン、標準現像、プラス、マイナス現像等、これらの重要な項目は既存の写真技術には無かったものも多く、モノクローム・ファインプリント制作のために必要だと感じました。
 ところで、研究会は特に大型カメラの使用を勧めています。我々が求める美しい自然の光、物の形状や豊かなトーンをプリント表現するには大型カメラが有利です。 自動化の進んだ小型カメラの撮影には、カメラが撮ったという思いが強く何か満たされないものが残ります。 大型カメラの操作には、小型カメラの自動化によって失ってしまった写真の原点とも言える撮影感が充分含まれていて、多くの写真愛好家が望んでいるところです。

 アダムスは 「ネガは楽譜であり、プリントは演奏だ」 と言っています。

 研究会は撮影からネガ処理、そしてプリント制作まで絶えず行うことが重要だと考え、年に一度の展覧会を目標に、撮影会、暗室ワーク、作品講評、プリントコレクション、技術研修会、作品展見学等に取り組んでいます。



写真の本質に向かって

- ゾーンシステム研究会の活動 -  



写真論  平木 収

 写真とは何か、という問いに完璧な答えを出すことは不可能であっても、完璧な写真を目指すことは、これは不可能ではない。
 じつはゾーンシステム研究会の面々が取り組んでいるのは、まさにその点であり、会員たちは小手先の技術で上手な写真を目指すのではなく、写真とは何かをつねに考えつつ、その本質を把えようと努めている。

 ゾーンシステムとはアメリカの写真家アンセル・アダムスが考案した、完璧なモノクローム印画を制作するメソッドだが、この技術的プロセスそのものに、写真とは何か、人は何故に写真を撮ろうとするのか。 また人は写真を見せることに、そして見ることに、どのような悦びを覚えるのかという、いわば写真の哲学が内包されている。

 ゾーンシステム研究会の活動は、一見すると代表者の中島秀雄氏の技術指導を仰ぐグループのように見えるかもしれないが、正体はその写真制作活動を通じて、写真という視覚表現の特質を見きわめ、写真の美とこの世の中の普遍的な美の出会いをプロデュースするユニークな活動なのである。

 いまやデジタル画像の急成長で、その先き行きが案じられている銀塩写真だが、ゾーンシステム研究会の活動は、そうした世情に対しても、譲るべき美意識や継承すべき価値観の示標を示してくれるだろう。
すでに5年が経過した活動は、21世紀に向かって、さらに重要性を増すだろう。